表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
こちらは神材派遣管理会社「ユル」でございます。  作者: U-SAN
「街道/廻道(かいどう)、繰路(くりじ)巡路(めぐりじ)」
88/112

「城下町の市場調査-巡礼編XXⅥ 家政婦体験篇XⅥー」

霧の中で、言葉が波紋となって世界を揺らす。


「う~ん………なんか滑ったなぁ……」


私はその言葉を、灰色の霧に溶けるように吐き出した。


≪ギリシア語は果てしなく、永遠の川のように延びている──

読者の十中八九は、その流れに溺れ、迷子になるだろう≫


文字は空間を漂い、意味は光のかけらのように散らばる。

耳を澄ませば、言葉が静かに囁き、夢の縁をかすめていく──


「ヴァルってさあ、思ったこと、

本当にさ、バチクソに云うよね?」


私は思ったことを、冷たい影のように、静かに意趣返した──この異種に。

声は空気を裂き、時間の縁をかすめ、向こう側の存在を震わせた。


≪お前の意志は、遺志を貫く──

だが、読者達は迷子になるだろう?

お前は余白を切り裂き、幻想をねじ込み過ぎる!≫


声は霧の奥から響き、言葉の刃となって、

静かに俺の胸を貫いた。


迷宮は生きている。

文字は螺旋を描き、行く手を覆う。


読者はその中心を目指して歩くが、道は幾重にも枝分かれし、

出口はどこにも見えない──


そして私はただ、言葉の渦に身を委ね、

創造の神へ投げ飛ばすしかなかった。


(術中は十中八九───!! 雁字搦めだっ!!)


文字はねじれ、空間に散り、霧と影の間で勝手に踊り出す。

流れに身を預け、全てを託す──迷宮は生きている。


ミラーボールの光が霧を裂き、オニュクス・メラスのお立ち台を照らす。

ボディコンに身を包み、ジョリ扇を振るその姿──


偶像崇拝達は、90年代のユーロビートに乗り、

お立ち台で「パラパラ」の幻影を描く。


光は屈折し、踊る影は迷宮の壁に絡まり、

現実と幻が渾然一体となる。


「一体全体何が始まる? 何がハジケル?」

 ≪それは良かった。弾けて飛んで──≫


90年代の光が弾け、音が宙を裂き、静かに、その始まりの鼓動を刻む。

────全てが弾け、溶けだし、滲み、空間は時代の色彩に侵される。


世紀末が始まり、誰だって身を委ねる。

ミレニアムマジック。


全て泡になって粉々になった。


【確かに、狂ってて、トチ狂ってたな。

 サイケデリック・トランスだったよ────】


黎明期の麗明は余りに、

サイケデリック・トランスだった……。


「弾けようぜ!? 今夜だけ、最高に露光してる……

 お立ち台で踊り狂うの、怖がってんの居んのか?

