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オートセーブは深夜0時に+  作者: 夕凪の鐘
Episode107 取り戻す力
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548話 秀才の思考

 補習が終わった。三門(みかど)玲司(レイジ)上原(うえはら)千聖(セイン)は、授業をサボった罰として受けた。坂上(さかうえ)未来(ミライ)は呼ばれていないが、二人を探すために黙って教室を出たことを反省し自主参加した。

 三人は皆より一時間遅れての下校となり、帰り支度を始める。


「意外ね。もっと苦戦していると思ったのに」


 ミライはレイジが涼しげな顔をしていることに驚いていた。クラスが違う三人は、別々の課題を出されていた。つまりカンニングはできないので、彼が持つ力、独身術が機能しない。

 そのためレイジは自力で解かねばならない。普段は周りの心の声を聞いて得た答えを書けばいいのだが、自分しか取り掛かっていないとなると、そうもいかない。


「課題の内容は事前に把握しておいたからな」

「なるほどね」


 レイジは自分の弱点を理解していた。いつも通りの授業の感覚で臨めば、あてにできる人がいなくて慌ててしまう。


 だから補習が決まった時点で、どんな問題を用意されているか探っておいた。補習のための予習。そのおかげでレイジは難なく乗り越えたのだった。


「帰るの?」

「そうだな。残る理由はないけど、急ぐこともないし」


 質問にいく課題はないので、真っ直ぐ帰路へつく。しかし今すぐ出たところで駅で待つので、急ぐ必要はない。


「あなたは? 飛べば待たずに帰れるわよ」


 ミライはセインに尋ねる。彼女の“ノーツ”は自身に翼を生やせるので、交通機関を気にせず行動できる。


 ミライはセインと同じ方面だが、一緒に帰る気はまったくなかった。それはお互い距離感をとっているだけで、明確に仲が悪いわけではない。



「空に浮かぶイレギュラーな星々が、頭の銀河を拍動する」

「なんて?」


 飛んで帰るのかという質問に対する返答とは到底思えないセインの返しに、ミライは思わず素が出てしまう。


 ミライの口調や態度をセインは気に留めなかったが、それは気にする余裕がなかったからだ。


 セインは今、焦っていないが混乱はしている。補習で解いた課題の内容が、いまいち頭に入っていない。一通り解いて時間になったら提出して帰宅の許可が降りたもので、合点がいっていない問題があった。


「悪い。セインは聞きたいことあるみたいだ」


 レイジはミライの質問にいつでも帰れると答えてしまっており、セインの本心に気づいていながら無視していた。


 素直に話していたら、ミライがセインのことを煽るのではないかと思ってしまったからだ。


 レイジとミライが帰ろうとしたところで、セインは自分だけ残ると理由は伏せて伝えてくれていたら、嘘をつく必要はなかった。

 だがセインは自分の意思を押し殺し、二人についてきてしまっていた。けれども明日質問しにいこうなどと思い切ることができず、引き返したい気持ちと板挟みになっているのだ。


