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オートセーブは深夜0時に+  作者: 夕凪の鐘
Episode106 未来へのお土産
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544話 未来への置き土産

「これが報告書」


 過去の世界から戻ってきて数日後、町屋(まちや)時多(トキタ)は現地で得られた情報と考察をA4用紙片面にまとめ上げた資料を、亀有(かめあり)阿等礼(アラレ)に見せた。


 待ち合わせ場所は、アラレの家の近くの喫茶店。トキタは時空を超えた旅の帰り道に友達にオススメされたコーヒーを飲みながら、未来に起こると予知されている同学年ほぼ全員が犠牲になる大事件への対策を練るチームの本陣、二千代高校に情報を提供する。


 トキタの学年において二千代高校は“ノーツ”という特殊な力を持つ生徒が最多であり、D以外の各ランクにバラけて所属している。

 だからそのうちの誰かに連携し、それを二千代高校のメンバーで共有すれば、情報を集約できる。


 同じランクの生徒誰かに報告することになっており、トキタは今回アラレを選んだ。

 アラレたち各ランクの代表は、メンバーから集めた情報を整理してリーダーの赤羽(あかばね)十四哉(トシヤ)に報告する、という流れになっている。

 この学年の“ノーツ”持ちは百人を超えたので、リーダーはいちいち報告を受けていてはキリがないから、このような手法となっている。


「軽く概要を」

「二点。一つ、俺たちの計画を相手に知られることはなかった。二つ、阻止……ってか運命はまだ変えられていない」


 大事件を起こしに島へ乗り込んでくる人たちの街へ行ってきたが、現地の人々に見つかり目的が知られたら、対策が意味を成さなくなってしまう。その心配はないというのが最初の報告。

 もう一つは、結果として悲惨な結末を曲げるには至っていない。


 その報告を受けたアラレは、自分で頼んだドリンクを一口啜る。


「まあバレなかったのは良かった。つーか、あの街に行ってきたのか」

「行ってしまった、が正しいな。時の石を使ったら、レイジの故郷の数年前に」


 タイムスリップをしたと聞いて耳を疑うアラレだったが、トキタにはその石を探知する“ノーツ”があることと、彼から貰った報告書の見出しの内容に目を向けて、それが事実なのだと受け止めた。



「その三門は来ていないのか?」

「ああ。遠いし、バイトも辞めたし」


 この喫茶店はかつて三門(みかど)玲司(レイジ)がアルバイトをしていた店。だが家から遠いこともあり、この報告会には来ていない。


「まあこの会話は聞こえているだろうし、スマホで尋ねてもいいと言ってた」

「そうか……相変わらず傍聴範囲が広いな」

「膨張?」


 レイジには心を読む“ノーツ”があり、生声の届かない距離からでも会話を聞き取れる。

 だが彼が思っていることを聞くには直接聞くしかないので、そこはスマホの力に頼るしかない。テーブルの上にスタンバイさせており、疑問が出たら通信機器の出番だ。


 一方コーヒーカップが手元にあることでトキタは熱膨張という別の熟語を連想したが、文脈から正しい意味に気づき、聞く方の「ボウチョウ」だと自己解決した。


「それにレイジも調査に行ってたし、内容は頭に入っている」

「本当だ。メンバーに名前が」


 故郷での調査にはレイジも参加していたので、これからトキタが報告することは彼も把握している。

 ゆえにレイジが同席していなくても問題ないのだ。



「というかこれ、かなり危険だったんじゃあ…… 誰かに言ってから出発したの?」

「いや、完全に事後報告ですね」


 時空を超える調査に出向くことは、実際に行くメンバーにしか伝えていない。一歩間違えば全員行方不明になっていた、危険な判断だった。


「一応、時空酔いの心配がない経験者を揃えてはおいたんだ」

「時空酔いとか初めて聞いたんだ」


 出掛けることを言い残しておかなくても大丈夫だろうと判断したのは、過去に同じようなイベントを経験した人だけでメンバーを構築していたから。帰れなくなることはないと安心していたからだ。


