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オートセーブは深夜0時に+  作者: 夕凪の鐘
Episode109 レイジという男
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560話 苦しめられるから

 休みが明けて、三門(みかど)玲司(レイジ)は昼休みに一ノ宮(いちのみや)耀(ヒカリ)に声をかけた。


「二人きりで話をしたい。いいか?」


 ヒカリは女友達と雑談の最中で、それを遮ってまでして急いで伝えたいことではない。

 それ故の言い回しだが、人前では駄目ということから彼女は、すぐに聞いた方がいいと勘づいた。


「いや、別に後でもいい」

「いいよ」


 前触れなく立ち上がるヒカリにレイジは急かしているわけではないと弁明するが、彼女は断固として意思を変えない。


 そのまま二人は校舎の屋上へ続く階段へ移動し、誰にも気づかれていないのを確かめたレイジは話を切り出した。


「例の事件のことで、狙いは俺じゃなくヒカリなんだ」

「私? 初耳なんだけど」


 来月中旬、この高校で文化祭が開かれる。その日レイジの故郷から大勢が乗り込んできて、多くの知り合いが犠牲になる。そう予知されている未来の出来事を、関係者は例の事件と呼んでいる。


 襲撃の目的はレイジの抹殺。彼を庇った人が散り、その敵討ちに出てまた散って、被害が拡散する。だから狙いは彼のはずだが、実はヒカリと言われて彼女は困惑する。



「私、何かしたっけ? あなたの街には行ったことないけど」

「一年も付き合ってたのに、連れていかなくてごめん」


 ヒカリに心当たりはない。それはレイジに対する皮肉でもあった。実家へ招待したことがない、扱いの軽さを訴えている。


 別れた以上は謝ることしかできないが、今は話を進めなくてはならない。


「俺を苦しめるためにヒカリを狙っているんだ。ヒカリが死ぬ日を、永遠に繰り返して、精神的に追い詰める気なんだ」


 ヒカリには一度起こった出来事を繰り返す力がある。自覚がないが、もう一度今日を過ごしたいと願えばループという形で叶う。


 ループの都度ヒカリは命を落として、同じ日が来たことを大半の人は知らない。現時点ではレイジともう一人、他校の男子生徒だけだ。


「一体誰が、そんな計画を……」

「昔の俺だ」


 ヒカリはレイジが過去の世界へ行き過去の彼と遭遇したことを聞いている。心を読む“ノーツ”は幼い頃から持っており、ゆえにこちらが事件の勃発を読んでおり、対策を立てていたことを知られてしまった。


 過去の自分に知られたから、それが故郷全土に広まっている、と考えるのは些か過剰だとヒカリは思っていた。

 自分を殺す計画を阻止する動きがあることを打ち明けても、自分を追い込むだけで何のメリットもないからだ。


 だが最悪の事態を想定する方針に切り替えたことで、考えにくいことも想定して対策を練り直している。とはいえ本当にレイジが自分殺しを目的としていたなんて、信じ難い話だった。


「ガキの俺は俺を憎んだ。直接殺せないのなら心を壊す。そのためにお前を殺し、ループに閉じ込めようとして、襲撃を計画した」


 ヒカリの疑問に答えるように、レイジは経緯を語っていく。見た人の夢や願いを叶わなくさせる、もう一つの“ノーツ”。それを宿したがゆえに故郷では命を狙われ、その力ゆえに殺されない程度に生き長らえてきた。


