639話 置き去りにされて
実郷、菜の花原両高校の連合チーム五人の前に幕張加織が立ちはだかる。カオルは彼らに味方を立て続けに撃破され最後の一人になったが、裏を返せば味方を巻き込む心配がなくなった。
カオルは自身の端末を構え、大音量で騒音を流す。“ノーツ”で生み出すそのノイズは、住吉透依の通過を持ってしても防げない。
音をすり抜けて無効化はできなくても、相手のボールは当たらないのは変わらない。カオルを撃破するべく、トウイは地面を蹴って加速する。
トウイは銃の引き金を引いた。ボールは射出されたが、引いた瞬間に爆音が響き、仰け反った。そしてボールは相手の盾をすり抜けるが、真っ直ぐ飛ぶのは変えられない弱点を見抜かれ、避けられた。
『奴の動きを止めろ』
トウイは大島結菜に、糸でカオルの足を止めるよう指示を出す。するとカオルはまずはユイナを倒すべく、背後をとって銃を向け、ボールを撃ち出した。
『盾を離せ!』
カオルの意図に気づいたトウイは叫ぶが、彼女のノイズに掻き消されユイナには届かない。
ボールはユイナの背中に当たるも、脱落とはならず体内へ潜り込む。正確にはすり抜けて、通り抜けようとしている。
だが通り抜けながら盾を持っている手に届くと、跳ね返った。
この盾はあらゆる“ノーツ”を無効化するから、通過状態にできない。全身を通過状態にすると持てなくなり、また地面に沈まないように手と足裏だけは元の状態にしてあった。
だから盾の裏側から撃てば、当たり判定がある手にヒットするというわけだ。
トウイは三門玲司に心の声で尋ねる。カオルは最初からこれを狙っていたのかと。もしそうならなぜ対策しなかったのかと。
レイジは答えない。心の声は受信できるだけ。相手に伝えるには発声するか文字に起こすなど、人並みの伝達手段に出なくてはならない。
だがノイズに苦しんでいる現状に余裕はない。仮に余裕があっても、連合を組んでいるとはいえ一位は渡さない、と正直に明かすメリットはないから、レイジはどのみち答える気がない。
「騒がしいな……」
水天宮渡はカオルの発したノイズを聞いて、離れた場所でうるさい勝負が繰り広げられていると察する。
そこへ混ざりにいく気はない。まずは自分たちを追ってくる代々木冬華の対処だ。
ワタルには二人の味方がついていてトウカとは三対一。とはいえ彼女が放った氷の上で勝負するのは危険だから、氷が及んでいないエリアまで引っ張ってきた。だからここから反撃だ。
と思った矢先、神田玄が現れた。ハルカ一人ではない。その味方、津田沼浪郁と錦糸郁爽も一緒。
暫定四位のハルカのチーム。狙うはワタルたち一位のチームだ。
鉢合わせは偶然ではない。一度見た人なら視界の外でも動向が見えるハルカは、ワタルたちが揃っているのを知って、味方と計画を立ててここへ来た。
ナミカに目配せすると、彼女は大手町白の“ノーツ”をコピーして冥界へ姿を消す。直後、ハルカも動き出す。
さもイクサと連動するようなハルカの動きに、キヨシは戸惑う。冥界に潜ると動きは見えなくなるはずだ。
「キヨシも行け! 錦糸を止めろ!」
キヨシの葛藤を知らないから、ワタルは焚きつける。彼女をマークしておかないと不意に崩されてしまう事態に直面してしまう。
言われてキヨシは冥界に入る。ハルカはイクサと目を合わせ、頷いてワタルに迫る。
冥界に入ったキヨシはナミカを探すが、姿が見えない。もう戻ったのかと考えたとき、相手の狙いは自分を釣り出し数的有利の状況を作ることではないかと勘づいた。
ハルカとイクサでワタルを挟み撃ちにすると、彼の背後からナミカが飛び出す。ラクアは気づいたがフォロー間に合わず、ただ間一髪、戻ってきたキヨシが射撃を阻止した。
反撃に移ったワタルはボールをイクサに向けて撃った。彼女は盾を構えていない。
だがイクサは背中に十字の物質を生やし、回転させ風を起こし、ボールを押し返す。さらに彼女は連射し、風に乗せて不規則な軌道で飛ばす。
