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オートセーブは深夜0時に+  作者: 夕凪の鐘
Episode117 二つのヒカリ
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600話 友達が敵になる

「友達が怖く見えて、か……」


 港のタワーを目指して歩きながら、九重(ここのえ)晋世(シヨン)一ノ宮(いちのみや)耀(ヒカリ)から先月の誕生日会中断の経緯を聞いた。


 先週末の文化祭で、ヒカリは多くの知り合いから襲撃を受けた。攻撃的な“ノーツ”を持つ人やランクが高い人に囲まれて、逃げてはまた包囲されて、気の休まらない文化祭を送った。


 襲撃の目的はヒカリとかつて付き合っていたクラスメイトの三門(みかど)玲司(レイジ)に彼の“ノーツ”悪夢の瞳を使い切らせることにあり、ヒカリを倒す狙いを阻止するために瞳の力を使わせた。


 結果目的は果たしたが、ヒカリの心は傷ついた。彼女を襲ったのは、“ノーツ”持ちの同学年。知り合いや友達だったからだ。


 襲われる話は前々から聞いていた。当日までは今まで通りの距離感で接していたが、その日だけは自分を襲ってくるという事実に、日に日にヒカリの心は擦り減っていた。


 誕生日会の途中で黙って帰ってしまったのも、同行していた友達が敵になる事実に怯えたから。そう明かしたのだった。


「確かに、アレはホントに酷いやり方だった。それが一番確実で、賛成多数だったとはいえ……」


 当初の未来では、レイジの瞳を狙って彼の故郷から侵攻され、彼を庇って多くの人が犠牲になるというもの。その最悪な運命を変えるには、なんとしてでもレイジの力を奪うしかなく、侵攻者に手を貸すのがベストだった。


 その侵攻者は過去に何度もレイジを始末しようとしており、それが叶わないと知ってターゲットをヒカリに切り替えた。彼女を殺せば一日がやり直され、その記憶が残るレイジは何度やり直しても進まない現実にいつか心を壊す。


