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オートセーブは深夜0時に+  作者: 夕凪の鐘
Episode112 最後の集い
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572話 楽しんで

 千葉(ちば)春菜(ハルナ)が到着した。今日は“同期”での誕生日会。高校三年生、気軽に集まれる最後の年、だがハルナの心境はそれどころではない。


 けれども彼女の抱える悩みを解消することはできない。意識すれば周りにも浸透し、分かち合って軽減されるならいいがむしろ逆。特に一ノ宮(いちのみや)耀(ヒカリ)は、意識すればするほど気を病んでしまうだろう。


「浮かない顔するな。受験のことは忘れろ」


 だから三門(みかど)玲司(レイジ)は牽制した。ハルナの悩みが大学受験のことだと周りに信じ込ませ、真相をねじ曲げるために。


「受験のことじゃ……」

「見栄張るなハルナ。俺を誰だと思ってる」


 レイジには人の心を読む力があり、そのことはヒカリたちも知っている。お見通しだと言い張ることに信憑性があると認識されるのは不思議ではない。


 それを逆手に取り、レイジは都合の良い方向へ誘導する。名の知れた探偵が嘘の推理を披露して濡れ衣を着せるように。


「お前は悪くない。だから今は忘れろ」


 レイジは他の二人に聞こえないようにハルナに忠告する。彼女が何を不安に思っているかはちゃんと分かっている。


「謝っても答えは出ない。ヒカリを不安にさせちまうから、なっ」


 自分がレイジとヒカリを危機に追い込んだ。そう思い込んでいるハルナに対し、それは事実だと告げた上で、その話題を避けるように頼む。


 ヒカリを苦しませないために黙っていてほしい、そう訴えかける。



「何を話しているの?」

「今日買う物のこと」


 流れるようにレイジは嘘をつく。プレゼントの話なら、ひそひそ話でも違和感がない。ヒカリに疑わせないために、堂々と言い放つ。


「揃ったし行こうぜ」


 立て続けに、レイジは行動開始を促す。全員集まったので集合場所に居続ける理由はない。目の前の百貨店に入ろうと促した。


「じゃあ時間になったら呼んでねー」


 店に入るのを心待ちにしていた八積(やつみ)雅火(ミヤビ)はいの一番に早足で突入していく。離れていても各自の状況を把握できるレイジがいるから、大雑把な自由行動でも平気だ。


