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オートセーブは深夜0時に+  作者: 夕凪の鐘
Episode105 過去との決別
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536話 共有

「月の眠りに祝福を」

「ああ、おはよう」


 休日の朝八時過ぎ、上原(うえはら)千聖(セイン)三門(みかど)玲司(レイジ)に乗っている車両をチャットで聞くと、最寄りのドアから乗車し挨拶した。来週に迫るゴールデンウィーク、その初日に行う、時の石探しの下調べ。それが二人が出掛ける目的だ。


「……連なる箱との繋ぎ目の門番の座につく使命を得てよいか」

「どうぞ」


 車両の後方部にある三つ横並びの座席。レイジは真ん中に陣取り、両隣は空けられている。他に座席はたくさん空いているので無理に隣にいかなくてもよい。だがセインはレイジの隣に座りたいと思い、念のために許可をとった。


 二つ返事で承諾され腰を下ろすセイン。一方でレイジは真ん中から動かずピタリとくっついた状態となった。


「この前は怖い思いをさせてごめんな」

「過ぎた話。ねじれが生んだヒビの入ったガラスは封印された」


 距離を詰めてくれたセインを見て、向き合う勇気を持ってくれたことに感謝するレイジは、先に改めて謝る。

 周りをごまかすためだけに、何も悪くない彼女に攻撃を仕掛けて唐突に恐怖を植えつけてしまったが、受け入れて立ち直ってくれた。


 隣に来たのは、苦しみを乗り越えた証明だ。



「時に偵察の代償は遠き街ほど命のパスポートから差し引かれる」

「ここからだと値段違うのか」


 セインはプラットホームに入る前、時間があったので目的地までの運賃と、当初の目的地までのそれを比較してみた。差額があり、レイジから聞いた話と違うと気づいていた。


「俺の家からだと、一つ先まで進んでも同じ値段だったから、てっきりそっちも同じもんだと」

「問題ない。欺きの罪にかける気など毛頭ない」


 今日の予定について昨晩話し合っていて、そのときレイジは目的地の公園まで、最寄り駅から歩いていくのではなく、一つ先の駅からバスで行こうと提案した。

 どちらで降りようと電車代は同じになるからとアピールしたが、それはレイジだけに適用されるものだった。


 そうと知らずセインも同じだろうと思い込んでいたのが失敗だが、そもそも彼に関しても高校の定期券の控除が入る影響で同じ額で遠くまで行けるメリットも消えていることには気づいていない。


 だがセインも間違いの情報を吹き込んだことを恨んでなどおらず、単なる独り言のつもりで言ったことだ。昨夜レイジと話したことを覚えているのを伝えたいという気持ちもあったがためにポロッと出た発言でもあるが。


「じゃあ着いたら好きなの奢る。お詫びに」

「ならば渇望を潤す源を分け与えよ」


 セインはブラックコーヒーが好物だがそれを買ってほしいとは言わず、レイジが欲しくて買った物を半分欲しいと強請った。それで満足するのならと、彼はバスが来るまでの時間に買おうとしていた炭酸飲料を少し分けてあげることにした。



「今さらだけど、おしゃれだな。今日のセイン」

「拳を振らないシンデレラは裏に纏う鎖を隠して踊る」


 “ノーツ”は使わず足も極力使わず、公共交通機関を主体に行動することは昨夜の内に確定していたので、機動性を無視した服装で良いと割り切ったゆえの格好だと告げる。


「鎧の意味は心の眼で見透かしていただろう」

「理由は分かっていたけど、ノーコメントなのは落ち着かなかったから、嫌がらせじゃない」


 セインはレイジが心を読む”ノーツ“を持っていると知っているので、どういう意図を持ってこんな服装で来たのかは尋ねなくても分かっているだろうに、わざわざ説明を促さなくても、と不満を言う。


 だがレイジはセインを困らせるために聞いたつもりではない。自分を理解してもらうために思ったことを言える習慣をつけようという心がけから出た言葉であり、悪気はないと納得してもらおうとする。


