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こちらは神材派遣管理会社「ユル」でございます。  作者: U-SAN
「街道/廻道(かいどう)、繰路(くりじ)巡路(めぐりじ)」
99/102

「城下町の市場調査-巡礼編XXXⅦ 家政婦体験篇XXⅧー」

そしてさ、あの男――


 見えない縄でさ、あーしのこと引っ張ってんじゃね?って、マジで思ったわけ。


 ……でもさ、それ。

 完全にあーしの“勘違い”だったんだよね。

 

 要するにさ、

 認識、ガッツリズレてたってやつ。

 

 【介錯不一致】ってやつ、マジでそれな。

 

 でさ、このオタクなおじさん、

 窓にベッタリ張り付いてさ、

 外の様子、ガン見してたってワケよ。

 

 ……マジ何してんのって感じなんだけど。

 

 なんつーかさ、あの人――

 それとなく胡散臭いっていうか、

 ぶっちゃけ一ミリも信用できないんだけど。

 

 もうさ、どうしようもないレベルでダメなおじさんなワケよ。

 

 ……でもさ、

 そんなのに限って気になるじゃん?

 

 だからあーし、普通に声かけちゃったんだよね。

 

 ⦅ねぇ、なんか見えてんの?

 つーかさ、何見たいワケ?⦆

 

 あーしの聲さ、部屋中にブワッて広がったんだけど!

 なのにあのおじさん、窓に映った、あーしをチラ見するだけなんだけど?

 

 でさ、あいつ!!いつものクセ出てんの。

 ──指を上下にフリフリしたり、今度は左右に振ったりしてさ。

 

 ……いや何?って感じなんだけど。

 

 絶対なんか言いたげなんよね、あれ。

 

 おじさんさ、外の景色ずっと見ててさ、

 窓に指でコツコツ叩いてたんよね。

 

 (---・/・・-・・/・---/・・-・-/・-・-/)

 

 ……いやさ、なにそれ。

 パッと見じゃ全然わかんないんだけど。

 

 あーしさ、それ理解するのにさ――

 普通に数分かかったんだけど。

 

 ⦅は?遅くね?って思ったっしょ?

 いや無理だから、こんなん一発で読めるやついねぇって⦆

 

 でもさ、気付いた瞬間マジでゾワッときたわ。

「あ、これ……外見ろってやつじゃん」って。

 

 外見たらさ――普通に空、見えてんだけど。

 

 ⦅は?ちょ待って……⦆

 

 あーしたちさ、エレベーター降りてからずっと、

 ここ洞窟の中だと思ってたじゃん?

 

 なのにさ、目の前に広がってんの、

 どう見ても“外”なんだけど。

 

 ……いや、何それ。

 どっからどう見てもおかしいっしょ。

 

 オジサンはまた、コツコツと鳴らし始めた。

 

 (-・・・/・・-・/--・-・/・・/・・-/・-・/・-・/-・-/・---/--/・・-・-/・-・/・-・・・/・---・/)


 ……いやさ、もうこれ完全に“何か送ってきてる”じゃん。

 

 ⦅ちょ、またモールス?

 しかもさっきより長くね?ダル……⦆

 

 でもさ、ここで無視ったら負けな気がしてさ、

 あーし、必死こいて解読したワケよ。

 

 ……で、分かった瞬間。

 

 ⦅は?マジでそれ言ってんの?⦆

 

 ってなった。

 

 だってこれ――

 “ここは中じゃない”とか、

 “外だって気付け”みたいなニュアンスなんだもん。

 

 ……いや遅ぇよ。

 もう見えてるっつーの、空。

 

 オジサンは最後にコツコツとリズムを撃った。

 

 (・-・・・/・-・・/--・-・/・-/----/・・-・・/・---/・-/・・-)


(-・-・・/・・-・-/-・・・/・-/-・・-/-・-・・/-・/・・--/-・-・/・-・-・-/-・・-・/・・-/・・-・-/-・/・・-・・/・-/・--・/-・/)

 

 ──オジサンは未だ、碧と蒼の意味を知らない。

──────アヴェーラにやや遅れて、

フィーネが降り立った。


「此処が例の屋敷の片割か?

