638話 すぐ追いつく
水天宮渡は新都昌太、三郷楽阿と合流した。
大手町白も現在向かってきている。この四人が残っている二千代高校が、暫定一位だ。
「避けろ!」
倒木が飛んできた。気づいたラクアが回避を促し、三人とも無事で済んだ。そこへ戸塚智絵が現れる。
ボールの撃ち合いを経て、トモエは倒木を持ち上げた。今度は相手の姿が見えているから、狙った場所へ投げられる。
そうさせまいと、ラクアが跳んで倒木にしがみつく。木を経由してトモエを過労させ、振り回している間にバテさせた。
トモエは腕が震え、堪えきれず木を落とす。無防備な彼女に、マサタがボールを当てた。
「貴様は今日抱きついてばかりだな」
「うるせえ」
ワタルは落とされた木の横で座り込むラクアに手を貸しながら皮肉を言う。彼が佐貫町藍子を撃破したときの流れはキヨシからの通信で聞いている。勝利を手繰り寄せたのは、アイコに抱きついたことだった。
「キヨシが余計なこと話すから……」
「ご、ごめん……」
「いつの間に!?」
ラクアが愚痴を溢したタイミングでキヨシが到着していた。雑談で一息ついた矢先に、次の相手が現れる。
九段下青美。ワタルがさっき撃破した相手のチームメイトだ。
アオミは四人まとめて押し流そうと川を生み出す。大量の水。四人は倒木に乗って水没を免れ、彼女と距離をとる。
そこへ次元のゲートが開き、飛び出してきた清澄祈聖がマサタを蹴り落とした。川に落ちた彼に、アオミが水中からボールを当てる。
ワタルがノエルへ撃ったボールを彼は次元のゲートでワープさせマサタへ当てようとしたが、すでに彼は脱落しておりボールはアオミに当たった。
立て続けに二人が脱落。狙い通りにはならなかったことに不服なノエルは、残りの三人も片付けてしまおうと考えてゲートに入り姿を隠す。
その直後、川が凍りついた。代々木冬華の“ノーツ”だ。倒木が氷で固められ、動きが止まる。そしてトウカは氷の上を走ってキヨシを撃破しに迫る。
撃たれたボールは避けられ、ノエルのゲートに飛び込んで別方向から飛び出す。これをキヨシは手元のリボンで弾いた。
「それ脱落じゃねえのかよ!」
「裾とかならセーフじゃねえの? 試そうぜ」
異議を唱えるノエルに、競技のルールの穴を探ってみないかとラクアが提案する。真面目に検証する気はなく、乗っかってきたところに体に当てて倒す算段だ。
「……いいぜ」
ノエルも同じことを考えていた。ボールを撃ってきたらゲートに飲ませて跳ね返してしまおうと。
提案に乗るフリをしてゆっくり寄ってみたら、急に足が重くなる。トウカが放った氷が、足を飲み込んだのだ。
身動きが取れなくなりゲートで移動もできなくなったノエルはもがく。するとワタルたち三人は逃げ出した。ゲートは使えるから、焦って倒しにいこうとすると撃ち返される。
「おい待て! 逃げるな!」
そしてトウカもノエルをそっちのけに三人を追いかける。足が冷たく感じながら、彼は脱出する方法を考えた。
蘇我照美は神田玄から指示を受けながらボールを撃ち出す。テルミからは見えないが、そこには高尾星香がいる。見えているハルカから場所を聞いて、そこへ向けて撃っている。
だがセイカはタイミングよく避ける。彼女は三門玲司から指示を受け、テルミが狙うコースから逸れる。
傍から見たら誰も居ないところへ乱射しているよう。その光景を見た二重橋千夏は、すぐに見破った。
そして今度は仕留めると誓い、バリスタを作って矢を放つ準備をする。すると上原千聖がチナツの前に現れた。
またハンマーを投げられて爆発させられる。そう読んでバリスタをまとめて消滅させる。直後チナツは、セインはもう脱落したはずでは、と考え直した。
だがセイカにボールを撃たれ、それが命中した。セインの姿は彼女に視覚を操られて見えた幻覚。そのからくりに気づいたときにはもう手遅れだった。
今が撃破のチャンスだとハルカが告げる。テルミは言われた通り狙いを定めると、ボールをヒットさせた。だがその直後、大塚寛人に背後から狙われて撃破された。
チナツに続きセイカ、テルミが脱落する。一連の流れを心の声を聞いて把握したレイジは、ハルカの戦略を理解した。
『セイカまでやられたじゃない!』
『悪い。神田の判断を読み違えた』
セイカがチナツを倒しにいけば、テルミとしてはセイカを撃破する絶好のチャンス。しかし直後にカントがテルミを倒す。
テルミの脱落を防ぐには、カントを警戒することになってチャンスを見送る。
この二択をハルカは想定していたうえで後者を取るつもりだということをレイジは察知していたから、セイカにチナツを撃破させたうえで彼女は脱落させない、一方的なアドバンテージを得ようとした。
だがハルカは急遽プランを変えて、テルミを切り捨てた。
そのせいでレイジがセイカに指示を出すのが間に合わず、脱落させてしまったわけだ。
「テルミと引き換えにセイカを倒すのは、駒得だものな」
レイジはハルカに言い放った。退場門からモニターで見ている脱落者にも観客にも届く声量で、彼女に言いがかりをつける。
読心術を持っていることが知れ渡っていることを逆手にとり、あたかもハルカが思っていることを暴露しているかのような言い回しだ。
しかしハルカは黙っている。レイジが言った通りの受け止められ方をされる自覚はあった。けれども非情にならないと勝てないと思ったから、自分のやり方を間違いだとは思わない。味方から非難されることもない、と迷いを断ち切った。
