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オートセーブは深夜0時に+  作者: 夕凪の鐘
Episode115 悪 夢
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590話 平気になった

「体はどうだ? いや、まだか……」


一ノ宮(いちのみや)耀(ヒカリ)を発見した溜池(ためいけ)彼方(カナタ)は、彼女に様子を聞く。

 闇の力で意思を制御できずにいたヒカリに、聞いて返事で確かめようとしたが、見た目でもう分かった。眩しかった金髪が、真っ黒に染まったままだからだ。


 カナタは自力で闇を払った。だが一人でできたわけではない。声がした。声が助けてくれた。


「目を覚ませルミア! 本当の自分を思い出せ!」


 ルミアという名はヒカリとは関係ない。彼女が身を守るために同級生の体を借りて、見た目は別人、中身は本人、その状態の金髪のヒカリをカナタはその名で呼んでいる。


 他人にバレないための別名。だがそれで呼んでもヒカリは自分と認識しない。


「月島、始めてくれ」


 三門(みかど)玲司(レイジ)は屋上から戻る途中、月島(つきしま)希望(ノゾミ)に頼み事をした。“ノーツ”を使って校内の闇を掻き消してほしいと。


「了解」


 頼まれることはノゾミにとっても想定内。心が読めて広域の状況把握に長けるレイジから合図が出るのを待っていた。目的は闇の意思を植えつけられたヒカリと、彼女に触れた人の浄化だ。


 ノゾミは発動し、辺りは明るくなった。夜を明けさせる力、昼間に使ってもパッと見で分からないが、各地で効き目は出ている。


 闇の意思を持って暴れていたボールが止まり、窓ガラスが割られなくなった。


 その影響はヒカリにも出ていた。


「髪の色が、戻っていく……月島のおかげか」


 カナタにもはっきり見てとれた。ヒカリが元の他人の姿に戻っている。計画通りノゾミが動いたのだと理解した彼は安堵した。



「ここは……っ」


 ヒカリは我に帰ったが、体が痺れて動かない。闇は晴れても、雷撃を浴びたダメージは残っている。立つ力も残っていない。


「回復できる人を呼ぶ」


 カナタは知り合いに電話をかけた。治癒力に長けた“ノーツ”を持つ人に、居場所を伝えて処置してもらうために。


「駄目か、皆他の手当てで」


 しかしすぐに来られる人は居なかった。他の場所で負傷した人のケアに向かっている最中だった。何人かは彼らが歯向かって攻撃を食らわせたので、急かす資格はない。


 けれども、悪い予感がカナタの頭を過った。手遅れになってしまう予感が。


「乗って、連れていくから」

「……嫌だ」


 だからカナタは待たずに動くと決めた。背負うために屈むが、ヒカリは動かず拒否した。


「私はレイジに必要とされていない……だから、ここに居させて」


 そうは言われてもカナタにはさっぱり事情が分からない。彼も少し前まで闇に浸食されており、ヒカリがレイジとどんなやりとりをしたのかを知らない。


 グループチャットの通知では、レイジの悪夢の瞳の力を消失させる計画は成功し、侵攻者は去って一件落着と聞いている。


 後は勝負の傷を癒せば誰も犠牲にならないハッピーエンドのはずだ。



「何を言って……君を助けないと、三門だって悲しむ」

「それでいいよ」


 何をもってそう評価しているかは分からなくても、このまま傷を残すことをレイジが望んでいるはずはないとカナタは訴えかける。


 だがヒカリはむしろそうすることで、レイジにとって特別になれると考えついた。


「元気になれば、私はただの他人。でもここで消えたら、思い出の人にな」


 言い切る前にカナタの拳がヒカリの頬を殴った。


「ふざけたことを」


 カナタにとっては一番許せない考え方で、二度と実現してほしくないと願っている。

 

「死んで記憶に残ろうなんて、絶対に言うな! どれだけ深い傷が残るか知らないで……」


 ヒカリの言う通り、残された側には強く記憶に刻まれる。夢に出て魘される、一生ものの後悔として。


「行くぞ」


 カナタはヒカリを抱え上げ、強引にでも連れ出した。そして救護班に依頼し、傷を治してもらったのだった。



 それからは、普通の文化祭に変わった。誰かの命が狙われることのない、平和な学校行事になった。


 レイジもヒカリもクラスの出し物、お化け屋敷のシフトに入り、客を驚かせる。何日も準備して大量に備品を用意した甲斐あって、壁破壊や衣装破きなどインパクトある演出を毎回披露できる。

 派手なお化け屋敷として評判が広まり、客足が途絶えなかった。


「一緒に回りませんか?」


 元の姿に戻ったヒカリのシフトが終わるタイミングで同級生が誘いにきた。同時にレイジの仕事も終わりフリーになるので、彼女は返事を躊躇いつつ彼が教室から出てくるかチェックする。


