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オートセーブは深夜0時に+  作者: 夕凪の鐘
Episode106 未来へのお土産
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545話 追いかけなくていいの?

 町屋(まちや)時多(トキタ)たちに逃げるように出ていかれ、話す時間が取れなかった三門(みかど)玲司(レイジ)は何事もなかったかのようにアルバイトを続行する。


「何をバタバタやっていたの?」

「誤解を解こうとしたつもりが、脅しのコールと勘違いされてしまってだな」


 喫茶店のオーナーの孫でレイジと同学年の三鷹(みたか)晴空(セイラ)は、さっきまで客として来ていたトキタたちが、突然飛び出すように帰っていったのを見て不審に思う。


 レイジは一連の流れを把握していた。


「脅し?」

「あの二人は、例の事件の黒幕を俺と疑って……誤解だと電話をかけたら、口封じに出る予告だと勘違いされた」

「直接言えば良かったのでは?」


 疑いを抱いた人に、突然電話をかけられたら身の危険を感じても仕方はないとセイラは思う。そうならないように、直接会ってくるべきだったのではないかと問いかける。


「ここに来ているのは秘密にしていたし」

「そうだったの?」


 電話をかけた理由は、自宅に居ると思い込ませるため。会議の場に居合わせていることは、トキタに内緒にしていた。


「急にバイトに戻ってきたのに?」

「無理に報告会に出なくていいって言われていたから、それは黙っていた」


 事件の攻略の鍵となりうるレイジだが、報告の内容的にトキタ一人で十分であり、レイジはここまで遠いからわざわざ出てこなくていいと告げられていた。


 だから遠出してきたことは黙っていた。来なくていいと言われていたから、来たことを伝えなくてもいいと判断したがゆえに。



「追いかけなくていいの?」


 店は空いているし、抜けても問題ないと考えるセイラは、誤解を解くなら早くした方が良いとレイジを暗に促す。


 どこへ行ったかは、心が読めるレイジには分かるので見失う心配はない。


「立て籠られて入れないからな」


 心を読む力があるがゆえに、追っても無駄だと分かっている。トキタたちが逃げ込んだ家は、鎖で縛られ入口を封鎖されている。


「でも、このままだと」

「……まあ、あながち誤解でもないから」


 だからといって行動しなければいつまでも誤解は解けないと心配するセイラに、いっそこのままでいいとレイジは返した。


 過去の自分が、今の自分を消すために故郷の人々を利用し、この島にいる大勢の知り合いを巻き込む大事件を起こす。


 そう考えれば丸く収まり、レイジが元凶ということで落ち着く。


 この話が広まって、白い目で見られる覚悟はできていた。



「……やめておこう」

「何を?」


 トキタたち二人が逃げた先、赤羽(あかばね)十四哉(トシヤ)の家で、トシヤはそう呟いた。


「レイジがあの事件の発端とか、とにかく深く関わっていることをだ」

 彼らから聞いた事件の元凶がレイジだという話を受けて、それを発表しない。そう決断した。


 その決断に至った理由は二つある。


「元凶がレイジだとしても他の奴だとしても、俺たちのやることは変わらない。なら、アイツ一人に責任を負わせるような話は流さない方がいい」


 この話はこの場にいる三人とレイジを含めた四人だけの秘密に留めておく。言いふらしてもメリットはないばかりか、逆にレイジの居心地が悪くなる。


「それにまだ手はある。レイジが今知っているすべてを読まれたのなら、これから案を出せばいい」


 そして昔のレイジに今の彼が知っている情報を読まれたからといって、詰んだわけではない。心が読める力の欠点、それは誰も知らないものを知ることはできないというもの。そこを突けば対抗できる。


「そうか。まだ思いついてない作戦で迎え撃てば、向こうの想定外」

「未知の作戦で挑めば、勝ち目はある」


 二人に納得してもらえたところで、トシヤは深く頷く。つまるところ、やることは今までと変わらない。



「ところで来ないな、アイツ」

「トシヤが鎖で塞いだからでしょ」


 慌てて逃げてきたわりに、レイジは追ってこない。確かに家の入り口はトシヤの“ノーツ“で封鎖しておいたが、彼なら抉じ開けてくるとも踏んでいたので、音沙汰ないことに疑問を抱いた。


