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オートセーブは深夜0時に+  作者: 夕凪の鐘
Episode104 最後の飛んだ空
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535話 縁が切れない

『久しぶりに集まったね』

『懐かしい、この感じ』


 去年の秋に解散し、半年振りに集合したネトゲの元パーティーメンバー。三門(みかど)玲司(レイジ)は一昨日、同級生の上原(うえはら)千聖(セイン)と一緒にログインしていたことが他の二人にバレてしまい、内緒で遊んだことの償いとして、一度だけ全員で集まることになったのだった。


 そして帰宅後、各々パソコンを起動してオンラインで対話をしている。

『それにしても大変だね。変な噂流されて』


 レイジは今日の日中、学校の女子を襲ったという噂をSNSに流された。だが誤解だと分かり投稿は削除されたが、すでにこの二人、大船(おおふな)切裏(コトリ)美南(みなみ)哀月(アイリ)にも知れ渡っていた。


 二人は噂を真に受けていない。むしろ言いがかりを広められたことに同情している。現時点ではの話だが。


『ところでセインが来てないけど、知らない?』

『いや、約束は覚えているんだが……』


 だが二人とも噂がまったくのでたらめだとも思っていなかった。そうだとしたら流されることもないはずだ。そして現に疑惑が浮かんでいる。本来一緒にいるはずのメンバーが一人いない。


『もしかして、その相手って』

『お察しの通り』


 レイジに襲われた女子、噂の被害者はまさに彼らの元パーティーメンバー、セイン。セクハラはでっち上げであっても、暴力を振るったのは事実なのだ。


『本当に手出したの!?』

『いや、足払いしてビビらせただけで……』


 レイジは階段でセインを倒し、頭を段差にぶつけそうになる恐怖を味わせた。今日来ていないのは、その恐怖が残っているからであり、彼と関わって反感を買うのを避けるために、接触を拒否している。



『酷い…… なんでそんなことをしたの?』

『理由はない。あればとっくに立ち直っているから』


 レイジなりに考えはあった。だが納得されることができるとしたら、すべての情報を明かさなくてならないわけで、それができない以上、理由は説明できない。


 だから誰かに相談して、セインのフォローに入ってもらうことができないのだ。


『ないなら私たちにはどうすることもできないね』

『そんなことする人じゃないと思っていたのに、裏切られた気分』


 ゲームは楽しいが仲間も大事だ。セインの復帰のために動いて、全員揃ってからまた遊びたいところだが、事情を一番分かっているレイジに何もできないと言われてしまっては手の打ちようがない。


 がっかりすると同時に、こんな状況を作ったレイジに嫌悪感を抱いた。


『待ってても来ないなら、また今度にする?』

『今度っていつになるのかな』


 女子二人はセインにチャットで反応を窺っているが、返信どころか既読がつかない。彼女としても、計画の秘密を打ち明けるわけにいかないわけで困っている。


 パーティー再集結は日を改めると提案しても、延期した結果いつになるか目処は立っていない。


 だから今すぐなんとかしろという心の声がレイジに突き刺さる。



『噂流したのって一ノ宮さんでしょ? 田浦くんと付き合い始めたのにまだ絡まれているんだね』

『まだ、というかだからというか』


 噂の発信は匿名ではなく、ユーザー名と共に行われた。コトリは同じBランクとして一ノ宮(いちのみや)耀(ヒカリ)のユーザー名を知っており、レイジとの関係も聞いている。


 そして元同級生の田浦(たうら)夕雅(ユウガ)からも、ヒカリと付き合い始めて困っているとも聞いていた。


 別れて他の男子と交際を始めたのだから縁を切ればいいのにと思うコトリだが、それゆえに縁が切れないとレイジは理解している。


『ヒカリは俺ともう一度付き合いたいんだ。だから今の恋を終わらせてもらおうとしている』

『自分で切り出しちゃえばいいのに』

『形はどうあれ、拗れちゃうのは分かるなぁ』


 ヒカリはユウガと別れたい。その願いをレイジなら叶えてくれる。彼の覚悟を試すために、自分から別れようとはしない。そんなヒカリの意思に、アイリだけは共感できるものがあった。