「それに言ったら止められるかもしれないってレイジが」

「まあ確実に議論になってただろうな」


 けれども何が起こるか分からないのがこの島だ。心配がないからといって黙って行くのは危ない。


 それが分かっていながら密行したのは、伝えていたら承諾してもらえずボツになる可能性が否めなかったからなのだ。


「これで三門を責めても、無事だったからいいじゃんって返されるんだよな」

「間違いない」


 結果オーライなら伝えておく必要はない。レイジがそういうスタンスなのは、前々から噂になるほどだ。


 彼は人の心を読めるばかりに、誰よりも多くの情報を抱えている。けれどもその全部を明かしたりはしない。相手に応じて必要な情報を選び、要らないと判断すれば知っている素振りさえ見せない。



「俺も、レイジが高所恐怖症になっていたって話はついこの間聞いたし」

「そうなの?」

「打ち合わせのときは黙っていたんだ」


 トキタは調査を終えてこの時代へ戻ってきてから、レイジの告白を聞いた。そして帰り道、いつ発症したのかと聞けば半月前からと返され、それはオンライン会議より前の出来事だった。


 時空渡りに行く前に話してくれていたら、気を使えたのにと不満に思う。


「そんななのに抱えてもらって空飛んで飛行機を追いかけるとか無茶やってて」

「ああ、このことか」


 アラレは資料の写真を見た。小型飛行機を追いかけるトキタの仲間たちの姿。飛べないレイジは“ノーツ”で飛べる人に抱えてもらい、険しい顔をしている。


「このときはお兄さんを救うためなら怖くなかったとか言ってたな」

「救う? じゃあこのときの表情は」


 恐怖を堪えているのではなく、この直後に起こる事故を見据えての眼差し。それをトキタは語り出す。


「このあと死んでしまったんだ。それに乗ってる、あいつの兄が」

「それは…… 残念だったな」


 次は写真は墜落して燃えている飛行機。報告書作成のために各自撮った写真を集めていたとき、レイジから送られてきた画像だ。


 トキタは使っていいのか聞き返したが、彼は構わないと即答してきた。いつの間に撮ったのかは疑問に思わなかったので聞いていない。


 実はレイジ自身で撮影したのではなく、この時代の昔の彼が撮ったもの。元の歴史では昔の彼はこの事故で入院したが、調査の乗り込みによって怪我が即座に完治し、撮影する余力ができていた。


 その結果歴史が変わり、元の時代に帰ってきたときにスマホに保存されていることに気づき、送った。そんな経緯があったことは、ややこしいうえに伝えたところで話が前進しないから黙っている。