 ……どうもきな臭いな。アヴェーラ」


フィーネはエレベーター内のやりとり――

成り行きは知っている。


だが、理解はしていない。


此処は“屋敷の片割れ”と呼ぶには、

余りにも──しるしが、無さすぎた。


(……いや、違う。

 確かに、あった。

 ただ――あまりにも儀式めいていて、

 “見慣れたもの”として、流してしまったんだ)


「フィーネ様……。その“徴”というのは……」

エスリンさんが、確かめるように口を開く。


「――ううん、待って。

 今の、見過ごしてる。もう一度振り返った方がいいよ!」

ヴィーウィ先輩が、被せるように遮った。


私とフィーネは振り返った。

――――確かに、そこにあった。


エレベーターホール。

そして、エレベーター。


私達は、そこから降りてきた。


……なのに。


気づくのが、遅すぎた。

それは、箱ではなかった。


蔦を絡め、編み上げた――籠。


(……そうだ。

 私は、見ていたんだ)


(アヴェーラの言葉を追い、

 門の形をなぞり――)


(けれど。

 肝心なものから、目を逸らしていた)


(見ていて、見ていなかった)


「フィーネ様は、至って正常なのです。

 基調が“碧”――つまり、静と均衡に寄りすぎている」


エスリンさんは、やわらかく言葉を選ぶ。


「ですから、異質を“異質として拾わない”。

 ……見落とされたのです」


「つまり?

 上のエレベーターホールから操作されていたって訳か?」


フィーネはエスリンさんに問いかけながら、

天井の奥――エレベーターホールのあるはずの位置を指し示した。


「……あれは、操作というより――選別です」


エスリンは、僅かに言葉を探るように間を置いた。


「右に往くものは、最初から“上”へ。

 左に往くものは、最初から“下”へ」


「じゃあ、選ばれなかったらどうなる?」


「……開けません」

エスリンさんは一度、言葉を切った。


「――いえ。

 正確には、『終/対の扉』は、開かないのです」


「そのために、鍵があるのですよ?」

エスリンは、確かめるように微かに首を傾げる。


まるでそれが、

当然の理であるかのように。


――アヴェーラが、

当然のように鍵を指先で遊ばせながら、門の前に立つ。


門の中央には、ただ一つ。

蒼の薔薇の意匠。


彼女はそれを、静かに左へと滑らせた。


――露わになる。

それは、錠前だった。


アヴェーラは、迷いなく鍵を差し入れ、


捻る……。


――リブロスム・ネーミオンの顎が拓く。

私達を、迎え入れるために。


其処は――

暗闇が、あるじのように佇む場所だった。


静かに、

それでいて確かに、

闊歩している。


アヴェーラの左手に掲げられたカンテラが、

足元を幽かに照らす。


その灯りの中で、

床に点在する蝋燭の列が、ようやく浮かび上がった。


……気づくのが、遅すぎた。


この場所は、

初めから“灯りを前提に作られている”。


アヴェーラは迷いなく先頭へ出ると、

何やら手元で探るように動き出す。


「ナーレ? 少し鍵を持っていて欲しいのです。

 一旦、『コレ』に火を灯さないと……」


そう言って、彼女はすっと鍵を私に預けた。


「これは何? アヴェーラ?」


「見ていて……。

 少し、時間が掛かります」


アヴェーラはそう言って、

カンテラの灯り一つを頼りに、

暗闇の中へと進んでいく。


蝋燭の火が、順に灯っていく。

一つ、また一つと。


……その度に、

暗闇の“形”が定まっていく。


アヴェーラが振り返った。


「ナーレ! フィーネ!」


呼びかけは、もはや合図に近い。


「中へ。右側の壁にレバーがありますの。

 ――それを、下ろして」


「――だってさ?

 ……さてと、何が始まるんだろうな」


フィーネは訝しげに、しかし足を止めることなく、

暗がりの内へと踏み込んでいく。


「ちょっと! 待ってよ……」


私は、僅かに躊躇ってから、

数歩遅れてその後を追った。


………中に足を踏み入れた瞬間、

蝋燭の灯りが壁面を、その『息吹』でなぞり――


見えていなかったはずのそれが、

遅れて、現れる。


……レバー。


手を伸ばせば、触れられる距離に。


「これだよな?」

「……これしか、見えてない」


――互いに確認するようで居て。


「下、だったな?」

「……最初から、下にしか来てない」


どこか、そう言わされているようでもあった――。


「……降ろすぞ」


フィーネが両手でレバーを握り、

一度だけ、息を整える。


そして――

定められた動作をなぞるように、下ろした。


ゴゥ……っと。

遅れて、空間の奥で何かが動き出す。


それは、

まるで“満ちる”ための音だった。


「おっと!」

フィーネは身じろいだ。


蝋燭がひとりでに上へと移動している――ように見えた。


(いや、違う!)


