636話 何をやっていたのか
「次も一位を取れたら総合優勝です!」
「絶対勝つわよ」
菜の花原高校の面々の会話だ。
全校一斉体育祭高校三年生の部、残す競技はあと一つ。Aランク対抗戦が終わると、同じステージでSランク以上対抗戦が始まる。
「でも想定以上にマークされる。レイジ、あなたに懸かっているわ」
次で最後の競技。出場する選手の中でも、三門玲司の影響は大きい。
心を読む”ノーツ“を持つレイジがどれだけ司令塔として機能するかで、明暗が分かれる。
「それと上原さん」
一方で上原千聖は、攻撃に特化した”ノーツ“でチームの得点源。事前に立てた作戦でも、彼女が相手する人が多い。
前までの競技で連勝して他校からのマークが厳しくなっても、セインはプレッシャーを感じず、無言で頷く。
「でも二人のコンビに心配要らないでしょっ」
「そうね」
同意を求められた一ノ宮耀は不機嫌そうに答える。勝敗はどうでもいいが、レイジが他の女子と息を合わせるのを見たくないという思いがあった。
「じゃあ行くぞ」
高校生活最後の体育祭。フィナーレを飾る最後の競技に、レイジたちは出発した。
出場選手、十二校三十八人が入場門に集う。
Aランク対抗戦は二千代高校が一位を取るという大方の予想が覆され、菜の花原高校が一位を取った。その前のBランク対抗戦でも一位を取っており、最後の競技次第では総合優勝できると注目を浴びている。
競技内容とルールはAランク対抗戦と同じ。ボールを撃ち出す銃と盾を持ってステージに転送され、ボールが体に当たれば脱落、退場門へと転送される。脱落したら、当てた人に撃破点として二点、残った全員に生存点として一点を加算。高校ごとに合計点を競う。
高校内での選手が多いほど、生存点が多く入る分、他校から狙われる。一方で少ないと一人でどれだけ稼いだところで上位争いに食い込まない分、後回しにされる。
前者に該当するのは、チームに六人を擁する菜の花原と実郷高校。時点が五人を擁する二千代と開明幕合高校。この競技の優勝候補は、この四校と予想されている。
しかし菜の花原高校は特に警戒されている。前の競技で連続して一位をとった影響だ。
競技開始のアナウンスが入り、選手たちがステージへ転送された。
転送先はチームごとに人数分マスが振られている。誰がどのマスへ行くかは事前に決めてある。そして競技中は脱落しない間は通信で会話でき、配布された端末で点数と順位、残り選手など確認できる。
加えてレイジは、相手校の転送先さえ把握できる。転送直後、全員の位置と動きを察知した。
レイジが持つ“ノーツ”、読心術の効果だ。これは、“ノーツ”特殊能力を持ち、その評価が最高峰の高校三年生のバトルロイヤルだ。
転送先のマスは味方とは離れている。だからステージ内では相手と遭遇する方が早い。セインは久里浜華燐、船堀愛姫、そして亀戸紫月の三人と、開始早々、出会い頭に四つ巴の勝負を始めた。
全員が炎属性の“ノーツ”を持つ女子たち。中でもアリスは相手の炎を無効化し自身の火力を上げる。彼女だけは相手の炎を避けず、放つ黒い炎は徐々に勢いを増していく。
他の三人は炎を盾で防ぐ。配布された盾はあらゆる“ノーツ”を防ぐ。どんなに火力が上がっても、軽い力で対処できる。
シヅクは電撃に切り替えた。彼女は紫色の光を発する“ノーツ”を持ち、使える属性は炎に限らない。狙いはアリスだが、黒い炎に押し返される。
カリンはセインを狙う。炎で身を包んで蹴りの威力を上げるのがカリンのスタイルで、セインは白い装束に変身して得た機動性で回避する。
黒い装束へスイッチしてカリンを感電させたいが、この乱戦ではスイッチの隙にボールを当てられてしまう。だからセインは攻めに転じず、味方の合流を待っていた。
シヅクはカリンに電撃を放つ。するとカリンは蹴った風圧で電撃を跳ね返し、そしてアリスに当たった。
