637話 フェイク。チャンス
『そろそろ合流』
『ごめん今無理!』
偵察を終えた清澄祈聖は飯田橋千夜の元へワープするべく場所を聞こうとした。だがセンヤは相手二人に狙われている最中で、教える余裕がない。
相手は久里浜華燐と亀戸紫月。カリンは脅威ではない。炎を纏って蹴りの威力が上がろうと、人を避ける“ノーツ”を持つセンヤには当たらない。
問題はシヅクで、紫色の電撃や炎熱、冷凍光線など多様な遠距離攻撃にセンヤは無力。自力で避けるか盾で防ぐしかない。
そこに辰巳息吹が飛び込んだ。イブキはシヅクの放った炎を、口に圧縮して溜めた空気を吐き出して跳ね返した。
元同級生としてセンヤの味方をする。シヅクとカリンの結託も同じ理屈であり、四つ巴ではなく二対二の構図になることをすんなりと受け入れる。
「先に辰巳さんを」
「ええ」
同じチームではないから通信でやりとりできない。だから声に出したが、イブキたちにも聞かれていた。
狙う理由は、イブキの方がチームの人数が多いからだ。
カリンとシヅクは銃を構えて二方向からボールを撃ち出す。集中攻撃を受けるイブキは、撃ち出されてから動いて避ける。反動は大きいが限界以上の力を出せる彼女ならではの反射神経。
イブキは反動が来る前にシヅクに詰め寄る。正面に立ったと認識させた直後に横に高速移動して、銃の引き金を引く。だがボールはカリンの炎に押し流された。
もっとボールの速度を上げられたら、とイブキは舌打ちする。しかし弾速は十が上限。
攻めきれないイブキにセンヤが手を貸す。撹乱するように走ると、イブキは彼にぶつかる勢いで走り出したが、彼の“ノーツ”で衝突を免れる。
そこへ無数の矢が降ってきた。
イブキは大きく跳躍して矢の爆発をも回避したが、センヤは大ダメージを受けた。跳んだイブキは矢が二重橋千夏による攻撃だと理解する。
チナツはイブキが跳んで何もできないうちに、ボールを撃ってセンヤに命中させ、矢の爆風に身を隠した。
イブキは爆風を吸い込み、チナツを炙り出す。煙が晴れて戸惑うも、それはカリンたちも同じ。そしてイブキはシヅク目掛けて息を吐いた。
カリンが炎を帯びた風を吹かせて煙を押し返す。しかしイブキは煙を吐きながら落下する。着地と同時に地面を蹴ってシヅクの正面に詰め、ボールを当てた。
カリンが煙を晴らしたときには、もうイブキの姿はなかった。
『シヅクやられた!?』
『辰巳さんに。でもかなり疲れてる』
味方の脱落を受けシヅクのチームメイトは作戦会議を始める。一度見た人なら視界から離れても状況が見える神田玄が、イブキは満身創痍であることを告げる。
『じゃあ狙う?』
『私は三門を狙うわ。さっきセイカと別れた』
ハルカならイブキの居場所をリアルタイムで追えるが、彼女は優先したい相手がいる。それは三門玲司。厄介な味方と分離した今が狙いどきと判断した。
だからイブキの撃破はチームメイトに任せることになるが、今は行かなくていいと告げる。
『先に二千代を減らして』
暫定一位は二千代高校。このチームはまだ脱落者を出していない。一位を渡さないために、シヅクの敵討ちは後回しにした。
その二千代の一員、水天宮渡は手を磁石に変える“ノーツ”を使い続けていた。
しかし銃を引っ張れない。三百系ステンレス製という露骨にメタった素材で、ワタルの無双を許さない。
しかし一人、引っ張れる相手がいた。鋼鉄の体の野田心鉄だ。解除すれば磁力に引っ張られなくなるが、ワタルに挑むために解除しない。
「やっぱりワタルか」
コテツはワタルと一騎討ちになると“ノーツ”を解除して身軽になり、目からビームを放つ。