『好きなら私のために動いてって、自分勝手だけどそう思っちゃうのは……私もあったし』

『そういえばアイリも大変だったよね』


 アイリにもヒカリと似た過去がある。自分のことを好きだった人が、他の人と付き合うことになったから今までのようにそばにいられないと言ってきて、以降困っていても助けにきてくれなかったことに憤りを感じた。

 そしてアイリは自分から思いを告げると、その相手は別れると決めてくれて、晴れて結ばれることができた。


『“同期”恋愛って大変なのね』

『コトリは……全員女子なんだっけ』


 レイジとアイリの二組には、“ノーツ”が目覚めた時期が近い“同期”という関係がある。“ノーツ”の覚醒自体、一部の人だけであり、時期まで被るのは運命とも呼べる。その影響で特別視してしまい、複雑な関係になるのは不思議ではないが珍しい話ではある。彼らみたいな関係の拗れがわらわら湧いていたら、“同期”自体呪われた繋がりという認識が広まっていただろう。


『そうだけど田浦くんは、“同期”の久里浜さんと付き合ってたじゃない?』

『えっ、そうなの初耳』


 アイリはユウガが長年の恋を実らせたことを知らなかった。といっても大々的に広めていたのではなく、知っている人の方が少ない。


『いつから?』

『十月、去年の』

『へー』


 アイリは想像より最近の出来事と知って、自分はそこまで情報に疎くなかったと安堵した。



『アイリは八月からだっけ?』

『そう。もうすぐ九ヶ月』

『だよね。どこまで行った?』


 女子たちは恋バナに火が点いてしまい、レイジはパソコンに背を向けて立ち上がる。二人が夢中で話しているなか、ダメ元でセインに電話をかけてみた。


『……もしもし』

『ありがとう、出てくれて……そしてごめん』


 学校では目も合わせてくれなかったセインが電話に出てくれたことに感謝するレイジは、用件を伝える前にまず謝った。


『蹴ったのは……俺もやり返したことにするためなんだ。怪しまれないように、黙って本気でやってしまった。ごめんな』


 レイジはセインを蹴り倒した理由を伝えた。それで納得してもらえるとは思っていない。彼女一人を悪人にしないように動いた結果、彼女の心に深い傷を負わせてしまった。良かれと思ってやったことでも、セインの立場を考えるとそれは間違いだったかもしれない。


 だからもう一度謝る。


『……そんなことしなくても、私はヒールを演じきれる』


 セインはレイジの意図を理解したうえで、自分の希望を告げた。今度また、何らかの理由で罪を着せることになったら、痛み分けはしなくていい。そんな希望だ。



『孤独に生きる者は、課される十字架を両翼で喰らう』


 自分一人で汚名を着せられても平気だ。傷を分け合う仲間は要らない。その代わりに、居てほしい存在もある。


『堕ちる憎悪の炎の星が生み出す漆黒の分身は、ある者の瞳には』

『行動の意味を理解している。そういうことだろ?』


 レイジはセインの意思を先読みして返した。彼女が言いたいことを理解しているとはっきり伝えるために。


 世間的に否定される行為であっても、それを実践した目的や本音を認めてくれる人がいてほしい。孤独になりきれないセインのささやかな希望。


 それをレイジに受け入れてもらうことが、許せる条件だ。


『大丈夫。お前のやったことを否定するようなことはもうしない』


 蹴り返す行為はセインに突き落とされたことにした結果、それが悪い行動だから仕返しをした、つまり行動の否定により成り立っていた。

 その反省から今後は、彼女に押しつけた行為であっても責任持って受け入れ、そのうえでどう対処するかを考えるようにする。


 仮にまったく同じシチュエーションが再発したら、暴力を返すのではなく、セインを悪人として貫かせる。

 だが本心は、計画上必要な犠牲だったことを忘れない。後に活きようと無駄に終わろうと、身を盾にしたことを心に刻んでおくことが、理解者である証。


『だからもう心配いらない。さあ、皆待ってるから』


 セインの心が落ち着いたところで、レイジはネトゲに誘った。彼から敵意を向けられていないと納得した彼女は、テーブルに用意しておいたパソコンを立ち上げる。


 じきにセインはチャットに合流した。そして会話の記録を追って赤面した。その様子を察したレイジは、彼女には刺激が強かったと察し、もう少し会話を引っ張っておくべきだったと後悔した。



