627話 なんで倒さないんだ
分断された大薔薇高校。渋谷祈里は富士見稲穂に操られた麻布麻李杏に拘束されて宙に浮き、本郷真白と浅草流音はそれぞれ他校の選手に包囲される。
包囲網を抜けるべく”ノーツ“で全身から生やした刃を振り回し突撃する。だが小竹燈夜に受け止められた。
刃が機能しない。手袋をしていない間、周囲の物を切れなくさせる”ノーツ“を持った大船切裏がいるせいだ。
「大船とグルかよ」
「そうだよぉ」
トウヤは手袋を見せつける。それはコトリの私物で、彼女が着用しない間は刃物が効かなくなる。マシロがトウヤに斬りかかった際に着用していれば彼を倒せたはずだが、そうしなかったのは二人が結託しているためだ。
トウヤが手袋を持っているのがその結託の証と言える。
「なんで同盟結んだんだ」
「面白くするからって……」
トウヤの高校は全体祭の優勝候補。差を縮めるためには早く脱落させないといけないが、勝敗に関係なく行事を盛り上げたいと力説され、コトリは彼に手を貸したと言う。
「そんなわけでマシロ君。君はもう……なまくら者だね」
切れ味の悪い刃物を形容して煽る。カチンときたマシロは銃を向けてボールを放つと、トウヤは狐に化けて回避した。キャインキャインと鳴いて逃げる。
「大船が邪魔だ! 倒せ!」
こうなってはルインにコトリを倒してもらうしかない。指示を出すも、彼女も相手校に包囲されていた。
水天宮千城が鉄化させた腕を振り回す。彼女の狙いはルインを押さえて全身を鉄化させること。三百キロの重さで身動きを封じて、味方にボールを当ててもらうことだ。
ルインは逃げながら、他の相手が撃ってくるボールを光線で撃ち落とす。すると荻窪影月が弾速最低のボールを自分の手でキャッチし、それを彼女に向かって投げた。
光線を当てるも消えない。ギリギリ盾で凌ぐ。カゲツの“ノーツ”は触れた物を壊れなくさせるものだから、光線が効かない。
『後ろにアゲハ!』
マリアに捕まり空中に隔離されたイノリは戦況を俯瞰できる。ルインの背後に相手が寄ったのを見て警戒させる。
バレた北参道天羽は何もせず撤退した。
ルインは集中攻撃を受けている状況を打破するために、二千代高校のチシロ一点狙いに切り替えた。残りの競技で脅威の高校だから、狙いの的を押しつけることができる。
チシロは鉄化させた体で光線を弾くが、動きが鈍る。ルインは光線を撃ちながら距離を詰めて、背後をとってボールを当てる作戦を立てた。
しかしそこに上福岡恋音が合流。二対一では死角を取りづらい。加えてルインが不利になったことで、誰も彼女に協力してくれなかった。
さらに氷川柩岐が来た。直前にマシロが倒した日比谷当麻のチームメイト。敵討ちに来たと察し、四面楚歌と理解した。
マシロは刃が通じないと見るや、暗殺で鍛えた持ち前のスピード突破に切り替えた。まずはコトリを狙う。左右に撹乱しながら後ろを取り、ボールを撃つが発砲直前にトウヤ狐から腕に体当たりを食らい軌道が逸れた。
逃げるトウヤに刃を投げて、足に引っかけ転ばせる。そして再びコトリを狙うも、彼女はハート型のバルーンを踏んで大きく空へ飛んだ。
バルーンは与野愛鐘の仕業だ。コトリが飛ぶ先にはマリアに捕まったイノリがいる。
イノリは赤い光の壁を生やした。コトリは壁に頭をぶつけ、落下する。着地狩りを目論むマシロをアカネが追いかける。
「来ると思った!」
「危ないアカネちゃん!」
マシロは振り返りアカネにボールを撃つ。トウヤの注意は間に合わず、当たったのか脱落、退場門へ転送された。一歩前進したマシロは安堵するが、転送時の煙の中からボールが飛んできた。
「危ねっ!」
間一髪、刃でボールを弾く。すると正面に元の姿に戻ったトウヤが見えた。撃ってきたのは彼と判明する。
『トウヤの点になってる!』
『何!?』
イノリから通信があった。アカネの撃破点はマシロに入っていないと。あの瞬間トウヤは彼女を追いながら発砲し、マシロより先に当てていたと知る。
「……トウヤ?」
「仕方なかったんだ」
アカネを裏切って点を稼いだトウヤにコトリは疑惑の目を向ける。彼は助からないと判断してせめて相手に点を渡さないためのやむを得ない攻撃だと弁明する。
「菜の花原に点が入った」