 だから連中はヒカリを狙い、シヨンたちも便乗したのだ。レイジへの負担を大きくし、瞳の力を使い切らせ、連中が忌み嫌う力を消滅させて、その戦いを終わらせるために。


「でも、終わってからは皆元に戻ったでしょ? ヒカリが嫌いな人なんていないんだ」

「うん。何度も謝られた」


 ヒカリは知り合いから個別に電話やチャットが届き、文化祭の件では酷いことをしたと謝罪を受けた。その度に気にしないでと返しており、根に持ってはいない。


 一週間経ってシヨンに話している理由は、誕生日会中断の理由で嘘をついたことがバレ、一人で帰ったワケを明かしているからだ。


「私は大丈夫。守ってくれたから」


 傷はできても浅かった。その理由はヒカリも分かっている。孤独な戦いを迫られると思っていた矢先に、光の救世主が現れたためだ。



「……ねえ、カナタ君のことで教えてほしいの」


 タワーに登って、外の景色を眺める。海や工場、そして空が見えるが、ヒカリが今最も気になるのはその救世主のこと。

 隣に立つシヨンに、知っていることを教えてもらおうとする。


「……どうしてボクに? もしかして最初から、その話目当てで誘ったの?」


 シヨンとしては好きな少女に二人での出掛けに誘われたから来たわけで、買い物や観光を純粋に満喫したい気持ちが強かった。


 なのに他の男の、それも良く知る同級生の話を切り出され、少し苛立つ。しかしヒカリはまったく感じ取っておらず、彼に尋ねた理由を答える。


「モノレール降りるとき、なんか知ってそうな感じだったから」


 救世主、溜池(ためいけ)彼方(カナタ)には妙な点があった。それはヒカリのことをルミアという別人の名で呼んでいたこと。


 当時ヒカリは知り合いの女子の手を借りて別人に扮装しており、それで偽名を使い出したともとれる。

 だがヒカリとはまったく無縁な名前であり、カナタ自身も言及していなかった。そこでヒカリは彼のかつての交際相手なのではないかと睨んだ。


 それをシヨンに話したとき、心当たりがあるように聞こえる言葉を口走っていたのをヒカリは覚えている。


 そう聞いてシヨンは、自分が余計な一言を漏らしたせいで今の話題が始まってしまったことに気づき、他の誰のせいでもなく自分自身が事態を招いた話題だと反省する。



「そんなこと言ったっけ?」

「同級生だし知ってそうだから」


 だがシヨンは諦めず、しらを切った。しかしヒカリは聞き流し、言っていようといまいと同級生でBランク同士、何か情報を握ってそうだからと理由に挙げる。


「知らないならいいや。後で他の人に聞くね」


 狙い通り話題を逸らせたものの他の男と会って話を聞くことになるのは嫌だという気持ちも強い。


 心が読めるレイジに聞くのが一番楽で確実なのは承知だが、自分一人で納得いくまで伝えたい気持ちが高まって理屈を度外視する。


「ルミアはね、カナタにとって大事な妹分だったんだ」


 ヒカリからルミアという名は聞いていないが、かつて経験したイベントでその名は知っている。その正体とカナタとの関係性について、語り始めた。



「まずカナタのことだけど、ビームを撃てるでしょ?」

「うん。あれのおかげで助けられた」


 カナタの“ノーツ”は破壊の光線を発射する攻撃的な能力で、戦いにならないヒカリを敵から守った。空中に放つと雷雲を生み出すこともでき、さらに手から放水もできたりと多様な立ち回りで敵を撃退してくれたので、彼の“ノーツ”はよく覚えている。


「強いんだけど、アレを自分の頭に食らうとショートして暴走しちゃう」

「うん、それも知ってる。去年の全体祭で見た」


 反射されたり同質の“ノーツ”を持つ相手から被弾したりして、光線を頭に受けるとショックで制御が利かなくなってしまう問題を抱えている。そうなったカナタは敵も味方も頭痛で苦しめることを、去年の全校一斉体育祭で目撃しているので、シヨンの言っていることは理解できる。


「その“ノーツ”は、ルミアの持つ力だったんだ」


 ルミアの力を継承した。それが今のカナタなのだとシヨンは明かす。そしてここからが、なぜヒカリをルミアと呼んだのかという話になる。


「妹なの?」

「妹のように接してた。実の兄弟ではないんだ。二人とも金髪で、仲も良くてまるで本物みたいだったけど」


 実の妹でないのなら、元カノの線は消えない。ヒカリはさらなる情報を求め聞き出す。


「付き合ってるの?」

「……いずれそうなったかもね。でも……」


 もうそうなるかなんて考えても意味はない。所々過去形で語り匂わせていたシヨンは、ついに真相を明かす。


「もう……居なくなっちゃったから」


 シヨンはゆっくりと空を見上げた。声と表情、顔の動きから、ヒカリは察した。


「え、もしかして……」

「破壊力のある力を悪者に利用されて……可哀想なことに……」


 ヒカリの察しは確信に変わり、言葉で直接確かめようとはしなかった。



「もっともボクが知ったのは居なくなった後で、時の石を使って過去を変えようとしたときの話なんだけど」


 ルミアが消えたのはシヨンが“ノーツ”に目覚めカナタと知り合う前の出来事であり、目撃したわけではない。それから二年後、その歴史を修正するイベントにて彼はその存在と関係を知った。


 時の石という、時空を超えたり物質を吸収し加速して放出したり特定の人だけ時間を戻して回復させたりと様々な使い道がある石を巡った、“ノーツ”持ち九人で乗り越えたイベントで知った。