「まあ、亡くなってしまうことは分かっていたんだ。その運命を変えようとしたけど、結果失敗」

「運命は変えられないって、そういうことか」


 運命を変えられるなら、はるか未来にタイムマシンが作られた世界から、過去の不吉な出来事をなかったことにしようとする動きが生まれて平和な世界が生まれているはず。


 現にそうなっていないのは、どれだけ技術が進歩しても、運命を変えるのは禁忌、あるいは相当困難なものなのだろう。


 トキタたちは分かっていた未来を変えられなかったことで、その実感がいっそう深まった。


 だから二か月後に起こると言われている大事件を、果たして誰一人犠牲にならず乗り越えられるのか不安を覚える。


「他にもレイジは過去の自分を殺そうとしたし」

「なぜそんな物騒な」


 運命を変えようとした点では、もう一つ失敗に終わったものがある。それは過去のレイジを殺すなりして、彼がこの島に来ないよう歴史を変えることだ。


 そのために今の彼は昔の自分に勝負を挑んだ。だが勝てなかった。運命を変えられないから勝てなかった、というよりは単純に実力で負けただけなのが現実ではある。


 帰り道にレイジから聞いた敗因を、トキタは語る。


「心が読めるのは昔かららしくてさ。条件が対等なら勝つのはより機敏な方ってわけで」

「……子どものときの方が細かい動きができるって感じか」


 格闘ゲームでは似たスペックのキャラクター同士が戦うと小柄な方が有利なことはあるので、アラレはトキタの言う勝負結果に合点がいった。


 同時にある疑問と嫌な予感が頭に過った。


「え、昔から“ノーツ”があるのか?」

「ああ。“ノーツ”持ちと診断されたのが高校入学のときなだけで力は以前からあるとか」



「だったら、俺たちの計画は昔の三門に読まれているんじゃ……」

「あっ……」


 心を読む“ノーツ”を持った人の前に、口外していない秘密は守られたことにならない。思っていることが筒抜けだから、昔のレイジにも計画が知られている。


 トキタたちが未来から来た目的を、襲撃事件を起こす街の人に知られたということだ。


「いや、でも未来の自分に迫る危機を言い触らすことは」

「それもそうか……」


 だがあくまでレイジに知られただけの話。彼が首謀者に口外しない限り広まることはない。

 そして彼には話を広めるメリットがない。未来の自分を仕留める計画を阻止する動きがあることを首謀者に伝えたところで、未来の彼に危険が迫るだけなのだ。


「違う、過去のレイジは未来の自分を殺す気だった」

「なんで!?」


 だが前提が成り立たない。レイジは自分を殺すことに躊躇いがない。


「自分がどれだけ邪魔な存在か分かっている。現に今のレイジも、過去の自分を消そうとしていた」

「……なるほどな」


 レイジの持つ悪夢の瞳は見た人の夢を叶わなくさせる力。人に迷惑をかける“ノーツ”を持っているのは珍しくないが、自分を嫌いになってもおかしくない力を持っているのは理解できた。



 もし本当にレイジが自分を葬り去ろうとしているのなら、二か月後に起きる事件の首謀者は。


「じゃあ事件の元凶は」


 嫌な推理が浮かんだそのとき、テーブルに置いたスマホが振動した。


「やばい、殺される!」

「無視だ無視! 早くリーダーに報告をっ」


 発信元はレイジ。脅しのコールと解釈したトキタとアラレはパニックになりながらも、誰かに言い残しておくことを最優先に考えた。


「店出よう! トシヤの家に急げ!」

「分かった! お会計をっ」


 トキタはスマホと伝票を回収してテーブルを後にし、アラレを追ってレジに立つ。


「ご利用ありがとうございまーす」

「……え!?」


 会計を済ませようとしたとき、目の前にレイジが立っていた。


「バイト辞めたはずじゃ……」

「そう言ったけど」


 辞めたのは嘘だったのか、報告会を見越して今日だけ復帰したのか。いずれにしても、一番見つかってはいけない相手に捉えられ、手が震える。


 しかし冷静に考えて、勤務中なら追ってくることはできないことに気づき、さっと支払って店を出た。


 閉めた扉の向こうで、休憩に入りますと声が響き、その考えが浅はかだったと思い知らされた。



「おう、いらっしゃい」

「早く入れて早く!」


 トシヤの家に押しかけた二人は、慌てて玄関に入り戸を閉めた。そして彼の部屋へと駆け込み、部屋主を急かす。


「何をそんなに慌てている」

「レイジが追ってくる!」

「俺たちが生きてるうちにっ」


 アルバイトを辞めたレイジがどうしてこの街に来ているのか首を傾げるトシヤに、例の報告書を見せて状況を説明した。


「……なるほど。俺たちの計画が過去のレイジにバレたと」


 トシヤは時空を超えた調査の話を聞いて、昔のレイジに心を読まれたことを理解した。


「もしかしてわざとか? レイジが過去の自分に会ったってのは」

「いや、時の石で過去に行くと場所は選べないから、多分偶然」


 聞いた結果、すべてレイジの術中に嵌っていたのかと睨んだが、出会ったのは偶然だと言われ疑いは晴れた。


「よりによってレイジが行っていたのがな。計画全部知っているアイツが」

「そうか、全部知られてしまったんだ」


 心が読めるといっても、万能ではない。読み取れるのは相手が抱えている情報だけ。


 なのだが、レイジはあらゆる秘密を傍聴できる。その彼が有する情報を読心術でサーチされたのはつまり、秘密が全部盗まれたのと同義だ。


「で、真相に気づいたお前たちが狙われていると」

「そうだ」


 話が分かったトシヤは窓を開け、“ノーツ”で生み出した鎖を家中に巻き、出入りを塞いで窓を閉めた。

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