 仮にスマホが機内モードなどでも場所を特定して集合できるので、細かい決め事は不要なのだ。


「ヒカリも行ってきていいぞ」

「レイジは?」

「ついてきてもいいけど。テレカ買いに」


 ヒカリにとっては見ても面白くないだろうから誘いはしないが同行は拒まない。そんな言い回しをして、彼女に判断を任せる。


「テレカって、そんな趣味知らない……」


 ヒカリはレイジが最初に行こうとしている店の予想が外れたことにショックを受けていた。他言していないことなので当然だと彼は思っている。


「連絡手段は増やしておきたくて」

「……ああ、そういうことだったんだ」


 ヒカリに黙っていた理由を察してもらうのを期待して、レイジは呟いた。目論み通り、彼が隠していた理由は別れの暗示を避けるためなのだと解釈した。


「このこと、皆には内緒な」


 故郷の大学へ行くことを隠しているわけではないが、別れを意識している話は、あまり広めたくない。だから言いふらすのはやめてほしいとヒカリに頭を下げた。


「もちろん。誰にも言わない」


 ヒカリは自分には話してくれたこと、そして秘密を共有できることに満足感を覚え、微笑んで頷く。彼女はレイジの進路に不満はない。


 一緒の大学へ行く予定なのだから。ある目的を果たすために一緒に来てほしいと言われたから。



 だが今になって、ヒカリは疑問に思った。


「……ねえ、もしも来月、レイジがその目の力を失ったら」


 レイジの目、悪夢の瞳によって夢や願いを叶わなくされた人を残してきた故郷を回復させるため、彼は力を手離す方法を探している。


 心を読む力をもってしても、突き止められないものがある。隠蔽を可能にする何らかの“ノーツ”を持っている人が関わっているかもしれない。


 一人では真実に辿り着けないから、レイジはヒカリを選んだ。悪夢の瞳を持つがゆえに命を狙われる立場にある彼を受け入れてくれる彼女を頼った。


 だがそれから月日が経ち、来月の事件をきっかけにレイジの目の力を無くそうという動きが出てきた。


 それが実現したら、ヒカリがレイジについていく理由がなくなってしまう。


「卒業したら、お別れだ」


 レイジはストレートに突きつけた。それを聞いてヒカリは言葉を失う。一緒にいたい気持ちより、必要か否かを考えた結果の答えだ。


「何で黙ってたの!」

「確証がないからだ」


 一緒の大学へ行くという話が消えていた、そんな重要な話をどうして言わなかったのか、ヒカリは怒りをぶつける。レイジの反論は、結果が分かってから告げる気だったというものだった。


 もし想定通りにならなくて瞳の力が残ったままなら、予定は変わらずヒカリとともに解決策を探りにいく。結果が判明するのは僅か一か月先だから、確定してからでも言うのと大差ない。


「黙っていたのはお前もだヒカリ。成績が伸び悩んで、それじゃ届かない」

「分かってるよ!」


 レイジに求められたら応えられるかのような口ぶりだが、現実的にヒカリは厳しい。徐々に学力はつけてきているが、まだまだ合格ラインは遠い。


 対するレイジは心を読んで他の受験者の回答を聞けるので、素の学力に関係なく合格できる。だから同じ進路を辿れるかはヒカリの努力に懸かっているのだ。


「言わなかった理由は、逃げてほしくなかったからだ。一緒に行けないかもって考えて勉強のやる気が落ち、結局行きますってなったときにもう一度エンジンかかるか、って話」


 合格という目的を失って、勉強への熱意が冷める。僅か一か月、されど受験生にとっては貴重な一か月を無駄にするかで運命は大きく変わってしまう。


 だからレイジは黙っていた。うまく事が進まない場合でも、ヒカリが後悔しないように。



「いいよ、もう」


 あらゆるパターンを想定するレイジに対し、ヒカリは一本に絞った。潔く受験を辞め、当初の将来の夢を追いかけるために、島に残ると決意した。


「私は島に残って、ボーカリストになる。だからレイジも、今度絶対、願いを叶えて!」


 レイジの決断は、できたときとできなかったときを想定して複数の択を用意している。そうではなく、望む一本に絞ってその道に進むことに全力を費やせと、訴えかけた。


「私は、うまくいかなかったときのことは考えてない!」


 達成するためにやれるだけの力は費やす。逃げ道を用意しない。ヒカリの一言に偽りはない。


「先が見えない私も覚悟したから、レイジも男を見せてよねっ」


 何の根拠もないヒカリに比べ、レイジはずっと現状分析に長けている。だから失敗を恐れる女々しい姿を見せないでと彼女は叱咤し、店へと歩いていった。


「強くなったな、あいつ……」


 ヒカリに圧される一方だったレイジは、その立場を味わったことに驚きつつ、彼女の成長を認めた。出会った頃は考え方が似ている二人だが、お互いに経験を積んで独自の考え方を持ち、衝突を繰り返した。


 ヒカリはレイジに任せっきりではなくなり、自分の意見を推せるようになった。それは良い変化だと彼は感じ取っている。



「悪い。待たせたな、ハルナ」


 そして想定以上にヒカリとの話が長引き、待たせていると分かっていながら巻けなかったことを謝罪する。


「私が余計なこと頼んだせいで、あなたたちが狙われることに……」

「俺の交渉が招いた結果だ。気にしないでいい」


 ハルナはレイジが故郷の人に狙われると聞いて、連中と接触した過去があるがために敵に手の内を知られていると見做され、彼を守る対策班から外された。


 外されたメンバーが復帰する利点と今以上に妥当性のある作戦を提案するよう、ハルナはレイジに頼んでいた。彼は役目を果たしたが、敵と結託して自分やヒカリを襲撃し、悪夢の瞳を使い果たすという作戦に舵を切ってしまった。


