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オートセーブは深夜0時に+  作者: 夕凪の鐘
Episode117 二つのヒカリ
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599話 勘違いだと理解した

 九重(ここのえ)晋世(シヨン)一ノ宮(いちのみや)耀(ヒカリ)の二人は港の観光船チケットを購入し、待合室に行く。


「ここはシーバスで有名な海だって」

「シーバス? バスが海を走るの?」

「ううん。魚の名前」


 四十分の船旅はあっという間に終わってしまうから、シヨンは待つ間に見所を検索する。ヒカリはシーバスを水上バスのことかと思ったが、画像を見せてもらい勘違いだと理解した。


「ここにいるのかな」

「あー、どうだろ」


 待合室には水槽があり魚が泳いでいる。スマホを片手に探してみると、中に人が潜ってきて驚かされた。

 正体はダイバーだ。



「こんな体験コーナーあるんだ……ビックリしたね、ヒカリ」


 初見は事故か事件かと思えたシヨンは周りを見渡すと、張り紙が目につき正式なイベントだったことを理解する。


 平常運転なのだとヒカリにも教えようとしたが、彼女は固まっている。ショックで聞こえていないのではなく、別のことを考えているせいだ。


「レイジ、また海に落ちてこないかな」

「はい? ああ……」


 三門(みかど)玲司(レイジ)は島の生まれではなく、遠い街から来たことはシヨンも聞いている。引っ越しではなく、拐われて逃げて海を漂ってきたのだと。


 そして偶然、ヒカリと同じ高校に通った。


「そしたら今度は私が見つけるのに」


 漂着したレイジを発見したのはヒカリではない同級生の女子。彼が夏に帰省するまでの間、その少女と共に居候生活をしていた。


 ヒカリはたまに妄想する。もしもその少女の代わりに自分がレイジと出会っていたら、と。

 その妄想が、今のダイビングを見て頭に蘇ったのだ。



「今年も帰省するって?」

「うん」


 期待に応えて海に降ってくるかはさておき、レイジは毎年夏に故郷へ行っているが、今年もそのなのかとヒカリに尋ねる。


 その故郷の人たちが今月、彼の高校に侵攻してきたばかりだから、会いにいくつもりと聞いて不安に思う。


「……またあんな事件起こらなければいいけど」

「大丈夫。レイジが悪夢の瞳を失ったのは事実だし」


 レイジが宿していた”ノーツ“は見た人の夢や願いを叶わなくさせてしまう。その力のせいで故郷では何度も命を狙われついには島に乗り込んできたが、エネルギーを使い果たし補充目的で降ってくる赤い光の注入を阻止することに成功し、侵攻を中断させた。


 瞳の力を失ったレイジは読心術を持つだけの普通の人で、もう故郷に被害を与えることはない。だから帰省しても平気だと考える彼を、ヒカリは引き留めない。


「じゃあもう島に落ちてこないね。良かった」

「良くない! 私が運命の人になるの!」


 ならば事件に巻き込まれて危険な方法で島に戻ってくると心配する必要はないと考えるのが正論だが、ヒカリは意地でもレイジが初めて会った人を自分で上書きしたがり、二年前島に来たときを再現してほしいと願う。


「ほら乗るよ」


 ヒカリに理屈を通せないと感じたシヨンは出港の合図をきっかけに彼女の意識を逸らさせる。



 二人は観光船に乗り、日本一広い港を巡る旅に出る。船内中央の船室、座席に並んで座る。ヒカリは窓側の席に着いた。


「揺れるね」

「ああ」


 座席はしっかりしているものの、波に揺られて船ごと揺れる。乗る前から船の揺れる様子は見えていたが、いざ乗ってみると揺れの大きさを実感する。


「真ん中の方が揺れは小さい。辛かったら交換しよう」

「ありがと。でも大丈夫」


 窓側は遠くの景色を眺めて自律神経の乱れを抑えるのに有効だが、物理的な揺れを抑えるのに越したことはない。そこでシヨンは座席の交換を提案したが、ヒカリは断り、外を眺める。


 シヨンは他に対処法を検索した。薬や睡眠など、事前に打つべき策は今さらどうしようもない。ツボを突く技術もない。スマホを見るのは体が揺れても見ている範囲は一定という相反する状況を作って逆効果。


 そんな知識を深めながらシヨンが見つけた記事は沈黙を防ぐという対処法だった。


 ヒカリとは付き合っているわけではない。が、黙っていて揺れを意識すると危ないから会話を絶やさないよう勧められている。その役目を果たせるのは自分だけという事実からシヨンは、責任を果たそうと決める。



