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オートセーブは深夜0時に+  作者: 夕凪の鐘
Episode117 二つのヒカリ
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597話 先にすれば良かった

 お互いプレゼントを購入し、自由に店を回ってまもなく集合時間を迎える。


『そろそろ時間だけど、前はどこで渡したの?』


 どこで渡し合うか、九重(ここのえ)晋世(シヨン)一ノ宮(いちのみや)耀(ヒカリ)にチャットを送る。ヒカリは先月この百貨店に来たときはどうしていたかを聞いた。


 ヒカリは返答に迷った。先月は店の近辺ではなく家に帰って渡し合った。だが今回はこの後も出かける予定で、渡す場所を再現すると大幅に時間をロスしてしまう。


『来たときの入口だった』

『ならそこで』


 しかしヒカリはわざわざ正直に答えなくていいと思った。場所なんてどこでも変わらないし、次の目的地への経由地を選べば嘘と疑われることもない。


 何より言葉ではなく文字で伝えて嘘がバレることはない。相手に心を読む力はないのだからと割り切った。


 案の定、シヨンは真に受けて軽快にスタンプまで送ってリアクションをとる。

 チョロいものだと花で笑うヒカリだったが、逆の立場だったときのことを思い出す。その相手はシヨンでなく三門(みかど)玲司(レイジ)であり、シヨンは悪くない。

 都合の良いように嘘を伝え事実を騙していたレイジと今の自分は似た者同士だと自覚して、自己嫌悪に陥った。



「お待たせ」

「こっちも今来たところ」


 足取りが重くなっていたヒカリより、シヨンは先に着いていた。だが二人とも時間は守っているので問題ない。


「じゃあ始めようか」


 シヨンは鞄から袋を取り出した。袋から包装したプレゼントを掴み、ヒカリに差し出す。


「ハッピーバースデー」


 先月も贈ったことは言及せず、普段通りに渡した。ヒカリは受け取り、中身を見る。


「オルゴールだ。綺麗……」


 プレゼントの中身は、赤いガラスのオルゴール。ヒカリは想定外のギフトに喜び、一方で戸惑う。

 欲しいなんて思ったことはなかったし、まだ早いと思っていたから探したこともない。けれどもいざ目前にして、これをくれると言われたら喜びでいっぱいになる。


 欲しい物は考えているが、期待を超えてきてほしい。そんな願いが叶った瞬間だった。



「ねえ、どうしてこれを……」

「小さくて軽くて、勉強の邪魔にならないけど普段から見てほしいな。そんな望みを叶えようとしたら、これを見つけたんだよ」


 今日遊ぶ予定は数日前から約束していたが、プレゼントを交換するというのは今日聞いたこと。

 交換の後も島のあちこちを回ること、自分たちは大学受験を半年後に控える受験生であること、そして何より一時のプレゼントで終わらせたくないもの。それらの条件を意識してフロアを巡った結果、目についたオルゴールが相応しいと考えた。それがシヨンが選んだ背景だ。


「黒や青のオブジェはヒカリの部屋にたくさんあるけど、赤ってなかったなと思ったし」

「うん……」

「一番は誕生石を理由にその色を選んだんだけど」


 カラーは何種類も存在したから、部屋模様に浮かない色に絞ろうと思ったシヨン。そして決定付けた要素は誕生石と明かす。


「ルビーは七月の誕生石。六月生まれの君たちは、普通なら無縁な宝石だ」


 ヒカリは六月生まれで誕生石はパール。しかし今日は一ヶ月経って再び贈るということで、あえて七月のを選んだ。


「だからこれにした。こんな時期に渡したのはボクだけだし、見たら今日のことを思い出してもらいたい」


 月日が流れても忘れないでいてほしい。そんな思いからシヨンは選んだ。時期外れの誕生日プレゼントだと分かるようにすることで、そんな出来事があったことを思い出してもらえるように。


