第111話 「総司令」
予定より半日早く。
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黒石先遣隊は現れた。
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王都上空。
雲を割って浮かぶ、巨大な黒い円環。
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直径は城壁を超える。
表面には無数の文字列。
ゆっくり回転しながら、空間を侵食していた。
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「……でかすぎるだろ」
リリアが青ざめる。
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鐘が鳴る。
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王都全域へ非常警報。
市民は地下避難区画へ誘導される。
城壁では弓兵と魔導士隊が整列する。
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王城指揮塔。
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各国代表と軍指揮官が集結していた。
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怒号。
報告。
地図。
魔力通信。
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「北門に海洋軍配備完了!」
「西区画に砂漠騎兵展開!」
「市街結界、第一層起動!」
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その中心で。
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レインは黙っていた。
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「……おい総司令」
ノアが笑う。
「そろそろ何か言わないと」
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「うるせぇ」
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ミラが横に立つ。
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「緊張してる?」
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「してねぇ」
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共有感覚でバレていた。
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「してるじゃない」
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「黙れ」
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窓の外。
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黒い円環が開く。
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内部から無数の棺が降下し始めた。
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「量産観測者です!」
エルミナが叫ぶ。
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「数、およそ三千!」
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「三千!?」
リリアが叫ぶ。
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「先遣隊でそれかよ!」
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グラムが大剣を担ぐ。
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「数なら斬れば減る」
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「脳筋発言助かる」
ノア。
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レインが前へ出る。
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「全軍、聞け」
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議場が静まる。
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「相手は再生する」
「単体撃破に意味は薄い」
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地図を指す。
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「狙うのは棺だ」
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「投下装置を潰せば増援は止まる」
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砂漠将軍が頷く。
「合理的だ」
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海洋女王が扇を閉じる。
「では誰が空を取る?」
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沈黙。
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レインはミラを見る。
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「行けるか」
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「聞くまでもないでしょ」
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「よし」
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「俺も行く」
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「は?」
全員同時。
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リリアが机を叩く。
「総司令が前線行くんですか!?」
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「現場見ねぇ指揮官は嫌いだ」
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「でも死んだら終わりです!」
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レインは肩をすくめる。
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「死なねぇよ」
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「根拠!」
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「俺だからだ」
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「腹立つ!」
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ノアが笑う。
「嫌いじゃない」
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レインは次々命じる。
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「グラム、西門主防衛」
「敵主力を引きつけろ」
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「任せろ!」
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「エルミナ、王都全域通信維持」
「各国魔導士束ねろ」
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「了解しました」
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「ノア」
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「ん?」
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「好きに暴れろ」
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「雑で最高」
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「リリア」
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「え、私!?」
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「避難区画と補給線管理」
「一番重要だ」
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リリアが目を見開く。
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「……はい!」
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ミラがニヤつく。
「ちゃんと見てるじゃない」
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「うるせぇ」
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その瞬間。
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城壁外で爆発。
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第一陣着地。
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量産観測者軍団が進軍を開始する。
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顔のない兵士たちが整然と並び。
黒い刃を形成しながら前進してくる。
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「気味悪っ」
リリアが震える。
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城壁上。
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レインとミラが並ぶ。
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「空、取るわよ」
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「落ちるなよ」
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「あなたこそ」
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二人の眼が同時に輝く。
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【共有観測核 起動】
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城壁から跳んだ。
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「えええええ!?」
リリア絶叫。
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空中に光の足場が連続生成される。
二人はそれを蹴り、黒円環へ駆け上がっていく。
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下では戦争が始まった。
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グラムが大剣で敵群を薙ぎ払う。
砂漠騎兵が側面突撃。
海洋国家の水槍兵が再生核を貫く。
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各国軍が初めて並んで戦う。
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「これが連合軍……!」
エルミナが息を呑む。
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だが。
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黒円環内部から、さらに巨大な影が動いた。
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「……っ」
ミラが空中で止まる。
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「レイン」
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「見えてる」
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円環の奥。
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人型ではない。
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城ほど大きい、“頭部だけ”の存在。
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無数の眼。
無数の口。
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そして中央に一つ、白い瞳。
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【総司令体 投下準備完了】
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「先遣隊でこれかよ」
レインが笑う。
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「面白くなってきた」
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――第111話 完




