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オートセーブは深夜0時に+  作者: 夕凪の鐘
Episode124 無関係な未来
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631話 負けたくせに

 全校一斉体育祭高校三年生の部、残す競技はあと二つ。Bランク対抗戦が終わると、同じステージでAランク対抗戦が始まる。出場選手、九校二十二人が入場門に集う。


 競技開始までに波乱があった。Cランク以下対抗戦中に覚醒しAに昇格した月島(つきしま)希望(ノゾミ)というダークホースの参戦。そして先ほどのBランク対抗戦にて逆転勝利を収めた菜の花原高校。


 選手の注目は、菜の花原の三人とノゾミに集まっていた。作戦を考え直すヒソヒソ話が飛び交っている。


 競技内容とルールはBランク対抗戦と同じ。ボールを撃ち出す銃と盾を持ってステージに転送され、ボールが体に当たれば脱落。脱落したら、当てた人に撃破点として二点、残った全員に生存点として一点を加算。高校ごとに合計点を競う。


 高校内での選手が多いほど、生存点が多く入る分、他校から狙われる。一方で少ないと一人でどれだけ稼いだところで上位争いに食い込まない分、後回しにされる。


 前者に該当するのは、他が多くても三人なのに対し七人を擁する二千代高校。


 だが次点の、三人擁する菜の花原高校もマークされているように当事者は感じていた。前の競技で一位をとった影響だ。



 競技開始のアナウンスが入り、選手たちがステージへ転送された。


 ジャングルジムの頂上を転送先に選んだ東戸(ひがしと)寿々絵(スズエ)は、辺りを見渡す。スズエの“ノーツ”は、人の頭にその人の失恋までの日数が見えるもの。事前に誰が何日だったか記憶しておくことで、姿が見えなくても誰がどこへ転送されたかが分かる。


 普通は味方の位置しか分からないので、全員の居場所が割れるのは大きなアドバンテージだ。


『プロペラ機に集合』


 スズエは合流地点を選び貸与されたマイクで味方と通信する。


『ハヤト、後から行く』


 鎌ヶ谷(かまがや)(ハヤト)からは遅れると連絡が入った。ハヤトは浜金谷(はまかなや)飛影(ヒエイ)と遭遇し、彼の幻影を速度で振り切るのは一筋縄ではいかないと判断したためだ。


 ハヤト以外の五人からは返事があり、まずは六人で合流を目指す。


『ミチルが向かっているみたい』


 少し経ってスズエは佐倉(さくら)(ミチル)が自分たちの合流地点に寄ってきているように思え、連絡した。二人のチームメイトの元ではなく、誰かを追うわけでもなく、妙な動きに見えた。


『津田山が未来を見たんじゃない? 俺たちがそこに向かってるって』


 小村井(こむらい)珠陽(スバル)はミチルの動きの理由を予測する。彼の味方の津田山(つだやま)(ヒビキ)は過去と未来の自分の分身を作る“ノーツ”があり、未来の出来事が分かる。


 ミチルは自分たちが向かっていると知って走っている、と考えた方がいいとスバルは分析した。


『さっさと倒そう』

『菜の花を一人減らせれば一位は確実だもの』


 仮に合流がミチルの狙い通りだとしても、三人以上いる相手チームは彼らだけ。そこさえ序盤に脱落者を出せば、あとは生存点だけで一位になれるだけの数的有利がある。


 むしろその差を覆す策があれば見てみたい。圧倒的に有利なチームが一位を取っては、盛り上がりに欠けるからだ。



 四人が揃った時点でミチルが飛び込んできた。彼は迷わず突っ込んでくる。その動きから、彼の狙いは、全員が揃う前に崩しにいくことだと察した。


 来ていないのはスズエ、スバル、ハヤトの三人。ミチルは四人を手当たり次第標的に選び、ボールを撃つ。

 その動きは獲物を狩る野生動物のように獰猛。ミチルは“ノーツ”で意思を制御できなくなる代わりに攻撃性、俊敏性を上げられる。敵味方の区別がつかなくなるが、周りに相手しかいないからデメリットではない。


 出だしから全開のミチルに対し、四人は酒々井(しすい)鉄道(テツジ)の到着まで粘る。食われそうになったときは、曳舟(ひきふね)(アキラ)が食器や食材を引き寄せる“ノーツ”で救助する。


