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オートセーブは深夜0時に+  作者: 夕凪の鐘
Episode117 二つのヒカリ
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598話 何か変だった

 モノレールでの移動中、九重(ここのえ)晋世(シヨン)はクルージングに行く理由を一ノ宮(いちのみや)耀(ヒカリ)に尋ねた。


「先月誕生日会でここに来たって言ったけど、本当はその後に行く予定だったの」

「行けなかったんだ……」


 この街はヒカリの家や高校から程遠い。よく見つけたものだと思っていたが、実は先月彼女が“同期”と行くはずだった場所と聞いて納得した。

 同時に、予定に終わったことを聞いて何があったのか気になった。


 ヒカリは理由まで言わなかった。中止になったのは自分が一人黙って帰ってしまったせいなのだと。


「どうして? 天気が崩れたとか?」


 悪天候や強風の日は船が揺れて危険なため、出港できなくなってしまう。先月の“同期”の集まりは六月唯一の祝日を使った誕生日会であり、日程をずらせなかったから、天候に恵まれずキャンセルしたというのなら、仕方がなかったと思える。

 だが今日は好天。絶好のクルージング日和だ。


「ううん、レイジが体調を崩したのよ」


 実際の所、天気は悪くなかった。だからヒカリは別の言い訳を答える。心が読める三門(みかど)玲司(レイジ)に聞こえていることを利用して、彼に擦りつけた。

 聞かれて正直に答えればヒカリの嘘がバレてしまう。だがレイジは優しいから口裏を合わせてくれる。そう信じての判断だ。


「まあ六月でも暑いしね。でもだらしないなぁ」

「ホントホント。みっともない」


 シヨンはヒカリの言ったことを信じた。梅雨の時期でも暑い日は暑い。彼女も便乗し、さも事実かのように呟く。



「でも凄かったよね、この前の体力測定対決」


 けれどもシヨンはレイジがそうバテる人でもないと感じた。足が遅い印象が強いが運動神経は良く、文化祭で悪夢の瞳を失って“ノーツ”の評価がBランクに下がったが、それに伴い足が速くなって、結果的に完璧なスポーツマンになった。

 それを証明するかのような新体力テストの記録が、島の高校三年生Bランクグループチャットのアルバムに投稿された。それを見たシヨンが、レイジの実力を実感したわけだ。


「特に五十メートル走。あれ確実に十点の記録だったよ」


 実際は一点、最低保証。スタートの合図が鳴っても走り出さなかったせいだ。動画から目測するとレイジは七秒足らずの俊足、ヒカリも女子にしては速い好記録だった。

 結果的に一点同士となったのは、お互いどれか一種目だけ得点を二倍にできるボーナスを設けていたがゆえの駆け引きの果てだ。


「バテたから鍛えたんじゃない?」

「なるほどねぇ……」


 それだけ運動能力が高いレイジが夏バテするのか。そんな疑問には、因果が逆ということにして理屈を通す。体調不良を機に鍛え、その努力が実を結んだのだとヒカリは平然と嘘をつく。


 今ここでレイジがシヨンに連絡をすれば一発でバレてしまうという、綱渡り状態だ。



「三門のスピードには驚いたけど、総合で勝ったヒカリも凄いよ」

「それは、ハンデのおかげだけど」


 一種目だけ得点を二倍にする権利を放棄して挑んできたレイジは、合計点でヒカリに負けた。もし放棄せず高得点を取った種目を選んでいれば、勝敗はひっくり返っていた。


 自分でルールを決めた時点で自分に有利だからとハンデをつけていたレイジだったが、それで勝てたヒカリはイマイチ納得していない。


「でもライバルだって認めさせられたのは良かった。それを目当てに勝負したから」

「同じランクになったからライバルね……」


 ヒカリは自分と同じランクに下がってきたレイジを見て、なおさら運命の相手だと認識した。今までより序列の差が縮まったのなら、対等に渡り合えるかもしれない。

 “同期”、近い誕生日、三年連続クラスメイト。レイジと数多くの共通点を持っていたヒカリは、ランクまでも同じになったことでさらに欲が出た。

 彼のライバルとなる。そして彼にとっていっそう特別な存在になる。そんな目標を掲げ挑み、彼は認めてくれたことには満足している。


 二人がお互いに認め合い、探り合いながら勝負していたことは、アルバムを見ただけのシヨンも読み取れた。


「悔しいな。Bの中ならボクが一番近い存在だったのに」


 シヨンはレイジに嫉妬している。誕生日はヒカリと三日違いなのは同じ。“同期”ではないが“ノーツ”が目覚めた時期は近く、学校は離れていてもこうして出掛けるくらいには距離感が近い。