「じゃあ戻ればいいんじゃない? 私たちは先に帰る」


 ミライは素っ気なくものの無難な返事をした。レイジの不安は杞憂に終わり安堵したものの、彼とは別行動させるよう釘を刺す余計な情報には肝を冷やした。


「まあ授業サボっておいて、分からないなんて言いづらいよな」


 レイジはセインに同情の声をかけた。補習を受けることになったのは、彼が冗談半分で誘ったのがきっかけ。そんな立場であるわけで、放っておくことはできなかった。


「大丈夫よ。怒られたりしないわ」


 ミライは葛藤するセインを後押しした。授業に遅れたことについて、叱られはしたが怒られてはいない。きっちり補習をこなしたので、もう過ぎた話と捉えられている。

 感情は鼓動を聞けば分かる。ミライは教師の感情を察知し、セインの恐れる事態にはならないと確信した。



 セインはレイジに視線を移し、彼が頷くのを目撃する。そして決心し、質問しに校舎へと戻っていった。


「大丈夫そうだな」

「ええ。帰りましょう」


 レイジはミライの心情を読み取る。セインの望みを叶えることができたことへの達成感と同時に、邪魔者を排除したことへの優越感で、ドロドロになっていた。


「で、なんであんなことしたわけ?」


 レイジは授業に遅れた理由を聞かれたとき、セインの宿題が終わっていなかったからだと答えていたが、ミライはそれが嘘だと見抜いている。

 しかし彼のためを思い、嘘だとバラしはしなかった。だが今は誰にも聞かれていない。本当の理由を聞き出すチャンスと思い踏み込んだのだった。


「あいつ、昔の強さを取り戻せない俺を見限って、俺の分まで強くなるって言い張るんだ」

「見限って?」


 レイジが失った度胸を自力で取り戻せずにいる。だから代わりセインが彼の分をカバーする。そうすることで、二度と彼を酷い目に遭わせない。

 過去へ行ったことを内緒にしておこうとするべく、レイジの説明は色々と端折ったものとなった。


 その結果ミライは誤解する。兄の事故死をきっかけに高所恐怖症になった、精神的ショックによる弱点の発覚を欠点と見做しているかのような言い回しから、セインへ嫌悪感を抱く。


「いや、見下してるとかそういうことじゃなくて……協力して勝負するとき、前までのようにいかないからさ」


 レイジはミライとセインが対立することにならないよう、少しずつ情報を出していく。二人で昔の彼と戦ったことが発端なのは事実であり、嘘は言っていない。


 それに今後、共闘する機会はある。少なくとも九月の体育祭では同じチーム。連携して他校生と競い合うわけで、連携を高めておくのは何ら不思議ではない。


「そういうことね。あなたの弱点をあの子がカバーするために」

「ああ。だから牽制しなくていい」


 ミライは最近、セインとレイジの距離が近いのを疑っていた。校内ではほとんど関わりがなかった二人が、今年度になって一緒に過ごす時間が増えている。

 ゆえにマークしていたが、ミライが思っているような意図はないと、そこは正直にレイジは話す。



「分からなかった問題は俺が教えたかった。けどお前に警戒されていて言い出せなかった」


 セインはレイジに教わりたいと思っていたわけではない。それはきっと言い出せる雰囲気でなかったから、思いつけなかったからだと彼は予測する。


 だから彼から言い出せばよかったのだが、恋敵になると睨んでいるミライの前では言い出せなかった。

 だがそんな言い訳をする彼に、ミライは思い上がりだと指摘する。


「それはないと思うわ。あなた、自分ので精一杯だったでしょ」


 レイジには、教えてあげられるだけの力はない。そうミライは言い放つ。


「上原さんで悩むくらいなら、相当難問のはず」

「確かに、あいつのだけ格段に難しかったけど」

「私がいなければ教わりにきたとか、自惚れてるわ」


 もし教えると言い出せていたとしても、セインは拒否していただろう。そうミライは推測する。理由はひとえに、彼には教授するだけの実力は備わっていないからだ。


 自覚していないレイジの浅はかさを、彼女は見過ごせない。

 

 だがそれは責めているのではなく、弱さを受け入れ、人に頼るのを覚えろという叱咤激励だ。


「確かに秀才の思考をトレースすれば全能になれるでしょうね。でも所詮は人、限界がある」


 聞こえた心の声をリアルタイムでアウトプットする。その段階までなら実現できるレイジのことは認めている。


 だが得た情報を理解し、時間が経ってから自力で伝達することができるかとなると話は変わってくる。一度得た情報は忘れないとか、超人染みた能力は持っていないのだから、実現できない方が自然だ。


 それは別に悪くない。だができもしないことをできる気でいて認めないのは悪いことで、改めてもらいたいのがミライの本心。


 どのように、というのはミライの中で決まっている。


「セインの分の予習を手伝ってくれと頼めってことだろ?」

「そう。それなら私でもできるでしょう」


 かといってミライにもそこまでの学力はないが、レイジがサーチした出題範囲を連携し、分担して教わりにいくことはできる。

 彼女が教わって得た情報はレイジにも共有されるから、効率よく予習できたというわけだ。


 結果論に過ぎないが、重要なことは一人で解決するのではなく、ミライに頼って協力して解決すること。その意識改革が、今後後悔しないことに繋がる。


 そこだけ聞くと、手を借りる相手は誰でもいいように思えるが、ミライはその相手に自分を選ぶよう強調している。そこは完全に彼女の意地だ。合理的かどうかより、自分を見てほしいという私欲の表れだ。


