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オートセーブは深夜0時に+  作者: 夕凪の鐘
Episode107 取り戻す力
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547話 私がやる

「次は現代文。宿題は出てない」


 三門(みかど)玲司(レイジ)は教室へと戻る最中に、一ノ宮(いちのみや)耀(ヒカリ)の脳内からの質問に答える。


 レイジは声には出さなかったものの、そのやり方には不満を抱いていた。心を読む力があるから、声に出して質問してこなくても聞きたいことを読み取ることができる。


 しかし質問に答えるためには声に出す必要がある。今のやり取りは他人視点、いきなりレイジが喋ったように映る。突然の独り言で周りがひいているのも分かってしまうのだ。


「ありがとう、教えてくれて」

「……おう」


 しかしそんな不満は、感謝を声に出してくれたことで消えた。


 だがすぐに別の問題に直面してしまう。廊下で見かけた同級生、上原(うえはら)千聖(セイン)に気づかれてしまったということだ。


 セインはレイジを顔を見ると、しばし固まって我に返ると目を背ける。一瞬の挙動でありながら、ヒカリは目敏くレイジに問い出す。


「また上原さんに暴力を?」

「いや、そういうわけじゃない」


 わざわざ声に出さなくていいのに、聞いた周りに誤解をされそうな質問をするヒカリに、やっぱり黙って聞いてほしいとレイジは思い直す。


 セインがレイジを避けるのは先月にもあった。そのときは彼に蹴られ怪我しそうになったショックだと聞いていたが、真相を伝えてもう和解したものと思っていた。


 しかし彼女の挙動を見るに、また彼女にショックを与える出来事があったのかと疑う。レイジは真相を知っているが、それを正直に言うのはどうかと抵抗がある。



「先戻ってて。ちょっと話してくる」

「……はーい」


 レイジは荷物をヒカリに押しつけ、セインの元へ寄り道することにした。ヒカリは不満そうにしながらも彼に従い、自分の教室へ向かう。


「ちょっと話そう」


 廊下では人に聞かれてしまう。レイジは人気のない階段の踊り場へセインを連れ出し、説得を試みた。


「俺を見るとあの日を思い出すんだな」

「……うん」


 普通の口調になってしまうほど、セインの心は不安定だ。彼女は普段なら一般人には伝わらない難解な厨二病全開の喋り方を徹底するが、動揺すると何の特徴もない口調に変わる。


 そんな状況に陥っている原因は、レイジの身に起こった事件のフラッシュバックだ。


「あれは早く忘れることだ。時間が戻ったおかげで後遺症はないし」


 セインの心に刻まれた傷。それはレイジが惨たらしく襲われた光景。現場に居合わせて彼とともに戦っていたセインが、相手の攻撃に怯んでいる間にレイジは倒されてしまった。


 喉にナイフを刺される重傷を負ったレイジ。しかし駆けつけた仲間によって負傷する前の体まで巻き戻してもらい、事なきを得ている。


「でも私がちゃんとしていれば……あんな目に遭わせなくて済んだ」

「いや、顔にナイフ投げられたら誰だってビビるよ」


 レイジはセインが気負うことはないとフォローする。別に彼女のせいで怪我したとは考えていない。

 むしろ相手の狙いに気づいていながら守れなかった自分が悪いとさえ思っている。


 セインが自責の念に駆られていることは、その日のうちから分かっていた。帰り道も友達にモールへ行かないか誘われても断って一人で帰るほどに、引き摺っていたのを知っている。