 三十人いるBランクの中では、最もヒカリと繋がりが深い存在と自覚していたシヨンだったが、レイジが転がり込んできてすべてを奪われてしまった。


 彼に悪気はないとはいえ、特権を侵されたのは事実であり、そうあっさりと受け入れられることではないので、思わず声に出る。


 自分はヒカリの特別になれない。そう実感し心が痛む。


「後は名前が近くなって幼なじみになればコンプリートね」

「いやそれは無理だと思うな……」


 気落ちしていたシヨンだったが、トンチンカンな発言をかますヒカリにツッコミを入れたことで少しリラックスした。



「ところでさ、三門からのプレゼントは何だったの?」


 立ち位置だけがアピールポイントではない。むしろレイジというライバルが現れたからこそ、ヒカリに認められる存在になるモチベーションが上がる。

 気持ちを切り替えたシヨンは、改めてヒカリの願いを叶えるために情報を聞き出す。レイジから貰ったが嬉しくない、けれども返してもらいたい。そう思えるほどの物は一体何なのか、聞いてヒントを得て当てたいと考えた。


「ナイフ」

「ナイフ?」

「護身用だって」


 レイジが贈ったのはサバイバルナイフ。彼は以前、ナイフを常備しており、脅しの武器として活用してきた。


「ほら、文化祭は皆で私を殺そうとしたでしょ?」

「いやあれは……そうだけど」


 その武器を新たに購入しヒカリに持たせた理由。それは彼女が命を狙われていたためだ。


 誰もヒカリに恨みはない。レイジが持つ悪夢の瞳という“ノーツ”で夢を奪われた彼の故郷の人たちが、生還能力の高い彼を精神的に苦しめるべくかつて付き合っていた彼女をターゲットに選んだ。

 瞳の力がある限り、敵の憎悪は収まらない。だから皆でヒカリを狙った。襲いたい願いを叶わなくさせようとするレイジに瞳を使わせ、エネルギーの底が尽きる瞬間を待つために。


「持っておけば、安心だろうって」


 ヒカリは当日が近づくにつれ、知り合いに恐怖を覚えた。登下校したり休日に遊んだり、そんな仲だった人たちが、ある一日だけ敵になる。その日に味方は残らない。


 そのプレッシャーに堪えきれず、ヒカリは誕生日会の最中に帰ってしまった。心が読めるレイジには引き留めてくれることを期待していたものの、彼は何一つ行動に移さなかった。

 家に訪れ渡してきたのが、そのナイフ。お守り代わりと言われても、全く嬉しくなかった。


「そのくせ文化祭準備の日に取り上げて、当日私手ぶらだった」


 その気持ちは筒抜けで、欲しくないなら取り上げると思われたのか、文化祭の前に取り上げられてしまった。それから今に至るまで返してもらっていないから、まったく役に立たなかった。


 結局自力で生き延びるしかなかったのだ。



「まあ、他の人たちが手を貸してくれたけど」


 レイジのナイフは無かったが、ヒカリには味方がいた。一人は本来の体を匿い精神をその人の肉体に入れて別人のように振る舞わせてくれた麻布(あざぶ)麻李杏(マリア)。もう一人は襲撃してきた敵を返り討ちにしてくれた溜池(ためいけ)彼方(カナタ)


「ありがとう、だって」

「?」


 ヒカリの声を心の声として盗み聞きしたレイジは、正面でスイーツを味わうマリアに話しかけた。

 何のことかと彼女は首を傾げる。


「ほら、文化祭でヒカリを助けてくれた件」

「ああ……」


 ヒカリから感謝されていると分かり、マリアは理解した。助けたといっても、守れたわけではない。

 そもそも自分の体を使わせていることは知り合いにバラしており、ヒカリの味方をするフリをして敵の一角として動いていたわけで、本気で助ける気ではなかった。


 ヒカリが襲撃されたのも、マリアが情報を漏らしたせいだ。だから感謝されても、受け止める気にはなれない。


「真実は言ってないの? 私は裏切り者だって」

「過ぎた話だし、知らないままでいい」


 真実を知っているレイジはヒカリに話していない。理由はいつもと同じ、知らない方が幸せだからだ。明かしたところで彼女とマリアとの間に亀裂が入る恐れがあるだけ。黙っていれば今の関係でいられるから、隠しておこうと決めていると答える。