感電して動きが止まった隙にカリンは炎の渦を纏って突進し、炎を消して、加速の慣性でアリスに蹴りを浴びせる。もう一度炎を放って体を回転させ、撃てる姿勢を作ってボールを射出、最初の撃破点はカリンが取った。
そしてカリンはシヅクと目を合わせ頷く。ナイス連携と、アイコンタクトをとって次のターゲットはセインだ。
だがセインはもう居ない。すでに勝負の場を離れていた。
「セイン、来るぞ」
「見つけた」
レイジと合流したセインの前に、二重橋千夏が現れた。チナツは二人まとめて倒すべく、小型太陽になる矢を放つバリスタを創造する。そして矢を放ち、体力を削りにいった。
セインは炎と盾で、レイジは盾だけで矢を防ぐ。その動きにチナツは違和感を抱いた。彼の動きが妙にトロい。飛べるセインに乗って動いた方がいいのにそうしない。
まだレイジに高所恐怖症が残っているのか、と考えたチナツだが、違う理由が見えた。彼に放った矢が突然消えた。そこにもう一人見えない人、視聴覚を操る高尾星香が潜んでいると見破り、バリスタの数を増やした。
するとセインがハンマーを創造しバリスタに投げ飛ばす。ぶつかった衝撃で爆発し、隣のバリスタを巻き込んでまた爆発する。
チナツは盾で身を守ったが、煙が晴れたときにはレイジの姿が見えなかった。
おそらくレイジはセイカを連れて逃げたのだろう。いくら見えなくても全方位を攻撃すれば避けられない。三人がかりでも不利と判断するとは随分と慎重なものだと感じるチナツは、深追いせず味方と連絡をとった。
セインはレイジやセイカと別ルートに動いている。二人と足並みを合わせると彼女の機動性が活かされない。
六人チームでも機動性と攻撃力に長けているのはセインくらいだから、彼女には縦横無尽にステージを回って点を稼いでもらう必要がある。
さっそくセインは錦糸郁爽を見つけ、攻撃を仕掛けた。
『一人で来てるから心配要らないわ』
『いや一人でもヤバいって』
イクサは神田玄から、セイン以外に相手が迫っていないことを、一度見た人の現在の動きが見える“ノーツ“で確かめると、イクサに連絡した。
相手は一人だから周りを警戒しなくていいと言われたのに対し、一対一でも劣勢だから増援に来てほしいと訴えかける。イクサは背中に十字の物質を生やして、羽扱いして飛んだり外して手裏剣のように投げたりできる。
その物質でセインの猛攻を凌ぐも、ボールを放つ銃を向ける余裕がない。
セインが投げたハンマーが、突然消えた。そして別の場所から飛んできて、それが後ろから自分に当たる。思わぬダメージに彼女は倒れた。
”ノーツ“でワープを繰り返し偵察をしていた清澄祈聖の仕業だ。ノエルはたまたまセインがイクサを追い詰めているのを見つけ、自滅するよう誘導した。
セインは体を起こしノエルを見据える。彼の”ノーツ“とは相性が悪いから飛んで逃げたが、移動した先に次元のゲートを作られ彼の正面にワープさせられた。違う方向へ飛ぶも、また戻される。
じっとしていると、イクサから十字の物質を投げられる。飛んで避けたが物質をゲートに通され、ワープしてぶつけられ撃ち落とされる。
セインは滑空してノエルに迫る。手で掴んでしまえば次元のゲートに阻害されにくい。だが、ノエルは自身の真横にゲートを作り自分がワープして回避する。ワープした先はセインの真上、上空だった。
イクサがセインに迫る。二人で勝負しているところに、落下するノエルの拳が迫る。イクサは物質で身を包み防いだが、セインはパンチの衝撃で吹き飛ばされた。
飛ばされた先にノエルがワープしボールを当てる。二人目の脱落だ。
「守ってくれてありがとう」
「……ああ」
ノエルは拍子抜けだった。セインは戦意喪失していなかった。どれだけ攻撃を受けても立ち向かってきたから、何か打開策を用意しているものと考えた。だが誰の乱入なく撃破できたので、どうもスッキリしない。
「あと守ったわけじゃねえ」