 ハルナの願いは叶ったが、レイジとヒカリには元以上に大きな負担がかかることになった。欲張ったばかりに友達を苦しめてしまった罪悪感で潰されそうになっている。


 けれども新しい作戦の決定に加担したのはレイジ自身であって、それを問題と見做すのなら責任はハルナではなく彼にある。だが彼は間違えたり失敗したりしたとは思っていない。


 ハルナの言う平和な解決策は編み出せなかったが、知恵を絞って出せた点ではレイジは満足している。


 断じて誰も、彼女のことを恨んでいないのだ。だが、問題なしとは言えない。その解決のため、レイジはハルナに頼みたいことがある。


「でもヒカリは、あれ以来周りが怖く見えてしまっている。だから普段通り接してあげてほしい。事件のことを、忘れさせてやってくれ」


 レイジから瞳の力を奪うため、ヒカリの“ノーツ”を利用する。当日は総がかりで彼女の命を狙うことが決まった。


 その日が近づくことにプレッシャーを抱えてしまうと、ヒカリの心は壊れてしまいかねない。それを防ぐため、安らぎを与えなくてはならないが、レイジ一人では足りない。


「だから今日は、思いっきり楽しんで」


 背景が複雑なので周りくどくなってしまったが、言いたいことはシンプルだ。事件のことも進路のことも意識しないで、今日の“同期”の集いを満喫してもらう、たったそれだけのこと。



「じゃあ俺は、上の階に行ってくるから」


 人に頼むからには、自分も率先して行動しなくてはならない。レイジは今日と無関係な話は頭の中から抜き取り、ハルナの話にこれ以上付き合う気はないことをアピールした。


 心が読めて常に三人の動向を把握できるから、細かい連絡は要らない。それぞれ満足した頃合いを見て、次の行動に移る。それがレイジの普段のやり方だ。



「……確かに、意識すればするほど苦しめてしまうのかも」


 残されたハルナはレイジの話を思い返す。“同期”として力になりたいと思い、できる行動を考えてきた。だが彼が言っていた通り、間接的に協力する手もある。


 ヒカリのメンタルケア、それなら悩むことはない。まずは話す。何を買いたいか聞いたり、服なら似合うデザインを選んだり。

 事件や進路と無縁で、いくらでも話題はある。ハルナは早速、彼女と合流することにした。


「んー」

「お悩みか?」

「うわっ」


 看板の前でどのフロアに行こうか迷っているミヤビに、レイジは看板の裏から顔を出して声をかける。


「びっくりしたぁ」

「迷ったら今度って手もあるぞ。週末とか、いっそ来年でもいいし」


 レイジはアドバイスを送った。決まらないのなら、決めなくていいという選択もある。提案したそれがベストと思って彼は言ったのではなく、ミヤビが気づいていない選択肢を増やすことで、決断の後押しになれればと思ってのメッセージだ。


「ああ、そうか。今年が最後なのは誕生会の話だものね」


 ミヤビは無意識のうちに、あらゆるものが最後のチャンスだと思い込んでいたことに気がついた。だがあくまでこの時期に“同期”で集まれるのが最後となる可能性が高いだけで、後日他の友達と来ることはできる。


「じゃあ今度にしよ」

「そうか。じゃあまた後で」

「三門君はいいの?」


 ミヤビはそれでいいが、レイジには来年以降という選択肢はなく、週末に気軽に来られる距離でもない。買うなら今日しかないのではと疑問を投げた。



「フライパンでも買うかねえ」

「なんで!? あっ、太陽光で目玉焼き作る、とか?」

「おまけで抽選に参加できるから」


 靴やバッグなら分かるが、食器を買うと告げられミヤビは困惑する。だがレイジが欲しがる理由は、抽選会に参加できる金額ラインを満たせるからであり、参加するために何でもいいから買いたいのが本心だ。


「そ、そう……」

「じゃあ俺はこれで」


 ミヤビの悩みが解決したので、レイジは心置きなく自分の時間に入れる。彼はエスカレーターを上り、テレホンカードを購入した。

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