「てっきり壁を登って窓から覗いてくるかと」

「鎖を足場に? さすがにそんな強引な」

「登れないと思う。高い所が駄目らしいし」


 封鎖するための鎖を逆手に取り、窓から覗いてくる。それが可能であったとしても、常識的に考えて実践はしないだろうと首を横に振られる。


 一方でトキタはトシヤの言う方法を実践してこない理由を、怖くてできないからではないかと呟いた。


 度胸があること人と言われたらまず名前が挙がるレイジに、怖くてできないことがあると言われ、二人は首を傾げる。


「それ本当か?」

「いや、俺も聞いた話だから……その様子だと二人も知らない感じか」


 トキタ自身も先日レイジと会ったときに初めて聞いた話であり、知らなかったのは自分だけでなかったことにホッとしつつも、弱みを言いふらさなければよかったと反省する。


「いいこと聞いた。今度勝負するとき利用しよ」

「それはズルいよ、トシ」


 トシヤは高い所が苦手だという情報を得たことで体育祭などで勝負する機会で活用しようと呟く。

 卑怯と言われようとも、秘密をお構いなしで暴いてくる輩が相手なのだから、これくらいしないとフェアじゃないと堂々とする。



「言わなきゃよかったな……」

「いや、むしろレイジが黙り過ぎなんだよ」


 トキタは口の軽さを見直す一方で、トシヤは黙っていたレイジに非があると考える。


「だってアイツ自分から話す気ないだろ。SNSでも全然喋らないし」

「相手に応じて開示する情報を絞るのが彼のスタンスだからな。良くも悪くも」


 口が固いの次元を超えてあまり共有しないのはレイジの悪い部分であることはトキタも共感した。高所恐怖症ももう少し先に言ってくれていたら、飛行機を追って飛んだときに彼に無理をさせることはなかったのだ。


「まあ不満なんて言わなくても聞こえているだろう。この話はおしまいだ」

「それもそうか」


 本人が居ないからといって好き放題言うことはできない。心を読む“ノーツ”を持つレイジには、全部筒抜けだ。


 口に出さない不満さえ知ってしまう彼の力を、不便なものだと感じ、愚痴タイムを終わりにした。



「いらっしゃいませ」

「一人で……本当に居た」


 一ノ宮(いちのみや)耀(ヒカリ)は喫茶店を訪れた。出迎えた店員には一人客だと伝えつつ店内を見渡し、レイジがアルバイトしている姿を見つけて、聞いた話は事実だったと呟いた。


「もしかして遥々来たの?」

「あ、いや……近くまで来てて」


 ヒカリはレイジのクラスメイトで、誤差の範囲で彼女の方が近いものの、ここまで来るには時間がかかる。

 辞めたと聞いていたアルバイトをやっていると聞いたのは家に居たときではなく、隣町で交際相手の男子生徒とその同級生と集まっていたとき。


 だが店へ来たのはヒカリ一人だ。


「だからもしものために財布は持っておくものだ。今回は奢るけど」


 レイジはヒカリが財布を持参してこなかったことも、そのことに気づいてくれるからなんとかしてくれると思って来たことも分かっている。だから追い返さず自分で金を出すと約束したが、今後はちゃんと持って出かけるよう忠告する。


 レイジは言ってみたことで、電子マネーしか持たずに出かけて映画の鑑賞代を前借りした自分のことは棚に上げていることに気づいた。だがそれを知っているのは当事者ただ一人でこの場にはいないので黙っておいた。


「電子マネーは使えるよ?」

「使うと足りなくなるんだよ」


 セイラは自慢するようにレジの機械を持ち上げたが、現金を持っていないことが問題なのではなく、最低限の所持金しか用意していないことが問題なのだとレイジは告げる。


 その点、自分は所持金自体は多目に用意していたと内心で弁明する。おかげで映画以外はある程度手を貸すことができていたわけなのだから。



 何はともあれ食い逃げになる心配はなくなったのでヒカリを席に案内する。


 奢りというのを意識せず平然と高いコーヒーを頼むヒカリに、レイジは苛立ちを隠してオーダーを承る。誰が彼女をここまで図々しくしたのかと内心の不満に、かつて付き合っていた自分だという答えが自ずと出て、怒りの矛先を向けられなくなった。



