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オートセーブは深夜0時に+  作者: 夕凪の鐘
Episode121 私の居場所
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624話 輪から抜けた

 高校三年生の後期が始まった。残す大きな行事は今月末の体育祭と年明けの大学受験。バタバタした日々が始まる中、一ノ宮(いちのみや)耀(ヒカリ)は教室で毎日三門(みかど)玲司(レイジ)と会ったり話したりできることに心が満たされていた。


「では参加する競技の資料を受け取りに移動してください」


 学級委員の声で、ヒカリは現実に意識が戻る。今の授業は学年共通で体育祭の準備の時間。今年開催される一覧の中から、各自出場したい競技を選んでいた。


 何一つ話を聞いていなかったヒカリだが、任意競技に一つもエントリーしなくてもルール上は問題ない。必須競技のうちクラス全員が出場するものは、教室にいれば資料が配られる。


 一方で“ノーツ”の評価に応じて出場する必須競技は、説明のあった教室に行って資料を貰わなくてはならない。


 つまるところ、ヒカリは自分の行き先を聞きそびれたのだ。


「淡路さ……いない」


 ヒカリはクラスメイトに一人、同じBランクがいる。名前は淡路(あわじ)小通(コミチ)。だがコミチはもう席にいない。一人で先に行ってしまったか、同じ任意競技に参加した人と行ったか、あるいは他クラスのBランクと一緒に行ったか。

 とにかくヒカリは取り残された。


「レイジもいないし……」


 後ろを振り向くとレイジの姿が見えない。彼もきっと、自分が出る競技の資料を取りにいってしまったのだろう。

 まだクラスメイトの何人かは教室にいるが、親しくないゆえ話しかける勇気が出ない。聞いたところで自分と無縁な行き先を知っているかは怪しく、聞くことの躊躇いを後押しする。



 ヒカリは思い直した。コミチの他に二人Bランクがいる。どちらかは一緒に行こうと誘ってくれると期待した。そこで入れ違いにならないよう教室で待機するのが正解だと自分に言い聞かせ、席に着いた。


「あれ? ヒカリはどこですか?」

「そういえば見てないわね」


 なお現実は誰もヒカリを呼びにいっておらず、資料を受け取る教室で合流できるものと思い込んでいて、三人揃って初めて彼女の不在に気がついた。


『迷子ですか!?』

『いや、教室で待ってて……』


 ヒカリに小岩(こいわ)詩奈(シイナ)から電話がかかってきた。逸れたことを心配されていたが、実際は話を聞いていなかったせいで動けなかっただけ。けれども彼女は非を隠し、行き先は分かっているけど来るのを待っていたことにして責任転嫁した。


『ごめんなさい! じゃあ待ってるので』

『あっいや、その……』


 シイナは声を掛けなかったことを謝り、その分ヒカリの到着を待つと約束した。だが行き先を知らない彼女はどこで皆が待っているかが分からず、しどろもどろになる。


「ん? 教室の場所教えてやって、だってさ」


 コミチのスマホにレイジからメッセージが届いた。そこには伝言が記されており、シイナを経由してヒカリに伝えた。


 階と教室名を聞くと、ヒカリは安心すると同時に、話を聞いていなかったことがバレたのではないかと不安になった。



「あの、お待たせしました」

「はいっ、ヒカリの分です」


 “ノーツ”持ち自体が同級生に十人ちょっと。そのうちBランクは四人。そんな小規模のグループだから、取り置きしなくても平気だった。

 けれども僅かな手間を省いてくれたこと、遅れた、そのうえ嘘までついたのに微笑んで受け入れてくれたことへの感謝から、ヒカリはシイナから素直に受け取った。


「てっきりもう向かったのかと……ほら、他の競技もあるし」

「あ、いや今年はどこにも……」


 ヒカリはエントリーしなかった。物思いに耽っていたら、期限を過ぎてしまったと明かす。所詮は任意なので誰も責めない。


「私はたくさん参加しますよ。今年が最後ですからっ」


 対極的にシイナは去年一昨年より多く出場すると、集めた資料を並べて語った。今回が高校最後の体育祭。島中の同学年で参加するのは、次が最後だ。


「そんなたくさん大丈夫? 最後まで保たないんじゃ」

「そこはまあ……ほどほどに」


 欲張って体力が尽きないか、コミチは心配した。島中の生徒が参加するので、グラウンドは各地の運動施設を借りる。参加競技が多いと移動も大変で、稀にどうやっても間に合わないスケジュールを立ててしまう人もいる。

