第114話 「繋ぐ者」
王都は守られた。
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だが。
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空の脅威は終わっていない。
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総司令体の巨大な口。
その奥で集束する黒い光。
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先ほどの砲列とは比べ物にならない。
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王都そのものを抹消する一撃。
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【主砲充填率 61%】
【74%】
【88%】
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「……まずい」
エルミナが青ざめる。
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「さっきの都市固定結晶も、二発目は耐えません!」
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地上では兵たちが空を見上げて凍りつく。
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レインはミラの腕の中。
意識が薄い。
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「……起きなさいよ」
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返事はない。
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共有感覚の向こうで、彼の生命力が弱っているのが分かる。
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「ほんと、嫌い」
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ミラは涙を拭い、彼を抱えたまま降下する。
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城壁上へ着地。
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「リリア!」
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「はい!」
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ミラはレインを押しつけるように預けた。
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「こいつ、死なせたら許さない」
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「え、えぇ!?」
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「私があれ止める」
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空を見る。
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主砲充填率は上がり続ける。
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「一人で!?」
リリアが叫ぶ。
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「一人じゃない」
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ミラは胸元へ触れる。
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共有観測核が脈打っていた。
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「半分はあいつのせいよ」
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笑う。
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そして空へ跳んだ。
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「ミラ!!」
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王都上空。
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黒い主砲へ一直線。
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総司令体の眼が彼女を追う。
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【副対象接近】
【迎撃開始】
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無数の光線。
黒腕。
小型円環群。
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ミラは歯を食いしばる。
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「これは、外れる」
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光線軌道が逸れる。
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「これは、鈍い」
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黒腕が遅くなる。
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「これは、ただのガラクタ!」
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小型円環群が空中分解する。
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だが。
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彼女の髪先が白く染まり始める。
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共有核を使うたび、代償は来る。
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「……まだよ」
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地上。
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リリアはレインを抱え、震えていた。
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「どうすれば……」
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レインの呼吸は浅い。
指先は冷たい。
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その時。
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エルミナが駆け寄る。
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「彼は観測負荷で意識を落としています」
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「回復には、強い帰還理由が必要です」
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「帰還理由?」
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「心が戻る理由です」
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リリアは目を見開く。
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「そんなの……」
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彼の顔を見る。
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無愛想で。
口が悪くて。
面倒くさがりで。
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でも。
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いつも誰かを見ていた。
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「……あります」
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リリアはレインの頬を叩いた。
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「起きてください!」
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周囲が止まる。
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「借金残ってます!」
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「報告書全部あなた担当です!」
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「あと!」
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涙が落ちる。
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「私、まだちゃんとお礼言ってません!」
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レインの指先が、わずかに動いた。
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ノアが笑う。
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「効いてる効いてる」
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グラムが吼える。
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「全軍聞けぇぇ!!」
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大剣を掲げる。
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「総司令は寝てる!」
「なら俺たちで時間を稼ぐぞ!」
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連合軍が咆哮した。
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砂漠騎兵突撃。
海洋槍兵再整列。
北方弓隊一斉射。
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王都全軍が空の敵へ矢と魔法を放つ。
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空。
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ミラは主砲直前へ到達していた。
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黒い光が目前で脈打つ。
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【充填率 99%】
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「……間に合え!」
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短剣を振りかぶる。
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だが総司令体の巨大な眼が開く。
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真正面から白い光線が放たれた。
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「っ!!」
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避けられない。
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その瞬間。
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ミラの背後に、黒い影が立った。
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「……一人で行くな」
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レインだった。
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まだ顔色は悪い。
髪は白い。
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それでも立っていた。
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彼は片手で白光線を受け止める。
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「遅い!!」
ミラが怒鳴る。
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「起こされた」
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「誰に!」
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「うるさい奴らに」
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地上ではリリアが泣きながら笑っていた。
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レインは主砲を見る。
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「一緒にやるぞ」
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ミラが笑う。
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「命令?」
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「提案だ」
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二人の眼が同時に輝く。
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【共有観測核 共鳴率上昇】
【138%】
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総司令体が初めて、後退した。
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――第114話 完




