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オートセーブは深夜0時に+  作者: 夕凪の鐘
Episode103 堕ちる痛み
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530話 ペグマタイト

 三門(みかど)玲司(レイジ)は帰宅後、パソコンを立ち上げる。覗き見防止フィルムを貼って、左右からは真っ黒に映るようにした。さらにかつてプレイしていたネトゲを起動して準備が整った。


 ここからが本題で、web会議ツールを起動する。ウインドウは視認できる最小限に抑えて、パスコードを入力して参加した。


『揃ったね。じゃあ打ち合わせを始めよう』


 主催の町屋(まちや)時多(トキタ)は自信のデスクトップ画面を参加者と共有した。そこには犬の形をした地図と、石の出現地点を記録したマークが表示されている。


『俺たちが探す時の石は、知っての通り時間経過でテレポートする。この二日間の観測結果がこれだ』


 打ち合わせのテーマは時の石の入手。トキタには時の石の場所が分かる“ノーツ”があり、チームを再結成して手に入れると話を聞いてから本格的に観測を開始してきた。


『で、皆のスケジュールを考慮すると日時と場所はこうなる』


 トキタは画面をクリックしてメモを表示する。来月の頭、ゴールデンウィーク初日の午後四時。場所は二つの市の境目付近にある御影大六天公園。一際目立つ赤い日時計と黄道十二星座を模した天文台が目印と強調するように、下見で撮影したそれらの写真も併せて提示される。



『だいぶ先だね』

『五人いて三つの高校に別れているし、距離もあるから仕方ない』


 レイジとトキタは同級生ではない。同学年の知り合いなだけで高校は違う。打ち合わせには他に三人いて、内一人がどちらとも違う高校に通っている。ゆえにどこを指定しても誰かしらはアクセスが悪くなってしまうのだ。


『場所もだいたい全員から同じくらいかな』

『ああ。その分誰からも遠いわけだが』


 トキタが選んだ場所は、特定の誰かから近い所ではなく、極力負担が偏らない島の中央部。これなら不満は出ないが、全員にとって不慣れな地というデメリットもある。


『時間のあるときに下見をしておいてほしい。女子陣は各々飛べるから予算の心配はないだろう』


 レイジとトキタ以外の三人は、自前の“ノーツ”で空を飛べる。上原(うえはら)千聖(セイン)成東(なるとう)(マツリ)は悪魔の翼を生やすことができ、池袋(いけぶくろ)実祷(ミノリ)は壊れた機械を改良する能力でジェットスーツをパワーアップさせれば二人より速く飛べる。


 一方の男子陣。トキタは説明資料を作成する程度には目的地を実地踏査してあるが、未踏のレイジは詳しくない。


『レイジは皆の思ったことを読んで、重要な点を抑えておくといい。道の目印とか、人通りとか』

『まあ空から見たのが役に立つのか分からんが』


 代わりにレイジには人の心を読む力がある。セインたちが下見に行ったとき、彼女たちが思ったことを読み取っておくことで、実際に出向いたときと同等の成果が得られる。そんなトキタの提案に対し、彼はあまり効果を期待していなかった。



