「処女神(アテーナー)の住まう場所、渋谷(メッカ)へ」(Pr.Ⅱ)
「神材派遣管理会社 ユル法人会社」は渋谷にあるらしい。それだけは確かであった。
情報と情熱が眠る渋谷……。
人、情熱達が虫集く渋谷になにが待っているのだろう。
ただ、一つ気掛かりであった。
チラシ記載されていた、”神材”を募集するとは?
何か、そういった人材や救い手をメンターという意味合いで”神材”と呼称しているのだろうか?
俺にとってこの散らばった要素について不可解極まりなかった。全ての情報に対して、開示しきれていない……。全てに対して共通された類似はあるが、判定しきれていなかった。
始まりを告げる地で、処女神は何を告げるのだろうか?
地元から電車を乗り継ぎ五十分をかけて渋谷に降り立った、俺は懐中時計を胸のポケットから取り出した……。
時間は九時三十分を指したばかり、十二分に面談時間には間に合いそうだ……。
都会の空気と人波の渦に呑まれ、俺は呼吸もままならない。駅構内を奔流のごとく流れる人々の河、その急流に身を投じた俺は、今まさに──意識の浮輪を失おうとしていた。
人の往来の中でフラフラと歩く人々の姿が死人の様にしか見えない。
俺はその河の流れで押し合い圧し合いされ、
ホームから階段へと導かれ地下のコンコースへと押し出された。
地下コンコースから改札口に至るまで、
筆舌し難い位の人でごった返している。
やっとの思いで改札口に辿り着いた、
都会移動の度にこの情景が繰り広げられるのは御免被る。
俺はICカードを改札口にタッチした瞬間──
「ブブー!」と響く警告音。
次の瞬間、プラスチックのバーが「バタン!」と俺の腰を小突いた。視線を改札口の液晶モニターに移すとデカデカく”金額不足”の文字が派手に踊る。
(最低限しかチャージしていなかった)
俺は出戻り、チャージを済ませると改めICカードを入金すると改札口を後にした。気分を一転して、スマホの地図アプリ「ジーマッパ」で「神材派遣管理会社 ユル法人会社」再検索する。
「ジーマッパ」は中小企業が構築したナビマップアプリだ。こいつは優れもので、新宿の駅構内さえも3Dマップで表示し道案内してくれる。要するに3Dダンジョンマッピングのように高低差や階層マップを表示してくれるのだ。──まるで方眼紙に書いた地図を思い出す。一つ一つのマスが個々の世界なのだ。「神材派遣管理会社 ユル法人会社」は渋谷駅から徒歩三十分にある。
スマホの地図アプリ「ジーマッパ」に指示した場所にはそう記載されており、渋谷駅から「神材派遣管理会社 ユル法人会社」の間での3Dマップが表示され北上にある、ある地点を指示していた。少し渋谷駅構内をから北上しつつ、俺は街並みと空気に浸食され始めていた。
情報と情熱が眠る渋谷、そこはかとなく感じる空気感に俺はどぎまぎしていた……。ここに堆積している、眠る金鉱脈を前にして、ここで始まりを告げる者もいれば、眠る者もいる。確かに渋谷という黄金郷は存在していた。だが、俺にとっての黄金郷は廃れて久しい。
(この気持ちは失って久しい望郷の記憶が呼びだされた影響なのだろうか?)
俺は思考の迷宮から抜け出すと、「神材派遣管理会社 ユル法人会社」に辿り着いた。高層オフィスビルが立ち並ぶ群衆にそれはあった。レトロモダン、悪く言えばレトロフューチャーな外見、上下左右に走る電光盤を淡い紫と淡い黄色の光が走り未来感が醸し出されていた。
チラシとなんら遜色なしの異様な気配─ この回廊の先には─何が息を殺して待っている?
(豹か?、獅子か?、それとも─狼か?)
俺は息を呑み、目を細めながら。俺は足を踏み入れた。