『アラレ、一ノ宮さんお願い!』
トウヤのチームの得点を抑えるために、レオンは離れた味方を相手の元へ向かうよう指示を出す。位置は彼女が思った人に届くよう紙を飛ばす“ノーツ”で伝える。
体育祭のプログラムを紙飛行機のように飛ばし、一ノ宮耀に渡るよう設定する。紙飛行機を追った味方が辿り着けるように。
だがその紙は光線を受けて消し飛んだ。撃った本人、溜池彼方が姿を現した。
また面倒な相手が来たとルインは身構える。けれどもカナタは彼女に見向きもしないでレオンに銃を向ける。実質ヒカリを守る動きだ。なぜそうするのかルインは分からなかったが、ここは彼に手を貸した。
カナタの太く強力な光線と、ルインの分割させた散らばった光線。二人の盾と鉄化したチシロでは凌ぎきれない連携を浴びせる。
先に崩れたレオンにルインはボールを撃つ。だが割り込んだカナタの盾に防がれ、彼が撃ったボールが当たる。またしても点の横取りだ。
「来い浅草!」
二人とも手柄を取られたが、マシロは冷静に合流を図る。無傷のまま一人ずつ包囲網が減ったこの機会を逃してはいけない。
だが二人の間にカナタの光線が飛んできた。二人とも下がって回避したが、その隙間に氷の壁が作られた。氷を撃ち放った富浦久蘭がマシロ側に現れる。
「離れてな」
「分かったわ」
グランはコトリにこの場から離れるよう、氷を炎で溶かし穴を作る。彼女がいると刀が機能しない。だから彼女と、そのチームメイトの家中初乃を壁の向こうへ通した。
「バカヤロウ今のトウヤの変装だぞ!」
「あ?」
マシロはグランを責める。目の前を通ったのはトウヤだと訴えだが、もう姿は見えない。
「なら倒しておけよ」
「てめえが邪魔したんだろうが!」
正体を知っていてなぜ生かしておいたのかと呆れるグランに、ルインと合流したら倒す気だったマシロは怒鳴る。そして予定を変え、彼をここで倒すと決めた。ちょうど一騎討ちになるわけで、燃える。
合流を阻まれたルインの前にコトリたちが現れた。一人減ったら二人増え、より厳しい状況になる。マシロもグランに絡まれたとイノリから聞き、自力で打破しなくてはならないと理解した。
『コトリ後ろ!』
アゲハはあえてコトリを標的にした。言葉を任意のトーンで出力する蝶を飛ばし、彼女の背後からハツノの声を発する。振り向いた隙にボールをぶつけるつもりだったが、一切反応はなかく作戦は失敗した。
「キルリー助けて!」
「えっ!?」
今度はトウヤが、似せる気のない裏声をコトリに聞かせる。すると反応し、顔を向けた先には元の姿のトウヤがいた。
「ビンゴ」
不意を突くことに成功した彼はボールを顔に当て倒した。
「あっ、これ返すね」
トウヤは借りていた手袋を投げたが、届く前に転送され、地面にボトッと落ちた。尽くコトリを弄る言動にヒツギは苦笑する。
ともあれこれで彼は撃破点四点。個人の点数ではマシロに並んでトップに立った。
「コードネーム?」
「らしいね。でも一発で当たるとは」
アゲハ対策で別名で呼び合うようにし名前を呼ぶ声に反応しないよう備えていたと予想したトウヤは、コトリのSNSのユーザー名で試した。当たったかはさておき彼女を反応させられたので、結果オーライだ。
「あいつめっちゃ睨んでたけど」
「あー脱落するの怖いなぁ」
ヒツギはコトリがボールを当てられた直後にトウヤに向けた形相を見逃さなかった。彼も自覚はあり、怒り心頭のうちに自分も脱落したら退場門で迫られる予感がしたので、最後まで生き残りたいと願った。
『大船が消えたから好きなだけ斬れるぜ』
『えっ、俺そんなつもりじゃ……』
一方でグランは、脱落までして離れてほしいと言ったつもりはなく、変に思い切りのいい女だと誤解した。
「逃げるのかグラン」
マシロはグランと勝負する気だったが、去っていく彼を挑発する。だが振り向くことはなかった。
だったら今は味方との合流が先だと切り替え、氷の壁に手から生やした刃を刺してよじ登る。カゲツが反対側から触れた影響で刃を刺せなくなり、彼は転落する。諦めてグランを追いかけた。
カゲツが頭と同じサイズの月を出し、壁に触れて傷つけられなくさせていた。ルインは壁に光線を撃ったがタッチの差で壊せなかった。だからカゲツ本人を標的に変える。