 居ねぇよな~? おい!?」


男は無駄に我儘なボディにボディコンを纏い、偶像崇拝達と共にビートを掻き鳴らす。

文字は音に呼応して跳ね、渦を巻き、光の波紋となって空間を覆った。


パラパラの動きが、壁や天井に絡み、時間の流れをねじ曲げる。

音は文字に宿り、文字は光に宿り──迷宮は踊り狂う。


ミラーボールが、

ミラージュ・スコールのように光を撒き散らす……。


≪最高にイカレてる───≫

≪最高にトチ狂ってる───≫

俺はお立ち台に立つ神を見た。


淫らに、しかし狂おしく踊る神。

だが、眸は常に冷たく、鋭く、迷宮を見渡すように俺を捉えていた。


文字も、光も、音も、全てがその視線に反応し、

渦を巻き、空間をねじ曲げる。


俺の身体も心も、備え付けの壁も、踊る文字も、

全て──神の視線の中心で揺れ動く。


──常に見られていた。

俺の事を、全てを───


【全てが傅く───全てがっ!!】

この神の周囲で、塑像神までもが狂い咲き──


光も影も、文字も音も、全てが渦となって螺旋を描く。

狂気が孕んで、世界が膨張し始めた。

──神はただ冷たい眸で全てを見渡す。


神は嘲る──

その渦の中心で、全ての光と音、文字と色彩が彼の意志に従い渦巻く。


俺は傅き、平伏した。

全身を迷宮の床に預け、地面に唇を触れさせた瞬間、

渦は俺を抱擁するように螺旋を描き、文字と光が絡まり、時間すら震えた。


──神の嘲りが、音となり、色となり、俺の血潮の中で反響する。

迷宮は静かに、しかし確実に、俺と神を一体化させていた。


【ファンタジーを試行せよ】

その声だけが、渦巻く光と文字の余韻の奥底から、ひそやかに聞こえた……。


耳ではなく、心で感じる言葉。


──世界の破片も、迷宮の壁も、音も色も、

全てがその声に揺れ、ひとときの静寂に包まれる。


最後に残るのは、絶対的な指令でもあり、

希望でもあり、狂気でもある──


──ファンタジーを試行せよ。

───≪Λέων──Πέμπτος Οἶκος≫────


私達はエレベーターホールに着いた。

ここに立つと、この屋敷が「変」という領域を超越しているのが、身体ごと感じられる。


確か、一階はオルトゴーニオン形(ὀρθογώνιον)だったはず。

だが、この階層は──ロムボス型(ῥόμβος)の構造を帯び、空間が微かに歪んでいるように見える。


(あの光る柱のせいなの……?)


淡い光が周囲を包み、遠近感はぼやけ、床も壁も微妙に揺れているように錯覚させる。

──文字通り、空間そのものが迷宮を描き、時間までも波打っている。


私はフィーネを案じる。

彼女の瞳は、白と黒の狭間で揺れ、迷宮の影響を如実に映し出していた。


この屋敷は、彼女の性分を巧みに弄ぶように設計されている。

意図せずとも彼女を試す迷宮の一部となっている。


それとも――

導くお三方が選んだお散歩コースゆえに、空間は歪んでいるのだろうか?


壁も床も、光も文字も、淡く波打ちながら、私達の意志の軌跡を描いているようだ。

──この屋敷は、迷宮そのものが生き、歩く者の選択をねじ曲げるのかもしれない。


「そうでしたわ、私達は昼食もまだでしたわね……」


「お嬢様? そうですね。

 これもお嬢様のお願いを試行なさったせいですよ?」


ヴィーウィ先輩とアヴェーラが互いに言い合う声は、

迷宮の壁に淡く反響する。


「それもそうなんだけどさ?

 そろそろ、眠いのもあるんだよね」

フィーネは、迷宮の縁に触れるように、本音を漏らした。


「アヴェーラ? フィーネの言うのも仕方ないわ。

 私達、ずっと歩いてばかりだわ……」


私は困った顔でアヴェーラに漏らす。


アヴェーラとエスリンさんは立ち止まり、

二人の瞳が、淡く揺れる光の中で絡み合った。


「どういたしましょうか? お嬢様。」

「そうね───」


アヴェーラは、あの「トレードマーク」を淡く光る指先で示した。

空間の渦が、微かに揺れ、文字や光の波紋が彼女の意思に反応するかのようだ。


「ヴィーウィ、準備して?」

その指令が、迷宮の空間を越えて、ヴィーウィ先輩に届いた。


「えっとぉぉ。準備といいましても……

 まだ、着いてませんよ?」


ヴィーウィ先輩は、持ち場の手不足を嘆くように、飽きれた声を迷宮の空間に投げた。

文字や光の渦は微かに揺れ、彼女の声に呼応するかのように跳ねる。


「そう──みたいね?

 二人とも、もう少し我慢して頂戴?」


彼女の微笑が、光の波紋となって空間に広がる。

しかし確実にその笑みに応えるように揺れた。


私達は角を曲がる。

壁と窓、光る柱──視覚に映るのはそれだけ。


しかし、通路はただ一筋に延びているわけではない。

似たような場所をぐるぐると廻っているような感覚に、心が縛られる。

光は淡く揺れ、柱の光が渦に微かに映り、迷宮は自らの存在をささやくかのようだ。


──角を曲がるたび、空間はわずかに変形し、時間までもねじれる。

同じ場所に戻っているのか、別の場所に来ているのか、感覚は溶け、迷宮はじっと私達を見つめている


「二人とも! 着きましたよ!」

ヴィーウィ先輩は、久しぶりに弾けるような笑顔で声をあげた。


かつて最初に出会ったときのように飛び跳ねることは減り、微かに息を弾ませている。


──迷宮の通路を経て、

光も文字も揺れ続けたこの空間を抜けた証のように、

彼女の声は渦に反響して残る。


(先輩も疲れて、きているみたいね……)