 しかしアキラ本人が狙われたら逃げる術がない。噛みつかれる間際、テツジがミチルの動きを止めた。

 テツジは騒がしい人を見て、黙らせ座らせる“ノーツ”でミチルの野生化による暴走を止めた。


 ボールを撃ったが、突然の突風により命中しなかった。


「上!」


 大網(おおあみ)(アオイ)が注意喚起する。上空には天使の羽を生やした福俵(ふくたわら)天使(アツカ)がいる。彼女の羽ばたきが、突風の原因だ。


 アツカは二千代の独走を封じにきた。だからミチルを守り、撃破点を入れさせなかった。そんな真意を隠して、正義の味方を名乗る。


「寄って集って卑怯よ」

「お前が倒したいだけだろ」


 図星を突かれてアツカは黙る。そこにスバル、スズエが合流した。


「アツカも来ていたか」


 スバルは分析した。アツカが来ると、高確率で来る人がいる。もし来たら、真っ先に自分を襲いにくると。


 その予想は的中した。迫ってくる前に振り返って、回避が間に合った。


「避けられたか」


 スバルを狙ったのは成東(なるとう)(マツリ)。悪魔の翼を生やして飛来し、彼に噛みついて僕にしようとした。


 内乱を巻き起こす強力な策だが、ゆえに警戒されており、そう易々と決まらない。



 三人は相手同士だが、狙いは一番強いチームを倒すためで、実質六対三。アツカとマツリが空中から雨のようにボールを撃つのを、盾を傘のように翳して防ぐ。


 頭を守ると体がガラ空き。ミチルは上今市(かみいまいち)健太(ケンタ)にタックルを決め、バランスを崩させた。


「健ちゃん!」


 アキラが引き寄せようとするもすでに吹き飛ばされた後。さらにアツカが急降下で迫っていた。


 アツカがケンタに頭突きを決める。怯んだ隙に彼女は宙返りをして正面に構え、ボールを当てた。最初の脱落者はケンタ。彼は“ノーツ”を披露することなく出番を終えた。

 しかし残り全員に生存点が入るので、暫定一位は二千代高校だ。

 二位は一人チームながらアツカが撃破点二点を入れた千羽草高校と、三人に生存点が入ったミチルたち菜の花原高校。


「負けたくせに一位とかズルくない?」

「そういうルールだから」


 マツリは文句を言いながら自分も撃破点を取ろうと攻める。しかし一人倒され危機感を抱いた二千代の守りは堅い。機動性を活かして背後をとっても、誰かしらが背中を守りに動くので、防がれてしまう。


 

「ハヤトのとこ行かねえと」

「一旦散るか」


 相手三人が固まっていると分が悪い。一度分散して、相手も分散させようと決めた。

 そして足止めされているハヤトを拾いにいく。


 だが追っ手は分散しなかった。テツジが離れ自由になったミチルが彼を追いかけると、アツカとマツリも後を追う。三人で一人を狙っている。


 テツジのフォローに回ろうとした矢先、次なる相手が足を奪う。スバルたちは美南(みなみ)哀月(アイリ)の放ったクモの巣に足を取られ、動きと“ノーツ”を封じられてしまった。


 一方でヒビキは西千葉(にしちば)心朱(ココア)との合流を目指していた。未来の自分の分身を出して、目先の出来事を把握しながら慎重に動く。


 この先で相手にやられると聞けば、一時停止して通り過ぎるのを待つ。結果未来は変わり、脱落を免れる。


 そのココアは行く道で、馬喰(ばくろ)百合子(ユリコ)本八幡(もとやわた)龍期(タツキ)と鉢合わせた。


 二人チームの実郷高校。二位争いをするライバルの一角だ。もう合流したのかと戸惑うココアは、指を噛んで血の一滴を刀に変えて宙に浮かす。両手に銃と盾、浮遊する刀を操って、迎え撃つ。



 ユリコが銃を向けボールを射出する。ココアは気づくも、そのボールはいきなり消えて、さらに近くに現れて迫る。ユリコの“ノーツ”により一瞬消える魔球となって、盾の準備が間に合わない。

 だがココアは刀を降って弾き、ヒットを免れた。


 今度はタツキが攻めてくる。地面に手を着くと東洋龍が飛び出し、ココアに突進する。彼女はこれを盾で押さえる。この盾はあらゆる“ノーツ”を防ぐので、軽い力で凌ぎきった。


