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オートセーブは深夜0時に+  作者: 夕凪の鐘
Episode112 最後の集い
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571話 今日が最後

 六月中旬の祝日。この日は一ノ宮(いちのみや)耀(ヒカリ)の誕生日でもある。お祝い会の主役としてここ、キバ島の西部の集合場所を目指していた。


「もうすぐ着くね。駅」


 隣の席に座るもう一人の主役、三日後に誕生日を迎えるクラスメイトの三門(みかど)玲司(レイジ)に呟くように話しかけた。


 一時間を超える電車旅の終わり。それは二人で居られる時間の終わりでもある。それを惜しむ意味での呟きだとレイジには伝わっていた。


「時間通りだな。降りよう」


 トイレを我慢していないことは心を読んで確認を済ませてある。レイジはヒカリを先導して改札を抜けて、待ち合わせ場所へと歩いていく。


「覚えてる? ここ」

「俺がヒカリに告白した場所だ」


 誰かが意図してここを集合場所に決めたわけではない。ただ今日集まる三校四人にとってアクセスが良い駅で、目立つオブジェクトがあるから選ばれた。


 結果的に、レイジが二年前の文化祭が終わった後、ヒカリを連れて告白をした場所と一致したわけだ。



「俺がこんな遠い所を選んだのは、深夜零時まで時間があったのと……」


 レイジはその日、クラスの打ち上げが終わった後ヒカリを深夜まで連れ回した。そして日付の境目に間に合うようにここへ、大きなからくり時計の下に到着した。


 夢の国で暮らす人形たちがかつて踊っていた時計の前なら、奇跡が起こると信じて。


「ここなら、一日の繰り返しを……進まなくなった世界からの脱出ができると思ったんだ」


 告白したその日は、ヒカリの“ノーツ”の影響で過酷で奇妙な一日だった。今日をもう一度過ごしたい、明日を迎える代わりに今日のままでいたい。そんな気持ちの暴走で、彼女の“ノーツ”である一度起こった事象の繰り返しが、日付に対して発動し二十四時になると零時に戻る現象が起こった。


 当時ただ一人、ループの記憶が残っていたレイジは運命を変えるために何周も繰り返した。その果てにヒカリの心を開くことに成功し、この場所で二十四時を迎えた。そして彼の願いが叶い、翌日を迎えられたのだ。


「ねえ、どっちが良かった?」


 ヒカリはレイジに尋ねる。言葉には出さない。彼に心を読んでもらえると分かって、あえて言わないで尋ねる。


 二年前のその日から脱出した今と、脱出できずに同じ日を繰り返していたもしもの未来。現実に満足かという問いかけだ。


「当然、今だ。あんな日が延々と繰り返されたら、気が狂ってしまう」


 現実に満足しているわけではない。ヒカリとは別れ、当時では考えられないほどに亀裂が生じた。


 だったら付き合う前のある日がずっと巡ってくればよかった、とも思えない。その日は何事もなく終わるものではない。

 ヒカリが死ぬ。死んで一日終わると、それがなかったことになる。結果的に死なないわけだが、レイジは自分だけ記憶が残るせいでヒカリが感じた痛みや恐怖が心の声として聞こえてきて、それが一方的に蓄積していく。


 精神崩壊は免れようがないとレイジは考え、それよりは今がずっとマシだとヒカリに告げる。



「じゃあ、来月私が殺される運命は、変えようとするんだね」

「ああ」


 一日の繰り返しは過ぎた話ではない。一か月後にまた起こる。レイジの精神を痛めつけるために、二年前よりずっと強大な戦力がヒカリを襲ってくる。そんな運命が待っていると、以前彼女は彼に告げられた。


 それを知ってレイジは前に進もうとする。折れてしまう方がつらいと考えるから、何度でも足掻くと決めている。


 過去に死んだことがあると言われても、痛みも記憶も証拠さえ残っていないからヒカリには実感がない。きっと来月の事件も、自分は起こった自覚がないまま過ぎ去っていくのだろうと思っている。


