555話 納得しかけていたのに
千葉春菜は、三門玲司へ行ったことがない同学年の“ノーツ”持ちを洗い出し、行ったことがない人だけで進めている計画とは無関係の裏の計画に、乗ってくれそうな人を探した。
表面上は、レイジの故郷へ行ったことがない、すなわち“ノーツ”を現地の人に見られている疑いがない人だけで、その故郷から乗り込んでくる連中を対処するという計画が進んでいる。
ハルナのように故郷の訪問経験がある人は関与を許されなくなってしまったわけで、その人たちで表向きの計画を邪魔しない範囲で、力になれるようアイディアを出すというわけだ。
最初に集まったメンバー、八王子漫芦はハルナが話しかける前に状況を察知し仲間になってくれた。そしてソゾロと相談しながら候補を探して迎えた週末、一堂に会して提案し、返事を聞く。
今日がその日だ。
「今回呼んだのはこの四人」
「あ、もう揃ってたんだ」
大まかな用件は各自ハルナまたはソゾロから聞いている。まず二人が聞きたいのは、あてにした四人、秋葉原秋杜、田町夢魔、汐留零華、そして三鷹晴空の四人の意見だ。
「例の事件のことで、渡航歴のある私たちはメンバーから外されたけど、何もしないわけにはいかない」
「私も同感だ」
食い気味に答えてきたのはアキト。彼はソゾロがスカウトした。
「同級生がほぼ全員頑張っているのに、何もせずにいられない」
「ほぼ?」
アキトは同級生が皆、レイジ救出の時点では“ノーツ”未覚醒。そのため多くは今も計画に参入できる。
周りが動いているなか自分だけジッとしているわけにいかないというのがアキトの意思だが、他にも動かない人がいるかのような言い回しにハルナは疑問を持った。
「あのときまだ“ノーツ”なかったでしょ?」
「ああ。けど九段下はレイジの故郷へ行ったことがある」
レイジ奪還とは別に故郷に踏み入った出来事がある。その一員だったことから、九段下青美は参画資格を失いアキトと同じ立場にある。
「呼ばなかったのか?」
「誘ったんだけど、小学生のレイジに負けた自分が混ざっても足手纏いになるからって」
ユウマはS+ランクのアオミが居れば心強いと思ったがここに来ていないことに疑問を持ち、それにアキトが答える。
アオミは十年前近く前のレイジの故郷へタイムスリップして小学生の頃の彼と勝負し負けた。
当時の彼とは初めての手合わせだったにもかかわらず手の内を読まれきり敗北したことで手強さを実感し、計画の穴になりたくないと言って誘いを断られていた。
「アオミさんでも……ああ、そんなことありましたね」
「アイツの分まで私が果たす」
その現場に居合わせていたレイカは、勝負の流れを思い出す。アキトも同様であり、アオミが味わった悔しさを晴らすためにも自分は役目を果たすと誓う。
「ランクが高い奴がいないのは不安だけど、力を合わせればより大きくなる」
ユウマは序列上位の参入が望めないのを実感しつつも、協力して彼らに匹敵する力を発揮できることを期待している。
「俺もやるぜ」
「ありがとう、よろしくね」
結論として、アキトとユウマの返事はオーケー。ハルナたちに協力することとなった。
「私もアキトさんと同じで、一人だけ何もできないのは嫌でした。実際はアオミさんも居たので立場は違ったようですが」
レイカも同級生で唯一参加資格を失っており、自分にできることを探していたところでハルナに声をかけられたので、前向きに検討していた。そして他の二人も乗り気というので、もう断る理由はない。
「なかなか三門玲司の因縁から逃れられないものですね」
「お前も幼なじみなのか?」
「いえ、そういうわけではなく」
レイカは“ノーツ”が目覚めてから何かとレイジに絡まれることがあった。当時も今も彼のことはよく思っていないが、自分が彼を更生させてあげなくてはという気持ちも大きく、裏の計画に加担すると答えた。
