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オートセーブは深夜0時に+  作者: 夕凪の鐘
Episode115 悪 夢
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588話 相手から貰ったもの

 闇の意思に蝕まれ、暴走した一ノ宮(いちのみや)耀(ヒカリ)。自重ができなくなり攻撃的な本能に目覚めた今、その間の記憶は残りにくい。麻酔を打ったうちに手術する要領で、皆はヒカリの命を狙う。

 そんな彼女を守るべく安全な場所へ手を引いた溜池(ためいけ)彼方(カナタ)は、手に触れた拍子に闇が伝染してしまった。


 このまま闇が露になれば攻撃に巻き込んでしまう。カナタはヒカリの元を離れ、闇が収まったら彼女を再び守ると約束した。


 そして一人になり自由になったヒカリは、三門(みかど)玲司(レイジ)から貰った誕生日プレゼントを奪還しに、相手を探し始めた。


「来た」

「闇、うつされないように」


 ヒカリの行く手を阻む、同学年の“ノーツ”持ち。今日は彼女の高校の文化祭一般公開日で、他校から百人以上“ノーツ”持ちが集まった。

 だから彼女はどこへ行こうと誰かしらに遭遇してしまう。


 鉢合わせた面子は、水天宮(すいてんぐう)(ワタル)戸塚(とつか)智絵(トモエ)久里浜(くりはま)|華燐華燐(カリン)そして三郷(みさと)楽阿(ラクア)


 ワタルが忠告したように、今のヒカリに触れられたら闇が伝染してしまう。触れた相手を疲労させるラクアは“ノーツ”の活かしようがないが、そこに気づくほどヒカリは冷静ではない。


「ん? さっきの痺れが残っているのか?」


 ヒカリが電光を発するとともに体勢を崩した。前の勝負で雷撃を受けたと聞いていたので、原因のあたりはつく。


「いうて撃ち出せないでしょ」

「ああ。どのみち触らないことだな」


 痺れは相手から貰ったもので、電撃を操る力はヒカリにはない。警戒するべきは触れた影響で感電することだが、闇とセットで対策できるから些細な問題だ。



 ワタルは手を磁石のN極に変える“ノーツ”を発揮しステンレス製の自転車を引き寄せる。そしてその場で回転して勢いをつけ、磁石を解除しヒカリに投げつける。

 一台逸れてトモエの方へ飛んだがキャッチし、狙った的へ追尾するよう投げる力を使いヒカリを狙う。


 ヒカリは蹴って弾いた。すべて捌き、ダメージを最小限に抑えた。


「カリン並みのパワーね」

「ええ。真っ向勝負したい、けど……」


 避けると読んで一台確実にヒットする弾を忍ばせたが、受け止められてしまい作戦は失敗。


 同じやり方で防げるカリンは、闇で強化されたヒカリの攻撃力に対抗心を燃やす。だが今蹴り合いをすれば闇と電気が伝わり調子を発揮できなくなる。


「まあいい。どこかで痺れて動けなくなるのを待つ」

「いいえ、私に任せて」


 しかしワタルは作戦を続行。稀に痺れて動けなくなる現象の発生を待てば、均衡を崩せるからだ。


 だがカリンは止めた。確実に仕留める方法がある。彼女は幻の炎を放ち、ヒカリの体を渦に閉じ込め持ち上げた。


「よくやった」


 身動きを取れなくさせたカリンを褒めると、ワタルはまた自転車を投げつける。嵐のようにヒカリに命中し、炎の渦から吹き飛ばした。


 だがすぐさま起き上がり、サドルを引き抜いて両手に持って立ち向かった。


「ゲッ、まずい」

「下がって!」


 仕留められなかったばかりか投擲できる武器を与えてしまいワタルは戸惑う。ひとまずカリンは炎の風でヒカリにブレーキをかけつつ、皆下がるよう指示する。


 渦にもう一度閉じ込めようとしたが、サドルを振り回されて風が乱される。ヒカリは向かい風を強引に抜けてカリン目掛けてサドルを振り上げるが、彼女は丸腰の脇に回し蹴りを浴びせカウンターを決めた。


