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オートセーブは深夜0時に+  作者: 夕凪の鐘
Episode124 無関係な未来
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632話 逃げ道はわざと作った

 本八幡(もとやわた)龍期(タツキ)の“ノーツ”で龍に締めつけられた西千葉(にしちば)心朱(ココア)。逃げ出す術がないココアに、汐留(しおどめ)零華(レイカ)が銃を向ける。引き金を引いて撃ち出されたボールが当たれば、脱落だ。


 それだけは嫌だとココアは思う。高校最後の体育祭。やり残して終われない。


「待って汐留! 私秘策を用意してきたの!」


 ココアは銃を向けるレイカに待ったをかける。レイカは聞く姿勢をとったが、ココアは畳み掛けるように訴える。


「私とヒビキの連携が、この対抗戦でどれだけ通用するか試したいの!」


 ココアは同級生で同じAランクの津田山(つだやま)(ヒビキ)と練習をしてきた。けれどもこのままでは本番で発揮できずに負けてしまう。

 だからチャンスを与えてほしいと叫ぶ。


 レイカは撃った。だがボールはココアではなく龍に当たる。衝撃で拘束が緩み、彼女は脱出に成功した。



「西千葉がここで落ちると一位にはまず届きません。だからチャンスを与えます」


 レイカは訴えを聞き入れたのではなく違う理由からココアを救った。


「一位をとってください。B、Aと続けば、最後のSランク戦への期待が高まる」

「……なんであんたがそんなこと」


 前の競技、Bランク対抗戦はココアの高校が一位を掴んだ。この競技で彼女たちが一位をとれば、最終競技Sランク以上対抗戦でも一位をとるのではと期待を促す。

 それはレイカの高校にとって何のメリットもない。


三門(みかど)玲司(レイジ)に、プレッシャーを与えたいんです! だから西千葉、一位をとってくださいね」


 大嫌いなレイジに、有終の美を飾るための重荷を背負わせる。それがレイカのやりたいこと。ココアのチームが一位を逃せば、負けても仕方がない空気が生まれかねない。だからなんとしても一位をとってもらいたいのだ。


「……つまり汐留、お前は」

「ええ。その間は他の人を」


 タツキの察した通り、レイカは狙いを彼に切り替えた。ボールを乱射するが、地中から飛び出した龍が彼を持ち上げて不規則に畝る。避けたり盾で弾いたりしつつ逃げるタツキを彼女は追いかけココアは一人、残された。


「ココアさん!」

「あっヒビキ」


 茫然とするココアの元へヒビキが到着。何やかんやで合流は果たした。



 一方ココア、ヒビキのチームメイトの佐倉(さくら)(ミチル)は、他校生と結託して酒々井(しすい)鉄道(テツジ)を追っていた。

 銃は構えず、飛びかかることだけを考えて全速力で追う。テツジは逃げつつ、味方の鎌ヶ谷(かまがや)(ハヤト)の元へと向かう。

 そのハヤトは、さっきまで別の相手にマークされていたがいつの間にか振り切っており、向かってくるテツジとその追っ手に気づいた。


 野生化して反応が速くなったミチルと、翼を生やして空を飛ぶ二人。正直誰も狙いにくいが、ハヤトはテツジを見捨てず挑む。

 まずは走ってミチルに激突しようとしたが、足元に吹いた桜の風に体を浮かされスピードが上がらない。

 振り向くと武蔵浦(むさしうら)春桜(サクラ)がいた。桜の風は彼女の仕業だ。


 さらにミチルの後方から迫るように追ってくる影が見える。その正体は大森(おおもり)(イコイ)だ。


 二対三のやや不利な勝負に出ようとしたハヤトに、あっという間に相手が二人増えた。


「逃げろハヤト!」


 通信を使わず、相手に聞かれるのを承知でテツジは指示を出す。ハヤトは拒んだ。二人でもどうにかできるか怪しいのに、一人だけにさせられない。


「俺はここで落ちる。誰かを道連れにしてな!」


 しかしテツジもただ時間稼ぎをするのではなく、刺し違える覚悟を決めていた。その役目を自分で担ったのは、ハヤトには逃げ切るだけの足があると信じたからだ。


「倒さないよ。僕にするから」


 成東(なるとう)(マツリ)は銃を構えずテツジに噛みつきにいく。撃破すればステージから退場門へと転送されてしまう。相手を減らすより、味方に変えた方が便利だから、噛んで悪魔に変えてしまおうと企んだ。