目線の高さまで来たところで分かる。


蝋燭は蝋止めの台座に据えられたまま、

台座ごと上昇していた。


私は、ゆっくりと視線を上へと向ける。


蝋燭が昇るにつれて、

隠されていたものが、順に剥がれていく。


……シャンデリア。


一つではない。

縦に連なり、幾層にも重なっている。


それらが、まとめて天井へと引き上げられていく。


中心には、縄。

等間隔に結ばれた結び目が、規則正しく並ぶ。


まるで、何かを測るかのように。


それによって、

シャンデリアは吊り上げられていた。


シャンデリアが昇る、

灯りが揺れる。


その度に、

リブロスム・ネーミオンの輪郭が、

欠けたまま、順に現れていく。


通路。

絵画。

本棚。

机。


……それらは、繋がっているのに、

どこかで噛み合っていない。


それでも確かに、

一つの“屋敷”として成立していた。


とうとう、シャンデリアが天井にその舌先を伸ばした時、――次の瞬間。


光が、弾けるように広がる。


壁が。

床が。


同時に、発光する。


(ゴゥ……)


(この音、この光――)


(……覚えている)


記憶が、先に反応する。


視界よりも早く、

私をこの場所へと引き戻した。


湿った情緒が、静かに私を侵していく。

視線を動かした、その瞬間――


背後に、気配が揃っていた。

……振り向く。


エスリンさんとヴィーウィ先輩が、

当然のように、そこに居る。


「どうかなさいましたか? ナーレ様?」


二人は、同時にそう口にした。


「ううん! ちょっと変な機構だなって」

私はそう返す。


「……私たちは、寄っただけですよ?」


ヴィーウィ先輩は、

噛み合っていない返答を、

何の疑いもなく口にして――にこりと、笑った。


「フィーネ様、ナーレ様……お嬢様がお待ちです」


私達は視線を向ける。

そこに、アヴェーラが居た。


最初からそうであったかのように、

机に一人、座っている。


「……エスリンさん達は?」


口にした瞬間、

それが“今さらの疑問”であることに気づく。


「……私共は、『保護者筆頭』でございます

 元より、そのように在ります」


「ナーレもフィーネも、『そう』だったでしょ?」


声が重なる。

逃げ場のない調子で。


それは、答えではない。

それでも――


正しいものとして、私の中に置かれていく。


「はやくしましょ? ナゾを解くのよ♪」


アヴェーラは、弾むような声でそう言って、

何の迷いもなく、本を取り出した。


フィーネと視線を絡ませた。

一瞬で、思考が走る。


困惑。違和感。

ここまでの道中の景色――。


それらは、

一本ではない。


いくつもの“支線”として、

私の中を奔っていた。


フィーネが、何も言わず頷いた。

それだけで、分かる。


(ずっと、寝かされてきた催し物)


私たちは――

ずっと、この流れの上に居た。


(お嬢から、逃れられない……)


その事実が、

遅れて、私の中に定着していく。


……レッティーナの言葉が、

ようやく“意味”になる。


「さ! 二人とも座って?」


待ちきれない様子で、アヴェーラは小走りで私たちのところまでやってきた。


そして、私達を目的の場所に連れ立った。


──私とフィーネは視線を合わせ、

そっと腰を下ろす。


アヴェーラは嬉しそうに笑いながら、私たちの前の椅子を軽やかに引いた。


「ほら、座ったらすぐ始めるのよ♪」


彼女の声は弾んでいて、部屋の重苦しい空気も少しだけ揺らぐ。


椅子に腰を下ろすと、

アヴェーラは目を輝かせながら、

本をさっと開き、私たちに見せた。


「これは、初代の遺したもの。

見た目は本ですが――

中身は絵画そのものなのです。」


本の中には、確かに絵が描かれており、

裏には文字が記されていた。


「あれ……確か文字は書けないはずじゃ?」

初代の顔を思い浮かべながら、私は口にした。


「私が思うに、曾おばあ様だと思いますわ……」

アヴェーラは間髪入れず、そう補足した。


私は絵画の裏のページを読んだ。


≪Vir copiam olei tenens,

 “Hic domum aedificabimus!” inquit.

 Statim intellexi consuetudinem eius impetus.

 Vir avidus erat artium, —

 fortasse hanc montium seriem videns captus est.

 Tum hanc picturam mihi misit.