ワタルは磁力で砂鉄を集めて壁を作ろうとするも、風に煽られ固められず、ボールの嵐を食らった。
「うるさい所へ向かって、住吉さんとカオルの足止めお願い」
「了解」
相手を一人倒し余裕が生まれたタイミングでハルカはイクサに単独行動を依頼する。目的はカオルやトウイたちの乱入の時間稼ぎ。目印はカオルが発する騒音だ。
イクサは背中の物質を翼のように動かし、滑空して向かった。
秋葉原秋杜は自身の通信機と端末に力を込め、バッテリーを枯らした。これで味方との会話も得点の確認もできなくなってしまったが、それらの機械からノイズは発生しなくなり、いくらか耳が平気になった。
そしてカオルに狙いを定める。彼女さえ撃破すれば、この騒音地獄から脱け出せる。
対してカオルはアキトの接近を許した。今の彼は通過状態、ボールを撃ってもすり抜ける。だから彼の腹に手を突っ込み、指パッチンして発した音を増幅させ体内から刺激を与える。
気絶しそうな程の雑音。しかしアキトは堪えて盾を落とし、その手でカオルの頭を押さえる。そして“ノーツ”を使い彼女のエネルギーを枯らしにかかる。
どちらが先に果てるかの根比べ。お互い譲らないが、トウイとレイジが横槍を入れるようにボールを撃つ。
トウイは射出されたボールに“ノーツ”で加速度をつける。レイジのボールには負の加速度で減速させ、自分のには正の加速度で、彼のボールを追い越した。
結果、先にカオルに当てたのはトウイ。撃破点は彼のもので、この瞬間、二位と三位が入れ替わった。
久里浜華燐は京橋慧練を発見した。エレンの味方は脱落しており、周りに他の相手もいない。
撃破するチャンスと捉えて猛然と迫る。エレンは足元から水しぶきを上げ、噴水に持ち上げられる。そこからジャンプしその先からまた水を噴き出して、乗り継ぎながら立体的に逃げる。
それをカリンは飛びながら追いかける。炎の渦で身を包み、風を起こして体を浮かす。二人は飛び回りながらボールを撃ち合って、空中戦を繰り広げる。
エレンは弾速を落としたフワッとしたボールを打ち上げた。普段のカリンなら蹴りたくなるようなパスだが、それを蹴ればヒット扱いで脱落するという罠。彼女の癖を利用して脱落を誘うも、相手は乗らなかった。
カリンは蹴るモーションに入ったが、蹴ったのはそのボールではなく自分の盾。それをエレンが乗る噴水の根本へ突き刺し水を止め、落下させた。
エレンは落下中の射撃を警戒し盾を構える。するとカリンは自分で撃ったボールを、蹴った盾を目掛けて蹴った。ボールは盾で跳ね返り、打ち上げられてエレンの足裏にヒットする。
足裏から迫られたら防ぎようがなかったと、エレンは負けを受け入れ脱落した。勝負に勝ったカリンは地面に刺した盾を蹴り上げ回収した。
騒音が消えたことに気づいたイクサは、カオルが脱落したと察する。そしてノエルとレイジ、辰巳息吹の姿を捉えた。アキトはカオルとの根比べで消耗し、倒れたまま置き去りにされていて、イブキは回復に努めている、とハルカから通信機で聞いている。
つまり残った二人がイクサの相手だ。
「三門、あいつを止めろ」
「いいのか? 奴らに一位取られるぞ」
トウイとしては、早くキヨシたちの元へ行き一位を奪いたい。だからイクサに時間を取られたくないのでレイジ一人に任せようとした。
だがレイジは、そうすると彼女たちに一位を奪われることになる、と忠告した。
「……やるぞ」
さもレイジが負けること前提で話すもので、トウイとしては彼に任せられなくなった。
トウイは加速するボールを撃つ。だがイクサの背中で回転する物質に向かい風を浴びせられ届かない。
『私もそっち向かうわ』
『了解!』
ハルカは増援にいくとイクサに伝えた。その返事が聞こえたトウイは慎重になった。ハルカまでも加勢するのなら、レイジを置いて逃げた方がよいのではないか、と。