 無計画でやりたい競技に手を出したシイナは一切懸念しておらず、なんとかペースを考えて乗り切ることにした。


 他クラスのシイナを気にかける理由は、敵同士ではないからだ。この島の体育祭は学年ごとに島の全校合同で開催される。だから敵は他校生。


「まあ最後の競技はボクたちも頑張るから」


 体育祭終盤はランク対抗戦。同学年のBランクが学校でチームを組んで競い合う。だからここに集まった四人でチームを組む。最後のメンバー小竹(こたけ)燈夜(トウヤ)は、チームメイトに頼りっきりにならず、率先して得点に貢献すると決意した。



「チームで結束が必要なのに集合場所が分からないなんて」

「だってレイジが連れていってくれなかったから」


 一方でヒカリは協調性のかけらもないと指摘され、ガイドが仕事を放棄したからだと言い訳をする。


「もう彼はいないからね」

「そういえば夏休みの間だけ……」


 ここにいない五人目のメンバー、それはもう元メンバー。悪夢の瞳を失ったレイジは読心術しか持たなくなり、評価はヒカリたちと同じBに下がった。


 その状態が続いていれば彼もこの競技に出ていたわけで、彼についていけば目的地に辿り着けた。

 しかしすでに彼は瞳の力を取り戻し、元のランクへ復帰した。結果、彼はこの競技に出場できなくなったのだ。


「……いないんだ、もう」


 Bランクの輪から抜けただけに過ぎない。だがヒカリは重く受け止めた。卒業すればクラスの輪は無くなり、進学が決まれば島からも去っていく。


 日々会える現在に満足していたヒカリだったが、着実に別れのカウントダウンが進んでいる現実に気づく。


「五人なら優勝狙えたかもね」

「何人でも獲りますよ、優勝」


 この学年のBランクは、多くて一校に四人。レイジがいた頃はどこよりも多くのメンバーを擁していたから、優位に立っていた。

 だから優勝も夢ではなかったが結局四人に戻ってしまい惜しむトウヤだったが、シイナはキリッとした表情で決意表明する。


「そうだね。じゃあ作戦会議をしよう」


 その熱意を受け止めて、残りの授業時間を使って戦略を考えることにした。資料を広げてマップを見る。全員に配られたが、話し合いのために一人の地図を三人で覗き込む。


「ヒカリも来てください。……ヒカリ?」

「……そうだ」


 周りを見ていないヒカリは輪に入らない。彼女の意見も取り入れたいシイナは声をかけたが、彼女は自分のことしか考えておらず、アイディアを思いついた呟きをした。



「お願いシイナ、レイジを浄化して。瞳の力を浄化して、もう一度Bに下げる」

「またですか!?」


 シイナの“ノーツ”はレイジ特効。彼の瞳の力を打ち消す効果がある。それは彼に負担がかかるが、その結果メンバーに加わってくれるメリットがある。


「レイジが入れば絶対勝てる。作戦立てるのは、それからでも遅くないよっ」


 心を読む力も持つレイジが加われば相手の作戦は筒抜け。勝算は大きく上がる。


 そしてランク対抗戦に限っては締め切りがない。当日になって“ノーツ”が覚醒し急遽出場という事例もあり、今からでも遅くないのだ。


「迷惑じゃあ」

「終わったらすぐ元に戻す」


 力を失うのは一時的な話だからとヒカリは力説する。力を取り戻す方法を知っているから強気だ。


「体育祭が終わったら、帰省してチャージすればいいんだから」


 悪夢の瞳の源はレイジの故郷にある。実家にエネルギー放出装置があり、赤い光を浴びればすぐに元通りになれる。


「それだとSランク以上の競技に出られない」

「じ、じゃあBが終わってすぐにチャージ」


 しかしヒカリの案には問題がある。レイジが力を失うことで、本来エントリーするはずのランクの競技の参加資格がなくなる。Bとして加点される代わりに、Sとして減点されてしまい、総合的に見てメリットが薄いのだ。