 いつもの要領で足を出してしまった。カリンが失態を自覚したときにはもう遅く、足が痺れてしまった。

 そしてヒカリはまだ倒れずに、次の相手をワタルに定めてサドルを振り回す。彼は砂鉄の薙刀でガードするが、武器同士の接触で感電してしまった。


「もう無理だ! 投げ飛ばせ!」

「了解」


 あっという間に二人がやられ、危機を悟ったラクアはトモエにヒカリを遠くへ投げ飛ばし勝負を中断させるよう指示を出す。感電は覚悟のうえだが無傷なラクアがいれば援軍を呼んで三人のケアができると信じ、ヒカリの腕を掴んで空高く遠くへ放り投げた。


 ラクアはチャットで状況を報告し、落ちた先に待つ仲間に託した。



 校庭の芝生に墜落したヒカリを巻き構えていたのは、神田(かんだ)(ハルカ)津田沼(つだぬま)浪郁(ナミカ)錦糸(きんし)郁爽(イクサ)だった。そのうちハルカは自前の“ノーツ”でヒカリと四人の勝負を見ていた。音は拾えないもののラクアから送られたチャットから状況の理解はできていた。


「接触は避けて」

「了解。じゃあハルカは見てて」


 ラクア同様、遠距離攻撃の手段を持たないハルカは加勢すれば足手纏いになる。それはナミカたちも把握しているから、彼女を後方に待機させる。

 ハルカでも最悪相討ちをとれればいいが、失敗するリスクを踏まえると二人に任せた方が確実だ。かといって自分だけ撤退はしない。視界の外も見える力があるので奇襲される心配は要らないからだ。


「何あれ? サドル?」

「ええ。さっき武器に使ったら利用された」

「余計な物渡してくれたなぁ」


 ヒカリが両手に持っている物に気づくと、それは敵から得た物だとハルカが説明する。

 勝負を押しつけたうえに武器まで与えて、困ったものだと溜め息をつく。


「まあ関係ないけどね!」

「そうね」


 ナミカは見た人二人までの“ノーツ”をコピーしてストックできる。今の彼女が使えるのは、通るとワープできる次元のゲートと一度見ていれば視界を外れても見える千里眼。この学年における男女別トップに君臨する人が持つ力だ。


 そしてイクサは、背中に十字の物質を生やす力を持つ。翼代わりに飛んだり、外して大きな手裏剣のように投げたりできる。


 二人はアイコンタクトを交わし、イクサは物質を投げた。ヒカリはサドルで打ち返すと、ナミカがゲートを作り物質を通し、ヒカリの背後に作った出口から出した。


 防いだ攻撃が死角から直撃し、ヒカリは倒れた。


「拾ってはダメよ」

「分かっているわ。使い捨て」


 物質はヒカリに当たった。衝撃で電気や闇が流れているかもしれないので、使い回すのは危ない。イクサは拾いにいかず消滅させ、背中に生やし直した。



 じきにヒカリは立ち上がった。どこから力が湧いてくるのか戸惑うハルカたちをよそに、特攻して倒しにかかる。



 何度来ても同じこと。イクサが投げた物質を、ナミカが軌道を変えてぶつける。このコンボを破らない限り、戦況は変わらない。落ち着いて物質を投げる。


 だが今度は防がなかった。ヒカリは進路を変えてやり過ごし、再び相手に詰め寄る。するとナミカはヒカリの足元にゲートを作り落とし穴のように沈めた。出口は空中、彼女たちの前方の上空だ。


 そして着地点目掛けて別の物質を構えた。


「上! 避けて!」


 ハルカは二人の頭上にサドルが降ってきていることに気づき、注意を促す。間一髪、指示は届き攻撃をキャンセルしてともに回避に成功する。


「危な……あの一瞬で投げてくる普通?」

「どいて!」


 安心している場合ではない。両手が空いたヒカリが受け身をとって迫っている。ハルカは咄嗟に前に出て、蹴り飛ばした。


「大丈夫?」

「平気よ」


 と言いつつもハルカの足に電光が走っている。ヒカリが抱えている痺れがうつってしまった証拠だ。幸い一瞬だったので闇はうつっておらず、正気は保っている。


 問題があるとすれば、まだヒカリに立つ力が残っているかどうかだ。遠慮のない一撃を食らわせたが、ヒカリはこれまでダウンしても不思議ではないほどのダメージを受けては立ってきた。だからもしかしたら、決め手に及ばなかったかもしれない。