「どうして突然復帰したの?」

「トキタの報告会に同席して、終わったから、ついでに」

「ふーん」


 レイジは無難な理由だと考えて平然と嘘をつく。報告会があったのは事実だが、参加するつもりで来たのは違う。


 だが正直に、行かなくていいと言われていた報告会に顔を出して驚かせようとしてアルバイトをしていた、なんて話して納得してくれる保証はないので、ごまかさざるを得なかったのだ。


「他にいたなんて聞いてなかったけど」

「それはヒカリが気にしないと思ったからだろ」


 レイジが他の人と会っていたという話は聞かされていなかった。その理由を彼は理解している。

 他に誰がいようとも、彼がいると知った時点でヒカリの行動は決まっている。だからわざわざ言わなくていいと捉えられたからだ。


「話し方に感情が籠ってないね。ユウガはもっと笑って話すよ」

「そうか。前からだと思うが」


 レイジはヒカリの今の恋人関係の相手と比較されるも、今までと変えた気はないと伝えた。


「嘘ついているみたい」

「まあずっと嘘ついていたからな」


 本当に好きな相手は他にいたことを、言ってもメリットはないからと解釈しずっと黙って付き合っていたレイジは、ずっと前から嘘つきなのだと自虐する。


「私に来てほしくなかった?」

「割とな」


 不機嫌そうなレイジに原因は自分かと尋ねるヒカリ。そんな彼女にある質問を投げようと考えていた彼は、本音を聞き出すためにあえて機嫌を悪くさせてみた。


 そしてすかさず聞き出す。


「話は変わるが答えてくれ。もし俺が全部を敵に回したら、ヒカリは俺を庇ってくれるか?」

「……庇ってあげる」


 ヒカリは何を突然言い出すのかと困惑したが、わけを聞く前に質問に答える。その答えはレイジの望まない、イエスだった。



「また私何かやっちゃった?」


 ヒカリはレイジの質問の意図を冷静に探り、出した推測が当たっているか、声に出して彼の反応を見ることで確かめる。


 ヒカリはかつて、自分の“ノーツ”、一度起こった出来事を繰り返す力をレイジに悪用されていたと聞いた。都合の悪い出来事をなかったことにするために一日を繰り返し、運命を変える。その過程で彼女を殺害した。


 運命が変わった結果、ヒカリは死なずに済んで次の日を迎えた。だが私欲のために道具も同然の扱いをしたことに変わりはない。


 そんな目に遭ったことをSNSに拡散し、レイジの悪評を広げた。

 わざとではない。彼を追い詰めることによってその日をやり直させ、真相を確かめたかっただけ。だが結果的にレイジをつらい目に遭わせた。


 周りを敵に回したとしたら、それはきっと自分のせいでもある。そう思ったのだった。


「いや、ヒカリは何もしていない。さっきのは忘れてくれ」


 しかし今回の件に限っては、元凶は昔のレイジでありヒカリは無関係。レイジは今の質問を聞かなかったことにしてもらおうとする。


「じゃあ帰るね」


 手短に飲み干したヒカリはレイジに貰った紙幣で会計を済ませにいく。


「もう少しゆっくりしていけば?」

「いや、俺の金だから」


 セイラはせっかく来たのだからもっと満喫していかないかと提案するも、そうすると減るのは自分の手持ちだとレイジは指摘する。


 わざわざ遠くの喫茶店をアルバイトに選ぶくらい金銭面に余裕があるのだからケチなことを言わなくていいだろうにと思うセイラだったが、ヒカリは早く戻らないといけないと思い込んでいるので、その邪魔をさせないのが彼の目的だ。


 それだけヒカリのフォローができるレイジでも、彼女の本当の思い、この場で引き止めて欲しいという気持ちには、答えることはできなかった。

 ヒカリの方も、アルバイトの邪魔をしてはいけないと自分に言い聞かせて、振り返らず去っていった。

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