「それに言いたいなら言えばいい」

「考えておくわ」


 かといってレイジは自分の考えを人に強要するつもりはなく、マリアが話したいと言えば止めはしない。夏休みの今なら、会って話すチャンスだ。



「それはカナタと麻布のことだよね」

「うん」


 シヨンはヒカリの話を聞いて、マリアとカナタの二人が思い浮かんだ。あの二人は明確にヒカリに手を貸していた。自分と違って。だからよく覚えている。


 そしてマリアがヒカリを裏切ったことも知っている。ヒカリの口ぶりからして、その事実はまだ知らないのだと感じられた。


「でも何か変だったんだ」

「変?」


 シヨンはギクリとした。マリアの真意に気づいたのかと思ったが、実際は違った。


「カナタ君、私のこと違う名前で呼んでた」

「違う名前?」


 その件はシヨンは知らなかった。カナタとは同級生だがそんな話はしていなかったし、何よりヒカリを守る気だったことさえ当日を迎えるまで知らなかった。


「私を元カノと重ねたんじゃない? 知らないけど」


 呼び名はルミア。ヒカリに聞き覚えはないが、女らしい名前だからそう予想した。


 確証はないので発言の責任は負いたくない。または逆に確証はあるが自信家と思われたくない、そんなシチュエーションに最適な言葉を添えて。


「それって」


 心当たりがあるシヨンはその名前を言おうとした瞬間、モノレールの扉が開く。港に行くにはここで降りなくてはならず、会話を中断した。


「あれっ、もう着いたんだ」


 一駅の間隔が広い地域で暮らすヒカリは想像より早い到着に戸惑い、急いで降りる。



 改札を出て、徒歩で港に向かう。暑さで会話を再開する気にはなれない。


「それは?」

「プレゼントで貰ったの。マリアたちから」


 ヒカリはポータブル扇風機を起動し涼む。リボンが付いており特別感があるデザインにどこで手に入れたのかと聞いたシヨンには、先月の誕生日プレゼントだと答えた。


 扇風機、リボン、人形のセットでマリアとその友達二人から貰った。なおマリアから貰ったのは自室で持たずに涼めるよう持ち手を支える人形であり、今日は持ってきていない。


 そのときヒカリは自分だけ楽になろうとしていたことに気づく。


「もっと寄って」


 二人が風を受けられるように、距離を詰めて出力も上げる。


「……さすがにそれは三門に悪いよ」

「平気だよ。バレているし、実質合意の上」


 シヨンは少し右に離れたが、ヒカリは再び近寄る。

 心が読めるレイジにはバレているけど何も言われていない、実質合意から浮気じゃない。不満があるなら言えばいいと、ヒカリは強気に構えている。


「まあ、第一もう付き合ってないから気にしなくていいのかもだけど……」


 事実を突きつけられ、ヒカリは気分が落ちた。

 レイジとてヒカリが誰と何をしようと関係ないと思っているかもしれない。二人はとうに別れているからだ。


 シヨンと出掛けているのだって、レイジの気を引きたいからであり、それは彼に伝わっているはずだ。本当に復縁するつもりはないのか、ヒカリは不安になる。


「……でも運命でつながっているから」


 今は心が離れているように思えても、いずれ重なる瞬間が訪れる。同じランクになったときのように、関係が唐突に接近する可能性はゼロではない。


「じゃあ幼なじみになっちゃダメだ!」

「そうだね。着いたよ」


 分かれて成長しまた一つになるのが運命の相手。幼い頃に数度会っただけならともなく、長い付き合いがあっては成り立たない。だからヒカリは幼なじみ宣言を撤回したが、なろうと思ってなれるものではないと現実的に捉えるシヨンは、彼女の言っていることが理解できず、とりあえず相槌を打った。

 同時に彼女のことをあまり分かっていないのだと自覚し、レイジとの差を思い知った。


 そして港が見えてきた。

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