第110話 「人類代表」
三日。
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黒石本隊到達までの猶予だった。
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王都は、眠らなかった。
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鍛冶場は夜通し火を焚き。
魔導士塔は結界強化を続け。
街道には各国使節団の馬車が列をなす。
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「……急に世界規模ですね」
リリアが呟く。
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「今さら気づいたの?」
ミラが鼻で笑う。
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「感じ悪っ」
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レインは窓際で腕を組む。
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頭の奥で、ミラの眠気が流れ込んできた。
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「……眠いなら寝ろ」
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「そっちが緊張してるせいで寝れないのよ」
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「してねぇ」
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「してる」
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「……夫婦漫才」
ノアが茶をすすりながら笑う。
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「違う!」
二人同時。
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王城・大議場。
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かつてない人数が集まっていた。
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北方連邦。
西方商業同盟。
海洋諸島国家。
砂漠帝国。
山岳自治圏。
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王冠。
鎧。
豪奢な衣装。
異国の武装。
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各国の思惑が渦巻いていた。
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壇上には三統治者。
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新体制となった王都の代表たちが立つ。
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中央議長が宣言する。
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「世界連合会議、開会!」
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ざわめき。
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最初に立ち上がったのは、砂漠帝国の将軍。
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「質問は一つだ」
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「本当に空の黒石群とやらは来るのか?」
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次に海洋国家の女王。
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「誇張なら交易妨害と見なします」
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北方の老将は杖を鳴らす。
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「我らは既に三都市失った」
「疑う時間は終わった」
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場が割れる。
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「証拠を出せ!」
「兵を寄越せ!」
「まず被害補償を!」
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「……地獄ですね」
リリアが顔をしかめる。
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レインはため息をついた。
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「いつの時代も会議ってのはこうだ」
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ミラが立ち上がる。
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「黙りなさい」
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声は大きくない。
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だが。
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全員が止まった。
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「黒石に国境はない」
「次に落ちるのが自国じゃない保証もない」
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将軍が睨む。
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「小娘が」
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「三都市守れなかった老人よりは役に立つわ」
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議場が凍る。
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「おい」
レインが頭を押さえる。
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「思ってても言うな」
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「思ってるのね」
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将軍が立ち上がる。
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「無礼者!」
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その瞬間。
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レインも立った。
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「座れ」
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ただ一言。
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議場の空気が変わる。
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彼の眼が、薄く光っていた。
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将軍は本能で理解する。
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この男は。
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黒石と戦って帰ってきた存在だと。
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ゆっくり座った。
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「……便利ですね、その威圧」
リリア。
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エルミナが資料を広げる。
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空に映像魔術が展開される。
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異界で撮影された黒石軍勢。
量産観測者。
崩壊寸前の母層世界。
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議場が静まり返る。
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「……本物だ」
誰かが呟く。
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そこへ。
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セリスが低く告げる。
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「到達予測、二日半」
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ざわめきが恐怖へ変わる。
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西方同盟の商会長が叫ぶ。
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「なら誰が指揮を執る!?」
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「各国合同軍など間に合わん!」
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「統一命令系統が必要だ!」
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沈黙。
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全員の視線が、自然と一点へ向く。
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レイン。
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「……嫌な流れだな」
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北方老将が杖を鳴らす。
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「異界経験者は二人のみ」
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海洋女王が頷く。
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「黒石戦術理解者も二人」
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砂漠将軍が腕を組む。
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「気に入らんが、他におらん」
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ミラが笑う。
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「つまり?」
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議長が宣言した。
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「対黒石連合軍総司令――レイン」
「副司令――ミラ」
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議場拍手。
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リリアが爆笑する。
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「祭り上げられた!」
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「断る」
レイン即答。
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「却下」
議長即答。
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「拒否権ないの!?」
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ノアが笑う。
「民主主義って素敵だね」
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ミラは腕を組んだ。
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「私は別にいいわよ」
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「お前は楽しんでるだけだろ」
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「半分正解」
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その時。
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二人の共有感覚が同時に震えた。
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寒気。
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空から。
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巨大な意識が、こちらを見た。
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「……来る」
ミラが低く言う。
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レインも窓の外を見る。
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昼空の彼方。
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雲の上に。
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黒い円環が現れていた。
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予定より早く。
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黒石本隊先遣隊、到着。
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――第110話 完




