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オートセーブは深夜0時に+  作者: 夕凪の鐘
Episode113 文化祭準備の日々
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578話 元に戻せたら

「来るなら連絡くれ」

「スマホを壊してしまいました」


 スマホを学校のプールに落としてしまった小岩(こいわ)詩奈(シイナ)は、その日の夜に本郷(ほんごう)真白(マシロ)の家を訪れた。


 電車で三十分、歩く時間も含めれば一時間もかけて何の用があるのか、事前に言ってほしかった。そんなマシロに対してシイナは、伝える手段を失ってしまったと答える。


「誰かに頼めよ。トウヤとか淡路とか」

「そうですね」


 直接連絡が取れないのなら連絡先を知っている人に頼んでおけばいい。そう言われシイナは賛同した。だが今回は仕方ないと割り切る。


「で、仕返しを頼みにきたのか?」

「いいえ、直してほしいな」

「俺に?」


 暗殺に長けた“ノーツ”を持つ自分にわざわざ伝えにきたのは復讐を依頼したいから、と解釈するマシロだったが、シイナは首を横に振る。


 そして修理を依頼するが、マシロは困惑した。全身から白い刃を生やせる彼に、機械を直す能力はない。


「そんな技術ねえぞ」

「それは知っています……でも他に頼れる人が居なくて……」


 今の言葉の後半は嘘だとマシロは見抜く。彼の同級生でシイナの友達に、治癒と修理に長けた“ノーツ”持ちがいるからだ。最寄り駅も彼と同じだから、遠くて頼めないはずはない。



「分かった、それ貸せ。明日朝返す」


 マシロはその同級生以外に頼めばいいのだと察した。シイナは彼女と喧嘩しているわけではなさそうに見受けられるし、もしそうなら彼女が言ってくるはずだ。


 恋敵に甘えたくない。そんな意地を張っている。そう考えられた。


 だが思いついたつては、ここからずっと遠くに住んでいる。今からシイナを向かわせては帰宅が深夜になってしまう。

 だからマシロはスマホを預かって一人で向かい、翌朝届けに行けばいいと考えた。


「ちょうどそこに向かう気だったしな」


 マシロにとっては余計な経費と時間をかけてしまうが、元々その周辺へ行く用事があったと呟いて、シイナにとっての後ろめたさを和らげる。


「いえ、私も行きます」

「お前が行くんなら俺いらねえわ。地図作って送るから、それを見て」


 しかしシイナはマシロに任せず、ついていくと訴えた。行く気なら彼女一人で事足りるから彼は場所を伝えて自分は残ろうとする。


「こんな暗いのに一人で?」

「ついていきますよぉ」


 理屈が通るのならわざわざ自分に頼みにきていない。説得を諦めたマシロは出発の準備をした。



「どう壊したんだよ」

「プールに落としました」


 行く途中、マシロはスマホの容態を見た。ケースが削れているが液晶は無傷で、使えなくなるほどの外傷はない。

 だが水没しただけでお釈迦になる電子機器だ。水に落としたと言われたら壊れたことに納得してしまう。


 問題はなぜプールに持ち込んだのかだ。


「なんでそんな危ない場所に」

「プールの真ん中に三門さんを吊るしてて、良い画だったので撮影してました」


 こいつ狂っているな、そんな率直な感想が浮かぶがマシロは声にも表情にも出さないで淡々と聞く。


「文化祭絡みか」

「はい! 運と欲が試されるゲームです。参加しにきてくださいっ」

「暇があったらな」


 シイナは笑顔で出し物を紹介し勧誘する。マシロは元々会場へは行くつもりだった。しかし当日は一時も気が抜けないので、彼女のクラスに顔を出せる確証はないと答える。


「……いよいよですね、例の事件」

「だな」


 この島で事件を知っているのは同学年の“ノーツ”持ちの人だけ。だから知らない乗客がいる場所で大っぴらには話せない。



「最近夢に見るんです。三門さんのこと、私がちゃんと仕留めておけばよかったと」


 シイナは悪夢に魘されていることをマシロに打ち明けた。二年前、レイジに初めて会った日。彼のことは、遠い街で人々から夢を奪う人だと知っていた。そして悪夢を浄化する力を持った自分は、彼を倒す役目を果たさなくてはならないと決意を抱いていた。