光線を集中させるも、盾と月に阻まれる。そこでルインは自分の盾を投げた。“ノーツ”が効かない盾をぶつけ、月を破壊した。
すかさず銃を撃ち、ボールをぶつけ撃破する。立て続けに撃った光線で、氷の壁に穴を開けた。
壁の向こうに来たもののマシロの姿はない。俯瞰するイノリから通信が入って、状況を聞いた。
グランは九重晋世と合流した。彼の他に二人の相手、大崎千迅と一ノ宮耀がいる。
二人の味方が脱落したチハヤは少しでも生存点を稼ぐために逃げた。ヒカリも別方向へ走ったが、グランが放った氷の塊に道を塞がれた。
さらにカナタも合流する。ルインを追わずこちらに来た。加えて彼らの合流を指示した八王子漫芦も現着。花段井高校が集結し、ヒカリを包囲した。
銃を向け、四方からボールを撃つ。ヒカリは避けたり盾で弾いたりしつつ脱出を試みるが、飛んできた刃を足に受け倒れた。
俺も混ぜろと言わんばかりに飛び込んでくるマシロ。その後方からルインが光線で爆撃を図る。
しかしソゾロとカナタの連携で、光線同士で相殺させた。
「おいあいつ逃げるぞ」
「狙いはお前だ」
マシロはヒカリが逃げたと指摘した。だがソゾロたちの狙いは彼女を餌に彼を誘うこと。
ルインは移動してまた光線を撃つが、再びカナタに防がれる。まるで見られているようだがソゾロが実際に見ている。虫を操りあらゆる視点を一度に得られる彼は、彼女の動きを見てカナタに合図を出している。
迎撃の光線を撃って無防備なカナタにマシロは刃を放つが、それはグランに防がれる。誰かがイナホを倒してイノリが解放されれば打開できそうだが、その希望は見えてこない。
グランは刀を刺して地面に氷を張った。滑らせる狙いと踏んだマシロは足裏から刃を生やしスケートで対抗する。今度は炎を放ち、彼は避けるも、炎の明るさが氷に反射して視界を奪われた。
照り返しに怯んだところをグランにボールを撃たれマシロは脱落。勝利の雄叫びを上げる。するとソゾロはルインを落としに駆け出した。
ルインはヒカリと鉢合わせた。マシロ脱落を聞いたルインは、彼女のせいでやられたと怒り、仕返しに攻撃する。だが虫が顔の前を飛び交う。イノリから右手よりソゾロが来ていると聞いたルインは光線を雨のように降らせるが、視野の広い彼にすべて回避された。
ルインは咄嗟に迎え撃ち、すれ違うように走りソゾロの背後を取った。そして振り向いた彼の頭を両手で抑え、破壊のエネルギーを流し込んだ。締めつけられるような痛みに彼は悲鳴を上げる。
頭にダメージを入れたルインは銃を持つ。だがソゾロに殴られ倒れた。思考を奪ったのになぜと困惑する彼女は、彼の目が見開いて無意識に殴ったと理解した。
恐怖にルインは戦意喪失し、彼に撃たれたボールを防ぐことはできなかった。だが最後の足掻きで、光線を高く打ち上げた。彼を狙うのは怖いから、せめてイノリのためになればと願って置き土産を残した。
「ああ……」
味方を立て続けに失い自分は見ているだけだったイノリは愕然とする。
ルインが削った今がチャンスだと、ヒカリはソゾロを倒しに向かう。すると彼にボールを避けられ、殴られた。
様子がおかしいと察したヒカリは歌う。歌声でソゾロを元に戻した。
「その傷は……」
「なんでもないよ」
笑ってごまかすヒカリに雷が落ちた。
『今だソゾロ!』
落雷はカナタの仕業。ピンチに見えたソゾロの援護のつもりだった。だが彼はヒカリに銃を向けず、周りを警戒する。
『なんで倒さないんだ』
「危ないよカナタくん」
ヒカリ贔屓のソゾロを気にしている場合ではないとトウヤは声をかける。ルインが撃った光線が降ってきていた。カナタは光線を打ち上げて相殺するが、ヒツギが勝負に出た。
脱落者のゴーストを作る“ノーツ”でルインのゴーストを生み出し、カナタに光線を当てる。
ルミアの人格にスイッチした彼にトウヤがトドメを刺した。退場門へと転送されたときには元に戻った。
「しゃあハットトリック!」
だいたい手柄の横取りではあるが、トウヤは三人を撃破した。
三十人中十三人が脱落した。高校ごとの順位、暫定トップ3は以下の通りだ。
一位 花段井61点
二位 大薔薇42点
三位 菜の花原39点




