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こちらは神材派遣管理会社「ユル」でございます。  作者: U-SAN
「街道/廻道(かいどう)、繰路(くりじ)巡路(めぐりじ)」
98/102

「城下町の市場調査-巡礼編XXXⅥ 家政婦体験篇XXⅦー」

あーしの隣に居るオタク君は、来た道をじっと見つめたまま、ボケっと立ち尽くしていた。


⦅さっきまで騒がしかった癖に、急に電源でも落ちたみたいに静かでさ。

正直、ちょっと不気味なんだけど……⦆


オジサンってさ、基本ずっと素っ頓狂で、突拍子もないじゃん?

なのに今はさ、静寂とかいう意味わかんないオーラ纏って、ボケっと突っ立ってんの。


⦅なにそれ、急にキャラ変? キモ……。⦆


【俺はまた、同じことをした……。

 ギャルにはちょっと難易度高すぎたかね?


 でもさ。

 君の感情も思考も――わりと全部、読めてるんだよねぇ?】


彼はゆっくりと、あーしに振り返った。


その眼は、恐ろしいほどに冷静で。

――しかし、口元だけが。


嘲りを含んだ笑みを、歪に張り付けていた。


⦅へぇ? ⦆


あーしはわざと笑ってやった。


⦅じゃあさ。

 今あーしが何考えてるか、言ってみ? ⦆


一歩、詰める。


⦅分かってるんでしょ? オジサン⦆


【あぁ……くっそきめぇな。

 急に変なキャラになるな、だろ】


背筋が、ぞわっとした。


【私はね……女性詞が好きなのだよ。

 ――分かるかね?】


オタク君は、楽しむみたいに、ゆっくりと言った。


【私はね……女性が〖パティシエール〗であるのに、

 それを『パティシエ』などと曖昧にするのが嫌いなんだ……。


 あれはね。

 ───言葉の死だよ。


 分かるかね? ギャル君。】


⦅……あー、要はさ⦆


あーし、少しだけ考えてから口を開く。


⦅“女ってこと消すな”って話?⦆


自分で言ってて、ちょい雑だなって思う。


⦅でもさ、それって別に

 あーしらが困ってるわけじゃなくね?⦆


【いいや、駄目だね……。


 何故、女性詞がある?

 何故、それが残されてきた?


 それを消すというのはね――

 イスラムの文学に、喧嘩を売る行為だよ】


⦅……いやいやいや⦆


あーし、普通に手ぇ振った。


⦅飛びすぎだって。

 なんで急にイスラム文学出てくんの? ⦆


眉ひそめて、ため息ひとつ。


⦅パティシエールの話してたよね?

 スケールバグってんだけど、オジサン ⦆


――でも。


⦅……つーかさ ⦆


ちょっとだけ、言葉が引っかかる。


⦅ “消すな”ってのは、まぁ……分かるけど⦆


自分で言ってて、なんかムカつく。


⦅ だからって、あーしにそれ押し付けてくんのは違くね? ⦆


一歩、踏み込む。


⦅ 結局さ、

 オジサンが気に入らないだけじゃん ⦆


【――ああ、そうだが?

 君がギャルなのも、まさにそれだ。


 ……いやぁ、面白いね。


 自分で墓穴掘ってるじゃないか】


オジサンは、わずかに首を傾げる。


【君は今、“どっちでもいい”と言った。

 パティシエールでも、パティシエでも構わない、と。】


一拍。


【だが君は、自分のことを“ギャル”と呼ばれることを、

 やめてはいない。】


視線が、まっすぐに突き刺さる。


【何故だ?