「でっかいクレーンが並んでいるね。赤いキリンみたい」

「うん。どれも同じ色」

「なんでだろうね。紛らわしいし、もっとカラフルにしてもいいと思うのに」


 出た所とは離れた港から、何台ものクレーンが見える。船のコンテナの積み下ろしをする設備で、どれもオレンジと白の縞模様。色の区別がつきずらく、船を泊めるのに困らないのかシヨンは気になる。


「でっかいから。飛行機の運転に影響しそうな高い物だから。航空法で、ああいう色合いにするんだって」

「へー、そういうルールが」


 シヨンはヒカリによく知っているなと感心しつつも、その知識は飛行機好きなレイジの影響だと思うと心がモヤモヤした。


「飛行機!?」

「ん? どこ?」


 ガイドの声にヒカリが反応する。シヨンは実物が見えるのかと思い彼女の方に身を乗り出して外を見上げるも、機体は見当たらない。


「あっ、違うの。飛行機って聞こえて」


 船は夜にライトを照らす。右が緑、左が赤の二つの光を点ける。

 その理由は進行方向が分かるからで、前方に見える船の右のライトが緑だったら、同じ方向を向いていると判断できる。逆に左が緑だったら向き合っているので衝突に注意しなくてはならない。車と違って右側通行なので、そう舵を切るわけだ。


 そしてそのライトの仕組みは飛行機と共通であり、そこでヒカリが食いついたというわけだ。

 言わずもがな、これもレイジの影響だ。


「なんだ、てっきり見つけたのかと……まあ、海を見てれば気づかないか」

「海? 見てないよ」


 船に乗っていて空を見上げるとは思えず、飛んでいても気づかないのが普通だろうと捉えるシヨンに対し、ヒカリは空を見ていたと平然と答える。


「相変わらず好きだね、空」


 見下ろせば海が見えるなんて経験は滅多にないのに、どこでも見える空を見ていたというのも、空が好きなヒカリらしい行動だとシヨンは苦笑いを浮かべる。

 日没直後、空模様が赤や青、金色に染まる通称マジックアワーと同時に工場がライトアップする景色でも見られたら空に大きな価値があるが、生憎今は真昼間。

 いつも通りの空なのに真っ先に意識が向く、ブレない平常運転の面白い少女だと改めて実感した。



「ごめんね、寄り掛かっちゃって」

「気にしないで」


 飛行機が見えたわけではないと分かった時点で姿勢を戻していたが、身を寄せてしまったことを遅れて謝る。だがヒカリはシヨンほど気にしておらず、真顔でそう答える。


「移動する?」

「私はここがいい。いいよ、席とっておくから」


  時間はあっという間に過ぎてしまうから甲板に行ってみないか提案したが、ヒカリは首を横に振る。だがシヨンを縛る気はなく、彼の席は残すから自由に見てきていいと伝えた。


「じゃあちょっとだけ。写真とか撮ってくるね」


 そう言ってシヨンはスマホだけを持ち席を立つ。ヒカリは一人になってすかさずヘッドホンとスマホを取り出した。


「ヒカリ!?」


 彼が戻ってきたときに、彼女はヘッドホンを首にかけてぐったりしていた。



「駄目だよスマホ見てちゃ……」


 幸いすぐに回復した。異変を自覚してすぐに目を瞑りじっとしていたおかげで、時間の経過とともに船酔いは治まった。


「写真は」

「降りたら送るから」


 シヨンが戻ってくるとどんな空を撮れたのか見せてもらおうとするが、それでスマホを凝視して症状がぶり返しては本末転倒。クルージングが終わるまで我慢するよう忠告した。


「かもめばかり映っているけど」


 海面を撮ろうにも工場を撮ろうにも、併走してくるかもめが画界に入り込んできた。それも一羽二羽ではない。餌をあげている乗客がいて、強請りにきたのだと予想がつく。


「財布持っていけばよかった」


 その餌は船内で売られており、席に置き去りにしていったことを後悔した。

 ヒカリは買ってくればいいと言ったが、それでまたスマホをいじって体調を崩しそうな危うさがあり、シヨンは帰港までもう席を動かないと決めた。


「なんて言ってた?」

「……誰が?」

「かもめ」


 動物の言葉が分かる人と思われているのかとシヨンは困惑した。そんな”ノーツ“は持っていない。



「あっ、ごめんね。レイジと間違えて……」


 ヒカリはレイジなら心を読んで動物の意思を読み取れることを知っているので聞いてしまったが、ここにいるのはレイジではなく別人だと気づき、ワケを話す。


「……後で聞いてみたら?」


 本当は先月レイジと乗るはずだったと聞いたシヨンは、下船したら彼に電話してみるようヒカリに提案した。この場に居合わせなくても心の声は聞こえているから、本人に直接聞けばいいという意見を出せる。


