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オートセーブは深夜0時に+  作者: 夕凪の鐘
Episode121 カナタvsマリア
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616話 実現できるかも

 三門(みかど)玲司(レイジ)が母親を名乗る女性とともに帰省するべく空港を去ったその後、二人を見送った坂上(さかうえ)未来(ミライ)の報告により、その女性は一ノ宮(いちのみや)耀(ヒカリ)ではないという結論に至った。


 もしヒカリ本人だったら、安全のためになんとしても引き留めなくてはならなかった。それを知っている彼女は、変装して突破を試みると想定しており、女性は彼女の変装と疑ってかかった。

 だがヒカリ自身は今自宅にいるというので、同行した線は無いと判断し、その女性の渡航を許したのだ。


 そんな朝早くの出来事から数時間経った。夏休みということで離れた街で会う時間を作れるので、レイジの同学年四人が集まった。


「ヴォー!」

「ぐっ……」


 集まった四人のうち、佐倉(さくら)(ミチル)酒々井(しすい)鉄道(テツジ)は一対一の勝負をしている。ミチルが“ノーツ”を使い、飢えた肉食野生動物のように本能的になるパワーアップを施し、ダッシュしてアッパーを決め勝負あった。


「そこまで! って聞こえないよね」


 しばらく暴れるまで自力では元の状態に戻れない。審判を務める武蔵浦(むさしうら)春桜(サクラ)は、呼んでも聞かないと諦める。ミチルの攻撃が決まるかテツジが彼を抑えるかの勝負なので、これはもうミチルの勝ちで決まり。


 そうと気づかないミチルは、テツジに飛び掛かって頭に噛み付いている。


「アイリ、お願い。……」

「あっ、ごめん、見惚れてた……」


 ミチルの暴走は彼の“ノーツ”という特殊能力によるもの。足踏みすると同心円状にクモの巣を広げ、触れた相手に“ノーツ”を使えなくさせる力を持つアイリなら、無難に鎮めることができる。


 しかしアイリは男同士の取っ組み合いに夢中でサクラの最初の声が聞こえていない。耳元で呼ばれて我に帰り、足から展開した糸でミチルの足を地面に貼り付け、“ノーツ”無効化で暴走を終わらせた。



「今回はミチルの勝ち」

「お、勝ってたのか」


 ミチル自身、暴走を決めてからの記憶がない。気がつくときはテツジをダウンさせているか、彼の“ノーツ”で黙らせられ座らせられているかだ。その状況を見て、勝敗を理解する。


 今回はミチルの勝ちというように、テツジとは勝ったり負けたりを繰り返している。中学からは学校がバラバラの四人。そんな男女は“ノーツ”の評価が旧Aランクの四位から七位という関係にある。


 三年経った今も四人ともAランクで、休日や長期休暇には学校や地域の垣根を越えて競い合う仲なのだ。


「やっぱり速いと捉えにくいな」

「ミチル、動きがどんどん良くなってるわ」


 テツジは敗因を見つめる。彼の“ノーツ”は騒いでいる人を、黙らせ座らせるという力。効果を与えるにはしっかり相手を見なくてはならないので、自在に素早く動かれると適当できない。


 その性質を知ったうえで、勝負を重ねても相手に動きを読まれない対策を練るミチルが一枚上手。同じAランクとして三年以上見ているサクラは、彼の努力を評価する。


「野生化すると単純になりそうだけど」

「逃げる側も頭を使って、その対策を立てる。そういうことなのよ」


 ミチルの素早さは余計な思考を捨て倒すことだけを考えた結果だから、勝負を重ねるにつれテツジが慣れて、彼の勝率が上がるように思っていたアイリ。そうならない理由をサクラは考えてある。

 勝って生き残るには工夫が必要。いつまでも同じ手を使わず、仕留めるために考える。それがミチルの実力なのだと。


 テツジも対策は立ててある。それは極力一対一の状況を作らないこと。味方にミチルを抑えてもらい、動きが鈍った隙を突く。ミチルは連携が苦手だから、集団戦だとテツジに軍配が上がる。


「味方がいれば、止めるチャンスは作れるのに」


 その集団戦は、“ノーツ”持ちの同級生が多いテツジの得意分野だ。


「でも一騎打ちで勝てないのは悔しいな」


 テツジとミチルは同じ月に“ノーツ”が目覚めた“同期”。加えてランクも同じなので、一対一で敵わないなんて認めたくはない。味方の手を借りて有利な展開に持ち込むより、自力で勝ちたい思いがあった。