 “どちらでもいい”のなら、

 その呼称も、捨てられるはずだろう?】


口元だけが、ゆっくりと歪む。


【つまり君は――


 自分に都合のいい“差異”だけを残し、

 都合の悪い“差異”を消している】


ほんの僅かに、間を置いて。


【それを、人はね。

 恣意的しいてきと言うのだ。

 ───君はギャルを演じている。

 君はギャルという女性詞を、捨て切れてはいないのさ!!】


男は、冷ややかな嘲笑を浮かべ、あーしに指を上下に揺らした。

――まるで、この場全体を支配しているかのように。


⦅ ……はぁ? 何それ⦆


あーしは思わず眉をひそめ、声を少し上げた。


⦅ ていうか、意味わかんないんだけど、オジサン!

 急に何言い出してんの?⦆


指を上下に揺らす彼を見つめながら、ちょっとだけ息が詰まる。

でもすぐに肩をすくめ、強がる。


⦅ ……はぁ、もう、めんどくせーな。

 でも、そっか……ギャルって演じてるって?

 ふーん……まぁ、ちょっとは分かるかも、かな⦆


一歩踏み込んで、自分なりに整理してみる。


⦅ でもさ、それってあーしがどうとか関係なくね?

 結局、オジサンが勝手に騒いでるだけじゃん⦆


眉間に小さなシワを寄せながら、

ギャルの口調はふざけつつも、内心で少しだけ“刺さった”ことを自覚する。


『そうだね? それもそうだ!

 そうだった。そうでしたね?』


男は、自分の言葉を反芻し、指先で空気を切るように揺らす。

――その度に、周囲の空気が密かに空気が騒めいた。


【アハハハハハハ!!

 そうだった! そうだった!!


 君って、造られた存在だったんだ。

 だから、君っていうラベルなんて、

 最初から無かったんだ!!】


男は笑いながら、指を上下に揺らす手を止めず、

その狂気混じりの発見をあーしにぶつけるように見つめた。


【こりゃぁ……好い!


 『あーし!』とか言って、固有名詞が無いとは!!

 ガハハハハハ!!


 君に、“ギャル”という固有名詞は存在しないのだ。

 こんな、馬鹿々々しいことがあるとは――ね?】


笑い声は、場の空気をねじ曲げるように響き、

上下に揺れる指先は、まるで“世界のルールを揺さぶっている”かのようだった。


『素晴らしい! 素晴らしいねぇ?

 レッティーナは何がしたい? 』


オタク君は狂気の笑みを張り付けたまま、

静寂に似た瞳であーしを見つめた。


あーしは眉をひそめ、思わず声を荒げる。


⦅ちょ、ちょっと待ってよ!

 何それ、急に何言い出してんの、オジサン? ⦆


狂気の笑みを張り付け、静寂の瞳で見つめるオタク君に、あーしは少し息が詰まるのを感じた。


⦅ていうか、あーしに何がしたいとか聞かれてもさ……

 別にオジサンの都合に合わせる義理ないんだけど? ⦆


それでも、心の奥のどこかで、指の揺れと笑みの圧が

ほんの少しだけ、刺さっていることに気づいていた。


⦅……いや、でもさ! ⦆


あーしは一歩前に踏み出し、強がりを見せながらも、

内心で冷や汗を感じていた。


【あぁ~あ! 時間切れェ!

 惜しかったねぇ?

 僕が赦してあげようと思ったのに……時間切れだ!!】


【仕方ない! 私が着飾ってやろう……?