 Hoc ex hoc tempore ad posteritatem relinquendum, hic coniungendum statui.≫


表には利発そうな女性と、背を向いている男性の絵が添えてあり、遠くに山脈が見えた。


「アヴェーラ、この絵……。

 男の人が見ているのは、あのエレベーターから降りる前に見えた、あの景色なの?」


「……そうですわ。

 彼は、あの山脈の『静謐』を、地下の暗闇に閉じ込めようとした。

 そして彼女は、その狂気を『家族の場所』として編み上げたのです」


フィーネとアヴェーラが談義しているところを、

私は横目にして、次のページを捲った。


 ≪Oleum deficiet! Oleum deficiet!” clamat,

 totum corpus vibrans.

 “Negotium excitemus! Hic et nunc!

 Domum aedificemus, opus magnificum!” inquit impetu pleno.≫


 ≪Tantum pecuniae non habemus, scis?” monui.≫

 ≪Quid ergo? Montem patefaciamus!

 Pigmentum iam deficere videtur,

 forsitan aliquid inveniemus sub terra!” inquit, impetu pleno.≫


 ≪Impulsu suo subitum, solus montem effodere statuit.

 Postea invenit “roseum” et “salsum lapidem”.

 Ipsi genas illius tangens, oculi eius illum quasi lambebant.≫


≪“Hoc uno monte lucrum capiemus, certe et vehementer!”

 Hoc est gloriosum initium nostrae familiae rei.≫

 

絵は、桃色の石を手に喜ぶ男の姿を描いており、

同時に女性の呆れた表情も見て取れた。


「桃色の石って?」

私はアヴェーラに質問した。


「ほら? 言ったじゃない?

 洞窟を通るときに、鉱石と海塩を取っていたって。

 多分、その始まりだと思うの……」

アヴェーラは少し困ったように口にした。


この先のページも同様に、

絵とアヴェーラの曾おばあ様の文字が交互に並び続けている。


「ちょっと、読み飛ばそうか……」

フィーネはそう口にした。


「同感! もう少し、時代を進めましょ♪」

アヴェーラは私たちの横から本を取り、適当な頁を捲る。


「多分、ここからだともう……」

そう言って、改めて本を私たちに見せた。


いつも通りに絵が描かれていた、

そして、裏面を見た。


 ≪Negotium eius feliciter successit!

  Ultra longum, tota vita ludere possit!≫ 

 

 ≪“Hoc puellae causa bibliothecas augere et aulam ampliare debemus!”

Dixit, ostendens mihi consilium pictum.≫


≪Multis pecuniis et virium impenditis, tandem mons factus est “Galanum Cavum”.

Credo eum dolorem sentire, quod spectare eius deformitatem miserrime erat.≫


 ≪Illam montium catenae quasi pontem utens, domos in extremitatibus construi constituit.

  In medio rupis, macula nigra posita erat; quaesivi de ea.≫


 ≪“Quid est hoc?”≫

 ≪“Hocne? Multa pulchra nigra lapidea emersa sunt.

  Hoc utimur ad aulam mediocrem hic construendam!”≫

 

 ≪“Pro meo latere oculus nomen accepit: ‘Onyx Melas’,” inquit.≫

 

表の絵画には、十歳ほどの少年が二人の間に差し込まれていた。


───私たちは戦慄した。

この少年が、いずれ二代目となる──。


───そう、この人物こそが、

「ヴァーディ・モーレイ」なのだと……。

【『甘いものには塩を振れ!』】


頭の中で自分の声が響く。

あーしはアイスに塩……いや、それはちょっとやりすぎかも。


⦅そしたらさ、チーズとハチミツとかもアリっしょ〜って⦆

───そんな馬鹿げた想像が勝手に広がっていく。


オジサンはあーしの沈黙を見逃さず、にやりと笑った。


【君はどう思う? 】


その笑みには、甘さよりも何か――

ほんの少しだけ、ざらついた感触が混ざっていた。


アイスは冷たいのに、心の奥がじんわり熱くなるような気分。

思わず、視線をそらしてしまった。


【それなら、チョコミントにも塩を振らないとね?

 あれも甘いんだ。そうだね?】


おじさんは、僅かに眉を上げて、あーしの目を覗き込む。

同意を求めるその視線には、ほんの少しのからかいと期待が混じっていた。


⦅えー、チョコミントに塩とかマジ無理~w

 甘いのは甘いって感じで楽しみたいんだけど!⦆


【えー、そうかなぁ?

 『在り、有の、無し!』ってノリじゃないっしょ~w

 どっちかって言うと、『アーリオ・オーリオ・エ・ペペロンチーノ』みたいな、

 言葉のリズム重視って感じじゃん?】


おじさんは両手をひらりと動かしながら、鼻でクスッと笑う。

言葉遊びを楽しむその表情には、軽い挑発が混ざっていた……。

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