第109話 「共有生活」
王都訓練場は、騒然としていた。
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裂け目から帰還した遠征隊。
全員生還。
異界崩壊。
黒石災害の中枢撃破。
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報告を受けた兵士たちが歓声を上げる。
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「英雄だ!」
「レイン様だ!」
「北方の姫君もいるぞ!」
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「姫君じゃないわ」
ミラが即座に否定した。
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「口悪い姫君って新しいですね」
リリアが笑う。
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グラムは肩を鳴らしながら歩く。
「祝賀は後だ。まず報告書だ」
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ノアがうんざりした顔をする。
「英雄の扱い雑すぎるでしょ」
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その時。
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レインが急に顔をしかめた。
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「……っ」
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「何よ」
ミラも同時に眉を寄せる。
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二人の視界に同時表示。
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【共有観測核 稼働中】
【感覚同期:継続】
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「……腹減った」
レインが呟く。
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「え?」
リリアが首を傾げる。
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「私も今そう思った」
ミラが言う。
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沈黙。
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「……は?」
二人同時。
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ノアが吹き出した。
「始まったね」
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数分後。
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王城の応接室。
豪華な食事が並ぶ。
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レインが肉を取る。
ミラも同じ肉を取る。
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「真似するな」
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「そっちこそ」
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レインが辛いソースをかける。
ミラがむせた。
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「ちょっ……なんで私まで辛いのよ!」
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「知らねぇよ!」
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リリアが机を叩いて笑う。
「面白すぎるでしょ!」
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エルミナは真顔で記録している。
「味覚共有、距離無関係」
「非常に興味深いです」
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「研究対象みたいに言うな」
二人同時。
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「息ぴったり」
ノア。
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夜。
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王都の宿舎。
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別室に分けられたレインとミラ。
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レインがベッドへ倒れ込む。
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「やっと静か――」
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次の瞬間。
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「うわっ!?」
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レインの頬が熱くなる。
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向こうでミラが風呂に入ったらしい。
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「何これ!?」
ミラの怒声も頭へ響く。
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「こっちが聞きてぇ!」
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リリアが廊下で笑い転げていた。
「最悪の仕様!」
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翌朝。
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王都中央広場。
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帰還祝典が開かれた。
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市民が埋め尽くし、花びらが舞う。
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三統治者が壇上に立つ。
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代表者が宣言する。
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「黒石災害第一波、終結!」
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歓声。
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「英雄レイン!」
「ミラ様!」
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レインは面倒そうに片手を上げる。
ミラは腕を組んでそっぽを向く。
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「照れてる」
リリア。
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「違う!」
二人同時。
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その時。
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レインの頭へ、強烈な感情が流れ込んだ。
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緊張。
焦燥。
恐怖。
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「……ミラ?」
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「違う、私じゃない」
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二人の眼が同時に空を見る。
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黒い点。
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遥か上空。
昼の空に、星のような小さな影が無数に浮かぶ。
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「……っ」
エルミナの顔色が変わる。
「望遠術式展開!」
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空へ光が走る。
映し出されたのは。
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巨大な黒石群。
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数百。
いや、数千。
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編隊を組み、こちらへ落下してくる。
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グラムが剣を抜いた。
「本隊か」
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セリスが低く告げる。
「……到達予測、三日」
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広場の歓声が止む。
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民衆がざわめき始める。
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レインの胸へ、別の感情が流れ込む。
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怒り。
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ミラだ。
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「……派手に来たわね」
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「歓迎してやる」
レインが笑う。
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そして二人同時に言った。
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「今度はこっちの世界だ」
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空の黒点が、ゆっくりと大きくなる。
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――第109話 完