「シヨン……本当に真剣に選んでくれたのね」


 ヒカリは思わず涙ぐんだ。物そのものも嬉しいのに、チョイスの背景に込められた深い思いが心に刺さる。

 レイジに期待していたのは、こういうことだったのだと改めて感じた。


「先に言ってよ……私もそれあげたかったよ」

「そ、そうか……それは考えてなかった」


 ヒカリは自分で決めたプレゼントよりシヨンがくれた物の方が良いと感じた。買う前に教えてくれていたら変えていたのにと残念がるが、各自決めて贈ると決めたのは彼女の方だ。


「じゃあ先にすれば良かったね。一緒に回るのは」


 けれどもシヨンは謝る。各自プレゼントを選ぶ時間と二人で巡る時間。後回しにして売り切れては困るから、と前者を先と決めたのは彼の方だ。


 逆にしていたらヒカリもオルゴールを見つけ、結果的に二人で同じ物を贈り合って考えることは一緒だと知り気持ち良く終われていたかもしれなかった。



「まあ過ぎたことを言っても仕方ないね」

「……やり直したい」


 ヒカリには一日をやり直す力がある。一度起こった事象を繰り返す“ノーツ”を使えば、それが可能だ。

 けれども二つデメリットがあり、彼女の死がトリガー、やり直しても記憶は引き継がれないことの二つだ。


「後悔するよ」


 シヨンは忠告した。確かにヒカリの言う通りにすれば、プレゼントを選び直せる。けれどもそんな些細なことでリセットするのは駄目だと考え否定する。


 ヒカリが死ぬと言っても、その記憶はリセット後には消えており、傷も残らない。


「何のリスクも無しに過去を変えられるなら、ずっと未来の人が歴史を変えて、事件や災害はなくなるはずでしょ?」


 もしも未来や過去に干渉できる力が存在したら、歴史の教科書に残っている嫌な出来事は消えているはず。

 今はそんな力がなくても、遠い未来にいつかできてもおかしくないわけで、今も事件や自然災害で被害が止まらないのは、その力を使っていないからと考えられる。


 その理由をレイジは以前こう語っていた。過去を変えると本来より悲惨な運命を迎えると。

 それをヒカリは聞いており、また人に話してシヨンも知っている。


「身をもって知った三門から、よく聞かされていたよね?」

「今レイジの話はしないで!」


 ヒカリは取り乱した。集合場所のことでシヨンに嘘をついた自分をレイジと重ね合わせ苦しい気持ちになったことを思い出す。

 そしてそもそも彼がまともなプレゼントをくれていたら、今日ここに来ることも、選び直したいと後悔することもなかったのだと思い至る。


「もう全部レイジのせいだ……」


 ちょっと過去を変えるだけなのにレイジの言葉に縛られていることも、今日のお出かけは彼の影響で始まったことも、元凶は彼にあるとヒカリは思い込む。


 呪縛に苦しむ彼女を見て、シヨンは解放しなくてはならないと決意した。何も難しいことではない。選び直さなくていい、自分で選んでよかったと気づいてもらえるだけでいいと気づいたから。



「ヒカリのプレゼントも見せてよ」

「あっ……うん」


 ヒカリは意識が現実に戻り、プレゼントを差し出した。シヨンは開封し、中身を理解した。


「カフェの回数券か。ありがとうっ」

「でも全然、時期とか関係なくて……」

「そんなの気にしないよ」


 シヨンは喜んで受け取った。ヒカリが思っているほど後込みする物ではないし、それに券を使うことだけが使い道ではない。


「六枚あるから、二人で三回分使えるね」


 一人で全部使い切る気はない。券が残っていることは出掛けの口実になる。その出掛けは別の用事の誘いと兼用できる。

 この一枚をきっかけに、様々な場所へ一緒に行けるのだ。


 そしてヒカリ自身も、そう期待して選んでいる。


「……好きに使って。友達とか、好きな子とか」


 だがヒカリは自分を誘ってとは言わなかった。自分の気持ちをシヨンのと比べて、釣り合わないと実感している。

 彼には自分よりもっと相応しい人がいる。自分のことは気にせず、自由に使ってほしいと伝えたのだった。


「そうだね。せっかくの夏休みだし、遠くの知り合いを誘おうかな」


 しシヨンはヒカリを見てそう告げた。同級生とは学校があるうちでも行けるから、時間がある長期休暇に行くメリットは薄い。

 そして今は夏休みが始まったばかり。家や学校が遠く、なかなか会いにくい人と出掛ける際に使いたいと告げた。ヒカリが自分を卑下しているから、パートナーに適した要素があることを伝えてみる。


