573話 お互い驚いた
百貨店の雑貨屋で、一ノ宮耀と千葉春菜は三人の同学年と出会した。ここに来ているという話は聞いておらず、お互い驚いた。
「買い物? それとも何かのイベントかしら」
「イベントじゃないけど、まあ色々とね。そっちも?」
その三人は学校がバラバラで家も離れている。何か共通の趣味があって集合したのかと思うハルナだが、彼女らが集まった理由は別にある。
その彼女たちからしてもハルナとヒカリがここに来ているのは不思議なのでまずは聞き返す。
「こっちは“同期”で遊びにきたのよ。……そうか、誕生日だ」
ハルナは“同期”三人が六月生まれだから祝日に集まったことを意識すると、武蔵浦春桜、麻布麻李杏、そして美南哀月の繋がりに気づいた。
「十六日、十九日、二十日。誕生日がもうすぐ仲間でしょ」
「正解。よく知ってたね」
ハルナは得意げに胸を張る。彼女は三人とは違う高校で“ノーツ”の目覚めた時期が近い“同期”でもないが、その“ノーツ”のランクが同じだったり共にイベントを乗り越えたりして交流があるので、スッと誕生日を思い出せた。
「えっ、私今日……」
だがヒカリは落ち込んでいた。誕生日が近いガールズで集まる話は聞いておらず、忘れられれいたのか、あるいは除け者にされたのかと不安になる。
「そうなの!? ごめん、忘れてて……」
記憶にないが教えてもらっていたのかもと思い、サクラは知らなかったのではなく忘れていたと謝った。
分かっていれば声を掛けたし、今から混ざるのも歓迎する姿勢だ。
「マリアちゃんは知らなかったの?」
アイリはマリアに尋ねる。ヒカリと同じBランクだから、誕生日が近いことは知ってそうだと思えたからで、その直感は正しかった。
「私は知ってたけど、そんな仲ってほどでもないし」
「そんな言い方っ、でもそれはまあ……」
サクラとアイリは“同期”でマリアはアイリに執着されたので、三人は誕生日関係なく付き合いができている。そこに関係性の薄いヒカリを誕生日が近いことを理由に合流させると、気を使って三人のときより窮屈になってしまう。
そんな予感から、マリアはヒカリに触れなかったと言う。
マリアの言動は冷たいとは思いつつも、心なしかアイリとサクラも納得するところがあった。嫌いなわけではないが特段接点がなく親しいとは言えない自覚はある。
「なんで、レイジは黙っていたの?」
ヒカリの矛先は三門玲司に向けられた。サクラたちが集まる話は、読心術で勝手に把握していたはずだ。けれども彼は何も言わなかった。彼女にとってはその事実が、呼ばれなかったこと以上に突き刺さっていた。
「よかったら、今から一緒に」
「あっ遠慮します」
サクラの誘いをヒカリは食い気味に断る。そういう態度がいけないのではとハルナは思ったものの言えなかった。
「レイジはヒカリと居たかったのよ。だから向こうに行かないよう隠していたんじゃないかな?」
ハルナは苦し紛れにフォローを入れる。レイジのことだから、黙っていてもヒカリに気づかれなければ問題にならない、毎度お馴染みの知らぬが仏の精神を貫いて裏目に出ただけだと予想がつく。
だがヒカリを説得するには、レイジなりの思いやりか独占欲の漏れなどということにしなくてはならない。
「それよりハルナ、私もうすぐ誕生日なのよね」
「おめでとうマリア。で、その手は何?」
「察してるくせに」
ハルナはマリアが、自分が誕生日を迎えようとしていることを訴えプレゼントを集ろうとしているのだと勘づく。一方でマリアも見抜かれていると分かったうえで彼女を折れさせようとする。
「あのねえ。私もう三人分プレゼント用意しないといけないのっ」
「そうなの? ……一人増えても平気でしょ?」
“同期”だけで手一杯だとハルナはマリアにNGを出す。だが彼女は図々しくも強請る。一人が二人になるのに比べれば上昇倍率は小さく、誤差のようなものだろうと楽観視しているのだ。
「体で払うわ」
「いいよもう!」
マリアは自分の体に相手の精神を入れたり触れた人の思い通りに動く“ノーツ”をもっており、プレゼントのお礼は自分の身をハルナに貸すことにする気でいる。