 だが忘れてしまった方が良いとレイジは思っていた。


 一人で帰るときもレイジは気にかけず友達と別ルートで帰宅し、以降言及しなかった。


 大型連休が終わり高校で会う機会が増えても、そのうちセインは忘れるだろうと楽観し、特段気にかけてこなかった。


 だが二週間経った今もなおこの調子では、読みが外れたと考えた方が良い。そこでレイジはセインを呼んだのだ。


 もうセインが悩まなくてよくなるよう願って。



「……でも、今度はそうもいかないかもしれないでしょう」

「確かに都合よく治せるかは……」


 セインが本当に気にしているのは、今回の事件ではなく、似たことが起こった場合を想定して、レイジを助けられないのではと不安を抱えていることだ。

 そんな不安に対し、レイジは明確なフォローができなかった。現に彼を救ったアイテムは役目を終え消えている。もう一度探しにいかなくてはならず、その間に同じ目に遭わされたらアウトだ。


「……いや、あのときは石の力ありきでの行動だ。治せる手段のないときに、危ない橋は渡らない」


 そこでレイジは視点を変えた。何かあってからを考えるのではなく、何かが起こらないようにすればいい。


 傷を治す手段がないとき、あるときと同じような行動は取らない。安全第一で立ち回ることで解決するというわけだ。


「……それだと私は何をすればいい?」


 レイジの言う解決策を実践するのは、心が読める彼の方だ。“ノーツ”ありきの提案であり、セインには同じ芸当はできない。


「これは俺の問題だ」


 できることはないと告げることはない。レイジは自分の意識を変えれば事足りると考え、責務を果たすのは自分だけだと告げる。


「もう信じられないよ」


 セインはレイジが自力で解決すると宣言したのに対し、首を横に振った。


 以前もレイジの考えを受け入れ、彼の判断に任せていた。だが彼の思い通りの結果にならなかった。


 事件が起こったことも、その延長上にあったのかもしれないと感じる。



「高い所が怖くなったのもそのうち治すとか言って、今もまだ残っているんでしょう?」

「まあ想像以上に時間がかかっているのは否定できないが……」


 セインの言うように見込みが甘いという自覚はある。高所恐怖症なんて一時的なもの。元々飛び降りることに躊躇いがなかったわけだから、時間が経てば元通りになる。


 だから諦めたわけではない。確かに予想以上に克服は難航しているが、まだ打つ手はある。


「だから私がやる」


 そんなレイジに任せておかないと、セインは自分が実践する案を出す。それは彼女が彼の欠点をカバーするというものだった。


「私はあなたの分まで強くなる。失った強さは、私が補う」

「俺並みの度胸をつけるって言うんだな」


 本音はレイジに、飛び降りることを躊躇わない鋼の心臓を取り戻して欲しかった。けれどもきっと叶わない。そう達観したセインが辿り着いた結論は、自分が彼のようになることだった。


 今まで二人で組むときは、二人の“ノーツ”でお互いの欠点をカバーしてきた。セインがレイジを抱えて飛んで彼の機動力を補い、視野の広い彼が指示を出すことで動揺に弱い彼女を補い奇襲からの崩れを防ぐ。