「うん、行こうか」


 レイジのことを気にしていると勘づかれると気を使わせてしまう。ヒカリは一瞬見て彼の姿が見えなかったことを確認した時点で諦め、他クラスの出し物巡りを開始した。


 わざと着替えに時間をかけて出てきたレイジは、一人で行動を開始した。そして待っている仲間の元へ向かう。


 かつてともに過去へ行き、今日迎えるはずだった全滅の未来を回避しようとした四人の同学年。彼らはレイジが来たことに気づくと黙って微笑み、自然と出発する。



「高い所、平気になったんだな」

「どうだか。一時的なものかも」


 屋上でのレイジの行動を見ていた彼らは、恐怖症を克服したのか期待し尋ねる。過去へ行ったときに恐怖症の原因、彼の兄が事故死する瞬間を見たので、彼がフェンスの上に立ったときはフラッシュバックしていないか気が気でなかった。


「落ちたときは焦ったよ」

「飛んで間に合う距離じゃなかったもの」


 そしてレイジはフェンスから落ちた。幸いすぐに気づいた人が彼をワープさせて事なきを得たが、見ている側としては心臓が止まりそうだった。

 “ノーツ”で飛行能力を持っていても、ヘルプは間に合わなかっただろうから、助かったことにホッとしている。


「やっぱり怖くて倒れたのか?」

「いや……ダメージが溜まってて」


 死ぬためにわざと落ちたと正直に答えたら詰め寄られる。そう察したレイジは本心を隠し、疲労でバランスを崩したと話す。当時の彼は悪夢の力を浄化されフラフラな状態だった。不意に蹌踉めくのは仕方がないと周りは信じた。



「レイジはこれからどうするんだ?」


 美術部の出し物、自力で造形と塗装をした飛行機を見に行った五人はここで解散し、各々他の知り合いと合流する。後から来たレイジからは、次の予定を聞けていない。

 彼ともう一人はこの高校の生徒で出し物係である以上、時間に縛られた活動を要求される。


「俺はSランクの皆に挨拶をしてくる。瞳を失った今、ランクが下がっているはず。測定はまだだけど」


 レイジは“ノーツ”の評価が同じ階級の同学年に手当たり次第声をかけにいくと話した。理由は今日で繋がりが途切れるから。

 それを聞いたSランクの上原(うえはら)千聖(セイン)は、寂しそうな表情を浮かべた。


「元々二位だし、残留もあり得るだろ?」

「そんな甘い世界じゃない」


 降格が決まったわけではないとフォローを入れるトキタだが、レイジはすぐ否定した。踏み留まれるなど、期待するだけ無駄だと。



「……そうか。なら俺たちの誰かと同じランクになるのかもな」

「そういえば皆バラバラだよね」


 レイジとセイン以外の三人は、AからCの三階級にバラけている。もちろんそれら未満まで落ちる可能性はあるが、週明けの測定結果が出たときのお楽しみだ。


「そうなったときはよろしくな」

「ああ。じゃあまたな」


 極力ポジティブに見送れるように話題を流し、解散した。



 そして夕方五時、文化祭は終わりを迎えた。片付けや掃除、精算は週明けに行うので、来客と同じ時間帯で在校生は帰宅する。


 だがここから始まるイベントもある。事前に予告されていたサプライズのことだ。


「久地くんっ」


 津田山(つだやま)(ヒビキ)は来客、“同期”の久地(くじ)羽撃(ハバタ)を呼び止める。数日前、彼から電話で聞いていた、サプライズの話を聞くために。学校で話せる時間は、あと少しだけだから。


「出てからで、いいか?」

「えっ……」


 期待されている自覚はある。そうなるように仕向けた言い回しで伝えたのだから。

 だが覚悟を決める準備が足りていないハバタはもう少し待ってもらおうとした。


 それを聞いてヒビキは固まった。人が減った静かな校舎内で、二人きりの空間で告げられる、そんなシチュエーションを想像していたから、その夢が潰えることにショックを受けた。


「……今話すよ」


 残念がるヒビキを見て、逃げ腰になった自分に喝を入れたハバタは、決心して今告げることにした。



「前に心配してただろ? 未来の全部が見えていないって」

「そう……だから、これで本当に終わりなのか分からなくて」


 過去や未来の自分の分身を出して確かめるから、生きている範囲でしか分からないがその範囲内ならすべて分かると思っていた。けれども直後に起こった身近な事故さえ、未来の自分は知っていなかった。


