538話 よろしく頼んだ
「全員集合。迷わず来られて何よりだ」
ゴールデンウィーク初日。町屋時多の周りに四人の同学年が集結した。家がバラバラなので現地集合。島の中心部にある公園に集まり、全員時間に間に合った。
「大通りに沿っていけばいいって分かったから迷わず来られたよ」
「スマホで位置確認もできるし」
五人とも自宅と現地はかけ離れており、時間を守れるかトキタは不安視して、前日までに下見に行くよう伝えておいた。そのおかげで各々目印を見つけたり、こまめに現在地を確認したりと対策を講じられた。
「特に空飛ぶ組は、着けても時間過ぎないか心配だったから」
女子三人は“ノーツ”を使って空を飛ぶことができるので、費用がかからず一直線で向かえるメリットを優先したが、自力で行く分、時間の管理が大事だ。
「レイジも、バス遅れなくてよかったな」
「まあな」
一方で公共交通機関頼りの男子二人は、ダイヤ乱れという危険因子がある。トキタはどこで遅れが出てもいいように予定より一時間早く着くようにし、三門玲司も一緒に来ないかと声を掛けた。
だがレイジは今朝の時点で遅れることはないと言い切り、トキタより遅いバスに乗ってきた。
彼としては、同行してきた上原千聖に抱えてもらい飛んでいくという対策が打てるからバスが止まっても問題なかったわけだが、それは明かす必要はないと決め黙っておいた。
「後は時の石が出現するのを待つ。予定だと一時間後だ」
「結構待つね」
「早く着くに越したことはない」
行動開始まで小一時間待機しないといけないが、万が一遅れてもいいように集合時間は早めに設定していたわけで、トラブルなく到着できたので待つのは仕方がない。
「そういえば二人はバスから降りてたけど、どうして? セインは飛んで来られたじゃない」
「そうなのか?」
成東祭は公園に着いて空を飛んでいる間に、バスからレイジとセインが出てくるのを見つけていた。彼らの到着をもって全員揃い、先ほどの話をしたので、理由はまだ聞けていない。
「それは……」
レイジは見つかるリスクを想定していた。だからセインには、途中の駅で降りてそこからは飛んでいき、時間をずらそうと提案した。だが彼女は首を振った。
ルートを変えては下見の意味がなくなる。そう言われたレイジは反論できず、潔くごまかすことにして最後まで一緒にいた。
「もしかして、調子悪いの?」
「言ってくれたら延期したのに」
セインが飛んでこなかったことを知らなかった二人は、彼女の体調を心配する。先に言っておけばこうはならなかったが、黙っておこうとしていたレイジにそんな頭は回らない。
「緊急時に飛べないと困るから、移動には使わなかったんだ」
「ふーん、以外ね。そんなこと気にするなんて」
代わりにレイジが説明した。飛べなかったのではなく飛ばなかった。セインが用心深い選択をしたことには、疑問とまではいかずとも想定外だと反応が上がった。
「レイジもいたとはいえ、よく乗ってこられたな」
「恐るるに足らず。天の声に誘われ身を委ねるだけ」
レイジ同伴で、一度下見をしたと聞いてはいたが、普段訪れない地域を、まるで地元民のように巡れていたのは凄いとトキタは感心する。対して彼女は、自分は何もしていない、レイジについていっただけだと返す。
「じゃあずっと一緒だったの?」
「まあ、電車乗るところから」
どの時間にどこで合流するかはレイジが決め、そこからは離れず行動していたことを明かした。
「同級生とはいえ、よく一緒に来られたものだ」
「私たちも、雨のとき一緒に行くって話しなかったよ」
トキタとマツリも同級生だが、仮に悪天候でも一緒に行こうとは決めていなかった。偶然出会しても、離れてプライベートな時間を過ごしていたと思っている。
「会っても自分のスマホ触ってるよね? どのみち私は一人だけど」
池袋実祷も同じ意見だった。確かにここに集まったのは仲間だが、往復の時間まで合わせることに賛同はしない。
だからこそ揃って来たレイジとセインが特殊に感じてしまう。
「黒鉄の強制送還は安らぎの蓄積」
「セインとの居心地は悪くなかったな。誰でもこうとはならん」
セインは一人で居たいと思っておらず、レイジは彼女の意思を読めるので、お互いに避ける理由がなかった。距離を取らないのが当たり前だという認識ではなく、このペアだったからだと告げる。
「しかし銀河の見聞は前奏に過ぎない。我らの叩いた扉は数知れず」
「え、その後どこか出掛けたの?」
「まあ、近くの映画館に」
褒められていると感じ取ったセインは気分が上がり、下見の後にも共に行動したと話す。補足してレイジが行き先を明かした。
「せっかく遠くまで来たしってことで」
「写真見せてっ」
二人に迫られ、セインは嬉々として写真を見せる。友達に見せるために撮っておいたものだ。
「“同期”のチャットで見せてくれたけど、楽しそうだったな」
「チナツからめちゃくちゃ嫉妬されたけどな」
三人の内、トキタは一足先に情報を入手している。セインともう一人とのグループチャットに、セインが報告したためだ。
だが喜ぶ彼と対極的に、二重橋千夏はレイジでなく自分を誘ってくれなかったことに憤慨した。おかげでレイジは怒涛のメッセージの返信に追われた。
「これ完全にデートじゃん」
「うちの“同期”もここまでやってないよ、多分」
とある計画のために集まった男女がするレベルの買い物ではない。そう見受けられたミノリたちは、もはや特別な関係にある男女の営みだと評した。だがセインにまったく自覚はなく、楽しくなって予定より多く時間とお金を使った結果だと話している。