しかしワタルの盾に防がれる。お互い手ぶらならそうはいかないが、彼は冷静にこの競技ならではの戦い方を意識する。
一方でコテツも、この競技のルールを利用している。一人チームの自分をここで撃破するのは得策ではないとワタルに意識させれば、彼は本気を出しにくい。
しかしワタルは迷わない。取れるときに点は取る。それがチームの方針。彼はコテツに狙いを定め、手の磁力をオンにした。
今度はぶつかってしまおうと、コテツは再び鋼鉄になって跳躍する。ワタルは浮いた彼を引きつけながら銃を向けると、コテツは盾を構える。
そのときコテツの体が磁力から解放され、地面に転がり落ちた。盾が“ノーツ”を防ぐ仕様の影響だ。すかさずワタルはボールを当てて撃破する。二千代がまたリードを広げた。
別の場所で、新都昌太は羽生鵠を見つけた。自分以外のチームメイト四人中三人が撃破点を入れたと聞いて、負けられないからとクグイを狙う。
『やめとけ』
『無理するな』
『うるせえな!』
自分も続くと宣言したマサタだが、味方から期待されず腹が立った。確かに同じSランクでも勝負に向き不向きはあるが、使いどころを考えれば勝てないことはないと証明したい。
加えてクグイの“ノーツ”は水面をスケートできる力で、Sランクに昇格した際は手を繋いだ人も水面を走れるようになったが、この交通公園というステージで一人では意味を為さない。
だから銃と盾を使った真剣勝負。体力回復のコロッケを生み出せるマサタに軍配が上がる。
意気揚々と向かったマサタは、潜んでいた京橋慧練に足元から水しぶきを上げられ、噴水の上に孤立させられた。
マサタが飛び降りた先に、エレンは噴水を出す。長居はできず、水に沈みかける。そこにクグイが噴水を乗り継いで彼に接近して、両手を握った。
「……あの」
「こうすれば平気でしょ?」
クグイは微笑みを浮かべる。彼女の言う通り手を繋いでいればマサタは噴水に立っていられる。けれどもお互い両手が塞がっていると、エレンに狙撃されておしまいだ。
だがエレンは悠々と去っていく。二人は取り残された。
『誰かヘルプ!』
『ダッセー』
マサタは通信で援護を求めた。見えないので状況は読めないが、弱音を上げる彼の声は滑稽に思えた。
『ラクア、行ってやれ』
「了解」
「いってらっしゃい」
三郷楽阿は赤羽十四哉の指示でマサタの様子を見にいった。同行していた大手町白とはここで一度お別れだ。
『キヨシはそのまま俺と会おう』
残ったキヨシにトシヤが指示を出す。近いし、勝負所だから合流しよう、と。
そこにはレイジとそのチームメイト二人、坂上未来と新宿香李がいた。
さらにハルカが駆けつける。二対三対一の構図だ。
『何か喋ってて』
ハルカはコスモの“ノーツ”対策に、味方に断続的に声をかけてもらう。彼女の“ノーツ”は歌で人を魅了するもので、聞き入っていたら撃破されてしまう。
『歌は効かない。神田はコスモ狙いだ』
そしてハルカは最初にコスモを倒すと決めた。その作戦は心の声を聞くレイジに筒抜けで、すぐにミライとコスモに連携する。
「まずは神田だ」
「オッケー」
トシヤとキヨシも標的をハルカに絞る。一人でいる今が倒すチャンスと見た。
コスモを守りながら、五方向からボールを飛ばす。しかしハルカの視野は広く、ボールを避けられる。
ラクアがマサタの元に到着した。水しぶきの上にいるのを見て、エレンが絡んでいると読む。案の定、茂みから彼女が現れ、ボールを避けながら彼を救いに動いた。
ラクアは水しぶきに向かってボールを撃つ。ボールが水に飲まれ、流され上へ登っていく。その先にはマサタの両手を握っているクグイの足裏がある。