心の片隅でそう感じながら、私は微かに安堵を覚えた。


──迷宮の時間は、少しだけ緩やかに流れを変えたのだ。


あぁ……長かった。

入り口に銘板がぶら下がている。


≪Δωκατεριμόρια──Τραπέζαρια≫


中に入ると、テーブルとイスがあり、

イスが十二脚……ある。


テーブルにまた、文字が刻まれてある。

≪Λοξός Κύκλος≫


よっぽど、初代と二代目という人はここを大切にしていた。


そんな気持ちを刻み込んでくる。


椅子にはそれぞれの意匠がされてある。

どれも見たこともないようなもの。


「席に着いて、二人とも?」

アヴェーラは十番目の椅子に座って、私達に促した。


「はいはい、分かったよ。

 クタクタだから。座るって」

フィーネはぶつくさと言って、七番目の椅子に腰かけた。


(私はどれにしようかな?)

──空いている椅子は十脚もある。


≪うーん。フィーネの隣で良いんではないかな?≫

ヴァルが困った私に手を差し伸べる。


(そうだね、相談するにも隣の席がいいわ!)

私は六番目に腰を掛けた。


≪俺も疲れたよ、精神的に……≫


最近──私はヴァルの空気感を感じられるようになった。


正確には、オーラと言うべきか。


ヴァルは十二番目の椅子に陣取り、

その体が椅子に溶けるように伸びているのを、私は微かに感じ取った。


「っさて。第一保護者様は何を彩ってくれるんだ?」

「そうね。出てからのお楽しみ手事かしら♪」

二人は掛け合いをしている。


エスリンさんとヴィーウィ先輩は、

先ほどからずっと食事の準備で忙しそうだ。


(ちょっと手伝った方が良いかな?)


私は二人が会話に夢中になっている間に椅子から降りて、エスリンさんとヴィーウィ先輩を手伝いに様子を見ることにした。


二人はせっせと、五人分の食事の準備をしている……。


「ナーリュ! 君は座ってていいんだよ?」

ヴィーウィ先輩は盛りつけに手を動かしながら、こちらをちらりと確認して言った。


「でも~。忙しそうですし。お皿くらいなら……」

私は、自分にも出来そうなことを口にした。


どうやら、ここにはカートリーが無いらしい。


「ヴィーウィ、少し手伝ってもらいましょう。

 ナーレ様も、一応は家政婦体験のために居ますから」


エスリンさんは、パントリー一式をなんとか両手で抱えていた。

ヴィーウィ先輩はちらりと私を見ると、くすっと笑いながら、「分かった、手伝うのね」とこちらにお皿の入った籠を手渡してきた。


私は少し照れくさそうに肩をすくめながら、

籠を手に取り、エスリンさんの隣でそろりと動いた。


エスリンさんは五人分のナイフを拭き、きちんと並べて整えていた。


「これで……完成ですね」


家政婦体験のためだけに用意された素材たちで、なんとか夕食の準備が整った。


どうやら、家政婦さんたちは普段からこのようなものを食べているらしい。


ポタージュのようなスープにパン。

多分、鳥の肉だろうけど……。

明らかに、家政婦用としては贅沢すぎる食事だ。


「なんだか、豪華ですね?」

私は思ったことを、そのままエスリンさんに口にした。


「お嬢様が言うんですよ。家政婦体験でしょ♪

 家政婦らしくしたいけど、祝いたいのよ?」


エスリンさんは、アヴェーラのトレードマークを真似しておどけて見せた。


(やっぱり、最初からそうだったんだ……)


私は、導かれるようにしてここに来たのだと、やっと理解できた。


*********


私たち三人は、食堂に戻ってきた。

フィーネは不貞腐れたまま、テーブルにぴたりと張り付いている。


アヴェーラはいつものトレードマークのしぐさをして、退屈そうに時間をつぶしていた。


「お待たせ致しました。お嬢様方」


エスリンさんは恭しくお辞儀をして、アヴェーラに声をかけた。


「あら……ナーレも手伝ってくれたの?