ノエルとしては六人チームを優先して狙っただけで、イクサも標的だ。すぐに彼女の死角にワープしボールを撃つも、背中の物質に弾かれる。
『嘘でしょ!?』
セインが脱落したと聞いて、レイジのチームメイトは驚愕する。そしてレイジは何をやっていたのかと責められる。
『ノエルが来たのは想定外だった』
元からセインが狙われていたら察知して防げたが、気まぐれで狙われたら間に合わない。だから仕方がなかったと弁明する。
『どうするのこれ!?』
『俺が二人分点を稼ぐ』
『頼むわよ!』
とはいえネチネチと詰められることはなかった。幸いにも他の六人チームの実郷も一人脱落しており、これ以上減らされないうちは点差を広げられることはない。点取り屋のセインが欠けたのは痛手だが、取り返しのつかない程ではない。だから話は終わった。
一方で大門輪廻はステージの道路を自転車で走る。瞬時に自転車を創造し瞬時に降りて消せる”ノーツ“で、他人にはないアドバンテージだ。これで人より早く味方と合流を図る。
だが突然タイヤがパンクした。影に潜った茅場久遠が影で作ったナイフで切ったのだ。すかさず影から飛び出してボールを放つ。三人目の脱落者が出ると、クオンは佐貫町藍子と合流した。二人チームだから集結は早い。
そこに三郷楽阿が通りかかる。アイコは攻撃体勢に入ったが、クオンがストップをかける。
「止めないで」
「……分かったわ」
しかしアイコは意地になった。ラクアには自分の力で勝ちたい。少し迷った末、クオンも付き合うことにした。
アイコは青紫の光線を放つ。破壊力がある光線だが、ラクアは盾で防ぐ。そしてボールを撃ち出すも、アイコの赤紫のバリアに弾かれる。
今度はクオンが影で作った黒いナイフをラクアに向ける。すると割り込むように、大手町白が冥界から現れた。霊能力を持つキヨシは、冥界経由で障害物を無視したり、纏った包帯に触れたものの生気を奪う。
クオンはキヨシの乱入に、案の定、と感じた。だからアイコを引き留めたかったが、それでも進んだのは、二人まとめて倒せばいいと割り切ったためだ。
クオンは影に潜る。生憎の体育祭日和で辺りは日向。地面を進む影の塊がよく見える。
しかし踏まれても平気で、クオンは地面を通ってラクアの影に潜った。
ラクアは自分の影が見えるように太陽の方を向く。するとアイコが彼の背後を取った。そして放物線上に青紫の光線を打ち上げ、彼に降り注いだ。
ラクアは防がずその身で受ける。影から飛び出したクオンの斬撃も、腹で受けながら彼女に拳を打ち込んだ。
触れた相手を過労させるラクアの”ノーツ“でクオンは消耗するも、アイコの赤紫の光に包まれ癒える。
これを繰り返して相手を一方的に削っていく。そう計画するとクオンは再び影に潜るが、その隙にキヨシがアイコに包帯を巻きつけた。
包帯が徐々に彼女の生気を奪う。アイコはバリアで弾こうとするも巻きついた物を外さないといけない。
そして地面から出たクオンの影のナイフをすれ違い様に避けたラクアが迫る。
赤紫の光を自分に浴びせて体力の回復を図るも、今度はラクアに強く抱きしめられてさらに疲労が溜まる。
ラクアとしては効率的ではあるが、唐突なハグにアイコは混乱し力が入らない。解放され膝から崩れたところに、ラクアからボールを当てられる。
影から出て挟み撃ちを狙っていたクオンは衝撃の光景に手が止まる。アイコが脱落しピンチを悟ったときには、もうキヨシからボールを当てられていた。
「アイリが見てるのによくやるね」
「別に、勝つためだし」
キヨシはラクアのやり方に、恋人との拗れにならないか問いかけた。しかし私欲のために勝負を捨てた彼女に幻滅していたから、何も気にすることはないと返す。
「その割には顔色が」
「包帯のせい」
強がりではとの指摘には勘違いだと返した。
三十八人中五人が脱落した。高校ごとの順位、暫定トップ3は以下の通りだ。
一位 二千代29点
二位 菜の花原26点
三位 実郷25点
四位 開明幕合25点