 レイジ一人に背負わせてしまうことは、快く思わなかった。


「うまくいけば、この目の力を手放せるからな」


 レイジにとってもプラスとなる変化はある。死のループから脱け出すには、願いを叶わなくさせる悪夢の瞳の力が必要。その力で敵の狙いを阻み、ヒカリを守る。


 だが使うほど力は消耗し、いつか尽きる。そうなると空から赤い光がレイジの目に刺さり、補充されて元どおりになる。


 だが光の突入を阻止すればレイジに力は戻らない。故郷では忌み嫌われていた呪いを捨てることができるのは良いことだ。


「そのために皆が敵になるのは、酷い話だよ」

「でもそれが事件の解決に繋がる。狙いは命じゃなくこの目だからな」


 ヒカリを殺すのは彼女に恨みがあるからではなく、精神的にレイジを追い詰めるための材料。そして彼が故郷の人から狙われる原因はどの目にある。


 彼を追い詰める過程で瞳の力を使わせ、尽きたときの補充を阻止する。そうするとレイジは力を失い、敵が彼を苦しめる理由がなくなる。


 合理的な作戦だが、結構にあたり知り合い全員が敵と結託してレイジとヒカリに襲いかかってくる。

 ゴールは彼らを救うことにあるとはいえ、友達に命を狙われるのは嫌な話だ。特に、巻き込まれた側のヒカリにとっては。



「私もう……皆を信用できないよ」


 その計画は同学年の“ノーツ”持ちで周知されている。ヒカリを守るようレイジに抗わせ、悪夢の瞳の力を消耗させる、それを決行することは、二人の命を狙うということ。


 仮にヒカリが死んでもその日がループするのでリセットされるうえに、記憶も残らないから彼女への影響は残らない。とはいえ知り合いにリンチされる計画が進んでいる事実に、止めてくれる味方がいない現実を直視して心が痛む。


 人知れず誰も計画に反対しないよう仕向けている者がいる。それがレイジだ。彼は瞳を使って計画をストップさせたい願いを叶わなくさせ、順風満帆に走るよう操作している。


 思いやりで引き留めたところで代替案を出せるわけではない。良心を貫いて先に進めなくなるくらいなら、踏み止まる意思など捨ててしまえというのがレイジの主張だ。


 だから言ってしまえば、ヒカリを最も追い詰めているのはレイジである。彼女はそんなことを夢にも思わず、自分と同じ被害者である彼のことを唯一の味方だと思い込んでいる。


「でも、俺の本性を知ったときよりショックは小さいだろ?」


 皆の素性に恐怖を覚えたと嘆くヒカリに対し、自分に幻滅した瞬間よりはダメージは小さいだろうと自虐風フォローを入れる。

 実際、ヒカリはレイジに私欲で運命を変えるために殺されたことがあり、それを隠したまま付き合っていた事実を告げられたときにひどくショックを受けた。確かに彼の言う通り、そのときと比べたら心の傷は浅いように思える。


 だがそんな話でフォローされてもまったく楽にならない。むしろただ一人の味方だと見ていた彼が自分に対して一番歪んだ感情を向けている存在だという現実を見て、さらに心を塞ぎ込んでしまう。


 それでもヒカリにはレイジを信じたい思いはあるのだが、現実は非情でヒカリを追い詰めるよう裏で支配しているのは彼だ。


「それに一日だけの辛抱だ。その日までも、その日から先も、これまで通りの関係だ」


 ずっと引き摺ることではないとレイジは励ます。確かに今は二人を狙う準備に取り掛かっているが、決行には至らない。だから今日は誕生日会を開けたわけで、学校生活もこれまで通りにすればいい。

 事件の後になればもう終わり。二人を狙っていたのが嘘のように、元の関係に戻る。記憶という心への後遺症はレイジにしか残らない。


 その一日は目的を果たすまで何度でも繰り返されるとしても、ヒカリや皆にとっては一回で成功したように感じるわけで、実質すぐに終わるようなものだ。


「一日だけ……」

「だからそれまでは、普段通りにしていればいい。変に不安を抱えていると、時間がどんどん過ぎていくぞ」


 プレッシャーを抱えていては今を楽しく過ごせない。日頃からメンタルを削っているといつか壊れてしまう。


 だから不安を忘れて今と向き合うのだと背中を押す。


「誕生日会も、今日が最後になるからな」


 今しかできないことの一つが今日の集まりだ。“同期”の繋がりは“ノーツ”が目覚めた時期が近い者同士。今年で途切れるわけではない。


 だが少なくともレイジは、高校卒業後にこの島を出る。四人で気軽に集まることができなくなってしまうのだ。


「これから会う二人も敵なんだよね……」


 レイジの期待と裏腹に、ヒカリは感情を失った顔で呟いた。一緒に遊ぶ人が、一か月後には自分たちの命を狙ってくる。その事実のせいで、果たして楽しめるのか疑問が拭えなかった。



