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オートセーブは深夜0時に+  作者: 夕凪の鐘
Episode119 消えた心の声
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606話 会っていないわけではない

「夏休みなのにマリアちゃんに会えない……」


 美南(みなみ)哀月(アイリ)は喫茶店で愚痴を溢す。聞かされているのは北参道(きたさんどう)天羽(アゲハ)。学校は違い“同期”でもないが“ノーツ”覚醒を機に三年前に知り合った友達だ。


「会ってはいたでしょ」

「遊んでないんだよ……」


 “ノーツ”持ち同士、定期的に交流会が開かれているので長らく会っていないわけではない。ただアイリにとっては麻布(あざぶ)麻李杏(マリア)と一緒に出かけたり話したりすることで満たされるのであり、見かけたり一言二言交わしたりする程度では満足できない。


「アゲハちゃんはどう?」

「私は別に……会う気ないし」


 “ノーツ”のランクが同じ分、アゲハの方がマリアと関わる機会は多い。けれども彼女はそうでもないと返す。そもそも会おうという気がお互いにないので、接点のアドバンテージは関係ない。


「忙しいって話も聞いてない?」

「知らないわ。好きな人でもできたんじゃない?」


 マリアの事情に興味はなく、適当に理由を考えて返す。彼女のルックスなら男の一人や二人迫ってきても不思議ではなく、アイリは真に受けショックを受けた。


「マリアちゃんに……好きな人……」


 アイリは相手は想像がつかないが、背が高く見た目が良い紳士的な男性をイメージし、エスコートされるマリアが頭に浮かぶとフリーズした。


 自分も異性と付き合っているのに何をパニックになっているのか、アゲハは冷めた視線を向ける。



「あーでもこの前、三門君と二人で出かけてたらしいわ」

「嘘!?」


 三門(みかど)玲司(レイジ)は夢や願いを叶わなくさせる悪夢の瞳を失い、マリアと同じBランクに降格した。

 そのレイジより前の前にBランクに昇格したマリアは、先輩として教えるものがあるという建前で彼に一日奢らせた。


 という先月の出来事を、アゲハは一部耳にしていたことを思い出す。


「地味に誕生日近かったわね。あの二人」

「私だって近いよ!」


 先月SNSでレイジ、マリアの誕生日が続いたことを知ったことも思い出す。なおその次の日がアイリの誕生日であり、近さなら彼に負けないと言い返す。


「まあ誕生日は関係ないと思うけど」


 二人の名前を挙げたらふと誕生日の気づきがあっただけであり、出かけた理由とは無関係と捉えていた。だから同じ一日違いのアイリは呼ばれていないのだろう。


「じゃあ最近返信がないのは……」


 アイリは誘いの連絡を送っているが、マリアから反応がない。その背景にはレイジとの約束があるのかと想像したが、実際は違う。

 マリアは京橋(きょうばし)慧練(エレン)の練習に付き合うために彼女の家に住み着き、必要なとき以外は人形モードになっている。必要なときはエレンに操られて機械のように動いている。

 常に意思を持たないでいるので、スマホを見ていないのだ。消音モードゆえに、エレンも通知に気づかない。


 そうとは梅雨知らず、アイリはマリアが誰かに夢中で他人を気にしていないのかと想像し震えている。その誰かがレイジなのではないかと思えてしまった。



「三門君だから!? 私から送っているのを知ってて無視していいって言ってるの!?」


 普通の人はスマホが振動したらまずは見て確認する。しかし心が読めるレイジにはその過程は必要ない。

 だから読むべきメッセージかどうかは見なくても分かる。スマホが鳴っているが気にしなくていいと吹き込まれたら、信用に値する分、言われた通りにしてもおかしくない。


「そうだったら面白いわね」


 レイジがBランクになって真っ先に話題になったのは、かつて付き合っていた一ノ宮(いちのみや)耀(ヒカリ)と同じ階級になったこと。元々二人は“同期”でクラスメイト、星座も同じと共通点が多いのが特徴だが、そこにランクも同じという要素が増えた。


 二人の今後が気になるところだが、そこに第三者であるマリアが絡んでいるとなると、さらに混沌とする。まさかの三角関係に、アゲハは興味を持った。


「探して確かめたい」

「あてはあるの? あの二人、学校がずいぶん離れているわよ」


 行動範囲を絞るのが難しいから、探すのは骨が折れる。加えてレイジには追っていることがバレてしまう分、堂々巡りになりかねない。


 それらを解決できるのが“ノーツ“と呼ばれる特殊能力だが、アイリたちの力では不可能だ。

 だが彼女はアゲハの顔を見て思いついた。


「なら全部見ればいいのよ。高い所から見下ろしてさ」

「遠くて見えないわよ」


 なら島の全部が見える高度から全方位見ればいいという荒業を提案するも、それができる高度から視認することができないのが問題だとアゲハは冷静に指摘する。

 だが諦めてしまってはつまらないので頭を回す。



「一ノ宮に言ってやろ」


 マリアとレイジが音信不通で密会しているというのは、一度二人で出かけていた事実だけを根拠とした捏造だ。けれどもヒカリに言いふらせば、たとえもう恋人ではないとしても黙って見逃さないはずだ。


 ヒカリがアクションを起こせば何かしらボロが出る。そう考えたアゲハは、彼女を動かすために話を盛ってしまおうと考えたのだ。

 そうと決めたら迷わずヒカリに電話をかけて、出てくるのを待つ。


『もしもし』

『ごめんねーいきなり』


 少し時間がかかったが、ヒカリは電話に応じた。普段かけない相手に電話したことに困惑したのだろう。前触れなく呼び出したことに断りを入れ、レイジの件について話し出す。


『三門君、マリアと会ってるっぽいんだぁ』

『レイジならここにいるけど?』


 驚かせるために過程を飛ばして結論を突きつけたが、予想外の返事にアゲハの方が戸惑う。


『あら、そう』

『うん』


 マリアと会っていたら面白いと思っていただけであり、レイジの居場所に見当はついていない。家もまあまあ近いしヒカリと一緒に居ても不思議ではないが、これでは作戦が破綻してしまったので話すことがない。