事情を知らないユウマはレイカがレイジと昔からの付き合いなのかと聞いたが、そうではないと告げられて、ややこしいと察したので追求はしなかった。
「私もユウマ君ほどじゃないけど付き合い長いし、力になりたいな」
セイラはユウマと出身が同じで、彼は一度レイジの故郷へ引っ越してからこの島へ来ている。その彼と比べたら劣るも、小学生の頃からレイジとは面識があり、ここに来てからも彼とはこの喫茶店のバイト仲間だったりと他校生の割に関わりが深く、思い入れがあることから参加には意欲的だ。
結果として四人とも、返事はイエス。これでハルナたちには四人の仲間が加わった。
「それで、これからもっと集めるのか?」
「そうね、どんどん集めてくれると嬉しい」
今いるメンバーで具体的な計画を練るよりも増えた人手でさらに募った方が、アイディアの幅が広がり結果的に早く策を立てられる可能性がある。
人員を増やすと決まってまず浮かんだのが、レイジ近辺の人だ。
「ソゾロ、一ノ宮は呼んでないのか」
「アイツは向こうにつく。三門の故郷に行ったことはないからな」
ソゾロなら真っ先に一ノ宮耀に声をかけていただろうに不思議だと呟くユウマに、誘おうにも誘えなかったと告げる。
ヒカリはレイジが拉致されたとき入院していたので、敵に“ノーツ”を見せていない。
「あくまでも裏の計画だから、表に出られる人はナシ」
ハルナは勧誘の注意点を付け足した。レイカとしてはヒカリが参加資格を持っていることが気になっていた。
「あれだけ付き合っていたのに実家にお招きしたことがない、と」
「ああ」
「相変わらずよく自信もって言えるよな」
ソゾロが知らないだけでヒカリはレイジの故郷へ行ったことがあるかもしれないが、彼はその疑いはないと断言した。ストーキングして得た情報を堂々と発言できるその度胸にユウマは思わず引いていた。
「いや、俺が一ノ宮を見始める前にもしかしたら……」
「行ったことないって言ってたよ」
なおハルナはヒカリ本人からレイジの故郷へ行ってことはないと聞いており、ソゾロとしては先に言ってほしかったと内心で愚痴が溢れた。
「ところでレイジは? 呼んでないのか?」
「来ないで、とは言ってないけど、何も聞いてないわ」
裏の計画のメンバーに最適なのはレイジだが、ここにはいない。ハルナもソゾロも意図的に彼を弾いたつもりはなく、彼の動向を窺っている。
「俺たちの動きは見えているだろうけど」
「その点に関しては皆の意見も聞きたいかな」
レイジは人の心を読む“ノーツ”を持っているから、こちらから言わなくても状況を把握している。それで来ないということは二通り考えられる。
混ざりたくないか、迷っているか。
「レイジに手を貸してもらいたいかってことをか?」
「そう。多分ね、歓迎されないか様子見していると思うのよ」
ハルナはレイジの性格的に後者と推測しており、四人の心理次第では、気を使って顔を出さないと思っている。
「向こうはレイジを無視して進めている。私的にはレイジから情報を聞くのが確実と思うけど」
「絶対正直に言いませんよ」
「……そこなのよね」
敵の目的や規模など、レイジはすでにあらゆる情報を握っている。けれども彼は、それらを正しく明かしてこないと予測される。
伝えても相手にメリットがないと判断すれば、気づかれるまで黙っていたり、嘘をついてごまかしたりする。そしてそれを保身のためでなく相手のためと言い張る。
「厳しいな、汐留は」
「好きな人がいるのを隠してお付き合いするような人なのだから当然の評価です」
前例としてレイジはヒカリと交際をしていたが、実は本命の相手がいたことを黙っていた。
それを原因の一つとして別れていると聞いているレイカは彼を最低と評している。
アキトはどうにかレイジをフォローしたかったが、ヒカリとの拗れ具合を見るに、どうしようもなかった。
「確かにあのせいで一ノ宮はグレたけど」
「一応アキトとも付き合っているんだっけ?」
「違うけど、どんな噂流れているんだ!?」