「会う前から疑っていると、何も信用できなくなるぞ」


 レイジは疑い過ぎるヒカリに肩の力を抜くよう説得する。今日来る二人のうち一人は、事件のことをまったく考えていない。もう一人が彼らを襲撃する案の発掘のきっかけを作った元凶でひどく気にしているが、それを告げてしまうとヒカリの励ましにならないので黙っておいた。


 その人が来たとしても、話を出さないように抑え込めばいいだけだと割り切って。


「おはよう。二人とも」


 三人目の主役、八積(やつみ)雅火(ミヤビ)が到着した。お出かけの始まりに心を躍らせた、曇りのない表情と声色。事件のことをまったく意識していない方のご到着だ。


「一ノ宮さん、ハッピーバースデー」

「あっ、うん…… ありがとう」


 そっちこそ、と返そうとしたがミヤビの誕生日は二週間前だ。当日言えていなかったが、このタイミングで言うのも変だと思い言葉に詰まる。


「今日から三門君だけ年下ね」

「三日天下だけどな」


 男子の中でも特に背が高いレイジが、彼の誕生日を迎えるまで自分たちより年下になる事実には、三度目になってもミヤビには不思議な感覚だ。


「悪いな。往復させるルートになってしまって」

「いいよ、気にしないで。間をとった結果だもの」


 今日のルートはミヤビにとっては一度家の付近へ戻るものとなっている。集合場所は皆にとってアクセスが良い駅とした弊害だ。


 だからといってミヤビは不満はない。そうと分かっていながらレイジが申し訳なさそうに断りを入れたのは、そこから話題を繋げるためだ。



「途中で家に帰れるし、だったら多めに買い物してもいいかなって」

「何を買うの?」


 多少荷物が多くなっても、地元へ移動してからの自由時間を利用して家に寄って置いてくることができるから、Uターンするルートも悪くない。そう打ち明けるミヤビに、どんな買い物をするのかとヒカリが食いついた。


「マンガにキャラグッズ……結構かさばるの」

「へー」


 最初に行くデパートで回る予定の店で買う可能性がある商品をミヤビはツラツラと思い浮かべる。


 夜に暗い部屋で火を灯してマンガを読む趣味をもっていることを知っているヒカリは驚くことなく平坦な相槌を打つ。


「売っているといいな」

「ホントに。早く出発したいわぁ」


 ミヤビの地元にも売っていたが、彼女が訪れたときには売り切れだった商品がある。今日行く店でお迎えできるか、楽しみにしている様子を悟ったレイジは応援しているとアピールする。


 彼女の言う通り、後一人来たら全員集合して出発だ。


「遅れたりしてないよね?」

「ああ。予定通り着く」


 千葉(ちば)春菜(ハルナ)は真面目で時間を守る人だ。普段なら一番最初に来る。だが今回はレイジやヒカリへの後ろめたさから彼らと待つ時間が生まれるのを避け、遅れない範囲で最後に着くことにした。


 仮に予定より遅れるとして、連絡をよこさない性格ではない。音沙汰なければ、予定通り着くと見てよい。



「やっぱり大きいね、この時計」

「壁が広いからな」


 鐘が鳴らないうちは静かだが、それでも存在感がある。間近から見上げると、一度見たことがあっても迫力を感じられる。


「あれに乗っていくのよねっ」

「そうだな。すぐ降りるけど」


 今度は頭上をモノレールが走る。デパートを満喫したら、それに乗って港へ移動だ。乗らずに徒歩でも行ける距離だが、そこからさらに歩くので、使える交通網は使う。


「あれハルナじゃない?」


 横断歩道の向こう側にハルナが立っていることにミヤビが気づいた。彼女をどれだけ黙らせられるかで今日の雰囲気が変わってくる。赤信号であるうちに、レイジは迎え撃つ準備に入った。

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