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オートセーブは深夜0時に+  作者: 夕凪の鐘
Episode104 最後の飛んだ空
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531話 紛らわしい言い方

「昨日パソコンで何してたの?」

「ネトゲだが」


 三門(みかど)玲司(レイジ)一ノ宮(いちのみや)耀(ヒカリ)に朝一で昨日の自宅での行動を問い詰められる。

 ヒカリはレイジが自室のパソコンを起動して小一時間向き合い、時折話していたという情報を受けて、それは最近見ない行動だったので不可解に思った。


 そんなヒカリに対してレイジは、以前プレイしていたネトゲをやっていただけだと答える。


「それだけ? シート貼って、隠そうとしていたのは知ってるよ」

「深い意味はねえよ」


 レイジはヒカリが知り合いに監視させているのを知っていた。覗き見防止シートを貼ったのはそのためだが、貼っている様子も見られていたので逆に疑われている。


「けど見られているなら警戒もする」


 だからレイジは隠蔽を正当化させようとする。用心するのはヒカリが目を光らせているからだと相手に責任転嫁した。



「受験生だってのに余裕ね」

「まあどこも安全圏だし」


 レイジは高校三年生。あと一年足らずで大学受験を迎える。娯楽に勤しんでいる時期ではないと、話が聞こえたクラスメイトに忠告されるも彼は聞き流す。


「心が読めるから、他人の解答をトレースすれば余裕だ」

「ズルいなぁ、その“ノーツ”」


 レイジに限らず、この島には超能力染みた特殊な力を持つ人がいる。彼には心を読む力があるので、できる人の思考を聞き取ればどんな問題でも解ける。


 だから彼は学力面の心配をしていないのだ。


「当日俺だけ別問題なんてイレギュラーが起こらない限り無敵だ……うん」


 そのときレイジは同級生の懸念したことが脳内に聞こえた。高い所が怖くて飛行機に乗れなくなり、受験会場に辿り着けなくなったのではないか。そんな不安を自覚した。


「イレギュラーね……」


 レイジの動揺を察した周囲の人たちは、その理由を別の原因だと解釈した。それは声に出さない。

 三カ月後の文化祭で、自分たちも含めた大勢の知り合いが命を落とす。その未来を避けられるか定かではない。



「とにかく俺はゲームしていただけだ」

「本当かなぁ……」


 話が逸れてしまったが、レイジが言いたいことはネトゲをしていたのは事実だと納得してもらうことだ。ヒカリが受け入れればもう済む話なのだが、勘の鋭い彼女は彼の自白を待っている。


「なら隠す必要ある?」

「証人だっている」


 疑われると読めていたなら隠す素振りをしなければよかった。ゲームしていたと正直に見せつけていれば済む話だから、これは裏があるとヒカリは睨む。

 対してレイジは論より証拠と言いたげに、ゲームしていたと証明できる人がいると公言した。


「証人?」

「セインに聞いてみろ。あいつと連動してプレイしていたから」


 そのゲームはソロではなくマルチでプレイしていた。レイジの行動記録は、ネットワークを介してアバターを見ていた上原(うえはら)千聖(セイン)が知っている。同級生だから、よその教室へ行って聞きにいけば証明されると告げた。


「一緒に部屋に居たの?」

「違うって。お互い自室に居たから」


 言葉が足りなかったせいで今度は家に呼んで遊んでいたのかと疑われたが、それは誤解だと弁明する。ヒカリが聞いている、一人でパソコンを弄っていた話に間違いはないと説得した。


「そういえば昔パーティー組んでたんだっけ」

「ああ。今は解散して受験モードだ」


 セインとは以前からそのゲームで繋がっていたことを思い出す。ヒカリは彼女と一緒に遊んでいたことへの疑問は解消したが、他にも仲間はいたわけで、彼女たちはどうなのか気になった。