ヒカリはレイジを試し始めた。本命の相手がいて、その相手は彼が好きだと聞いて、なおも自分のことを大事に思ってくれているのなら、他の男子と接触する自分を引き戻してくれるはずだと。
アキトはヒカリと付き合い始めた友達に巻き込まれて休日時々彼女と会うようになったが、彼女は一度に複数の異性と会っているだけで二股をかけているわけではない。
変な誤解が広まっているのではないかアキトは不安に思い、少なくともこの場では誤解を解きたいと思った。
「確かに一ノ宮は私たちと遊ぶようになったが疾しいことはしていない」
「遊ぶ……」
「違う、変な意味はないっ」
二股疑惑を抱いてからの遊びというワードから、レイカは如何わしいモノを想像し、アキトに幻滅した。
実際は買い物をしたり愚痴を聞いたりするだけの仲であり、欲を満たすだけの関係では断じてない。
「あー、レイジが早く連れ戻してくれれば」
「忙しくて付き合ってられないそうよ」
ハルナもヒカリから相談を受けており、レイジがなかなか復縁の兆しを見せてくれないと嘆きを聞いて彼に話をした。
だが拒否され、理由はヒカリを狙う人を未遂に抑えるので手一杯だということ、ヒカリを説得する方法が分からないことの二つを聞いている。
「バイト辞めたのも忙しくなるからって言ってたね」
「へー、辞めてたんだ」
レイジが多忙だという話はセイラも耳にしており、いつの間にかここのアルバイトを終わりにしていたことは、ユウマは初耳だった。
彼らは高校三年生。大学受験に備えて勉強に専念したい時期だ。けれどもレイジなら焦らなくてもいいのに、とユウマはふと思った。
「いや、レイジは合格余裕だろ」
「私もそう思ったけど、自分だけ余裕こいていると顰蹙買うからって」
他の受験者の心を読みながら解けば全問正解も夢ではないレイジが勉強をする必要はないと感じるユウマに対する答えは、たとえ事実でも、周りが必死こいている中で余裕の態度をとるのは失礼だからというものだ。
「まあ本当は便乗しただけだろうけど」
「何だよ、せっかく納得しかけてたのに」
だが本音は別のところにあるとセイラは疑っている。片道二時間以上かけて来るのが面倒になったとか、入りたい人がいたから抜けたとか、隠している本心があるように思えていた。
だが正直に話しても印象が悪いので、黙っておくのは合理的だと解釈し、探る真似はしていない。
「本音を漏らすコーヒーを飲ませてみたら?」
「バレるから無駄よ」
魔法で本音を吐かせてみる案もあったが、工作自体が見透かされてしまうので失敗に終わると、やる前から諦めていた。
「それ、良いアイディアかもしれません」
「え?」
レイカは今の話を聞いて、本音を言うドリンクをなんとかしてレイジに飲ませ、例の事件に関して洗いざらい吐いてもらおうと考えた。
「題してロシアンルーレット」
レイカは七つのコーヒーカップを用意してもらうと流れを説明した。
「この中に一つだけアタリを入れて回します。皆さんも知られたくない秘密があるでしょう」
「それはレイジ以外の誰かがとばっちりを受けるだけでは?」
完全にシャッフルして誰の記憶にも魔法のカップが残らなければ、七分の一の確率でレイジに飲ませることができる。
レイジ以外の全員に見分けがつくようにしていても、カラクリは読まれてしまい意味を成さない。
「そうです。ですが、私たちを守るためにわざと飲んでくれるはず。期待しておけばいいんです」
他人を犠牲にしたくない思いから捨て身の姿勢で挑む。そう期待しておけば、レイジは裏切るに裏切れなくなりアタリを引かせに誘導できる。それがレイカのアイディアだ。
「君はレイジを芸人だと思っていないか?」
期待に応えるために体を張るなんて、そのうえ自分にデメリットしかない状況でレイジがこちらの思惑通りの行動をとるとは到底思えなかった。
とはいえボツにしようとはせず、ものは試しに彼を呼んでみた。