 だがレイジを見逃してしまった。彼が自分の友達、一ノ宮(いちのみや)耀(ヒカリ)の交際相手と知って、彼女を悲しませたくないあまり手を緩めてしまった。


 その判断を、最近になってシイナはいっそう後悔するようになっていた。


「ヒカリを傷つけたくないから、なんて甘い考えをしたせいで、こんなことに……」


 レイジが今ものうのうと生きて、そしてこの島で暮らしている結果、彼を狙って島に乗り込んでくる連中が現れる。決行の日は文化祭当日で、会場に来ていた自分たちも巻き添えに。そんな未来を予知されており、例の事件と呼んでいる。


 シイナは自分が間接的に事件の原因を作ってしまったと思った。もっと前にレイジを始末しておけば、事件は起こらなかったはずだから。


「私、マシロさんの邪魔をしたこともありましたね」


 シイナは役目をほったらかしたに留まらず、妨害をした自覚もあった。マシロがレイジに果たし状を突きつけたとき、彼女は庇いマシロと対峙した。結果彼もレイジを倒す機会を失ってしまったわけで、罪悪感に苛まれる。



「俺は別に気にしてねえけどな」

「え……」


 シイナのことは恨んでいない。マシロはそう告げ、彼女は驚いて彼に視線を向ける。


「俺に限らず、小岩を憎んでいる奴なんていない。背景を知ってる奴がそもそも少ないってのもあるけど、知ったところでお前のせいだ、なんて言い出す奴は出てこないだろう」


 自分を責めなくていい、そうマシロは説得を試みる。“ノーツ”を持つ者はその人だけの力を宿してはいるものの、完璧を求められることはない。失敗しても憎まず、悪用したら憎むがずっと引き摺ることはない。


「俺はお前より一年早く“ノーツ”が目覚めた。限られた力を持つ者が失敗を起こして責められるなんて厳しい世界じゃないことは、お前より知っている」


 マシロは説得の根拠に経験を挙げる。彼も過去に同級生を傷つけ苦しめたが、過ちを認めて和解した。そして味方もいた。


「もしも八つ当たりする奴がいたら、俺が守る。だから胸を張れ」

「マシロさん……」


 だから今度は自分が味方になる。そう決意するマシロの言葉が、シイナはとても暖かいと感じた。



「お、ありがてえな。向こうからも来てくれるって。ちょっと近くなったぞ」

「へー。ちなみにどちらまで」


 マシロは修理を依頼した相手からの返信を読んだ。内容は、最寄り駅まで来るのは大変だからこちらからも合流に寄せるというもの。

 乗り換え駅で待ち合わせという話になり、当初の想定より目的地が近くなったのだ。


 その話を聞いたシイナはどこを目指しているのか聞いていないことを思い出して、マシロに尋ねる。


「池袋。目鎌綾高校の」

「あー、ミノリさん」


 苗字を聞いて顔と名前が一致した。そして

彼女の“ノーツ”が機械弄りに向いていた朧げな記憶も蘇る。


「よく思いつきましたね。高校もランクも違うし、“同期”でもないのに」


 “ノーツ”が目覚めた時期が近い同学年は“同期”であり、その繋がりから他校生とも面識はある。だがマシロと池袋(いけぶくろ)実祷(ミノリ)には同ランクや“同期”なんて接点はなく、スマホを直せる人として即座に気づけたことにシイナは疑問を抱く。