だがハルナは即座に拒否した。イベントで経験したのは嫌な思い出だからだ。
「私が出すよ! 何でも言って!」
「アイリ落ち着いて」
奢ればマリアの体を使わせてもらえると聞いてアイリが目を輝かせた。だがマリアは目線を逸らす。ハルナの反応を見たいからねだったのであって、同じことをアイリにされたくはない。その興奮から、悪用されるのがひしひしと伝わってくる。
「でもちょっと混ざろうかな。ヒカリもどう?」
プレゼントを贈るかはともかく偶然会ったサクラたちとすぐ別れるのは惜しく思うハルナは、少しだけ彼女たちと回ることにした。残されるヒカリはついてくるかレイジの元へ行くか、気持ち前者を推して判断を聞く。
「私はいい」
「……そう。じゃまた後で。時間はちゃんと守るからっ」
ヒカリはハルナの誘いに乗らなかった。自分がいれば彼女としても安心すると思っての誘いだったが、断られてしょげてしまう。
だがすぐに前向きに、予定通り戻ると約束して見送った。
ヒカリはエスカレーターを降りながら、考え事をしていた。今の彼女にとってあらゆる知り合いは、一か月後に殺し屋と化す。ただでさえ命を狙う敵に思えているのに、仲間外れにされていたと知って不愉快になる。
その怒りの向く矛先は、サクラたちではなくレイジ。黙っていた彼が全部悪い。
サクラたちは所詮、氷山の一角に過ぎない。彼女らに限らずヒカリの知らないところで盛り上がっているのだろう。
そしてそれらを知っているレイジは、何も知らない除け者の自分を思ってほくそ笑んでいるのだろう、という負の思考へ至る。
「……こんな思いをするくらいなら、いつもと同じに家でやればよかったんだ」
ヒカリは今日の催しを恨んだ。去年と一昨年の誕生日会は、“同期”誰かの家に集まって、四人だけで楽しんでいた。だから周りは気にしなくてよかった。
今年で最後の開催、“同期”の関係は永遠の絆だがレイジが故郷へ帰ってしまうために最後の開催となるから、一番の思い出にしようと話が弾んで島のあちこちを巡ることになった。
賛同した過去の自分をヒカリは呪った。人に会って嫌な思いをするのなら、閉じこもっていたかったと。
「ヒカリにはどれがいいかな?」
ハルナはサクラたちと合流したのをチャンスと捉え、皆へのバースデープレゼントについて相談する。性格も好みも違うので、喜ばせられると思っての相談だ。
「絶対微妙な反応される。ヒカリは色んな男子から与えてもらってるから」
「人のこと言える?」
マリアはヒカリが喜ぶ物を探すのは難しいと告げる。理由は男子どもに色目を使って好き勝手しているからだと言うが、アイリからすれば彼女も同類だと指摘する。
「最愛の相手から貰えるアイリが一番恵まれているわよ」
「ふふっ、ありがとうマリアちゃん」
たくさん貰うより恋人から貰う方が素敵だと捉えるマリアは、アイリを幸せ者だと言った。
「それ。惚気るとヒカリから刺されるわよ」
くれぐれもヒカリの前で言わないようマリアはアイリに釘を刺す。“同期”と別れたヒカリは、”同期“と結ばれた彼女を妬んでいるのを察しているからだ。
「よく知ってる感じだけど、実は仲良いのでは?」
「あれぐらい普通よ」
サクラはさっきマリアが言っていたほどヒカリとの関係は離れているように思えなくなり、気を使って彼女を呼ばなかったのではないか探った。
だがマリアは首を横に振り、呼んだらグループの輪が崩れるという理由で貫いた。
「今話題の疲れないペンにしようかな、私は」
「さっき聞いた話だけど、猛勉強はもう止めるって」
文房具が視界に入り、ヒカリが大学受験に向けて頑張るのを応援しようと考えるアイリだが、進路を変えてもう終わりにするつもりだと聞いていたハルナは三人にも伝えた。
経緯はおいといて、今のヒカリが最も欲しい物は文房具や問題集など勉強絡みではないと知らせるために。
「だから全然、遊ぶ物でもいいと思うわ」
「分かったわハルナ」
趣味に通じるプレゼントでは勉強の妨げになってしまう恐れがあるので避ける気でいたが、その心配はないと知って選択肢が広がった。