 この連携が成り立たなくなってしまった。だから一人で二人分の役目を果たせるようになる。それがセインがレイジのためにできると考えた対策。


「やめておいた方がいい。心が壊れるぞ」


 レイジはセインの意図を理解したうえで、彼女の身を案じ、忠告する。協力しようという態度はまるで見せなかった。


「以上だ。戻るぞ」


 一方的に拒絶したレイジに対し、言い返したいことがあるのを彼は分かっている。だが話せば長くなり、次の授業に遅れてしまう。


「それとも一緒にサボるか?」


 レイジはセインの度胸を試した。本気でメンタルを強化したいのなら、叱られる行動くらいとれなくてはならない。


「……卒業できるのなら、悪いことの一度や二度、やり遂げてみせる」

「そうか。合格だ」


 セインが断ると想定して挑発したレイジだったが、彼女の覚悟を見せられ今さら引けなくなった。サボる気など毛頭なかったが、その気持ちに応えるために、逃避行を始めた。



 始業のチャイムが鳴り始める。今なら走って教室へ戻れば間に合う。だが二人は反対方面へ歩き続け、セーフになる可能性がゼロへと近づいていく。


 覚悟こそ見せたものの、セインの心臓はバクバクいっている。


 この時間はホームルームではなく、生徒が不在であることを教科担任は疑問に思わない。欠席ではないことをクラスメイトが告発しない限り、不審に思われない。


 加えて二人は別々のクラスなので、揃って居ないことに気づいている人も少ない。裏を返せば、ゼロではない。


「あーあ、電話だ」


 鼓動が聞こえる“ノーツ”を持つ同級生、坂上(さかうえ)未来(ミライ)からの着信でレイジのスマホが振動する。ミライには教室にいないこと、加えてセインといることがバレている。


 この電話はそれをアピールするためにかけられたものなのだ。


「出てしまっても構わない。向こうも授業中、応答できない」

「分かってるじゃん」


 しかしセインは動じず、本来の口調を少し取り戻すほど冷静に答えた。

 確かにバレたのはこちらの不利と言える要素だが、電話をかけられたからどうなるというわけでもない。


 ミライが電話をかけられたのは、かけるだけなら、授業中でもこっそりできるからに過ぎない。応答して通話を開始すると彼女も話さざるを得なくなり、周りにバレてしまう。


 要は、逆にミライが身動きとれなくなるのだ。


「げっ、出やがった」


 だがレイジの期待と裏腹にミライは電話に応じてきた。周りの視線を気にせずに、堂々と通話しながら教室を出ていくのが分かる。



 いきなり通話しながら教室を出て何事かと教師に呼び止められるミライ。しかし彼女は冷静に、ボイコットしている馬鹿二人を連れ戻しますと答え、鼓動を頼りに探り出す。ズル休みしているレイジとセインのクラスを伝えると、教師はそれらの教室を確認しにいった。


「逃げ回れば騒ぎになるな。戻ろう」


 叱られる行為に出て度胸試しをするのが目的であり、学校に反抗したいわけではない。抵抗すればさらに大事になり、良いことはない。騒ぎになる前に、投了を決意するレイジに、その判断は妥当と捉えたセインはついていく。


 そして素直に謝罪し、ちょっと悪いことをしてみたかったと動機を明かして、補習を受けることを条件に許しを得た。


 ミライも補習に参加すると名乗りを上げた。聞けば授業中に電話をかけたり黙って廊下へ出ていったのは問題行為だと反省し、自分も罰を受ける義務があると答える。


 教師たちはそれで納得したが、ミライが参加を表明した本当の理由をレイジは知っている。

 セインと二人きりにさせたくなかったからなのだ。



「遅かったね。トイレ?」

「いや、サボろうとしてた」


 教室に戻ったレイジは、ヒカリに遅れた理由を聞かれそう答えた。次の授業の内容も、宿題が出されていないことも把握していた彼がなぜズル休みをしようとしたのかは疑問に思う。


「宿題やってなかったわけじゃないよね?」

「そうだが」


 サボった理由があるのなら聞かせろと暗に訴えるヒカリに、レイジはしらを切ろうと徹底する。とはいえミライに聞かれたらあっさり暴露される予感がして、無駄な足掻きをしている感は否めない。


「上原さんと何かあったの?」


 授業の内容が関係なければ、次に疑わしいのは人間関係。ヒカリは直前にレイジがセインに会いにいっていたことを思い出し、彼女が関係しているのかと問い出した。


「あいつが宿題終わってないって言うから、手伝ってきた」

「なんだ、そんな理由だったの」


 レイジはまた嘘をついた。正直に話さなくてもヒカリが納得すればいいと捉えた結果、生み出した偽りの出来事。ヒカリとセインは特段親しくないので、後に二人が会話して嘘が気づかれる心配はない。


「わざとやらない奴のは手伝わねえよ」


 そしてヒカリが今度は自分が宿題を忘れレイジに協力してもらおうと企んでいるので、それは無駄な目論見だとあらかじめ釘を刺す。


 ヒカリは不満そうにして、自分で解くことにした。

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