「セインは根は良い子なんだけど頑固であの口調だし、人付き合いが苦手だから……レイジと会えて良かった」
「心を読む“ノーツ”ありきだけどな」
通訳しなくても本音が分かるレイジより、交流を重ねて理解を深めていったトキタたちの方が立派だと彼は謙遜する。
「彼女のこと、末長くよろしく頼んだよ」
「いやそんなこと言われても」
これから歴史を変えて自分をこの島に来なかったことにして出会いをすべて消そうとしているレイジは、首を縦に振ることができなかった。
「それにしても、こんな子がいるのにセクハラに出るなんて」
「何が不満だったのさ。そもそも誰なのお相手は」
セインとの仲はよく分かったところで、前日話題になったレイジの悪い噂を追及する。
彼は同級生の女子に手を出した。そんな噂をクラスメイトに流された。投稿者はSNSに投稿してすぐ削除したが、目撃した人がスクリーンショットして拡散した。結果、マツリたちにも行き渡っていた。
本気で行為に及んだとは思っていないが、そう疑われるだけの行動に出た可能性は否めない。直接会ったこの機会に聞いてみるのはありだと思い、軽い気持ちで尋ねてみた。
「セイン知ってる? 三門君、女子にエッチなことを」
「あれは偽りの電報。逆行の儀式、結界を覗く光を滅ぼすためのオーパーツ」
レイジの噂を知っているかの問いに対する返答として予測できるものではない難解な文章に、ミノリとマツリは首を傾げた。
「思ったのと違う答えだけど……まさか例の被害者ってセイン?」
単語の節々から、どうも拡散されたメッセージ以外の情報を握っている予感がしたので、レイジに聞いて反応を窺う。ポーカーフェイスでしらを切るのもままならず動揺を見抜かれたレイジに、背後から圧がかかる。
「ちょっと聞かせてもらおうか」
「いや、これはその……」
尋問体制に入るトキタに観念したレイジは、セインを蹴り倒して投稿される一連の出来事を説明した。
「ここに集まる計画を隠すために階段から落とされたフリをして」
「落とされた原因を、三門君がセインに手を出したことにした……」
一部ごまかしたものの、疑われていないことを確かめたレイジは彼女たちの解釈に頷いた。
「やっぱり無罪じゃん。良かったぁ」
そしてレイジは冤罪、セインはまだ穢れなき身であることに安堵し、胸を撫で下ろす。
足を蹴って怖がらせたのは事実なので無罪とは言えないが、わざわざ言わなくていいと思いレイジは唾を飲み込む。
「仮に事実なら、セインが心を開くこともないしな」
トキタはセインとレイジの距離感から誤解を裏付ける。彼女の態度が潔白を証明しているから、安心して彼に任せられると思っていた。
「さて、そろそろ計画のおさらいをしようか」
飛んできた組は体力を回復し、雑談で空気が暖かった頃合いに、トキタは本題に言及する。一同は私語を止め、聞く体制に入った。
「俺たちの目的は一つ。二か月後の全滅の危機を乗り切るために、時空を超えて運命を変えること」
いつの時代のどこへ行けるかは、決行しないと分からない。だから過去に時の石を使い、時空を超えた経験があるメンバーを集めた。
行き先がどうであれゴールは一つ。未来を見られる“ノーツ”を持つ人が予知したという、レイジの故郷からの侵攻による被害をなくすことだ。
「大事な仲間を守るため、絶対に成果を上げるんだ!」
「「「「了解!」」」」
彼らが最後の希望、というわけではない。すでに多くの計画が動いて、様々な知り合いが試行錯誤している。
だから最悪失敗してもいい。彼らのために爪痕を残せればいい。一番大事なことを守るために、無茶はできない。
「犠牲を出してはいけない。くれぐれも無理はしないこと。特にレイジ」
レイジは名指しで注意された。侵攻の狙いが彼であり、守ろうとした人が巻き添えを食らったことで被害が広がったと聞けば、すべての元凶である彼は一際責任感を抱いていると思えるのは怪しいことではない。
「大丈夫。勝手なことはしない」
行き先が読めない以上、現地の人の心を読んで状況を素早く掴めるレイジの存在は重要になる。自分勝手な行動をとると仲間に迷惑がかかるのは分かっていた。
「で、出発に必要な“時の石”がもうじきこの公園に出現する。合図を出したら一斉に探し出す。見つけたら報告して、この展望台に戻ってくる。もし夢中で気づけなくても」
「俺が呼びにいく」
石の気配が強まったら、分散して探しにいく。見つけたらチャットで報告し、ここに集合。万が一、通知に気づかず捜索を続けている人がいても、そうと気づけるレイジが呼び戻しにいってケアする。
自分の役目は理解しているとアピールのため、トキタの言葉を遮って言った。
「反応あり! 捜索開始」
トキタの合図とともに五人が飛び出す。見覚えのある手のひらサイズの薄い青い石。木の上や原っぱを見渡し、公園中を駆け巡る。
皆で探した甲斐あって、すぐに発見された。マツリからの連絡を受け、気づいていない人がいないことを確認したレイジは引き返していく。
星型の模様を囲って集まる五人。入手した石を掲げて、一瞬で姿が消えた。
「成功か?」
「知らない場所ね」
さっきまで居た場所でも、レイジ以外の四人に見覚えのある場所でもない。ここは彼の故郷だ。
「……八年前の俺の故郷だ」
地形を見ただけではいつの時代か分からない。現地民の心を読んで、西暦を特定する。レイジはこの日に戻ったことを偶然とは思わなかった。運命を変えるのに相応しい。
「そんな昔に来ても……とはいえ敵の本拠地に出られたのは大きい。案内してくれ」
「任せな」
レイジは小学生の頃の自分と兄の元へ、皆を誘導した。