 殺せないのなら幽閉すればいい。だから一日のループに陥れて、さらに精神を壊すために、ヒカリの死に延々と直面させる。


 そんなやり口を、自分自身がとっている。レイジはそう告げたのだった。


「俺は俺の心を壊すために、お前を利用する。何度やり直しても変えられない運命として、全力でお前をころ」

「もう止めて!」


 ヒカリはレイジの言いたいことが分かると、詳細に聞きたくないと叫ぶ。



「私にそんな力はない。そう伝えてよ!」

「伝えてなんかいない」


 ヒカリは自分に“ノーツ”がないと思わせれば計画は破綻すると考え、レイジに頼んだ。

 だが敵の原動力は彼女の力と関係ないと明かす。


「伝えてないって」

「言ったままだ。奴らはヒカリの“ノーツ”を知らずに殺してくる。それでも目的は果たせるわけだから」


 “ノーツ”の詳細を知らなくても、ヒカリを殺せれば一日ループする。レイジがよくやる、最低限の情報だけを開示させる手法だ。


「じゃあ私を狙う理由なんて」

「あるように見せかければいい」


 理由は正直に話さなくても、ヒカリを殺害するように仕向ければいい。それを達成するために、過去のレイジはある関係を利用した。


「俺の恋人であるお前を、最優先で殺せってな」


 恋人という立ち位置が襲われたら、心にダメージが入る。連中の矛先をヒカリへ集中させるのに、それは好都合な理由だ。


「なんでそうなるの!?」

「実態がどうであれ、付き合っていると思わせればやる気になるから」


 別れた身でありながら、関係が続いていると噂を流され命を狙われる羽目になって、ヒカリとしてはたまったものではない。


 それだけレイジの計画は非道だ。

 それはヒカリに限らず、自分自身にとっても。



「なんで、なんでそんなことしたの!」

「それが一番、俺を苦しめられるから」


 この場でヒカリの悲痛な訴えを受け止めるしかできない時点でレイジは心苦しい。だがそれ自体が過去の彼の狙いでもある。


 故郷公認のガールフレンド。そう表現すると響きは良い。だが実際は憎い相手を懲らしめるための生贄だ。


 その現実を伝えることも、その現実を作ったのが自分であることを伝えることも、レイジにとっては苦痛だ。だから適当な理由をつけてごまかして、誰も事実を知らないまま解決したかった。


 今までの彼なら、間違いなくそうしていた。


「……どうして話してくれたの?」


 打ち明けたらどうなるか、予測はついていたはずだ。ヒカリはレイジが何を考えているか読めるような特殊能力はもっていないが、彼の表情からは、この状況は想定内だったように感じられる。