「それでも過去は変えられなかった。救えなかったことを、カナタもとても後悔してる」


 石の力で過去に戻っても、ルミアは救えず傷が深まるだけだった。


 ここまで聞いて、ヒカリは疑問に思う。そんな過去があったことは知らない。どうしてカナタは、自分のことをルミアと呼んできたのかは見えてこないのだ。


「私それ知らないけど、どうして私をその名で呼んだの?」

「面影があるんだよ」


 ヒカリと縁はなくても、境遇が似ていて他人事に思えない。それがカナタの原動力なのだろうとシヨンは推測する。


「面影?」

「ああ。力を悪用され、壊れてしまったのをね」


 ヒカリには一日を巻き戻す力があり、ループの記憶がレイジに残る。彼に永遠に同じ日が巡る地獄を味わせるために何の非がない彼女が狙われる。

 そんな悲劇的な立ち位置が、ルミアが辿った運命と似ていると言う。


「後は外見。ヒカリあのとき金髪だったでしょ?」

「ああ、それで……」


 文化祭当日になってカナタが動いた理由としては、その日のヒカリの特殊な外見にあったとも語る。

 少しでも敵の手を逃れるために別人の容姿で過ごしていたヒカリはルックスがルミアに近づいていた。



「でもカナタは立ち直っているし、ヒカリは救えたからもう大丈夫なはずだよ」

「あ、うん……」


 ヒカリにルミアの面影を見て心が揺らいだが、事件が解決した今、もう引き摺っていない。だからこの話は忘れていいとシヨンは思う。


 その宣告をヒカリは、カナタとの繋がりはもう絶たれていると受け止めた。


 未練なんか無いはずだ。ヒカリは自分に言い聞かせる。運命の相手は他にいるのだから、彼にどう思われようと関係ない。


 その運命の相手、レイジはもう自分に興味がないと悲観的になっていたが、“ノーツ”を失いBランクに降格して考えが変わった。

 共通点が増えて、やはり運命だと自覚する。彼も同じことを思っているはずだと感じるから、もう他の異性に縋るつもりはない。


「実際あれ以降カナタから何もないでしょ?」

「うん。何も……」


 寝返り計画を妨害してまでしてヒカリを守ったカナタだが、事件が終わってみればそのときの特別な思いが嘘だったように音沙汰ない。

 話は片付いたことの紛れもない証拠だ。


 ヒカリの返事からそれが事実だと理解したシヨンは安堵した。もしカナタがコッソリと言い寄っていたら嫌だと思っていたからだ。


 一方でヒカリとしては、助けられたまま何も返せず終わってしまうことにモヤモヤが残っている。



「……ねえ。私がルミアを演じてみるのはどうかな」


 失った人は返ってこない。けれどもその人を演じて、いっときの夢を見せることはできる。そう思ったヒカリは、それで恩返しをしたいと提案した。


「それはやめなよ」

「どうして?」


 しかしシヨンは賛同しない。ヒカリの思いつきは、カナタの逆鱗に触れるからだ。


「真相を知ったら怒るよ。夢を見せることと騙すことは、紙一重の違いなんだ」


 カナタが再会を願っているのは事実であっても、それを偽りで叶えてしまうのは間違いだと忠告する。


「……そうだね。ありがとう、止めてくれて」


 ヒカリも彼の忠告が現実になったときを想像して、思い留まった。


「君にできることは、平和に生きること。それを一番願っているはずだ」


 礼は要らない。ルミアと同じような目に遭う人を出さないことが、ヒカリにできる最大限の願いだ。


 それを聞いたヒカリは、過去にSNSに投稿して自分の首を苦しめたことを思い出す。自分には一日をやり直す力がある。気に入らない出来事があれば殺しにこいと。


 心が読めるレイジが野心を察知し未然に防いでくれているようだが、文化祭事件が終わった今でも、危険と隣り合わせなのは事実。


 過ぎた過去はどうしようもないから、これ以上火種を撒かないように気をつけると誓った。


「もういいでしょ? カナタの話は」

「うん。もう忘れる」


 レイジがBランクに落ちてくる前は、今度はカナタと付き合いたいと思っていたヒカリだったが、今となってはレイジ一筋。だからカナタのことをこれ以上追求する気はない。


 ヒカリは気持ちを切り替えて窓の外を眺めた。今はシヨンと出かけている時間だ。


「この後行きたい所ある?」

「カラオケ」


 ヒカリは先月の誕生日会で行くはずだった場所を挙げる。シヨンも選んだ理由に気づいていた。


「君が帰らなければ行くはずだった場所かな?」

「もうっ、その話は忘れてよ」


 責めているわけではなく、少しからかっただけ。シヨンは冗談だと微笑み、二人でタワーを後にした。

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