 その疑問に対し、皆大学受験に向き合うために、ケジメとしてパーティーを解散している。


「でも一緒にやったんだ」

「気休め程度にな」


 もちろんセインもゲームから足を洗っていた。昨日はオンライン打ち合わせを隠すために並行してゲームをしていただけだが、打ち合わせの内容を知られるわけにはいかないのでごまかすしかない。


「後で聞いてこよう」

「好きにしろ」


 ヒカリはセインとは話し慣れていないので、即決はできなかった。時間をかけて聞くことを整理して、万全の態勢で訪問しにいくと決め、レイジは彼女の好きにさせた。


「応答せよ電脳世界のシュラインズゲート!」


 ヒカリの心の準備を粉砕するかのように、セインが教室へ飛び込んできた。レイジのアバターネームをセインなりの表現で叫ぶが、周りの人には通じないので、恥ずかしさは感じなかった。



「二人にバレたけどなんて言い訳すればいい!?」


 慌てると普通の口調になって心の声と発生が一致するようになるセインは、元パーティーメンバーの二人から昨日プレイしていたことを指摘され、そのチャットをレイジに見せる。


「最終ログインが同じだから一緒にやってたのバレてるし」

「俺だけ続けておくべきだったか……」


 レイジは作戦の失敗を実感した。スマホでもプレイできるとはいえ、最近はログインもしていない二人がフレンドの最終ログイン記録をチェックしてくるとは予測しておらず、セインと二人で同じ時刻にログアウトしたせいで同時に遊んでいたと勘づかれてしまった。


 打ち合わせ後も片方だけプレイ続行していればまだごまかしようはあったが、そう言っても過ぎたことはどうしようもない。


 だが聞かれているのは解散したのに遊んでいたことではない。やるなら誘ってほしかったという本音が隠されているのをレイジは知っている。


「次は誘いますって返せばいい。また聞かれたら俺に振れ」

「了解」

 

 打ち合わせのカモフラージュだという事実は二人だけの秘密なので、言い訳を返すのではなく、今後はどうするかを答える。それで納得してこなければ、以降はレイジが答えると告げた。


 それを聞いて安心したセインは、言われた通りに返信し教室を去ろうとする。


「時に、太陽と星の広場の偵察は」

「その話は後だ」


 気が緩んだセインはうっかり打ち合わせで聞いた公園の下見をレイジはどうするか、人前で聞きかけてしまった。彼は反射的に言葉を遮って、彼女を教室の外へ押し流す。



「ゲームの話をここでするなっての」

「ああ、ゲームの話なんだ」


 そんな広場に心当たりのないヒカリはネトゲの中の何かのイベントを指しているのだと納得した。そしてその話を始めなかったのは周りの受験生への配慮だと信じた。


「イベント名にしても、紛らわしい言い方するなっての」

「紛らわしい?」


 現実での活動をネトゲ内でのことにしたのは他の誰でもなくレイジ本人だが、この話を聞いた人がそのネトゲに宇宙系のイベントがあるものだと勘違いされると困る。だから実際は太陽も星も無関係だと遠回りに伝えようとしてみる。


「炎を使う星型のモンスターを退治するだけだ」


 レイジの独り言に突っ込んだヒカリは、さほど興味なさげだった。


「もう少し早く言ってくれないかしら」

「お前の反応が速いんだよ」


 文句を言ってきたのは自席で話が聞こえていた淡路(あわじ)小通(コミチ)。コミチは会話に混ざっていたのではなく一人で読書していただけだ。だがセインの言葉が聞こえた瞬間、スマホを取り出して友達に報告した。

 ネトゲのイベントのテーマに興味がありそうという理由で、その友達の同級生にレイジと同じゲームをしている人がいることも踏まえて、試しにプレイさせてもらってみてはと提案のメッセージ。


 レイジにとっては不都合でしかなく、そんなイベントはないとバレると同時に、その相手がかつてのパーティーメンバーゆえに昨日のゲームについてまた追及される可能性が出てきてしまう。