レイジは盾を投げた。イクサは物質を扇風機代わりに風を起こしてブレーキをかけようとするも、“ノーツ”が効かない盾は減速しない。
イクサは咄嗟に盾を構えたが、投げられた盾は彼女の横を素通りする。体に当たらなかったが、ホップして背中の物質に当たり、割れて彼女は落下する。
「今だイブキ!」
レイジは合図を出しつつ追撃する。イブキもトップスピードを出して二人でボールを射出した。イクサはすぐさま物質を生やし直すも、投げられた盾が降ってきてまた壊される。
そこへレイジとイブキのボールが向かうも、それらは彼女の体をすり抜けた。そして彼の背後からトウイのボールが飛んできて、それがイクサに命中する。
トウイの“ノーツ”でレイジへの撃破点加算を防ぎ、彼の手柄となった。イブキは力の使い損に終わった。
大塚寛人はキヨシとラクアを発見した。彼らはハルカたちとトウカを相手している。撃破点の横取りを図り、乱戦に突撃した。
また相手が増えたと愚痴を溢すラクアはカントを狙って撃つも、彼が気合いで創造した障壁にボールが弾かれる。その壁があるとカントからも狙いずらいが、消滅させるタイミングはカント本人だけが指定できる。彼がボールを撃った直後、一瞬だけ壁を消してボールを通した。
だがそのボールは、ナミカがカントの“ノーツ”をコピーして作った壁に阻まれた。撃破点を渡さないと圧をかけるように。
キヨシは壁の横から包帯を伸ばし、カントの腕に巻きつける。そして生気を吸い取り、気合いで壁を作れなくさせた。
そこへトウカがキヨシを狙って氷塊を流してきた。自在に振り回せる包帯をカントに巻きつけた今が仕留め時と読んで。
カントは壁を維持できなくなり、残された力で銃を向けるも、別方向へ移動していたラクアにボールを当てられて脱落した。
トウカの氷に押し流れされるキヨシに、ハルカが迫る。だが彼はカントが退場してフリーになった包帯を使いボールを弾く。
しかしトウカの狙いはラクアだ。本命はキヨシだが固執すればハルカたちに邪魔されるとカント脱落の経緯から読み取り、彼女らの注意をキヨシへ引きつけ別の相手を狙った。
地面を凍らせ、ラクアの足を固める。振り向けないよう固定して背後からボールを当てた。
トウイたち三人がキヨシたちの元へ到着した。二千代は残りキヨシだけで、トウイのチームとは五点差。逃げ切りを許さないよう、速攻で倒しにかかる。
だがハルカたちが邪魔をする。トウイが撃ったボールはナミカが彼の“ノーツ”をコピーして通過状態にされ、キヨシをすり抜けた。
「津田沼が先か」
ナミカが残っているうちはボールを当てにくい。だからキヨシは後回しだと切り替えた。弱点は盾を持つ手。あるいは地面に接地している足裏。そこには当たり判定が残っているから、背後から撃つか靴を狙えば撃破できる。
一方でトウカはアキトが居ないことが気になった。まだ残っているのに、チームメイトのトウイと同行していない。この場に居ない生存者もいるから、誰かと勝負している可能性はあるから、別に不自然ではない。
「アキトならもうすぐ来るぜ」
トウカの思考を読んだレイジが勝手に答えた。ジェスチャーでどの方向から来るのかさえ正直に明かす。トウイとしてはバラされたのは想定外。状況を知り動いた彼女の足止めを図る。
だがトウカが先手を取った。地面に氷を張り巡らせ氷の道を作り、その上にいたトウイの足を貼りつけ身動きを封じる。
じきにトウカはアキトと鉢合わせ、元同級生同士の一騎討ちが始まった。トウカは速度を維持して全身を凍らせ、自身を氷塊に変えてアキトに突撃する。スピードを枯らそうと彼は両手を構える。片手には盾があり、これが当たって氷が砕かれ元のトウカが露になる。
そのとき銃を持っていたトウカの方が撃つのが早かった。アキトを撃破すると引き返す。
三十八人中二十九人が脱落した。高校ごとの順位、暫定トップ3は以下の通りだ。
一位 二千代116点
二位 実郷113点
三位 菜の花原112点




