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オートセーブは深夜0時に+  作者: 夕凪の鐘
Episode111 マスターズエイト
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566話 追い風に乗って

 スポーツ複合施設の体育館に集まった、赤羽(あかばね)十四哉(トシヤ)と八人の同学年男女。


 館内にはサンドバッグや台座付き押しボタンスイッチ、バレーボールと録画機材がある。トシヤ以外の八人は、なぜこれらが用意されているかをまだ知らない。


 これは八人の勝負。お題やルールを決めたのは参加者ではないトシヤであり、公平に勝負するために情報は伏せてあるのだ。


 そして準備が整い、発表のときを迎えた。


「それじゃあ、S+ランク上位陣によるトーナメント戦、始めよう」


 八人の共通点は、“ノーツ”という特殊な能力が学年トップのS+ランクと評されており、その中でも上位グループに属すること。


 そして三門(みかど)玲司(レイジ)の故郷へ行ったことがないことだ。


「でもまずは、経緯を説明しないと。配信を見ている人のために」


 トシヤはルールの説明に入る前に、カメラに向かって話し出す。同学年の”ノーツ“持ち一同に、動画配信をしている。

 八人は経緯を知っているが、一部の視聴者は聞かされていない。そんな人たち向けの説明だ。


「例の事件の対策を練っていたとき、学年上位八人が揃っていることに気づいた。まあ、最近方針を変えて全員で取り掛かることにしたわけだが」


 来月中旬、彼ら含む同学年の”ノーツ“持ち大勢が犠牲になる事件が起こる。未然に防ぐ対策を立てていたが、そのことを敵に知られてしまった。

 対策の対策によって崩されることを恐れ、敵の拠点、レイジの故郷を訪問したことがある人は敵に”ノーツ“を知られているものと見做し、対策班から外した。


 そして残ったメンバーに、学年トップ八が揃っていたのが勝負の発端。しかし今は敵との結託にプランを移し、全員で取り組むことになっている。


「ならこの八人でトーナメント対決をしようってなって、部外者の俺が内容を決めた」


 トシヤは上位ではないがS+ランクの一員でリーダーを務めている。勝負の方向性や会場設営まで、彼が中心となって進めてきた。


「以上が今日の勝負の背景だ。それじゃあいよいよ、選手たちにルール、組み合わせの順に発表する」


 そしてトシヤはスクリーンに資料を映し、選手と視聴者に説明を始めた。



「その名もショットガンタックル。スイッチを押すとこのボールが降ってきて、サンドバッグに当たる」


 トシヤは実演してみせた。台座の上のボタンを押すと、天井からボールが打ち出される。およそ一秒後、サンドバッグにヒットした。


「ボールを当てないように、サンドバッグを動かす。ただし、ボタンを押してから動かすこと」

「ん? ボールを弾くんじゃねえの?」


 テレビで観るショットガンタッチは、サンドバッグを使わずボールを触りに走るもの。だが今回の勝負では、ボール側を動かすのは禁止としている。本来の目的にとって無意味だからだ。


「それは目的を考慮して、望ましくない。光の筋の直撃を回避する力を見定めるわけだからな」

「ああ、ボールは弾くことができても光を遮ることはできないから、評価にならないってことね」


 叩くだけでボールは動かせる。だがそのやり方で光を防ぐことはできない。レイジを狙って降ってくる光に当てない案を出すことが目的の勝負ゆえに、求められている技能とは違う。


「先日追加で告知した方針、それは、レイジに目の力を使わせて使い果たしたところに降ってくる赤い光が射してきて、力が補充されることを防ぐというもの」


 レイジの目に宿る悪夢の瞳。それが敵の狙い。その力が失われれば、襲撃の動機はなくなる。だから彼に力を使わせて空っぽにしたいが、目から血が溢れるあたりで光が空から降ってきて力を蓄積させてしまう。