「ヒカリ。紹介してよ、これで誘うに相応しい女の子」


 すかさずヒカリに問いかける。自分以外の誰かのためにプレゼントを使われて、それは本当に望んでいることなのかを聞き出すために。


 そして無言は返事だと受け止めた。



「ヒカリからしたら納得いかないかもしれないけど、ボクは本当に嬉しいんだよ?」

「違うの! 気持ちが!」


 プレゼントのセンス、というより判断材料の視野が二人に差があったのは、そもそも気持ちの問題だった。ヒカリは隠そうとしていた秘密を、罪悪感に負けて明かした。


「私はシヨンからのプレゼントなんてどうでも良かった。レイジが返してくれるまで、他に何人でもこんなこと頼む気でいた……」


 プレゼント交換を目当てに集まったのではない。シヨンから貰おうとしたのは、レイジに取られた彼からのプレゼントの奪還を諦めたからではない。


 すべてはレイジを釣り出すための策略。シヨンを特別視していたわけではない。そう明かした。


「……つまり、たまたまボクが最初だっただけなんだね」


 ヒカリは黙って頷くと、シヨンは会ったときの彼女の言葉を思い返した。本来の誕生日を一月過ぎての交換会。それは自分と彼女だけのイベントだと聞いていたが、あくまで今日時点ではという意味で、もしレイジが渡さなければ次の人に同じ話を持ちかけにいく気だったと理解した。


「じゃあボクで終わりにしよう」


 ならばやることは単純。レイジが焦るくらいヒカリを満足させてあげればいい。

 裏で悪どい計画を立てていたヒカリは責められたり幻滅されたりする覚悟をしていたが、そんな雰囲気が微塵も感じられないことに戸惑いを隠せない。



「それって……」

「簡単な話。予定通りデートしよう。ヒカリの心が揺らいだら、三門も黙っていられないはず」


 釣り出せるまで何人でも試す、ではなく、釣り出せるまで自分一人でヒカリを満足させる。彼女の心を奪う勢いで迫れば、レイジも黙っていられない。


 ヒカリは困惑するが、シヨンがあまりにも堂々と言うので細かいことは気にせず彼に委ねることにした。


「まあ、他の人が良いなら止めはしないけどね。時間は限られているし」


 今日中に成果が出ないことも想定している。シヨンは意地でも達成しようとは考えておらず、今日の予定を延長する気はない。


 そしてヒカリは考え直し、他の男子を利用した方が良いと行き着いたら、そこに関与、妨害する気はないと告げる。


 要するに、ヒカリには深く考えなくていいことを伝えたいのだ。


「だから行こう。次の場所へ」

「あっ、ちょっと……」


 悩む必要はないのだと、シヨンは行動で示す。プレゼントをしまいヒカリの手を引いて改札へ向かったが、ICカードの準備ができていないからと彼女はストップをかけた。


 準備ができると二人で駅構内に入り、クルージングをする港までモノレールの旅に出た。


「この後、一緒に回る約束じゃ……」

「そうだった。ごめん……」


 出発して百貨店を見下ろすと、当初はプレゼント交換後に一緒に店を巡る予定だったことをヒカリが思い出す。勢いに任せたシヨンも言われて気づいたが、乗ってしまってはもう遅い。


「どこか見たい所あった?」

「気になる喫茶店が」


 ヒカリは回数券を買った店とは別のカフェが気になっていると答える。実は店内にはレイジが居たが、気づいていない。

 気になった理由は店内が騒ついていたからであり、騒ぎの元は彼の付き添いの少女だということも知らない。


「じゃあ帰りに寄ろう」


 それでヒカリは納得し、レイジの存在はバレずに済んだ。

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