 椅子に座ってて良いのよ?」


アヴェーラは、エスリンさんに向かって軽く微笑んだ後、こちらに視線を向けた。


──────────

アヴェーラはそれから黙った。


≪ナーレ、お辞儀してあげなさい。≫

ヴァルがそんなことを言う。


(あっ……そうか)


アヴェーラは私をじっと見つめている。


「大変、お待ちして……申し訳ございません」

少し恭しくお辞儀をし、舌をちらりと出して首を傾げた。


(アヴェーラは徹頭徹尾、

 ≪乙女の嗜みを求めている──≫)


アヴェーラは私に微笑み返した。

そして、視線を私の頭を飛び越えて向けた。


「それでは、食事にしましょ♪」

ヴィーウィ先輩はやっと元気を取り戻した。


「早くしてくれ……このままだとへばっちゃう」

フィーネはテーブルにぴたりと張り付いたまま、そう告げた。


**********


エスリンさんとヴィーウィ先輩は、アヴェーラとフィーネの前に夕食を並べている。

私は、自分の分をそっと並べた。


やっと、エスリンさんとヴィーウィ先輩が自分の分の夕食をそっと並べ、席に着いた。


エスリンさんとヴィーウィ先輩は、アヴェーラとフィーネの前に夕食を並べている。


私は、自分の分をそっと並べた。


やっと、エスリンさんとヴィーウィ先輩が自分の分の夕食をそっと並べ、席に着いた。


エスリンさんは四番目の席に座り、

ほぼ同時にヴィーウィ先輩が三番目の席に着いた。


「それでは、祈りを」

エスリンさんがそう促す。


どうやら、ここでは食事の前に祈るらしい。


エスリンさんが指を組み、眸を閉じた。

アヴェーラも、ヴィーウィ先輩もそれに倣う。


私たちも、自然とその様子に身を委ねた。


「Hodie tibi, sancte, laudibus plena, iuro;

 Hac victa re, vocis tuae sonitu fidem pono;

 Spondeoque sacrum, ut maneas divinus in hoc corpore.」


エスリンさんの声が、この≪Δωκατεριμόρια──Τραπέζαρια≫に響き渡った。

その声は高らかに、堂々と空間に満ちた。


アヴェーラはまっすぐに手を組み、瞳を閉じて息を整えている。

ヴィーウィ先輩も肩の力を抜き、静かに呼吸を合わせていた。


私の胸の奥まで、声の振動が届く。

思わず目を閉じ、自然と手を組んでいた。

テーブルの上の蝋燭の炎が、微かに揺れるのを視界の端に感じる。


フィーネは少し眉を寄せているけれど、じっと座って祈りに身を委ねている。

空気が震え、時間がゆっくりと流れていくように思えた──。


「――******!」

エスリンさんが力強く宣誓した。


(また、聞くことができなかった……

 その御身の名を。私は、まだその名を聞くことが許されないの?)


≪Deus verecundus, tacitus tremens, resplendet;

Náire, reverenda, cui nullus audet obstare;

Sine pudore procedit, qui recta ad illam venit.≫


ヴァルがそのようなことを口にした。

私は、その意味を理解しようとして戸惑った。


(それは───どういう意味?)

胸の奥がずっともやもやしてくる。


(神様って……何───?)


≪Ἀεί, ἀπὸ τῶν ἀρχαίων ὧν,

βρύει μῶσχος, ἕστηκεν ὁ ὑπάρχων,

ἀπὸ τῶν ἀρχαίων ὧν ἀεί.≫


ヴァルのその言葉だけが、私の胸に届いた。

呼吸が一瞬止まり、胸の奥が微かに震える。


静寂の思いが、この心に深く刻まれて──。

手のひらにうっすらと汗が滲み、背筋を冷たい空気が撫でた。


(貴方と一緒なのね。

 貴方と一緒──

 私に、共に佇む者──)


────答えは、最初からあった。

視えていないだけで、見えていたんだ……。


身体のすみずみまで、

静寂と納得がゆっくりと私の心に波を立てた──。

──ファンタジーを試行せよ。


男は無駄に我儘な、

そのボディにボディコンを纏い、

偶像崇拝たちと共にビートを掻き鳴らす。


文字は音に呼応して跳ね、

渦を巻き、光の波紋となって空間を覆った。


踊り狂う神の言葉は、真理を裡から貫いた。

至極全うな話をしているのだ。


神は真理と狂気の狭間で、虚偽の踊りを魅せる。


ミラーボールがそれらをヴェールのように纏わせ、

生成された霧が光を帯びて乱射し、反射を繰り返す──。


キャバレーで、

Dancing all night──Tonight, dawn.


踊る影を渦巻かせる。

男も偶像も神も、ビートに身を任せ、

狂気と歓喜の境界線を滑るように舞う──。


文字は音に呼応して跳ね、光の波紋となり、

空間を覆うヴェールのように霧を照らす。


神は名乗ることを放棄している。

私たちは、生涯、その名を聞くことなく、ただ見続ける──。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