「……歪ではないか?」

「服装は変じゃないよ」

「服装は?」


 セインは厳しい指摘を覚悟して聞き出した。自分的には問題ないと思っていても、傍から見たらアンバランスかもしれない。

 そしてレイジは自然だと答えてくれたが、何か引っかかる言い方だったのを聞き逃さなかった。


「いや外見と話し方のギャップが目立つって意味で」


 黙っているときと口を開いたときで印象がガラリと変わる。悪いことだと捉えているわけではないが、すんなり受け入れられる程度というものでもない。それはレイジの偏見ではなく周囲の心の声も拾った客観的な意見だ。


「話し方が直れば間違いなくモテるんじゃって」

「モテる?……」


 レイジの言うことにどんなメリットがあるのだろうかとセインは首を傾げている。本人が現状に満足しているので彼もこのままの彼女でいいと思った。



「鋼鉄の箱舟が我らを縛る間、懐を暖める道具を捧げよ」

「昨日も言ったけど、俺は時間潰しになる物は持ってこない」


 到着まであと三十分。それまで席に着いて固まっているしかない。そんな退屈を紛らわすための道具を持参したかとセインはレイジに聞いてみるも、彼は自分で使う物は持ってこなかったと告げる。


 レイジが持ってきたものは定期券とスマホだけで入れ物の一つもない。


 昨日の話し合いのときに、セインには暇つぶしになる物を持ってくるといいと伝えていたが、参考に自分は何を持っていくのか聞かれたとき自分は要らないと返していた。


 持ち物に困ったセインは目的地の近くにある店を調べ、お土産が入る鞄だけ持っていくことにした。


 持っていかないと言っていながらサプライズを用意しているとレイジに期待していたが、無惨にも打ち砕かれてしまうのだった。


「以前も空でなくレールの旅をしたのでは?」

「いつもそうだよ」


 普段は空を飛んで遠出するセインと違い、レイジはこの間も線路の長旅に出ていた。だがそのときも手ぶらだったと打ち明ける。



「次のステージへの扉を超える経験値を養う時間は」

「俺は移動しているうちの勉強はできない。近くやっている人がいるから理解が進むのであって、こんな速く動いていると聞き取れないんだ」


 レイジはコツコツと受験勉強する気はなく、心が読めるのを利用して優秀な人の思考を把握しながら取り組む癖がついてしまっている。一人で悩むのは時間の無駄と思うからだ。


 だから乗り物での移動中は学習に時間を割かない。


「電子世界の娯楽に心を潜らせたりは」

「スマホもしない。電池の無駄だ」


 ならば他の乗客のように、SNSやソシャゲに没頭するのかと聞いてみるも、これまた返事はノー。レイジは必要なときに使えなくなることを嫌い、暇つぶしには用いない。


「これは事件を防ぐためのアイテムだ。野蛮な思考をいち早く察知して、色んな人に連絡するのに使う」


 その必要な瞬間というのは事件の前触れを察知したとき。心が読めるのを活かし、被害が広がる前に情報を拡散する。バッテリーが切れてそれができなくなってはいけないから、用がないときは手に持たない。


「空腹を癒す旅のお供は」

「それはあってもよかったな」


 セインが思いついた、食べ物を用意しておくという案には言い返せず、帰りは買っていこうと決めた。


「こんなに喋ると思ってなかったな。悪くないけど」

「孤独の世界に潜んでいれば獣を目覚めさせる兆しは見せない」


 セインも当初はレイジが自分の趣味に没頭して到着を待つものと思っていたが、そうではなかったので次々と話しかけた。実声に隠れる内心の本音を聞き取る必要があったレイジは想定以上に労力を費やし、朝食を済ませたばかりでありながら空腹感を覚えた。