ハルカを煽るレイジの言葉が途切れると、坂上未来は彼に次の作戦を内心声に出して尋ねる。思うだけで伝わるが、返事は彼の声となる。
残りは両チーム三人ずつになった。一位を狙うには、まだ四人以上残っているチームはない。元々五人以上いて、かつ三人残っている四校で一位争いだ。レイジは状況を確認し、ミライに伝える。
「俺たちで二千代を狙う」
「大丈夫なの?」
ミライは目配せする。移動するには、目の前にいるハルカを振り切らないといけない。
さっきまではお互い味方に指示を出しながら撃ち合いをしていた。だがここからは目の前の相手に専念できる。様子見の時間は終わりだ。
ミライは、自分が脱落覚悟で足止めを買って出るべきか尋ねる。しかしレイジは首を横に振る。一位に追いつくために必要な得点を稼ぐために、彼女に居なくなられるわけにはいかないからだ。
それはミライも分かっている。ただここで二人ともハルカに撃破されるよりは点を稼げると思っての提案だ。
『イブキ、そのまま進んで』
レイジは離れた場所にいるもう一人の味方に通信で指示を送った。
向かわせた先には板橋茂吉と船橋証がいる。二人はチーム、イブキ一人で突っ込めば狙われてしまう。
そう懸念するミライは、自分たちも加勢するのだと察した。するとやはり問題は、ハルカをどう遇らうかだ。
「行くぞ」
「えっ!?」
レイジはどんな作戦を立てたか告げず、左手でミライの右手を引いて、ハルカの右手側を通り過ぎるように走り出す。空いた右手には盾を構えている。
ハルカは射撃しない。レイジは両手が塞がっているから撃ってこないし、ミライは利き手が繋がれているうえ走らされているから撃てても当てにくい。
二人に撃つ意思がないと捉えたので、まずは様子を窺う。向かっている先にハルカのチームメイトはいないと分かっているからこその慎重な対応だ。
「先行って、すぐ追いつく」
しばらく進むとレイジは手を離す。走るのは継続しているが、徐々にミライに置いていかれる。足並みは合わせなくていいからイブキを援護をと伝え、先行して到着したエリアに飛び込んだ。
イブキが体のリミッターを解除して限界以上のスピードであらゆる角度から射撃する。それをモキチが創造したフライパンを両手に二本持って範囲の広さを武器に防ぐ。
アカシは天ぷらの衣を撃ち出してイブキの足を狙い、機動性を削りにいく。
そこにミライが乱入した。鼓動を聞く”ノーツ“を持つ彼女の強みは、遠くからでも相手の位置を把握できること。前線に出るとその強みは薄れるから、脅威ではないと思われて、イブキへの集中攻撃は止まらない。
だからミライは自分では攻めない。相手二人から同時に警戒される位置を陣取り、狙われるかもと思い込ませる。
その心理がはたらいたときの鼓動を聞いて、通信でイブキに合図を出す。モキチの視線が一瞬ミライに向いたとき、イブキはダッシュしてフライパンを蹴り飛ばし、すかさずボールを撃ち込んだ。
これであと一人、とはいかなかった。フライパンがボールを弾く音が聞こえた秋葉原秋杜と大島結菜が参戦する。
狙う先はミライだが、アキトは留まった。振り返るとそこにはレイジがいて、咄嗟に盾でボールを弾く。狙い易い位置にミライがいたのは、やはり罠だったと見破った。
アカシはどさくさ紛れに離脱する。相手チームが複数人いるから分が悪い。二校で争っているうちに逃げて生存点を稼ぎにいく。
レイジは味方に追わなくていいと呟く。だがイブキが反対した。ハルカ筆頭に一位争いしているチームの点にさせたくないからだ。
彼女はレイジの反論を待たず最後の力を振り絞り、アカシを仕留めに動く。だがユイナが張り巡らせた糸に絡まり、力んだだけの動きを発揮できないまま止められ、反動で体が痛む。
すかさずアキトがイブキに迫る。だがレイジは行く手を阻み、脱出の時間稼ぎをする。そこにミライが忍び寄り、ユイナにボールを当てたが、体をすり抜けた。
見た体を透過させて脱落を防いだ、住吉透依が現れた。
トウイはゆっくりとミライに詰め寄る。いくら撃っても貫通して脱落しないから、諦めて逃げるも、加速させる“ノーツ“で静かにトウイが先回りする。
ミライは打開策をレイジに求めるも、彼はイブキの糸を切ることに専念して見向きもしない。そして彼女はトウイに撃たれた。
続けてアキトが、トウイによって通過状態になってアカシに迫る。盾に頼らずボールが効かない状態で、堂々と距離を詰めて撃破した。
これでこの場は二校が残ったが、そこで勝負はしない。トウイにその気がなく、それをレイジも読み取っているからだ。
「二千代を潰すぞ」
三位のトウイたちは、二点差で二位のレイジたちを、人数差がものをいう生存点でじきに追い抜く。目指すは五点差で一位のワタルたち。
彼らの独走を防ぐために、トウイはイブキに共闘を申し入れた。イブキは小さく頷くと、レイジがてこずっていた糸をユイナが一瞬で解き、自由にさせた。イブキは息を整えながらトウイたちに同行した。
レイジもついていく。ワタルたちを撃破するための生贄にされるつもりと知っていながら。
三十八人中二十一人が脱落した。高校ごとの順位、暫定トップ3は以下の通りだ。
一位 二千代99点
二位 菜の花原96点
三位 実郷94点