『イタズラ電話?』

『あいや、そういうつもりじゃ……』


 低い声で疑われ慌てて否定するも、図星だと自覚して言葉に詰まる。


『……そう。イタズラ。でもマリアと連絡つかないのは事実で、前に二人で出かけていたから』

『何それ知らない』


 ヒカリに嫉妬させるためのイタズラだと認めつつ、けれども根拠は少なからずあったと言い訳する。だがそれはヒカリが知らないことであり、彼女の声がまた一段と低くなる。


 アゲハは言ったことを後悔した。おそらく電話の向こう側に居るレイジと修羅場になるだろう。聞かされる前に通話を切って逃げた。



「どうしたの?」

「ちょっと大変なことになったわ……」


 会話はアイリに届いていないので、どんな展開になったかを、まずは良くない方向に走ったことを告げてから順を追って話す。


 その裏でヒカリは嘘をついていた。彼女は自室に居るが、そこにレイジはいない。だから本当は彼がどこで何をしているかも知らない。


 けれども他人が彼のことを知っているのを認めるのは嫌だから、彼はここにいると嘘をついたのだ。結果的にアゲハも嘘をつこうとしていたので、ヒカリの嘘を信じてしまっている。


「三門君もいるそうよ」

「そう……思い過ごしだったかしら」


 その結果アゲハに回った情報は、レイジはヒカリの近くにいるということ。その時点でマリアが彼と接触している線は薄くなったのはアイリの不安を解消する良い知らせだが、そうと考えられなくなるくらい悪い知らせがある。


「でもマリアと出かけたことは知らなくて、怒ってた」

「あらまあ」


 それで逃げるように電話を切ったのか、とアイリは納得した。そして自分は無関係ということにして、もしアゲハが問い詰められても我関せずでいようと企んだ。


「後は三門君に任せようっと」


 幸いヒカリのそばにレイジがいると聞いており、心が読める彼なら事情は全部分かっているので、うまくヒカリを説得してくれるだろう。アゲハはそう信じて、深く考えないことにした。


 なお実際はそこにいないレイジの居所を暴くためにヒカリが奔走している。



「”同期“であんな風になっていたら、周りは居た堪れないわね」


 レイジとヒカリの拗れ具合はだいぶ特殊なケースだとは分かっている。二人の中で完結するのなら自己責任の範疇だが、偶然にも”ノーツ“が同時期に目覚めた影響で二人と関わりを持ったメンバーは巻き込まれているわけで、”同期“恋愛が招く最悪の事態に恐怖を覚える。


 アイリが彼らの二の舞になるとは思いにくいも、実例を見せられ否定ができない自分もいる。


「アゲハちゃんはそういうのじゃないものね」

「馬鹿にしてるわよね、それ」


 アゲハの”同期“の男共は恋愛のレの字もないカラッとした人たちだとアイリの目に映っている。彼女は貶す気などなくむしろ彼らなりの良い所だと肯定的に評価しているが、アゲハは真逆に捉えた。

 アイリの言葉には、その先頭に、私と違って、のフレーズが隠されているように聞こえた。だから聞き捨てならなかったのだ。


「そんなこと無いよ。普通ならアゲハちゃんの取り合いになるもの」

「どうかしら。マリアもそんな感じでしょ」


 ルックスだけで男の気を引いている自覚はあるが、今となってはそのポジションはマリアに取られたものと思う節がある。自分だけを特別だとは思わなくなっていた。


「じゃあマリアちゃんも”同期“の男に……?」


 アイリはマリアの”同期“の男子二人とは小学校から面識がある。その彼らが果たして彼女を巡って争うだろうかが疑問に思え、自分で自分の想像を否定した。


「もしくはあんたにバレたくないことをしているか」


 アゲハは別の視点から考えた。マリアがアイリと連絡をとらない理由には、彼女に対する隠し事をしているからなのではないかと。


「誕プレ!?」

「それはもう終わったでしょ!」


 次回をみすえているにしても、それは十か月後だというのに気が早いものだと呆れた。



「はぁ……私が言いたいのはね、あんたが入っているフリをしているんじゃないのってこと」

「私が入っている、フリ?」


 隠し事は隠し事でも、喜ばせるためのものではないとアゲハは予想した。以前アイリがマリアの体に入って精神を乗っ取り動かしていたが、その過去を利用して、乗っ取られているように演じているのではないか、と。


「何のために?」

「アイリの評判を下げるためじゃない?」


 予想したものの動機があるかは不明。だから行動も予想、その原動力も予想という二重の憶測だ。

 けれどもアイリは真に受け焦っていた。


「私嫌われることしたかなぁ!?」

「私に聞かないで!」

「だってアゲハちゃんが言ったんでしょ!」


 心当たりがないので聞いて確かめる。だが知らないと言われて何も分からない。


 かといってアゲハの説は間違いだと捉えることもできず、気が気でなくなる。しかし確かめる手段がない。マリア本人と連絡がつかないのだから。


 とある計画のために人形になりきっているに過ぎず、アイリを無視する気も陥れる気もさらさらない。だが情報が伏せられているばかりに妄想が止まず、悪い方向に脱線していく。

 ブレーキ役が機能していない今、ハンドルもアクセルも制御が利かず、他人を巻き込んでは問題の規模が拡大していく。その判断が自分の首を絞めている事態を受け止めて、彼はどう動くのか。

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