 けれどもミチルが阻止した。野生化した彼はテツジを倒すことしか考えていない。マツリより先に噛みついた。悪魔に変えるための一噛みではなく、痛めつけるための力んだ噛みだ。


 テツジは耐えながら銃を向ける。ダメージを受けてもボールを当てられない限り脱落ではない。ゼロ距離の今がチャンスと踏んだ。


「生贄はミチルにしようっ」


 福俵(ふくたわら)天使(アツカ)はマツリの進路を阻む。テツジが宣言した道連れにする相手は、ミチルにしてしまおうと言い出した。



「じゃあハヤト追うの?」

「私と勝負よ!」


 アツカは二千代の頭数減らしをそっちのけにマツリに勝負を仕掛けた。滑空して頭突きをかますと、翼を打ちつけ消耗させる。


 二千代の独走を封じつつ、高順位をとりにいく。それがアツカの狙いなのだ。


「おい、暇なら手伝って」

「でも……」


 イコイはチームメイトのマツリのフォローに動くが、サクラにもヘルプを求める。しかし彼女はミチルとテツジの攻防が気になって動けない。



 飛びかかられてバランスが不安定ながらも、テツジがミチルに銃の狙いを定めた。


「聞いて! 撃って!」


 サクラは桜風を放ちミチルを包む。言霊の桜風は信じる気持ちで実現させる。この競技における勝利の形をミチルに思い起こさせると、彼の意識が銃に向いた。

 すると手でテツジの腕を握り、弾みで引き金を引かせるのを止めた。すかさず押し倒すと、自分の銃を取り出し、撃ち込んだ。


 サクラは安堵した。これでテツジも脱落、菜の花原に撃破点が入る。しかし数的有利の影響は大きく、二千代との点差は変わらない。


「ミチル君! ハヤト君を追わないと!」

「……よし」


 相手を撃破して落ち着きを取り戻したミチルは、風に乗って浮くサクラからハヤトの行方を教えてもらう。アツカたち三人が争っているが、無視して追いかけ始めた。



 ハヤト以外の二千代の残り選手四人は、美南(みなみ)哀月(アイリ)に捕まっていた。アイリの“ノーツ”のクモの巣に足を取られ、動けず“ノーツ”も使えない。


「あと半年」

「……まさか」


 東戸(ひがしと)寿々絵(スズエ)はアイリを見て呟く。聞こえた彼女は、何の期間か察した。失恋までの年月だと。


 クモの巣に触れてから“ノーツ”は使えなくなるが、スズエのそれは人の頭上に失恋までの日数が見えるというもの。アイリの巣に捕まる前に見ておけば、今封じられても影響がない。


 そんな力を持つスズエが呟いたのは、そういう意味があると考察したアイリだが、信用はしなかった。あと半年で破局するなんて、そんな兆しは感じていないから、これは動揺を誘う嘘だと受け止める。だからまさかの一言は、予期せぬの名詞の意味ではなく打ち消しの副詞で発した。


「ここで私たちを倒すと、ね……」


 しかしスズエは心を乱しにいく。アイリの交際相手は彼女たちの同級生。そしてこの競技をモニターで見ている。競技中の振る舞いが運命を分かつかもしれないという忠告と解釈できる。


「そんなことでラクアの想いは変わらないわ」


 幼なじみが蹂躙されたことで憎しみを抱くような人ではない。その信用が自信の源。だからアイリは揺らがない。だから一人残らず倒す。かつての同級生を、宿敵二千代高校を。



「逃げて!」


 大網(おおあみ)(アオイ)は盾を手離しながら叫んだ。普段なら打開策はアイリを掴んで身動きを封じることだが、競技中は“ノーツ”が効かない盾を持っている。その盾をクモの巣に当てれば、効果を消せる。