『じゃあセインに抱えてもらうか?』

『それは嫌だ』

『なら申し訳ないが、自腹で見に行ってくれ』


 レイジの反論に対し、比較的家が近いセインに連れていってもらうのはどうかと提案したトキタだが、彼は嫌だと即答した。

 下見は強制ではないが計画を失敗させないためにも手は抜けないので、止むを得ず、電車とバスを乗り継いでもらうようお願いした。


『時間もないし話を進める。計画を円滑に進めるにあたり、チーム名とプロジェクト名を決める』


 話題は移って、時の石捜索隊に正式なチーム名を付け、この活動自体にも記録に残すための名称を付与する必要がある。その宣言に、メンバーは拍手を送る。


『さっそくアイディアを出してくれ』


 決めるのはリーダーではなくメンバー全員。そこでトキタは募集を始めた。いの一番にミノリが挙手し、用意していたホワイトボードに書き記す。


『ペグマタイト。チーム名でもプロジェクト名でもどっちでもっ』

『宝石を生み出す花コウ岩のことだな。鬼御影とも呼ばれる岩石だ』


 聞き慣れない横文字にハテナが浮かぶ三人に、レイジは捕捉を告げる。彼とて知識があったわけではなく、発言者であるミノリがまだ言っていない思考を先取りしただけ。

 紹介の機会を奪うために言ったのではなく、そうした方がスムーズに話が動くと判断しての言動だ。



『ああ、公園の名前が御影だから?』

『そう。御影の石を探すからってことで……どうかな?』

『何だっけ? ペグ……』

『ペグマタイト』

『私は賛成。響きがかっこいい!』


 マツリの頼みで復唱してもらうと、セインは賛同の意思を示した。マツリも同意見で、結果的にミノリ一人の提案で決着した。


『レイジもそれでいいか?』

『シンプルかつ独特だし、完璧だと思う』


 レイジも賛成したが、一番の本心である、他人に聞かれてもバレにくいことは伏せておいた。


『へぇ。パワーストーンで検索すると、色々効果がヒットするんだな』


 ミノリの提案で興味が湧いたトキタはインターネットで検索して、唆られたページを皆にも見せてみる。


『生まれてきた理由……今回の目的にぴったりだ』


 チーム名は決まった。プロジェクト名も、そのチームの活動という意味を込めてチーム名と同じにした。


 そこで次のテーマ、彼らが時の石を探す目的について触れる。パワーストーンとしての効果も、その目的を果たす士気を高めるものとなった。



『俺たちは時の石の力で未来を変える。三か月後に迫った全滅の未来を回避するための重大なプロジェクトだ』


 レイジの同級生、津田山(つだやま)(ヒビキ)が“ノーツ”に目覚め、未来の自分の分身から聞いた恐ろしい出来事。今年の七月に、“ノーツ”持ちの同学年が次々に命を落とすというものだ。その未来を見たヒビキ本人は、事件の翌日の分身を出せないので、どんな結末を迎えたのかは不明だ。


 だからなんとしてでも回避しなくてはならない。死の原因はレイジの故郷からの襲来。未然に防ぐためには敵が揃う前に追い返したり、最悪戦いに備えて力を溜めておくことだ。

 だがトキタたちは考えた。過去や未来に干渉して、事件そのものをなかったことにできないものかと。そしてその検証をするのが、このメンバーを収集した目的なのだ。


『襲撃のきっかけを掴めたら、鎮めることができるかもしれない。とにかく時間はない。やれることをやってみる』


 しかし行き当たりばったりな所もある。いつの年月へ移動して、どこで何をするのが正解か、分かっていない。けれども何もしなければ運命は動かないので、思いついたものから試す。

 幸いにも、チームに一人、襲撃者に詳しい人がいるので目星は立てやすい。


『まずレイジ、君が参加してくれたのは助かる。君は過去を変えることに反対していたからね』

『思い込みだったかもしれないからな。ちょっと意見を変えてみた』


 この計画自体はもっと前から構想に上がっていた。だがレイジが反対していた影響で保留状態となっていた。彼はかつて、時の石とは違うやり方で歴史を変えたことがある。だがそれをきっかけに彼は、今後歴史を変えることは許されないと自身を、そして周りを否定するようになった。


 運命を変えると、本来訪れるはずのなかった出来事に直面し、その結果いっそう苦痛にぶつかる。だからどれだけ科学が進歩した未来から人が現世に現れないのだと主張して、今の姿がベストと言って聞かなかった。


 そんなレイジが、計画に加わると意思表示してくれたことは、トキタにとっては心強いものだ。


『過去や未来へ行ったら君の力と記憶が頼りだ。任せたよ』

『ああ。絶対に成功させよう』


 自分たちだけでなく、島の知り合いを救うための計画だ。ここにいる全員が、確たる意思をもって臨んでいる。


 だが今回の話題はここまでだ。果たしてどんな過去や未来へ行けるかは、当日になってみないと分からない。日時と場所さえ共有して、後日、予定通り決行できそうか改めて打ち合わせをして本番に臨む。