 そこを指摘されるとヒカリは間髪入れず提案する。帰省という手間をかけず瞳の力を復活させる。そうして両方の競技に出場する。


 赤い光を浴びることがトリガーであり、それはこの島にいてもできることだから、決して不可能な提案ではない。


「私も思い出作りたいの!」


 とにかくヒカリは焦っている。レイジと過ごせる期間はあと半年。なあなあに送ってはいられない。その願いが欲を剥き出しにする。


「ならボクが代わりに」


 トウヤはレイジの姿に化けた。これでは四人のままだが、ヒカリのモチベーションが上がるのなら意味はあると考えて。


「嫌だ、顔は好みじゃない」

「酷い」


 だがヒカリは外見を似せるだけでは駄目だと贅沢を言う。それを聞いて周りは、もう少しオブラートに包めないものか、本人が聞いたら傷つくだろうと思えてならなかった。


 しかしヒカリとしては、どうせ心を読まれて本音が筒抜けなのだから、正直に声に出す癖がついてしまっている。



「二人はどう? 三門君は欲しい?」


 トウヤはシイナとコミチに意見を聞いた。二人は目を合わせると頷き合い、答えた。


「いい」

「この四人で勝ちたいです」

「分かった」


 去年合併して四人が揃って、二度目の体育祭。無理やり人手を増やすことなく今のメンバーで高みを目指したい気持ちは強い。


「だってさ」

「……はい」


 ヒカリは頭を冷やした。レイジの復帰を求めているのは自分だけだということを受け止める。と同時に勝とうという気は消え、せめて彼の活躍は目に焼きつけようと思った。


「じゃあ話を戻して作戦を立てようか。と、いっても……」

「毎回直前になって決め直すのよね。競技開始時点の順位の影響で」


 体育祭は全競技の総得点勝負。一つの競技において、さほど脅威ではないと評される高校であっても、他の競技でリードをつけていたらマークされる。

 ゆえに競技の流れは、その都度変わってしまう。極端な話、一から計画を練り直すのさえ珍しくない。チームによっては一切計画を立てずに、その場のノリで動くこともある。


 だから勝利への明確な道筋を立てるのは難しい。人数も多いのであらゆるケースを想定しようにも膨大だ。だから計画は、ざっくりしたものだけ立てておく。多少融通が利くように。



「これは他のランクも同じだね。全員で一斉に出場して潰し合い。一人減る度に生き残りに生存点一点、倒した人には撃破点二点」

「チームの総得点で順位がつく。人数が多いと有利だけど、だからこそ狙われやすい」


 複数の高校が一斉に出場する。Bランクの場合は十二校三十人。選手人数が最多タイのシイナたちは、複数校が結託して狙われる。利害が一致すれば、他チームであっても関係ない。


「とりあえずシイナちゃんとコミチちゃんはすぐに合流してバンバン相手倒して」


 そして“ノーツ”も様々で、攻撃向きでない人は、勝負から逃げて生存点を稼ぐ手がある。このチームで攻めに長けているのはその二人だが、別々に動くと各個包囲されかねない。

 組んで動き、数的有利にさせないよう立ち回ることとした。


「ボクとヒカリちゃんはとにかく逃げ回ろう」


 残る二人は点取り屋のフォローをするのではなく、邪魔にならない離れた場所で、隠れつつ他の人の脱落によって点を積み重ねていくのがベター。そんな提案をするトウヤは、ヒカリも巻き込む。


「うん、分かった」

「別行動ね」

「分かった」


 ヒカリは迷わず即答する。資料の地図を見て隠れ場所を探すなどせず、適当に返事をした。

 一方でトウヤも、彼女と合わせる気はないので気に留めない。


 シイナとコミチは地図を見て記号を割り振る。競技中は端末を付与されて、脱落状況や

得点の確認と、チーム内での通信ができる。

 合流するためにスムーズに連携を取れるよう、分かりやすい目印をつけている。


 対して無関心なヒカリは、レイジは今頃どうしているだろうか、Sランク以上の同級生と作戦会議をしているのか、自分の競技そっちのけで想像した。

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