 それを阻止するために、光が降ってきたらレイジを突き飛ばすなりして被弾を防ぐ。その計画のプロトタイプの役割を担うのが、今回の勝負。


「つまりサンドバッグを三門に見立てて、突き飛ばすだけの力が必要ってわけね」

「そういうこと」


 ボールを弾いてヒットを防ぐのは禁止という理由を伝えたところで、勝利条件の説明に入る。



「お互いボールを落とすか一分経ったら次のセットに移行。自分だけ成功すれば一点」


 次は進め方の話。ボールの射出はお互いに一回ずつ。一人がサンドバッグの回避に成功しもう一人が失敗すれば、勝ち点を加算。だがそれで勝利が決まるとは限らない。


「ただしハンデをつける。マッチングにおける序列下位は一点取れば勝ちに対し、上位は三点を取って勝ち」

「ハンデ……」

「それがないと、順当に上位が勝ち上がるかもしれない」


 この八人にはすでに序列が存在している。対等な勝負では、より高い方が勝つ可能性があり、最悪一位が優勝することだってあり得る。


「それに何か問題が?」

「順当だと面白くないだろ? ちなみに景品はないから」


 あくまでもアイディア収集のための催しであり、負けても勝っても損得はない。だから誰が勝つか予想しずらくなるよう、下位を優位にする条件を足してみた。


「でも皆観てるから、上位の威厳を保つためにも本気で挑むのを勧めるが」


 勝敗の結果は残る。ハンデをつけたからだとか勝つ旨味がないとか都合よく理由をつけても、評価は落ちかねない。トシヤは釘を刺すと、ついに組み合わせの発表に移った。



「さて、いよいよトーナメント表の公開だ。組み方は一般的なもので、以下の三点を満たすようにしている」


 トシヤは資料に表示した以下の箇条書きのルールを音読する。


 序列上位は分散させる

 序列上位は下位と勝負

 序列上位は出番を後にする


 結果、6位vs3位、7位vs 2位、5位vs4位、8位vs1位の順となった。なお表には順位でなく選手名が記載されている。


「以上で説明は終わり。一回戦は五分後に開始する。皆、準備しておくように」


 カメラの移動と配信の切り替えの時間を作戦会議に割り当てて、勝負の説明を終えた。



「トウイと当たるのは決勝か」


 清澄(きよすみ)祈聖(ノエル)はトーナメント表を見て、住吉(すみよし)透依(トウイ)と勝負する可能性があるのは決勝戦になることに気づき、宣戦布告をする。


「それまで負けるんじゃねえぞ」

「ふっ当然だ」


 言われたトウイも負ける気はない。彼らはかつて同級生であり、負けられない気持ちが他の相手より強い。


「定番だねー、こういうの」

「ええ」


 二人が火花を散らしている様子は、傍から見ても盛り上がる光景だ。


「7位と8位のって意気込みって見えると途端に冷めるけどね」


 さも優勝候補同士の掛け合いに見えて、二人はドベコンビ。一回戦負け濃厚なのだ。



「何してるの?」

「どれくらい重いのかなって」


 6位の錦糸(きんし)郁爽(イクサ)は、第一試合の準備を始めたかのように見せかけてサンドバッグの前に移動していた。

 そして“ノーツ”を使い背中に十字の物質を生やし、回転させた風で押そうとしている。


「これは50kgだ」

「50kg? 三門さんそんなに軽いの?」


 サンドバッグが気になるイクサに、トシヤは重量を伝える。一般的な重量ではあるが、勝負の目的を考慮するとレイジと同じ重さの方がいいのではと疑問が挙がる。


「重心的に、同じ重さでも人の方が倒しやすいこと考えると、これくらい軽い方がイメージに近い」


 人は簡単に動かせるので、軽いサンドバッグで代用する方が合理的。トシヤはそう説明すると、誰も異論はなかった。


「駄目だ、びくともしない」


 物質を背中から外して竹刀のように持って叩いても、全然動かない。どうやって勝とうか困り出すイクサに、勝負前に手の内を見せていいのかと内心で呆れられる。だがライバルが自滅してくれる方が好都合であり、誰も指摘しなかった。



 そんなイクサの相手は、3位の津田沼(つだぬま)浪郁(ナミカ)

 出番が最初と告げられて、彼女としては、できれば他の人を見てからが良かったのが本心だった。


 だがルールに文句を言っても仕方がない。これまでの経験を活かすのみだと自分を鼓舞し、開始位置に着いた。


 そして下調べを終えたイクサもスタートラインに立つ。両者スタンバイしたところで、審判に就くトシヤが勝負開始の合図を出す。


 先に仕掛けたのはイクサ。スイッチへ向かって走りながら背中に十字の物質を創造し、右手に持った。

 そして振り回しつつ、進路をサンドバッグへ切り替える。スイッチは手でなく、物質の先端で押していた。


 手に持つことでリーチを伸ばし、ボールが着弾するまでの猶予を増やす。


 その動きを見たナミカは、イクサを見て“ノーツ”をコピーした。そして同じ物質を背中に出して回転させ、相手に向かい風を浴びせブレーキをかける。


 結果、イクサの手は間に合わなかった。これでこのセットの間、彼女は挑戦権を失う。妨害の必要がなくなったナミカは攻撃に転じ、物質を回転させて軽く跳躍、追い風に乗ってスイッチを押し、サンドバッグに体当たりしてボールの衝突を回避した。