「クグイ避けて! ごめん!」
ボールの動きを見たエレンは避けるよう指示するも、間に合わないと思い水しぶきを止める。
味方を落下させてしまったが、そうしないと脱落していた。
落下しながらマサタは手を振り解く。そして銃を取り出し、ゼロ距離でクグイにボールを当てた。そのまま彼女は脱落し、退場門へ転送される。残った彼は墜落した。
「痛っ!」
「大丈夫か」
ラクアがマサタのフォローに入る。彼が足の痛みを治すまでエレンを牽制したが、一人になった彼女は去っていく。マサタが一人になるから追いかけなかった。
同時刻、レイジが急に悶える。何のことかコスモもキヨシも分からなかった。
トシヤは勘づいた。マサタが墜落したときの心境を心の声で拾ってしまい、自分のことのようにショックが伝わったのだと。
読心術が裏目に出た隙に、トシヤはレイジに迫る。だが撃ったボールは盾に弾かれ、カウンターを食らい脱落した。脱落直後にトシヤは気づいた。今の挙動はフェイク。チャンスと思わせるための釣りだったと。
一人減って包囲網が緩まり、ハルカは脱出する。狙いはコスモ。歌う隙は作らせない。
一方で味方が撃破されたキヨシは“ノーツ”で冥界の扉を開き一瞬で姿を消す。姿は見えないがレイジには心の声が聞こえる。キヨシがどこから出るか予測がついた。
だがハルカがキヨシの行動を見てから、彼女も動きを追えることができるので、出てくる先へコスモを誘導する。
レイジは制圧力で敵わないと割り切り、コスモのフォローを諦めた。
そして現世にカムバックしたキヨシに背後を突かれ、コスモが脱落した。
これで五人以上残っているチームは実郷高校。その生徒は、この四人の中には居ない。
レイジとミライ、ハルカの三人は一度足を止めて周りを窺う。その実郷の生徒が脱落しそうか確かめて、先に撃破させようと狙っている。
結果、四人は膠着状態に陥り、そんな心理戦ができないキヨシは突然静かになった状況に困惑した。
マサタは救ったがトシヤが脱落したと聞いて、水天宮渡は司令塔を引き継ぐ。脱落すると通信できなくなってしまうためだ。
念のためマサタのフォローに向かいかけておいたので、二人と合流するのは難しくない。マサタとラクアに待っていてと告げた彼は、森下狂美に足止めを食らった。
「……トウイが来るまでの時間稼ぎか」
ワタルはクルミの真意を探ろうとしたが、彼女は問いかけに応じない。
触れた者を狂わせるクルミを相手に、絶対に接近してはいけない。ワタルは自分に言い聞かせて、ボールを相手に撃つルールを踏まえれば、それは特別意識しなくていいと割り切った。
しかしクルミは自分自身に“ノーツ”を使い、自らを狂気で暴走させた。ワタルも面食らい、身構えた。
信じられないスピードで迫るクルミの拳を、ワタルは咄嗟に砂鉄の壁でブレーキをかける。手を磁石に変える“ノーツ”で、公園の砂場から集めておいた砂。これがあるうちはある程度対処できる。
ワタルは木を障害物に使いクルミから逃れる。彼女から攻めてきたのは想定外だが、かといって援軍が来ない確証もない。ワタルは砂鉄を磁力で回転させ、チェーンソーのように振るい木を切り倒した。
クルミは倒木を受け止める。そこで両手を木を支えるために専念させているうちに、ガラ空きな胴体にボールをぶち込んだ。クルミが転送され、木が地面に震動を起こす。
一転して静かになり、自力で撃破する狙いだったのかとワタルは考え、味方の元へと急いだ。
三十八人中十二人が脱落した。高校ごとの順位、暫定トップ3は以下の通りだ。
一位 二千代69点
二位 菜の花原63点
三位 実郷59点