「ほらSOSが来ちゃったじゃん」


 架空のイベントについて話していたことが知れ渡り、二人で昨日何をしていたのかという質問が再びセインに襲い掛かり、早速レイジに助けを求めるメッセージが送信された。



「嘘ついても苦しいだけだよ」

「嘘じゃないから。誤解を招く言い方しただけだから」


 ヒカリの苦言にレイジは言い訳しながらセインの代理で質問に答える。話していたイベントは天体とは無関係だと嘘を隠す嘘をついて乗り切った。

 予め用意していた嘘用の設定が、事ある度に修正が必要になる。レイジ自身も、どういう設定にして話を通したか混乱し始めた。


 心が読めるレイジは、人が覚えていることを利用して効率よく生きてきた反面、自身の記憶力は乏しく、彼しか知らない情報の管理は不得手のため、いずれボロが出てしまう傾向がある。


 情報によっては知らない方が本人のためと見抜けてしまうがゆえに、隠すために嘘をつく癖が定着した弊害だ。


「ごめんなさい。私が早とちりしたばかりに」

「セインの言葉を鵜呑みにするのは良くない。直すように俺からも言ってみるけどな」


 そしてコミチは聞こえてすぐに話を広めてしまったことを反省した。レイジはあまり気にしていないので気負わないようフォローしつつ、セインの言葉には注意が必要だと告げる。彼は心の声が聞こえるので困ることはないが、普通の人が聞けばチンプンカンプンだったり誤解したりすることが多々ある。


 そうならないように呼び掛けるのも必要だと受け入れることで、レイジとコミチ、それとセインのそれぞれに落ち度があるということで一件落着だ。



 そのときレイジは閃いた。一連の流れからヒントを得たわけではなく、騒ぎが落ち着いた影響で頭の回転がスムーズになったのがきっかけでの思いつき。


「受験っていえば、最近体に違和感があったんだ」


 レイジは足踏みしながら、誰に聞かせるわけでもない大きめの独り言を語り出す。


「駅のホームとか、ちょっと線路に近づくと足が震えるようになって、あれは受験で落ちないように本能が告げていたんだな」


 誰に零したわけでもない、身体の異変。レイジ自身はその現原因を知っている。階段から飛び降りたときに感じた痛みで、打ちどころが悪ければ兄のように命を落とすと理解した結果、高い所が怖くなった。

 その自覚の発端がヒカリに追いかけられていたことであり、ありのままに話せば彼女は少なからず責任を感じるだろう。


 だからレイジは黙って克服し何事もなかったことにするつもりでいたが、想像以上に苦戦している。


 伝えるのが後になると、発覚したときの拗れが膨らむ。かといって打ち明けてしまうと心配をかけてしまう。

 その折衷案としてレイジは、ヒカリが関係ない別の理由で高い所が駄目になったと明かせばいいのだと結論に至ったのだ。


「なおさらゲームしている場合じゃないわよ」

「それもそうかもな」


 周りから、特にヒカリに疑われていないのを確かめたレイジは、ゲームを控えろという指摘を受け止めた。実際セインや仲間たちと遊ぶ頻度が上がるわけではなく一時的に復帰するだけで、来月からは今度こそ本当に解散だ。



 しかし僅か数時間後、事態はあらぬ方向へ進んだ。ヒカリがセインに、昨日は本当にゲームをしていただけなのかと聞きにいったときのこと。


 セインはうまく口裏を合わせてくれたが、ヒカリはその瞬間に思いついたことを迷わず口に出してしまった。


 レイジは高い所に近づけなくなるくらい受験に不安を感じているようだから、今後はちょっかいをかけないでほしい。そんな愚痴を呟いた。


 セインとしては、ヒカリが何を誤解しているのかは知らないが、レイジがそうなったきっかけはヒカリが別れてなおも彼に執着した結果だと知っているわけで、責任を自覚していない彼女の言動に神経を逆撫でされた。


 高所恐怖症の原因を作ったのはヒカリだ。そういう意味合いのセインの激昂に、ヒカリは困惑と動揺を隠せなかった。

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