 こうして言い合いになるくらいなら黙っておくのがレイジのやり方だと思っていただけに、わざわざ話してきた理由を知りたくなる。


「俺が手出ししない方が、対策が成り立つ可能性は高い。でも、ヒカリが狙われていることは伝えておかないといけないって、考え直した」


 レイジに限らず、彼の故郷へ行ったことがある人は、敵に“ノーツ”を見られていると見做して対策から外された。人数は絞られたが、それでもなお十分な戦力を注いでいる。


 それでもヒカリが狙われていることは対策想定されていない。この情報を連携すれば、より確実になると、レイジは先週末の集まりで考えを改めた。


「確かに、レイジの護衛を中心に話を進めているから」

「ヒカリが休んでいるうちに襲撃されると危ない」


 当日は当番制でレイジのボディーガードや周囲の見回りを行う想定。一方ヒカリは文化祭の役員という普通の人に戻る時間があり、敵としては好都合。


 客をもてなしていたらいきなり斬られたり、炎を浴びせられてしまうかもしれないのだ。



「俺の話を皆に伝えるかはヒカリの自由だ。けど俺はお前の力になりたい」


 この話をヒカリが誰にも伝えなければ、今まで通り対策は進んでレイジたちは関与を許されない。


 彼としては、ヒカリが犠牲にならないように力になりたい。その思いを込めて、すべて打ち明けた。


「話したら、どうなると思う?」

「バッシングの嵐だろうな。俺は皆に責められる」

「……それは嫌だよ」


 自分同士の争いに命を巻き込まれた最大の被害者。そんな立場でありながら、ヒカリはレイジを気遣った。


 報告するにしても、どうにかして彼への批判をなくしたい。それができないのなら黙っておくつもりでいる。


「こんな俺を憐む必要はないんだぜ」


 いっそのこと逆ギレしてぶちまけてもらった方が、レイジとしてはスッキリする。完全に悪いのは自分。同情を願える立場ではない。


「だったら話すかを私に委ねないで」

「ごもっともだ」


 同情が要らないと本気で思っているのなら、自白したことを周知するよう素直に頼めばいい話。そうしなかったのは、心の奥で甘えていたにちがいない。


 ヒカリに指摘されてレイジは返す言葉がなかった。



「……ねぇ、思いついたんだ」

「分かるよ」


 ヒカリはレイジから聞かされた真実に対する解決策が、ふと閃いた。その詳細を語るまでもなく、読心術を持つ彼にも伝わっている。


 けれども彼女はあえて言葉に出した。会話のキャッチボールを通じて、レイジから言質を取るために。


「私がずっとそばに居れば、ついでに守れるよね?」

「今まで通りのやり方でも、俺の近くにいるだけで、安全圏をキープできる」


 現状レイジは敵のターゲットと見做され周囲の警戒レベルは最高に引き上げられている。狙われて一番危険であり、護衛されて一番安全。

 相反する二つの性質を持つゾーンだが、離れて護衛されていない場所にいるよりは、よっぽど安全と考えられるのだ。


「でも絶対言われるぞ。危険だから離れるように」

「だから何? 私とレイジは」


 ヒカリはわざと言わせてくる。くっついていても関係ない、むしろそれが自然と言える関係に、なってしまえばいいということを。


「恋人だから」

「……言ったね。じゃあ」


 ヒカリは徐にレイジと腕を組む。そして体重を預け、頭をこすりつけてくる。


 周りから見たら間違いなく恋人に見える。まさにそれがヒカリの狙いだ。そばに居て当然の相手。そう認識されるために、とはいえ演技でもない。



「お前は……ユウガと付き合っているんじゃなかったか」


 レイジはヒカリの腕を押さえ、歩みを止める。そして恋人として振る舞うに至り最大の障壁である現実を突きつけた。


「そんな奴フってしまえばいいし」


 ヒカリは冷静で冷徹だった。レイジと別れた後に他の男子と付き合ったのは、彼を焚きつけるための手段の一つに過ぎない。

 第一向こうから言い寄ってきたわけで、突き放すことに躊躇いはない。


 事件を防ぐという目的がある以上、レイジと復縁した方が良いのは彼にも否めない。加えて向こうもヒカリの相手は疲れ、関係を終わらせてほしいと思っている。


 利害の一致を鑑みた結果、ヒカリの案は妥当だ。けれどもレイジは、心のどこかで引っかかっていた。


「でも俺は、ヒカリが好きだと証明できていない」


 別れた理由の一つに、レイジが本当に好きな相手を隠していたことがある。

 話したところでお互いに得をしないし、事実、他のカップルもお互い本当に好きな相手が別に居ることを隠していることがあるし、その相手と自分が結ばれることはないから、合理的な妥協だと納得している。


 それでもレイジが他人と違う所がある。それは好きで付き合ったわけではないことだ。


「そうだよね。幼なじみのあの子じゃなくて私を選んでくれる理由」


 本命を諦めてヒカリを恋人にしたいと願う理由。それを伝えることが、彼女からの挑戦だった。


「ヒカリなら、俺を受け入れてくれると思った」


 たったそれだけの理由だ。性格やルックス、好みの異性たらしめる要素を満たそうとすると欲が出て、理想の相手は自分に見向きもしない。

 だから相手の願いを基準に選ぶ。レイジとなら付き合ってもいいと思ってくれている人、それがヒカリだった。彼女がどれだけ好みと違っていても構わなかった。


 その思考のせいでレイジは、ヒカリの良い所に自分で気づいたことがない。



「でも今はそれだけじゃない」


 だが今のレイジには武器がある。ヒカリが他の男子の前に出るようになって、彼らが感じた彼女の魅力を、さも自分で気づいたかのように伝えることで説得できる。


「実力差を努力の積み重ねで覆す根性と勝負強さ、それを表に出さないから普通に優秀に見えるギャップ。でも感情的で人を振り回す、困る奴だけど面白い。あと人によって態度を変えない正直なところとか、ヒカリの良い所、いっぱい知った」


 欠点さえ長所に思える異質な魅力も含めてヒカリらしさを感じる。つぎはぎにワッと浴びせたレイジは、これが今の全部だとアピールし、返事を待つ。


「……そんなこと思ってたんだ」


 言葉を待つまでもない。ヒカリに伝わった時点で、返事はレイジに届いている。


「合格よ。またよろしくね」


 誠意として伝わった。かくしてレイジはヒカリと復縁した。それは例の事件のターゲットが彼女であることを隠したまま対策を講じるべく、偽りの標的の彼のそばにいる理由付けのための、歪な結託に過ぎないものだ。

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