 君には⦅固有名詞⦆があっても、『女性詞』がないのだから。

 私が肖ってやろうではないか!!!】


───────静寂を切り裂くようにして、物語は動き出した。

アヴェーラが対岸の扉をゆっくりと押し開くと、

そこから吐息のように冷たい静けさが漂ってきた。


まるで洞窟の奥深くに潜り込むような、ひんやりとした空気。


こちらも、かつて辿った来た道と同じように、

暗く湿った岩肌に囲まれながら進むしかないのだと、身体が密かに緊張する。


扉の向こう側は漆黒で、視界は殆ど何も映さなかった。

私はゆっくりと視線を左右に動かす。


─────あった。


まるで「ここにあるのは当然」とでも言うかのように、カンテラと蝋燭が置かれていた。

淡い光が周囲の影をそっと揺らし、静寂の中に、微かな安心を齎す。


アヴェーラは五つの蝋燭すべてに灯を点けるため、備え付けの火打ち石を手に取った。

火花が小さく散り、ひとつ、またひとつと蝋燭の炎が静かに灯っていく。


「はい。ナーレ。 皆に渡して頂戴?」


アヴェーラの両手には、温かく揺れる火の灯った蝋燭とカンテラが載せられていた。

その光は暗闇に対して細やか勇気のように輝き、私はそっとそれを受け取る。


私は蝋燭をカンテラに入れ、そっとフィーネに手渡した。


「フィーネ? 後ろに回して頂戴?」

「あぁ! 分かった」


フィーネはすぐに意図を理解し、静かにヴィーウィ先輩へと手渡す。


小さな火の灯りは、まるで波紋のように洞窟内を少しずつ照らしていった。


ヴィーウィ先輩は軽く会釈を返し、慎重にエスリンさんへと手渡していく。


その光の輪は少しずつ広がり、暗闇の中に人々の存在を浮かび上がらせていく。


私はこの作業を三度繰り返し、全員の手にカンテラが行き渡った。


ヴィーウィ先輩に続き、最後尾のエスリンさんもゆっくりと洞窟内に入った。


洞窟はまだ薄暗いままだが、しかし確かに、人々の存在を感じさせる温かい光で満たされていた。

その光は、暗闇にぽつりぽつりと灯る小さな希望のようだった。


エスリンさんは背後の扉に振り返り、眉を顰める。

「これでは……火が消えてしまいます」


その言葉に、私は一瞬だけ息を呑んだ。

─────そして、エスリンさんは静かに扉を閉めた。


カチリ……と音を立てて、洞窟内の空気が身動ぎ、

やがて、静寂が訪れた。


「行きたい処があります。 エスリン……。

 Λιβροσμού・Μνήμειον≪リブロスム・ネーミオン≫の鍵はありませんこと?」


アヴェーラがそっと口にしたその言葉は、

洞窟内の静寂に溶け込み、

ゆっくりと広がっていった。


冷たい空気の中で、

微かな余韻となり、

壁に反響しながら人々の胸に届く。


エスリンさんが私たちの横を静かに通り過ぎ、

アヴェーラの傍に立った…。


「お嬢様……あそこは、行く必要は……」


言葉は低く途切れ、しかし声には迷いではなく慎重さが滲む。


エスリンさんの手には、茨を意匠した青銅の鍵がしっかりと握られていた。


ゆっくりと差し出される鍵を、アヴェーラは両手で受け取る。


その瞬間、洞窟内の空気がわずかに張りつめ、光と影の間に静かな緊張が走った。


アヴェーラは少しだけ目を伏せ、視線を床に落としたまま言葉を紡ぐ。


「私達は『上』に行く必要があります。

 そうするなら……理解しなければなりません。

 誰一人、『達した者』はいませんもの……」


言葉の一つひとつが、洞窟内の静寂に染み込むように響いた。


目を伏せたままのその姿に、決意と覚悟が静かに、しかし確かに滲んでいる。


「お嬢様……『最上階』に行く……そういうことですか?」


ヴィーウィ先輩は、静かにその意味を私たちに告げる。


言葉は重く、洞窟の薄暗い空気に静かに沈み、しかし確かに響いた。


その一言で、皆の胸に小さな覚悟の震えが走る。

最上階――それはまだ誰も辿り着いた者のいない場所。


「えぇ……二代目が到達した。

 ───それ以降、彼はそのことを隠してしまったのです。


 私達はΑισελιφεγκαλοαντιφυπος≪アイセリフェンガロアンティフュポス≫の、

 『最上階』に往くのです」


言葉のひとつひとつが、洞窟の冷たい空気に溶け込むように響き、胸の奥に重く落ちた。