 これでナミカは一点。あと二点で勝利だ。


「やりたいことそっくりやられたなー」

「これが私のスタイルだからね」


 イクサとしてはあと二点を取られる前に一点取ればいいので、まだ焦っていない。”ノーツ“をコピーされて返り討ちに遭うのも想定の範囲内だ。



 二セット目が始まり、再び先手を取るのはイクサ。だが今後はサンドバッグへ直行する。スイッチを押す前に動かすのはルール違反だから、他に意図がある。

 そう身構えるナミカを前にして、ノールックで物質をスイッチ目掛けて投げる。


 物質を所持していたから風に煽られた。その対策として、手離した状態で走っていく。


 だったらより強い風をぶつければいい。ナミカは回転の速度を上げて迎え撃とうとしたが、大きくカーブしたイクサの物質が、彼女に直撃する。


 相手がバランスを崩すことに懸けてトップギアを入れていたイクサは、そのままサンドバッグに激突する。


 だが感触がなかった。空気を切って、そのまま床に倒れ込む。



「……すり抜けた?」

「空振ってたぞ」


 イクサと周りでは見え方が違っていたことを知る。原因は幻視に騙されたことにある。


 ナミカは同時に二人までの”ノーツ“をコピーできる。それは対戦相手に限らず、この会場にいる人も含まれる。


 イクサはナミカの罠に気づいた。最初からサンドバッグが別の場所に見えるよう、幻覚を見せられていたのだ。


 その証拠に、降ってきたボールがサンドバッグが見えていた場所と違う所にある。


 しかし考察や反省をしている場合ではない。ナミカの妨害をしないとリーチがかかってしまう。イクサは急いで引き返し彼女の攻撃を阻止しにいくが、次元のゲートでワープする相手には追いつけなかった。


 三人目のコピー。だがこれは最初の二人どちらかのコピーを解除して成り立つもの。このときナミカの背中の物質は消えていた。


「ふぅ、間に合った」


 乗り換えずにイクサの”ノーツ“で加速していたら、練度の差で追いつかれていたかもしれない。二本先取していながらも、ナミカはギリギリの状態だった。



 次の一本で勝負が決まる。そして今度先に攻めたのはナミカ。リズムを崩されたイクサは物質を回すか所持するかで迷い、反応が遅れる。


 それを見ずに見逃さなかったナミカは、スイッチを連打する。通常、音は鳴らないが不規則な爆音が館内に響き渡る。畳み掛けられ怯む相手に追い討ちをかけるように、ナミカは勢いよく床を蹴って加速しサンドバッグに衝突する。


 だが退かすことはできなかった。反対側から突っ込んだイクサと押し合いになり、拮抗した結果、ボールがサンドバッグに当たってしまう。


 勝負がついたと思いきやまさかの踏ん張りに、会場が騒めく。これでイクサ視点、延長もしくは勝利のチャンス。

 急いでスイッチへ飛んでいき、ナミカも急いで追いかける。


 するとイクサは背中の物質を走る途中で切り離す。そしてナミカが物質を追い抜いた直後、一気に回転させて自分は進路を真横に変える。


 全速力で直進していたナミカに追い風を乗せ、制御を乱す。対応が間に合わないまま、彼女は壁に激突した。


 イクサは相手が動けないうちにスイッチを押し、サンドバッグにタックルする。“ノーツ”を使わない完全な力押しだが、ボールの回避には成功した。


「そこまで。1対2で錦糸の勝ち!」


 序列下位は一点を取れば勝ちなので、この瞬間、イクサの勝利を告げられる。勝って喜んだのも束の間、壁に突っ込ませてしまったナミカの元へ駆けつける。



「平気よ。やっぱり判断が遅いわね」


 ナミカは自力で立ち上がり、心配ないと答えた。敗因は咄嗟の対応が遅れたこと。コピー元はもっと機敏に動けているので、やりようはあった。


「さっきの切り離し、完全にやられたわ」


 そしてイクサの立ち回りを予測できなかったこと。想定外の追い風を受けたことで判断力を狂わされたのが根本的敗因と自覚するナミカは、率直に讃えた。



「初戦突破おめでとうございます。どうでしたか?」

「えっと、ナミカと初戦で当たったのはラッキーでした」


 トシヤによるインタビューが始まった。

 他の人の勝負を見ることは、コピーできるナミカにヒントを与えることになる。一回戦の第一試合という情報が全くないうちにマッチングしたのが最大の勝因だとイクサは語る。


「第一試合だから津田沼が負けるって予想はだいぶ挙がっていたぞ」


 配信中の映像を映しているパソコンを流れるコメントを見てノエルが呟く。視聴者はトーナメントの行方を考察したり感想を呟いたりして中継を満喫している。


「惜しくも初戦敗退ですが一言」

「優勝する気だったけど、一回戦から全部出し切ったよ。イクサの立ち回り、まるで毎回違う人とやってる感じした」


 ナミカは優勝を見据えて手の内を温存したうえでの負けなのではなく、全力を晒しての負けだと語る。その上で上回ったイクサを称賛し、彼女の勝負はここで終わった。

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