 けれどもまだお開きにはならない。普段はなかなか会えない距離にいる五人が、オンライン上とはいえ時間を調整して集まれているので、もう少しこの場に居たい気持ちがあった。



『もし計画が上手くいったら、ご褒美に好きな願いを叶えさせてくれたらいいよね。皆はどんな願いを叶えたい?』

『そうだなぁ……お父さんに生き返ってほしいな』


 ミノリは頑張った報酬として、時の石の力を自分のために使わせてもらいたいと呟いた。そして仮定の話ではあるが、他のメンバーはどんなことを望むか意見交換を提案した。


 最初のトキタの答えは、時の石の研究の途中で病気で命を落としてしまった父を救うことだった。


『やっぱりそういう感じだよね。私も、友達に家族を返してほしいな』


 ミノリは機械を直すことはできても、命を治すことはできない。それゆえに友達の心の傷を、寄り添うことでしか癒せなかったことには少なからず未練がある。


 もしも自由に過去を変えられるのなら、災害の発生を現地の人々に知らせて避難が間に合っていた未来へ書き換えたいと願うのだった。


『私は二人みたいな深刻な望みはないな。セインは?』

『フリーズしてる。刺激が強かったようだ』


 カニをたらふく食べるという願望を言いづらい雰囲気になったマツリは、自分の欲望を押し殺してセインに意見を求めた。考え込んでいるセインを庇うように、レイジは彼女が黙りこくっている理由をとってついてごまかした。


『レイジはどうだ?』

『俺は……兄貴に生き返ってほしい』


 セインが言おうとしていた、高所恐怖症になること。そのきっかけである兄の事故死を、なかったことにしたい。レイジはそう呟いた。



『兄がいたのか』

『俺がこの島に来る前に死んじまった。おかげで兄貴との夢は叶わなくなってしまった』


 兄の死やレイジの夢など気になる点はあったが、トキタにとっては彼が言わなかったことが疑問に感じた。


『一ノ宮とのことはいいんだ』

『多分、それが叶ったら会わなくなるからな。俺とあいつは』


 トキタはBランクで、その仲間内である騒ぎを最近耳にしていた。レイジと去年まで付き合っていた彼のクラスメイト、一ノ宮(いちのみや)耀(ヒカリ)が別れた後、他校の男子と付き合い始めたという噂だ。


 ヒカリはその相手がすでに付き合っている人がいると知っていて、その人から彼女の座を奪おうと特訓し、同じBランクの男子生徒たちをトレーニングに巻き込んだと聞いている。トキタは巻き添えを回避したものの、レイジとヒカリの人間関係が周りに、恐らく悪そうな意味で影響を与えている予感は拭えない。


 その当事者であるレイジが、過去や未来へ行ける時の石を使って直そうと言わなかったことが、トキタは引っ掛かったのだ。


 そんな疑問に対してレイジは、そもそも会わなかったことにして、関係を白紙に戻すつもりだと話す。彼はもし兄の死を回避できたら、この島に漂着してこの島の学校に通い、そしてヒカリと出会うこともなかっただろうと考える。どう改善するかではなく、出会わないことが答えだという捉え方に、トキタはどうしようもないものだと感じざるを得なかった。



『でももし三門君がこの島に来なかったとしたらさ、こうして私たちが集まることもなかったのかなって思うと不思議だよね』

『歴史を変えるチームが誕生しなかったことになる…出…けれどもそうなったのは歴史を変えた結果で……』

『そういう循環に陥るから、歴史は変えられないのかもしれないな』


 考えてみるとそんな考察に行き着くものの、前例がない事は試してみないと分からない。


『それを知るのもこの計画の意義だ。とにかく今は真っ直ぐ取り組もう』


 そう鼓舞するトキタの締めの言葉で、ペグマタイトの打ち合わせは幕を閉じた。

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