その瞬間、全員の心に、小さな覚悟と緊張が芽生えるのを感じた。


「Ἀληθῶς, ἑώρακα, ἐν γῇ βλεπομένῃ·

τὰ ὄντα κεῖσθαι αἰωνίως, τῷ χρόνῳ ἀεί。」


ヴィーウィ先輩は、声を潜めるように独り言ちた。

その言葉は洞窟内の暗闇に溶け込み、壁を伝うように静かに反響する。


小さな光の輪が揺れる中、重く響くその響きが、空気に張りを与えていた。


「えぇ…先回りされてしまいましたわ。

 でも───それ以降、『先回り』されて、いませんことよ?」


アヴェーラは、微かに口元を緩め、いつもの癖をさり気なく見せつけた。


その仕草には、軽やかな自信と、場の空気をちょっと揺らす小さな遊び心が宿っている。


「それでは参りましょ♪」


アヴェーラは微笑みを浮かべ、

洞窟内のステップをひとつひとつ確かめるように踏みしめながら、

ゆっくりと下り始めた。


蝋燭の淡い光が足元の岩肌を照らし、影が揺れる中、

彼女の明るい声だけが静寂を柔らかく包み込む。


「参りましょう……」


エスリンさんは静かに私達に告げ、

決意を込めた足取りでアヴェーラの後を追った。


蝋燭の光が揺れる薄暗い洞窟内で、

彼女の存在は確かに頼もしさを放ち、

前方へと進む道に小さな安心を齎していた。


残された三人。

ヴィーウィ先輩はそっと私の手を取り、片手に握っていたカンテラを私に渡す。


次に、フィーネの手を取ると、私たちを先導するかのように歩き出した。


「ヴィーウィ先輩……『最上階』とは?」


「そのままの意味だよ。ナーレも視えたでしょ?

 あの屋敷の最上階……屋上に行くってことだよ」


ヴィーウィ先輩の言葉は、薄暗い洞窟内に静かに響き、私の胸に少しずつ覚悟を刻み込む。

その響きが、光の揺れる影と重なり合い、空間に小さな緊張を生んでいた。


──────私たちは降りていくと、

見慣れた空間、見慣れた階層表示が目に入った。


(また、君なの?)


──────そう。

ここは、やはりエレベーターホールだった。


薄暗い光に照らされるホールは、前と同じだが、どこか違和感を帯びている。


まるで、以前とは別の時間軸に踏み込んだかのような感覚が、胸の奥に密かに広がった。


此処には二つのエレベーターがあり、

アヴェーラとエスリンさんは、左側の翠のエレベーターで私たちを待っていた。


右側のエレベーターは紅に染まり、

静かに佇んで私たちを睨みつけるかのようだった。


その存在だけで、洞窟内の空気がわずかに張りつめ、自然と身が引き締まる。


私は視線を上下左右に動かした。

──────そして、銘板がそこにあった。


(道標ね……)


銘板には、見慣れたはずの文字が刻まれている。

しかし、見るたびに重みを帯び、洞窟内の静寂に凛とした響きを放っていた。


≪Οἱ τὴν σοφίαν σημείον ἔχοντες πρὸς τὸ κυανὸν·

οἱ δὲ τὴν ἀείβλεπτον ὀψιν αἱροῦνται πρὸς τὸ ἄσκοπον.≫


蝋燭の揺れる光が文字の凹凸を浮かび上がらせ、壁に影を落とす度、ギリシア語の響きが洞窟の空気に深く浸透していくようだった。


訪れた音もなく、

碧のエレベーターが下からゆっくりと昇り、静かにエレベーターホールに到着した。


淡い光が扉の隙間から漏れ、ホールの薄暗さを僅かに照らす。


その静けさは、まるで空気までもが息を潜めているかのようだった。


「到着したわ、行きましょ?」


アヴェーラは軽やかに乗り込み、

当然のように、二人の『黒子』も静かに続いた……。


蝋燭の揺らめきが彼女たちの姿を淡く照らし、

エレベーター内に緊張と決意の空気が漂う。


「分かったわ。視てやろうじゃない……

 行くわよ!? フィーネ!」


私はフィーネの手を握りしめ、

碧のエレベーターに踏み込んだ。


微かに機械音が響き、

光が揺れる中、私たちは静かに降り始めた。


「それで? アヴェーラ。

 貴女の意図、理解したわ。

 そう、遠回りな引き手数多の手薬煉で、私をどうしたいの?」


私はそろそろ、彼女の真意を知りたかった。


(こんな、まどろこっしいことを……!)


