第112話 「支える者」
空は戦場だった。
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王都上空。
黒い円環の前で、レインとミラが停止する。
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その内部から現れた“総司令体”。
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城塞ほど巨大な頭部。
表面を埋め尽くす無数の眼。
裂けた口から黒霧を吐き出している。
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【侵略補助個体 排除開始】
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「補助個体って誰よ」
ミラが顔をしかめる。
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「お前」
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「殺すわよ」
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「共有してる相手に?」
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「なおさらよ」
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総司令体の眼が一斉に開く。
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次の瞬間。
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黒い光線が数百本、空を裂いた。
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「散れ!」
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二人は別方向へ跳ぶ。
光の足場を連続生成しながら高速回避。
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光線が雲を焼き、遠方の山を消し飛ばす。
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「威力おかしいでしょ!」
ミラが叫ぶ。
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「口よりマシだ」
レインが返す。
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その間にも地上では戦況が悪化していた。
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量産観測者軍団が城壁へ到達。
再生しながら波状攻撃を繰り返す。
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「西壁、亀裂拡大!」
「北門突破寸前!」
「第三結界、消失!」
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指揮塔が怒号に包まれる。
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グラムは血まみれのまま大剣を振るう。
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「押し返せぇぇぇ!!」
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砂漠騎兵が倒れ。
海洋槍兵が飲み込まれ。
戦線がずるずる下がっていく。
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「……まずい」
エルミナが青ざめる。
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「このままでは市街戦になります」
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ノアが短剣の血を払う。
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「総司令、なんか指示ある?」
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その視線の先。
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レインはいない。
空だ。
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「現場主義、ここで困るわね」
ミラがぼやく。
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その時。
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指揮塔中央で、リリアが立ち上がった。
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「地図、全部出してください」
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全員が止まる。
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「……は?」
砂漠将軍。
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「補給線、避難路、負傷者搬送路、弾薬残数、全部です!」
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エルミナが即座に魔法地図を展開する。
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リリアの目が走る。
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「西壁は捨てます」
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「何だと!?」
将軍が怒鳴る。
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「崩れる壁を守る人員が無駄です!」
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「北門兵力を半分下げて東区画へ回してください!」
「市街地の細路地に敵を誘導します!」
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海洋女王が目を細める。
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「民間区画よ?」
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「だからです!」
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リリアが叫ぶ。
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「王都の路地は入り組んでる!」
「大軍は入れない!」
「少数ずつ分断して叩けます!」
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ノアが笑った。
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「頭回るじゃん」
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グラムへ通信が飛ぶ。
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「西壁後退! 北門兵半数転進!」
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「誰の命令だ!」
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「私です!!」
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一瞬の沈黙。
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「……気に入った!」
グラムが吼えた。
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城壁放棄が始まる。
敵軍が雪崩れ込む。
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だが市街へ入った瞬間。
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路地上から油壺が落ちる。
屋根上弓兵が集中射撃。
狭所で海洋槍兵が串刺しにする。
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「うわ……」
リリアが青ざめる。
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「思ったよりエグい」
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「君の案だよ」
ノア。
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戦線が止まった。
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押されていた連合軍が持ち直す。
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エルミナが息を呑む。
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「補給線も整理されている……」
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負傷者搬送。
矢弾供給。
交代部隊配置。
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すべて噛み合い始めた。
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「……支える者か」
海洋女王が小さく笑う。
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一方、空。
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レインとミラは総司令体へ迫っていた。
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「弱点見えた!」
ミラが叫ぶ。
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「中央白眼だ!」
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「同感!」
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二人同時に突撃。
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だが総司令体の口が開く。
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内部から、無数の小型円環が射出された。
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「まだ増えるの!?」
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空一面に黒い輪が散開する。
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その全てが王都へ照準を合わせた。
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【都市殲滅砲列 展開】
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「……っ!」
レインの顔色が変わる。
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地上ではリリアも空を見上げる。
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「やばい……」
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王都全域が、一斉砲撃圏内に入った。
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――第112話 完