「俺のやり方は駄目みたいだからな。そうしてみるか」


 レイジは思い通りにいかないことに若干自信を失っていた。自分の思うベストは捨て、他人のアイディアに従う。最近の周りの人の本音を聞いて、それが正しいのだと受け止めるようになっていた。


「あなたくらいの自信家なら、いっそ極端に折れてみるのもいいかもね」


 ミライはレイジに対しここまで卑屈になれとは思っていなかった。だが彼のためになる可能性を信じ、その極端な割り切りを認めた。下手にフォローしても逆効果だと考え、あえて冷たい態度をとる。


 かといってそれで失敗したら自分のせいにされるのは困ると、心の声で告げておく。



 話がひと段落ついたところでミライは、セインの心境の変化に疑問を抱いた。恋愛感情もなしにレイジに対して独占欲と憧憬が混ざって混沌とした思いを向けるようになった背景は、ただ事とは思えない。


 そしてレイジは背景を知っているが、ミライには関係ないからと主張して打ち明けることはきっとない。だから自分が知り得ることはないと思い込んでいる。


 あれだけ言ってなお、レイジが信念を貫き、相手にとって不要と判断した情報は伏せておくスタンスを継続するというのならだ。



「あなたの分まで強くなる、その役目、私じゃ駄目かしら?」


 まだレイジの信頼は足りないと、ミライはさらに提案した。セインが今やろうとしている、彼の失った強みを得てカバーする、その役割を自分では果たせないか、彼に聞いてみた。


「確かにあなたと上原さんが組んで戦うのは強いけど、私もチームの一員よ」

「それはもう俺の代わりに二人でやるのと同じなんだ」


 セインとミライのやりたいことは、どちらもレイジと自身の一人二役をこなすこと。目的であるセインとレイジの連携を成立させるのは、前者方式ならばセイン一人、後者だと彼女とミライ二人が必要となる。


「ミライはあいつと仲良くできるか?」


 前者はセインの負担が大きいが、後者は後者で懸念点がある。それはミライがセインと息を合わせられるかどうかだ。


 これについては双方に問題がある。セインは複雑な言葉を発し、ミライは孤高を好む。前提となるコミュニケーションが成り立たないのではとレイジは不安視しているのだ。


 だから彼は単刀直入に、本気で連携をとれる自信があるのかと尋ねる。

 その質問にミライは目を背けた。


「まあ、明日から話すようにしてみるわ」

「分かった。俺も協力する」


 少なからずやる気のある返事にレイジは納得し、サポートすると約束した。



 善は急げを体現するミライは翌朝、普段一緒に登校する同級生にしばらく別行動すると告げ、鼓動を聞いてセインの場所を特定して彼女と登校してきた。


「昨日の補習なんだけど、先に帰ってごめん。で、あの後どうだった?」


 二人だけでの通学。最初は昨日の補習を話題に挙げるミライ。置いて帰ってしまったことへ申し訳ないと告げつつ、どんな課題だったのかと話を振った。


「迷宮の闇に光あれ。小惑星ラグランジェの祖は閉区間にて増減の波を刻み、狭間を彷徨う人、三つ巴の平衡点L5の引き金となった人類の光に授けられし天地の名。導き出すロジックは見えた」


 セインは疑問が解決しており、嬉々として答えた。話せる相手が居なかったのもあり、テンションが高く、それでいて冷静なので恒例の厨二言語を乱発する。

 小惑星とか閉区間とかL5とか、ミライにとっては何の話か見当がつかない初耳ワードの畳み掛け。彼女の進路とは縁のない理工数学で扱う分野で、さらにセイン独自に言い換えた専門用語を浴びせたのだから無理もない。


 今回に関してはセインの癖がなかったところでミライには理解できないジャンルだったわけで、誰が悪いわけでもないが、一切フォローしてくれなかったことを理不尽に責められるレイジは反論することなく聞き入れた。

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