 会話が途切れたことで閃いたセインは、ポーチから自分のスマホを取り出し、いつでも操作できるように膝の上で構えた。


「星の危機の発信源、今は二つある」


 セインはレイジの言う事件を阻止するための連絡手段に、自分のスマホも追加すればいいと考えた。


「ゆえに己の内に潜む野望を解き放っても平気」


 二台あればバッテリーの減りも抑えられる。その分レイジは好きなようにスマホを使える。普段は一人だからできない贅沢をしてみるのはどうだろうかという提案だ。


「いや、そっちが好きなように使ってくれ」


 一理あると納得したものの、最速の正義の味方の役目をセインにも担わせることに抵抗を感じた。野望を阻止されれば反感を買う。発信したアカウントを特定されて身の危険に曝されるだろう。


「俺はこの目で返り討ちにできるけど、逆恨みされたら怖いだろ?」

「平気。なぜならその危機を救う最強の正義が居る」


 自信あり気にセインは呟き、レイジに目を向けた。もし自分が狙われたとして、それは怖い。だが手遅れになる前に守ってくれるはずの人が、ちょうどここにいる。だから心配いらない、瞳はそう告げている。


「……そうだよな」


 折れたレイジはポケットを漁った。せめてイヤホンでもあればいいと思ったが、そんな都合よく持ってこれてはいない。その素振りから察したセインは、自分のイヤホンを差し出した。


「求める物は不可視なる固有結界の入口か」

「俺はだいたい覗けるけどな」


 自分だけが聞こえる音楽を欲していると読んだセインに、レイジは自分は周りがイヤホンをしていようと何を聞いてどんな妄想を巡らせているか分かると誇示した。


 どれだけ見栄を張ろうと図星なのは確かなので、ケーブルの片割れを耳に嵌め、プラグを自分のスマホに挿した。


「私も覗ける」


 そう言ってセインはもう一方のケーブルを自分の耳に当て、レイジのスマホから流れる彼セレクトの楽曲を試聴した。



「聞いたことないだろう?」

「世間の共鳴に取り残される我が魂はアップデートを求めている」


 レイジ好みの曲はセインにとってはまだ知らないものではあるが、聞いている中で興味を失ったり変更を求めたりしないので、最後まで流れたらランダムで他の曲が流れるように設定する。

 セインは次々と耳に入る知らない曲を、流行りを掴むためだと言い張って聞き続ける。歌詞とメロディーから想像を巡らせ、自分なりに世界観を築き上げている。


「俺も最初は興味なかったけど、周りが聞いているのをきっかけに聞いてみて、気に入ったものもある」

「好きの共有は人類の習性。……そして解釈の違いによる内乱もまた宿命」


 興味を持つのは自由でも、強要するのは関係に亀裂を入れる引き金となり得る。セインは今日知った曲を、休み明けにクラスメイトに教えようとは思わなかった。

 対立するくらいなら孤独でいたい思考に傾いており、これまで通りの学校生活を送る気でいる。


「満足した。ありがとう」


 レイジはイヤーピースをティッシュで拭いてからプラグを抜いてイヤホンをセインに返した。


「意外と減らないもんだな。これなら温存しなくてよさそうだ」


 レイジはスマホのバッテリー残量を確認した。データ通信を抑えているだけあって減りは微弱なもので、肝心なときに保たない心配はないと判断し、今後の使い道を見直そうと思い立った。


 返却してもらったセインはスマホを残してポーチにしまう。レイジが想定よりスマホの消耗を抑えられたというので、二台目としての出番はなかった。


「ノイズに結界を蝕まれることは」

「大丈夫、綺麗に聞こえた」


 セインとしては思ったより早く返してもらったことで音質が気に入らなかったのかと不安に感じたが、断じてそんなことはないとレイジは食い気味に否定する。


「人から借りたの初めてだし、良い悪いとか分からないしな」


 良し悪しを区別できるほど耳は肥えていないとレイジは照れながら呟く。不満を抱えているのではないと安心したセインは、微笑んで、また機会があれば貸したいと思うのだった。

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