 レイジと来られなかったことを相当気にしているように思えたそのときシヨンはふと思った。

 先月の誕生日会で行けなかったのは、乗ってヒカリが船酔いするのを防ぐためだったのではないのかと。


 それを隠していたのは、話せばヒカリが責任を感じ、自分は大丈夫だと言って皆についていきかねないからで、だから代わりにレイジ自身が体調不良だと告げて彼女が気負わないように仕向けた。


 それが誕生日会中断の真相なのではないのかとシヨンは考察した。実際は的外れもいいところだが、ヒカリが嘘をついたせいで思いやりのすれ違いかのようなビターな想像を膨らませてしまっている。


「だったら今教えてくれてもいいのに」

「酔っちゃうからだよ」


 ヒカリから尋ねなくても、尋ねようとしていることを知っているレイジの方から答えることもできる。そうしないのは彼女の意識をスマホという小さな画面に向けさせないためだろうとシヨンは推測する。



「違うよ。絶対私のこと忘れてる」


 だがヒカリは別の理由でレイジが連絡を寄越さないと睨んでいる。自分のことなど気にかけていないだけだと。


「私のことほったらかして他の子と遊んでいるんだ」


 それはヒカリがやっていることでは、とシヨンはずっと思っている。レイジに知られていることを逆手に取って彼の気を惹こうとしているが、やっていることは他の異性と二人きりの内緒のお出かけだ。


 仮にレイジがヒカリの想像通りの行為に走っているとして、彼女に責める資格があるとは微塵も思えない。


 連絡が来ない以外に根拠も無く言っているので、思い過ごしならレイジが気の毒だ。


 シヨンもヒカリの狙いを理解してレイジが知れば嫉妬するような言動を意識したものの、何のアクションもなかったことから諦めに意思が傾きつつある。


「もしかしたら、向こうが、三門がヒカリを待っているんじゃないかな」


 だからシヨンはヒカリに提案した。待ちの姿勢を続けるではなく、アクションを起こすように。


「私を?」

「それに、その方が確実に話せるでしょ」


 いつかかってくるか分からなくても、ヒカリから電話をかければ確実に繋がる。けれどもそうしたがらない理由が二つあるとシヨンは推測している。


「それを邪魔するのはヒカリのプライド。そして繋がらなかったときを考えたくない臆病な心だよね」

「そんなことないっ」


 ヒカリは図星を突かれた。だが認めない。自分はレイジと違って待つだけの人間ではないと意地になる。


「いいよ。降りたらすぐ電話する」


 決めた直後ならレイジも都合がつかないかもしれないが、帰港を待てばその間に準備ができる。ヒカリは彼が絶対に電話に出てくれると信じ、停船の瞬間を待った。



 港を出て、静かな建物の陰でヒカリは電話をかける。しかし待っても反応はなかった。


「もしかして何かあったんじゃ……」

「違うよ」


 電話が来ると分かっていて出ず、そのことに対し何の連絡もない。シヨンはレイジの身に何か良くないことが起こっていないか不安視したが、それはないとヒカリは言い切った。


「前もそうだった。私が勝手に帰ろうとしても引き留めなくて、それは私を不安にさせて戻ってこさせるつもりなだけだった」

「そんなことが……」


 ヒカリは根拠に前例があることを挙げたが、言った後にまずいと気づいた。せっかくシヨンには誕生日会中断の理由を嘘で通したのに、今の話が中断の本当の理由と気づかれたらもうごまかせない。


 だがその挙動不審な、手で口を塞ぐ動きが裏目に出た。動きを見たシヨンは、なぜヒカリは口を滑らせたと自覚したかのような素振りを見せたのか。そして誕生日会の彼女の言葉を思い返し、二つは繋がっていると勘づいた。


「……ねえ。もしかしてそれが、お誕生日会打ち止めの原因じゃ」

「ち、違う! ホントにレイジが……」


 ヒカリの話は聞くだけ無駄だ。シヨンは自分のスマホを手に取り、レイジに電話をかける。

 お願いだから出ないでと念じたが、願いは叶わない。


『俺は夏バテしてないぞ』

『オーケー、サンキュー』


 応じてくれたし、一言で通じた。シヨンはヒカリを見つめる。まだ言い逃れをする気かと、じっと見る。


「卑怯者!」

「キミだよそれは」


 出てほしくない電話に出るレイジを憎むヒカリは彼を卑怯と文句を言ったが、元は彼女が撒いた種であり、シヨンはまったく同情しなかった。

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