胸の奥で、苛立ちと好奇心が渦を巻く。

アヴェーラの軽やかな笑みに翻弄されながらも、私の目はしっかりと彼女を捉えていた。


「ナーレ、フィーネ?

 私は幼い頃から、お父様にこんなことを言われてきました——


 『お父様はおじい様から凄い話を聞いたんだぞ!』


 それをずっと尋ね続けてきたのに……

 それでも、お父様は……!!」


声が震え、言葉の端々に溢れる切実さが洞窟内の静寂を切り裂いた。


幼い頃の疑問と、

今の苛立ちがひとつに絡み合い、

アヴェーラの胸を強く打っているのが伝わってくる。


「私は諦めましたの!

 私も見てやろうと想ったのですわ!

 『先回り』して御預け——!

 それはもう、嫌ですわ!」


声が洞窟内に響き、蝋燭の揺れる光が、アヴェーラの怒りと決意を際立たせる。

長年の我慢が解き放たれた瞬間、空気までが張りつめ、私たちの胸に小さな震えを齎した。


「おいおい……それが『家政婦体験』の真実かよ!

 飛んだデカいアトラクションだな!」


フィーネはようやく、アヴェーラの全貌を理解し、呆れ果てた表情を浮かべた。

その瞳には、驚きと諦め、そして少しの笑いが混じっていた。


「ごめん遊ばせ! 今まで試してましたの……。

 『急なことに対応』ができるのか、見定めてましたの」


アヴェーラは軽やかに笑みを浮かべ、私をじっと見返した。

その視線には、からかいと好奇心、そしてほんの少しの確信が混じっている。

洞窟内の薄暗い光が、彼女の表情に柔らかく反射し、状況の緊張と遊び心を同時に映し出していた。


エレベーターは静かに停止した。


─────最下層に着いた合図だった。


扉越しに見える最下層のエレベーターホールは、

碧の光に包まれ、まるで何か神秘的な謎を象徴しているかのようだった。


メインの扉には歪な茨と、

碧の色をした、野薔薇が鮮やかに彩った。


≪Αισελιφεγκαλοαντιφυπος─Ἀγρός ὀρνίθων ὑδάτινων Agros ornithōn hydatinōn≫

扉の入り口の上に、そう刻まれていた……。


≪Ἀγρός ὀρνίθων ὑδάτινων ἐν σπηλαίῳ φωτεινῷ,

ὅπου ἡ ἀείβλεπτος ὄψις διηνεκῶς βλέπει.


Agros ornithōn hydatinōn en spēlaiō phōteinō,

hopou hē aeibleptos opsis diēnekōs blepei.≫


その銘板は、扉の横に静かに掛かっていた。

蝋燭の揺れる光が文字の凹凸を浮かび上がらせ、

洞窟内の静寂に、古代の叡知と永遠の視線がひそやかに息づいているようだった……。


私はエレベーターホールに降りた……。


エレベーターホールの窓ガラスは、碧と蒼に彩色され、黄色い蔦を思わせる枠で縁取られていた。


(ガラス……じゃない……。 宝石だ……!!)


碧玉ジャスパー灰簾石タンザナイトが惜しみなく使われ、光を受けて仄かに輝く。


此処から見える窓のすべてが、

等しく宝石で飾られていたのだ。


アヴェーラが遅れてエレベーターホールに降り立った。


「皆を此処に連れて、来たかったのです////」


──────その声質は静寂の中に静謐さを添えた。


煌びやかな 藍/アモーレを携えて、

空間にそっと満ちていった……。


蝋燭の揺らめきや宝石の窓から差す光までもが、

彼女の存在を祝福するかのように、柔らかく反射していた……。

【なんだ? ギャルがよぉ……いつものハリキリシャカリキガールは何処にいたんだ?