『じゃあ全員揃ったことだし出発しましょう』

『教えてよ、太陽と星の広場の正体』

『別に二人が思ってるようなアストロノミーなものじゃなくて』


 セインがネトゲと関係ない、ゴールデンウィークの予定のことを教室で口走った結果、それをネトゲのクエストということにしてしまったレイジは、心の声から感じられた高いハードルは越えられるものではないと予防線を張る。


 だが心が読めるゆえに公式の告知に無いことも把握できるレイジだ。何らかのサプライズを用意していると期待されてしまっている。


 そんな期待に応えられるはずもなく、何の変哲もない戦闘を淡々とこなしていく。罠が読めているのに引っかかると手抜きと責められるためにレイジが攻略法を提示しながら進む結果、危なげなく突破できてしまう。


 だが異変が起きたのは、ステージ移動のために床抜けの罠をわざと踏んだときだった。落下中にレイジのアバターの挙動が荒ぶり、動揺したメンバーも着地に失敗してしまう。


 それでゲームオーバーになるような迷惑行為ではなかったが、今までにない行動パターンにセイン以外の二人は疑問に感じた。


『何? 今の』

『すまない、ちょっと手元が狂った』


 レイジの手元は確かに意図しない動きをした。だが理由は見当がついている。リアルで感じた高所への恐怖が、ゲーム内での自身を見るだけで湧き上がってきたのだろう。


 だがその理由は今さら隠さなくてもいいかもしれないと思えた。すでにヒカリには話しているので聞かれて困ることはもうない。


『私に突き落とされた恐怖が蘇ったのだろう』

『えっ、やっぱりそれ実話だったの?』

『実はそう』


 先手を取られた、とレイジは反省した。熱いお茶を飲んでいたら舌をやけどした弾みで手元が乱れた、みたいに詳細に言い訳していれば、セインが罪を被ることはなかった。


 ゆったりしながらゲームしていると思い込まれたくなくて保身に走った結果、またセインに汚名を着せてしまった。レイジは反省しつつも挽回できる自信がなく、彼女が言った通りということにせざるを得なかった。


 そしてレイジはこんなに庇ってもらっていながらセインのためにできること、その中で彼女が望んでいることは、彼女が周りを説得しようとするのを邪魔せず、ごまかす裏に宿す孤独に気づいてあげることだと実感すると、無性に申し訳ない気持ちでいっぱいになる。



 クリアして解散した後、眉間を押さえるレイジはセインからのメッセージを受信した。


 私が余計なことを口走ったばかりに、落下するクエストを避けられなかったことはごめんなさい。


 そんなメッセージだった。レイジは返答に困った。ここで自分が返すのは許しの言葉だけでいいのか。本来は自分がたくさん謝らないといけないのに、自分で言葉を纏められないばかりにどんどん先を越されていく。

 その不甲斐なさは、どうすれば解消するか分からない。


 などと悩んでいる間に、返信を待つセインを不安にさせてしまっている。ひとまずリアクションをするのがベストアンサーだが、彼女が求めているのは本心からの行動だ。


 もう謝らなくていい。


 それがレイジの返答だった。すぐに読んだセインは、困惑したものの、それが彼の本音だと受け入れ、最後にもう一言だけ送信した。


 太陽と星の広場、一緒に行こう。


 ネトゲを隠し蓑に進めていた、過去や未来への干渉計画の下調べ。無理して節約した空の旅ではなく電車を使って安全に行こう。そう告げて、会話の幕は閉じた。

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