 完璧な対処にユリコとタツキは通信で会話する。二人との接触は味方のヒビキから聞いていた、だからあらかじめ立ち回りを考えていたと予想した。


 そして出した結論は、このまま二人で相手せず、他のチームと結託して再チャレンジする。そのために一時撤退を選択した。


 しかし別の相手が見えた。ユリコはタツキを前方にワープさせ、ボールを回避させた。



「レイカ、協力して」


 狙ってきたのは汐留(しおどめ)零華(レイカ)。ユリコたちが会おうとしていた、二人組のチームのうちの一人。出会い頭に撃ってきたレイカに、二人チーム内で争わず、協力して三人チームを倒そうと呼びかける。


「残念だったわね。汐留はうちの味方よ」


 その呼びかけに応じないことはココアは分かっていた。体育祭が始まる前から、彼女はレイカと相談して手を組むことにしていた。一人チームのレイカがなるべく上位に行けるようにアシストする代わりに、二位争いをする相手校を牽制するようにと。


「そうですね。ソロの私では上位に行けない。だから西千葉に二位をとらせる代わりに、私はソロでトップに……」

「待って、さっき増えたでしょ!?」


 ユリコは前提の間違いに気づく。ついさっき、ノゾミの昇格でレイカは二人チームになった。だから上位争いは不可能ではない。

 ココアのチームを序盤に削れば、二位にだって届くのだ。


「……その通りですね」

「……は?」


 レイカの目の色が変わった。盾を落とし、空いた手に創造した銃を握る。挨拶代わりにココアに発砲する。ボールよりもずっと速い、“ノーツ”で作った銃から放たれた弾丸が、彼女の真横を駆け抜けた。


「一緒にやっつけましょう!」

「嘘でしょ!?」


 レイカは結託を放棄してユリコたちと手を組んだ。事情が変わったとはいえ唐突な寝返りにココアは憤怒する。


「元より仲間じゃないですし」


 レイカは悪びれなかった。そもそも得点を競う他校生。相対するのが本来の流れだと自分に言い聞かせる。友達としてそれでいいのかは、胸に引っかかるものがあったが。



 タツキが再び地面に触れる。ココアは盾を構えると、今度は足の下から龍が飛び出してきて、打ち上げられた。彼女は周りを見ようにも空中ではうまく動けず、背後が隙だらけになる。迂回したユリコが、背後に迫る。


 ココアは真後ろと予測して刀を投げた。ユリコの銃に当たって手離させ、奇襲を未遂に済ませた。


 刀を手離したのをチャンスと見たレイカは、ココアの正面から二丁の銃を向ける。一つの盾では片方しか防げない。脱落するか、伝説の戦士に変身するかの二択を迫った。


「後ろ!」

「えっ!?」


 ココアが叫ぶとレイカは振り返る。しかし後方には誰もいない。騙されたと気づきまた前を向いたときには、彼女は刀を補充していた。


「ハッタリ仕掛けるなんて、悪い男の影響ですね!」

「誰が三門なんかの!」


 レイカは名指ししていないが、相手の思考にノイズを入れて力量差を補う手法は三門(みかど)玲司(レイジ)の十八番であり、ココア自身もレイジらしい手口だという自覚はあった。

 だが断じて彼をリスペクトして打った策ではないと否定する。


 強がっても劣勢なのは変わらない。ココアはレイカの弾丸だけは食らわないよう距離をとることを意識する。



 だが地中を掘り進む龍の接近に気づかなかった。飛び出した龍がココアの足に巻きつく。パニックに陥る彼女は、狙いを定めるユリコに咄嗟に盾を投げる。

 盾を盾で防がれるが衝撃でユリコが揺れ、チャンスと見たココアはボールを撃ち出す。

 しかし一手遅かった。レイカが先にユリコに命中させていた。


 あのままココアの撃破点にさせない。その心理がはたらいたのだ。


 盾を手離したココアの体に、龍が巻きつき両手を封じる。血を出させると武器を与えることになるから拘束する。

 そしてタツキは剥き出しの頭を狙う。だがレイカの視線が気になって、引き金にかけた指が止まった。


「撃てば邪魔するんだろ?」


 さっきユリコを撃破したように、手柄を横取りされると読んだタツキは銃を下ろす。するとレイカは悠々とココアに近づいた。


 レイカに撃破点二点。二位と同点になったが、直前では一点差で負けていたので追い越せず三位に着く。


 二十二人中二人が脱落した。高校ごとの順位、暫定トップ3は以下の通りだ。

 一位 二千代12点

 二位 菜の花原6点

 三位 東核備田6点

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