 そこで座るな! 床に座るな! だらしない!】


オタク君はそう言って、

私を立たせて、あーしの服を汚れを払った。


【ったく。 ガキがよぉ? 

 ガキはハリキリシャカリしてねぇで、何がガキなんだ? 俺を馬鹿にしてんのか? 】


⦅触んなし! キモい!

 あーしはあんたの駒じゃねぇんだ!⦆


【おうおう……急に元気になったな。

 まだ舌禍したいのかね?


 だが、君が私に勝てる訳がない。

 君は存在すら、ラベルすら無いのだ……。

 私に……勝てると思うのかい?】


⦅あーし! 絶対に勝つ!

 バイブスで、あんたを打ち負かしてやんよ!!⦆


レッティーナの声は、反発と熱気で震えていた。

オタク君の静寂に似た瞳を前にしても、怯むことはない。


むしろ、全身で気配をぶつけるように、彼に立ち向かう。


【成程ね……己を持ったか?

 善いだろう……そうではないと、意味が無いのだ。


 ――これも計算の裡となったら、どうなるんだろうねぇ?】


男は、狂気の笑みを薄く浮かべ、静寂の瞳であーしを見据えた。

その視線には、挑発と試験の香りが混ざっている。


【さて、君にも叡智勝負をしてやろう?

 ヴァルが好きらしいし……? これを応えたら君を自由にしてやる】


⦅いいよ、受けて立ってやんよ! 難問だろうがバイブスで解いてやる!⦆

【いいね! コレだから、ガキは辞められない……】


【では、問題を出してやろう。

 篤と理解するまで、反証してくれ】


男は嘲るように微笑み、指先を揺らしながら、

あーしの反応をじっと待っている。

静寂に似た瞳に、試験官のような圧が漂っていた。


【最終問題だ─────

 『こちユル』のエンディングロール全て答えよ。

 今、此処でだ。

 時間は──────────】


男は六十六と六を指で示した……。


⦅……答えてやんよ。

 全部は分かんないけど、あーしが見てきた、あーしが信じてる『こちユル』の終わりはさ……! ⦆


【それも正解だ、しかし不正解だ。

 やり直せ………………………………】


男は静かに採点した

───────【A+】


〖踊って魅せてくれ……可能な範囲で。

 俺と踊ってくれないか?


 どちらが先にA+に至るのか……。

 俺が先に行って、役を貰う!

 頂点で、嘲笑ってやるぞ!!〗


男はあーしの脚を引掻けて、

一気に加速して駆け出した……!!


『ははは! 鬼さんこちら!

 手の為る方へ!!

 おーい! 俺を捕まえてみろ!

 手が成る前に捕まえてごらん♪』


指先を揺らし、笑みを張り付けたままの男が、

あーしの反応を楽しむかのように空間を駆け抜けていった。


そのまま、男は掟破りの地元走り(ショートカット)で、

五つ先のコーナをクリアしていく。


視えない、透明なる途を突き進んで、

壁さえも突破し、問答無用にAFアフターバーナーを全突っ張り!!


───────すっ飛んでいく。


男は亜空間を飛び飛びに駆け、

短時間ワープを連続で繰り返す。


明滅する彼の姿により、視界は完全に霧が掛かったように曖昧になり、周囲のすべてが捕えられなくなっていく……。


『へぇ? やるじゃん。

 君も、こちら側ってことか?

 論理的に動くと思ってたんだがねぇ……』


男は薄く笑みを浮かべ、亜空間を駆ける、あーしの動きを観察している。

その瞳には、試験官のような好奇心と、狂気めいた挑発────。


そして、男は見えない縄で、

あーしを引っ張っているのだ……。

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