 だが欠点がある。それは盾を手離すことで、ボールから身を守る手段を失うこと。


 アイリは数秒後に四人が自由になると理解すると、銃をアオイに向け撃った。撃ってすぐ逃げる。盾が着地する前に命中し、彼女は脱落したが、直後、三人は開放された。


 すると三人は散り散りになり、誰もアイリを追いかけなかった。


 ミチルとサクラはハヤトを追う。彼が逃げた先には、最初に彼をマークしていた浜金谷(はまかなや)飛影(ヒエイ)がいた。


 長袖高校が揃った。二位争いをするこのチームが狙うべきは三人チームの一員ミチルのはず。ハヤトとしては相手と相手をかち合わせたいが、相手が悪かった。


 ハヤトは囲まれながら逃げ道を探る。三人の包囲網に一箇所だけ穴があり、そこがチャンスと見て飛び出した。


 ハヤトが通り過ぎるとヒエイはニヤッとして追いかける。逃げ道はわざと作ったもの。彼のマークを外している間に見つけた、偽りの逃げ道だ。



「ゲッ! 行き止まり」


 ハヤトはブレーキをかける。包囲網の隙間から進んだ遊歩道は、交通公園へ戻る道がなかった。ステージへ戻るには、フェンスを飛び越えなくてはならない。


 引き返そうにも、ミチルが迫ってきている。

“ノーツ”でどれだけ速く走ることができても、行き止まりでは意味がない。そして逆走して躱すような加速度ではなく反射神経が試される動きでは、野生化したミチルに敵わない。ミチルは二人目を撃破した。


「やっつけたようだな」

「さすがね。でも……」

「二位になるのは俺たちだ」


 ヒエイとサクラはミチル一人に任せて別の相手を狙いに動いていた。彼ならできると思っていたが、決して支援するつもりではない。ハヤトを使って彼をステージの端へ追いやったうちに、彼のチームメイトを狙う。そして二位の座を掴み取る。


「その先にサクラさんたち」


 ヒビキは過去と未来の自分の分身を出して、少し先の出来事を把握しながらココアと移動していた。そして未来の自分の忠告を聞き足を止める。そして茂みに隠れると、前の道をサクラとヒエイが駆け抜けていった。


「ありがとう」


 ココアは未来のヒビキを血で作った刀で斬った。倒れるが、目的は切り傷から溢れた血。血の一滴で刀を作る“ノーツ”を持つ彼女は目的を果たした。そしてヒビキは分身を消滅させ血溜まりが残る。


 刀のストックができた。宙に浮かせて動かせるから何本あっても困らない。


「こっそり尾行するわよ」

「了解」


 すぐには仕掛けない。サクラとヒエイが分離するか、他の相手と遭遇して背後に隙ができたときがチャンス。そう目論んで開けた道へ出たが、ヒエイに見つかった。


「嘘!? さっき……」


 通り過ぎたはずのヒエイがなぜ、と困惑するヒビキたち。しかしこれは彼の“ノーツ”幻影。素早く動いて分身を出し、本物の姿を見えなくさせる。

 ヒエイは二人の気配に気づいていて、幻影を進ませて自分はバックステップして、待ち構えていたのだ。


 ココアは刀を使わない。ヒエイの“ノーツ”には人の“ノーツ”が効かない効果もある。斬ったところで掠り傷一つつけられず折れるだけだ。


「こっち!」


 ヒビキは茂みの前で二つの分身を出してココアを呼ぶ。分身を土台に、茂みを飛び越えた。ヒエイの幻影は物体をすり抜けられない。うまいこと逃げられたと感嘆し、サクラを追いかけた。



 アツカはマツリと空中戦を繰り広げていると、地上に曳舟(ひきふね)(アキラ)を見つけた。さっきまで集結していた二千代の一員。分散している今が狙いどきと判断し、マツリとの決着は後回しにした。


 アツカは滑空して後頭部へ頭突きしにかかる。しかし直前に横ステップで回避され、頭を地面にぶつけた。


 怯んだ隙に撃ってしまおうと思ったアキラだが、アツカの姿はない。ぶつけた直後に反動で再び上空へ戻っていたのだ。


 今度は前方から角度をつけて迫ってくる。ぶつけた痛みをものともしないスピードに、アキラはダメ元で迎撃に出る。


 しかし太陽が眩しく、アツカの姿を捉えられない。額に頭突きを食らい吹き飛ばされ、立て続けに撃たれたボールが体に当たった。


 二十二人中六人が脱落した。高校ごとの順位、暫定トップ3は以下の通りだ。

 一位 二千代26点

 二位 菜の花原22点

 三位 東核備田14点

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