「でももしまた来たら、二人でお願い」


 そうなったら痺れた自分は二人の足を引っ張りかねない。ナミカたちに託し、ヒカリに利用されないことを最優先に立ち回ると決めた。



 非戦闘員のハルカが痺れを負い、残りの前衛二人は無傷で圧倒している。そのはずなのに、どこか劣勢な気がしてならない。思い込むことで効果が出るプラシーボ効果と呼ばれる心理現象があるが、それが現実になってしまったかのようにヒカリはゆらりと立ち上がった。


 その佇まいは人を超えた鬼だった。


「来たよ!」

「武器がない今、何もできないでしょ!」


 ナミカたちも恐怖を感じていたが、持っていたサドルは投げてもう武器は残っていない。突っ込んできたところで負けるはずがないと自己暗示をかけて迎撃した。


 もう一度物質を投げる。受け流せばワープさせて背後からぶつけ、避けたらゲートの落とし穴に嵌める。ヒカリの対応への対応は想定済みだが、彼女は第三の選択肢をとった。


 回って物質の勢いを受け流しつつキャッチして、投げ返したのだ。


 咄嗟にゲートを張って物質をワープさせるが、出口はヒカリの背後にしてしまった。さっきと同じ場所から出てきたので、読みを的中させたヒカリは再度キャッチして投げつける。ゲートで視界が少し塞がれた二人の足元に命中し、二人まとめて転ばせた。


 ヒカリはすかさず二人の頭を両手で押さえ、電気を走らせた。


「レイジはどこ?」

「屋上よ」


 残りはハルカ一人。躙り寄るヒカリは攻撃せず、レイジの居場所を尋ねた。彼の動向も見えているハルカは、迷いなく居場所を明かした。


「ありがと」


 間に受けたヒカリは頭を下げて、サドルを回収し去っていく。


「行っても逃げられるわよ」

「大丈夫」


 心が読めるレイジには、今の一連の流れがもう知られている。向かってくると知ったらこっそり逃げるだろう。だが屋上となると、今の彼なら逃げようがない。高所恐怖症になる前なら、階段を登っている隙に飛び降りることができただろう。


 そんなアクション映画みたいな脱出でなくても、階段を上がっているうちに別の階段を下れば見つからずに逃げられるが、それはみっともない逃げ方だとヒカリは考える。


 そんな女々しい真似をするくらいなら、飛び降りて逃げるか迎え撃つかしてほしい。レイジを尊敬していた自分をこれ以上幻滅させないでほしい。そう思っていることを彼に聞かせて、最後の決戦場、校舎の屋上へと歩いていった。



「……待ってたんだ」


 屋上に行くと、レイジが一人立っていた。逃げる勇気がなかったのだとヒカリは少し残念がる。視線を逸らすと剣が地面に突き立てられているのが見えた。


「もしかして今も」

「ああ。ダメージを受けている」


 じっくり見るとレイジの体にも電流が見える。正確には電気ではなく、剣の効果で瞳に宿る悪夢の力が浄化されているエフェクトだが、彼にとって苦しいのは事実。


「まさかずっと刺していたの?」

「気づくと思っていたんだけどな」


 屋上で謎の光が見えたらヒカリは来るだろうと思っていたとレイジは語る。実際は気づかず、人に居場所を教えてもらって突き止めたので願いは叶わなかったが、過程は関係ない。結果的に彼女は辿り着いた。


「ごめんね。ズルして来ちゃって」

「むしろよく死らず来たものだ」


 ヒントに気づかないとゴールに着けないと思っていたレイジだったが、ヒカリは根性と策略で乗り越えてきたので、却ってすごいことだと称えた。


 それだけヒカリの執念が強いとも解釈できるので、レイジは彼女と真剣に向き合う。



「じゃあ始めようか」

「絶対に返してもらうから。私への誕生日プレゼント」


 レイジはヒカリに渡したプレゼントを後日取り上げていた。闇の意思を宿され取り返したい気持ちが強まった彼女は即座に決行した。彼を探したのはそのためだ。


 お互い立っていることが不思議なほど満身創痍なコンディション。妨害を受けてきたヒカリは意図して追い込んだのではなく、そんな彼女と対等に勝負するべくレイジは意図して自分を追い込んだ。


 かつて付き合っていた頃は殺伐とした感情を刺し合うことのなかった二人の悲しい激突が始まった。

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