 だから本当に正しい未来が見えているか不安になったとハバタに打ち明けていて、彼は用意してきた。


「大丈夫。未来はそう変わらない」


 ヒビキが悩んだきっかけを作ったのは、彼女がハバタとファミレスへ向かっていたときのこと。一時間後の自分がいたのに、数分後に起こった事故を防げなかった。


「なぜなら、俺だけが未来を変えるんだから」

「えっ……」


 ハバタは伝えた。ヒビキにとって予知できない未来を引き出すイレギュラーは自分ただ一人だと。


「だってそうだろ? あの日の事故は俺がいたから起きたものだし」

「違う、久地くんのせいじゃない! 私が、自分に嫉妬したから……」


 暗く狭い道、ハバタがついてきているか未来の自分の分身を後ろにつかせて歩いていると、やけに親しげに彼に絡んできて、モヤモヤしたから引き離そうとした。すると分身が車に撥ねられてしまい、結局本人は無事だから事なきを得た。

 その一連の流れにおいて、悪いのはハバタではなく、自分にさえ対抗した心の狭い自分だとヒビキは告げる。


「でもそれは相手が俺だからだろう?」

「そ、そうよ……だって私は」

「ストップ。俺が話す」


 絡まれている相手がハバタでなかったら、対抗心を向けなかった。それは彼のことが好きだからだと告げようとしたとき、彼にストップをかけられた。


「見えた未来に自信を持て。俺は未来を好き勝手に変えてしまえるけど、それは津田山を困らせるためじゃない」


 未来を不確定にする存在があっても、見えたものは信じていい。その例外は、彼女を苦しめようなんて微塵も思っていないのだと。


「想像を超えて喜ばせてあげたいんだ。俺は津田山が好きだ!」


 未来を変えるイレギュラーは、期待のハードルを超えるために存在するのだと、ハバタは叫びアピールした。


「……返事、どうかな?」

「あ、うん。えっと……」


 決意の告白で静寂に包まれる教室。脈はあるはずだと自分に言い聞かせるハバタは返事を催促した。

 ヒビキとしても、期待していたし返事も考えていたが、いざ実現すると頭がパニックになってしまう。


 それこそが返事なんだと理解し、口を開いた。


「返事を用意していたのに、出てこない。やっぱり久地くんは、想定外を生むんだね」


 その顔は困っているのではなく、笑っていた。そして自ずと緊張が解れた。


「私も好きです。だから、これからよろしくね、ハバタくんっ」


 ヒビキは用意していた綺麗な言葉は頭から吹き飛んでしまったが、思いを伝えにハバタの手を取った。


「帰ろうか、津田山」

「私のことも名前で呼んで」

「そんな未来はまだ先だ」


 晴れて結ばれた裏で、ヒカリはカナタに呼ばれ校舎裏に来ていた。



「また告白?」


 カナタの同級生たちから交代で告白されていたヒカリは、いよいよウンザリしていた。一斉告白の話はヒビキから聞いていたので、便乗した連中が自分の本命がレイジだと分かっているのを盾に告白してきただけだと分かっていた。


「確かにそうだ。ハバタが誰かに告白するっていうから俺たちも誰かにって」

「それで皆、私にしたんだ」


 カナタも他の意図があって言い寄ったことを認める。けれどもヒカリを選んだ理由はそれだけではない。


「だから私を守ったり、語ってきたの?」

「いや、あれは本心だ」


 告白する下心があって言い寄り、アピールしてきたのかとヒカリは問いかける。けれどもカナタは否定した。本気で守ろうとしたと答えた。


「……ありがとね。今回のお礼は」

「要らない。ル……一ノ宮が無事なら、それでいいから」


 カナタの言葉をヒカリは素直に受け止めてお礼を言った。彼も彼女に見返りは求めていない。妹分と同じ運命を辿ることなく無事に終わったことに満足している。



「それと告白は、三門を焚き付けるための手段だ」

「レイジはもう、私に興味ないわ」


 カナタは皆も遊び心をもって言い寄ったわけではないと明かす。他の男に迫られヒカリの心が揺れたら、それを恐れたレイジはもう一度ヒカリと向き合おうとする。そう目論んでの計画だと明かすが、彼女はあれからレイジとは話していない。


「それは残念だったな。でも君は君だ」


 レイジの記憶に一生刻まれようとして命を投げ出す真似をしないよう、カナタは改めて忠告する。ヒカリの体は、彼一人のためにあるものではないのだと。


 結局告白せずに去っていくカナタの背中を眺めるヒカリは、教室で彼に言われた言葉を思い出した。

 そのとき彼女に新しい感情が沸いた。死ぬべきか迷っていたところに眩し過ぎる光で照らしてきた彼の言葉に、漆黒に閉ざされていた扉が開かされた感じがした。

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