「お前と会う前に何度か関わりがあったからな。二人きりってわけでもなく十人くらいは居たけど」


 シイナが“ノーツ”に目覚める前の、中学生のときに起こったイベントでマシロはミノリと共演し、課題を乗り越えた。

 影で親しくしているのかと勘繰るシイナに、それは誤解で、れっきとした接点があったと明かす。


「気になるなら聞いてみな」

「そうですね、せっかく会うので……」


 提案したマシロはシイナの呟きを聞いて、二人でイベントについて話しているうちに一人でこっそり帰ろうと目論んだ。



「こんばんは」

「よう、悪いな。こんな時間に呼んじまって」


 待ち合わせ駅の改札を抜けて、二人はミノリと合流する。


「さっそく頼む」

「はい、お願いします」


 マシロの合図でシイナはスマホを手渡した。受け取ったミノリはメカを進化させて復活させる“ノーツ”を発動してスマホをグレードアップして復活させた。


「はい、直りました」

「早っ!?」

「サンキュー」


 あまりの早さにシイナは驚く。初見ではないマシロは平然とお礼を言う。


「電源入れてみな」

「は、はい……あれ?」


 シイナはいつも通りホームボタンを押してロック画面を点けてパスコードを入力しようとしたが、ボタンが押せない違和感に気づく。


「ボタンが押せない……」

「どれ」


 マシロは顔を寄せてスマホを見る。シイナは彼の顔が近づき赤面し、緊張で手が震えてしまった。


「ひぅ!?」

「本当だ。押せない」


 マシロはシイナの指に重ねて力を込めてボタンを押し、手応えがないことを実感した。だが原因は分からない。心当たりはあるとすれば、ミノリの“ノーツ”は元の状態に復元するものではないということ。


 ゲームの古いバージョンでバグを起こしデータが破損して、復元してもらったら新しいバージョンになってバグで遊べなくなった経験がある。



「池袋、スマホって進化するとボタンの押し方変わるのか?」

「多分これかも。物理ボタンがセンサー式になった」


 シイナたちが困っている間にミノリは検索して原因を探っていた。疑わしいと思える理由があり、解決策の検証を勧める。


「電源ボタン押してみて?」

「うん……」


 押せないホームボタンではなく、側面の電源ボタンを押すよう指示を出す。長押しすると液晶が光り、ロック画面が表示され、しばらく放置すると再び暗くなった。


「これで押してみて」

「あっ、押せた」


 再度ホームボタンを押すと手応えがあり、スリープモードだったスマホのロック画面が点灯する。


「電源が落ちてるとボタン効かないんだ」

「なるほど……ありがとう、直りましたっ」


 不具合ではなく仕様と判明し、再発したときの対処法も分かったことからシイナは改めてお礼を告げる。

 解決して安堵するミノリだったが、少し複雑な気持ちだった。


「元に戻せたら、混乱しなくて済むのにね。時の石があればいいのに」


 ミノリが口走った時の石。対象の時間を巻き戻したり早送りしたりできる力を持った石のことだ。それを使えばスマホを強制進化させることなく復活させられた。だが今は近くにない。世界の各地をワープして飛び回っているのだ。



「そうだ、小岩が中学のこと聞きたいって。俺たちのイベントのこと」

「えっと、三月の?」


 一つはそのことだとマシロは頷く。


「小岩、帰りの電車まで時間があるからさ。ちょっと付き合ってくれないか?」

「え?」


 シイナは言い回しが引っ掛かったが、もう遅かった。


「俺は先帰るから」

「ちょっ、マシロさん!?」


 追いつけない速さで駅に戻るマシロを引き留めることは叶わなかった。


「もう……」

「あはは……それで、何分まで平気なの?」


 苦笑いするミノリに、シイナは乗り換え案内を検索して乗車時刻を調べる。そして時間の許す限り、彼女と会話をしてから一人で帰宅した。



「そんなこんなで無事復活しました」


 翌朝、シイナは同級生に復活したスマホを掲げる。行動力には驚かされたが、綺麗に直ったスマホは羨ましいと思った。


「こっちも直してほしいわ」


 ボロボロになった文化祭の備品を見て呟く。昨日の放課後、まとめて壊されてしまったせいで作り直しに追われている。シイナのスマホ同様、修理に適した“ノーツ”持ちに依頼するのが手っ取り早いのだが、レイジは断固拒否する。


「よそ者には見せない。サプライズにならないからダメだ」


 修理を依頼すると、その人に小道具を見られてしまう。これらは文化祭の出し物だから、当日まで客には秘密にしておきたい。だから身内以外に頼るのはナシだと強要する。


「頑張れば終わるんだし頑張れ」

「あー腹立つ」


 加えて人力でも完成は間に合うのだから、特殊能力に甘えるなと忠告する。そんな自分勝手なレイジに、クラスメイトのフラストレーションは溜まる一方だ。


 だが逆らえない。レイジの“ノーツ”悪夢の瞳のせいで、辞めたい願いが叶わないためだ。

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