「じゃあ私、ポータブル扇風機にしよっと」
サクラは片手が塞がるので勉強の邪魔になるから脳内でボツにしていた案を回収し、ヒカリへのプレゼントに決めた。
「そういえばやたらバッテリー長持ちするのよね、あの子が持つと」
「へえ。ぴったりじゃない」
充電ができない環境で各々温存するためにヒカリのスマホを使い回していたとき、結果的に彼女のスマホだけ起動できた現象が起こったのをマリアは知っていた。
あと一回は保つ、を繰り返したと思われ、ヒカリの“ノーツ”が効果的に機能した。だから人より物持ちが良い彼女へのプレゼントに合っている。
「そうだ、皆でカスタマイズして贈らない?」
「賛成っ。私はリボン付ける」
サクラは扇風機にデコレーションを加えて全員でのプレゼントにしないか提案する。扇風機並みに良い品が思いつかなかったアイリは即座に賛同し、装飾を担当すると立候補した。
「私は代わりに持ってくれる人形を」
自分で持って風を浴びるより可愛い人形に風を向けてもらう方が孤独を感じないだろう。マリアは“ノーツ”で自分を人形サイズに縮められる力があることを活かして、ぴったりなサイズとポーズができる人形を探す気でいる。
「私も風が良い物にこだわるわ。デザインも二人に合わせたい」
「別行動して写真送る?」
「それが良さそうね」
見栄えを良くしたいから、自由行動を開始して情報の共有をしながら買う、そう方針が決また。
「皆、ヒカリのためにありがとね。絶対喜ぶわ」
予定にない買い物が増えた。だが三人とも嫌がる様子はなく、むしろ最初より盛り上がっている。その光景にハルナは感動し、お礼を言った。
その頃ヒカリはフロアから出ていた。屋外は暑く、待っているのは大変だ。そのストレスが彼女の迷いに拍車をかけた。
「帰ろうかな」
ヒカリは思いつくままに行動した。一切連絡はしていないが、それでもレイジには気づかれている。
スマホは機内モードにせず、連絡が来たらすぐに気がつける状態だ。引き留められたら戻ればいいし、何も連絡が来なければレイジの合意を得られたと見做せる。
「……来ない。レイジに何かあったんじゃ」
改札の前まで来たが、電話もメッセージもない。自分が本気で帰ろうとしていることを、レイジはハルナたちに伝えていないのだろうか。
もし伝えていたら急いで呼び戻してくると想像がつくので、音沙汰ないということは彼は伝えていない可能性が高い。
何らかの事情があって、スマホを手に取れないとも考えられる。
「……そう思わせて引き返させる気かな? だったら無駄だよ」
レイジの身を案じて百貨店へ戻れば、彼の目論見通りになってしまうかもしれない。そう期待してあえて黙っていたのなら思い通りにはさせない、と意地になるヒカリは駅構内へ進入してしまった。
「よし、完璧ね」
リボンが飾られたポータブル扇風機を人形に抱えさせ、中の透けない桃色の袋にしまった。ヒカリへのプレゼントが完成した。
「早速ヒカリの所へ向かいましょう。ちょっと待っててね……」
ハルナはレイジにメッセージを送り、ヒカリの居場所を聞いた。そして返事はすぐに来た。
「は? 嘘でしょ……」
電車に乗って家に向かっている。レイジから送られたメッセージに、ハルナは目を疑った。
「どうしたの?」
「……ごめん、それ私に預けてくれない?」
もし帰宅したのならサクラたちが気の毒だと、ハルナは事情をごまかした。そして自分が渡しにいくことで、事実を隠そうとする。
「まあ、構わないけれど。ね?」
サクラの確認にアイリとマリアも頷く。そして静かにハルナに袋を手渡した。
「皆のこの後の予定は?」
「ボウリング場へ」
「……じゃあここでお別れね。今日はありがとう」
元からプレゼントを渡したら別行動をする気だったので、ハルナの言葉に異論はない。だがどこか挙動不審に思えてしまう。
「あとこれっ、私から皆にっ。それじゃ」
ハルナは鞄の中から包装した箱を三人に配った。そして別れを告げ、レイジの元へと急いで向かう。