 そのやりとりを見て、アイリは思う。確かに二人は良いライバルだ。けれども自分にかかれば二人まとめて相手して勝てる。

 お互いどれだけ伸びようと自分には敵わないのだと、内心で高見の見物をしていた。


「私にかかれば二人とも余裕って思ってるでしょ」

「そ、そんなわけ……」


 アイリの“ノーツ”が飛べない相手に協力なのはサクラもよく知っている。だから彼女が何を考えているかは表情を見ればお見通しだ。


「それは分かるよ。でも飛べる私には勝てないわね」


 アイリならミチルもテツジも無力化して勝利できるのはサクラも認める。彼女が言いたいことは、自分はその二人と同じようにはならないということ。


 サクラは桜の花びらで風を起こし体を浮かせられるから、地を這うクモの巣に捕まらない。つまり、逆にアイリの“ノーツ”を無力化させられるから、三人に対し有利だとアピールしたいわけだ。


「飛んでようと関係ないわ」

「でも唾吐くのはやめた方がいいぜ」


 空中の相手に対抗する手段はあるとアイリは強気だ。だがそれを自信と思わない方が良いとテツジはストップをかける。その目で見たこともあるその手段とは、口から糸を吐き出して浴びせるという、行儀が悪いものだからだ。


「私に唾かける気だったの!?」

「唾じゃない糸!」


 性質がどうではなく口から吐き出したものをかけられたくないのは衛生面で至極真っ当な意見。


「お前ラクアとそんなプレイしてるのか」

「してないよまだ!」


 そしてそんな発想が出るあたり、実践したことがあるのかと疑ってしまう。実践の場として最も怪しいのは、交際相手の三郷(みさと)楽阿(ラクア)との接し方だ。


 清い付き合いはとうの昔のことになってしまったと思われるも、全部誤解だと慌てて否定する。


「アイリはベリー類が絡まなければまともな人だと思っていたが」

「恋が実っておかしさを隠さなくなったんだな」


 元々アイリがおかしい子だという認識はあった。幼い頃からハッカ飴が好きで、キシリトールガムがミント派とブルーベリー派に分かれることを知ってからはベリー類に対抗心を持つようになり、美味しいと言おうものならミントを布教される。


 だがラクアが、ハッカを美味しいと言ったら見せてくれた笑顔に一目惚れしたと聞いて、それをアイリなりの個性と肯定的に受け止めるようになった。


 しかし認めてくれる人の存在が、本当のアイリを解き放ったとも思えてしまう。


「いや普通に指から出せるの」


 アイリは両手を前に出して拳を作り、広げた勢いで指から出した糸を投網のように広げる。テツジの想像よりずっとまともな対応策だ。


「……なるほど」

「あっ」


 来月の体育祭まで秘密にしておくつもりだったアイリは、競争相手にバラしてしまったことに気づき、後悔した。


「うそうそ。言いふらさないから。アイリのとっておきは」

「……いいよ、別に」


 見なかったことにしてほしいなどと、縋る真似はしない。見せてしまったものは仕方ないと開き直った。



「そういやカナタのことで色々考えているって聞いたが」

「おう。ルミアを壊した悪者退治だ」


 今の勝負や来月の競技のことはさておき、このところ一部のメンバーで密かに計画を立てていることを噂に聞いたミチルは、関係者であるテツジに確認する。

 ついでにこの場ではアイリも関係者の一人だ。


 その内容は、溜池(ためいけ)彼方(カナタ)が大切にしていた、少女の姿をしたメカ、ルミアへの未練を断ち切ること。そのためにはルミアを壊した悪者を撃退しなくてはならない。


 どこにいるか分からないので、麻布(あざぶ)麻李杏(マリア)がルミアに扮して街を歩き、誘き寄せようというものだ。


「私も聞いた。まだ出てきてないんだっけ?」

「うん。さすがに無理があったよね……」


 サクラも噂に聞いており、目処は立っていないのは正しいかとアイリに聞く。マリアがルミアらしさを演じられるように練習に付き合っており、成果は出ているものの、目標の敵は姿を見せない。


 敵がまだこの島にいるかさえも定かではないので、分の悪い計画だという自覚はある。


「何? 仲間に入りたい?」

「いや……」


 ミチルは考えた。自分がその悪役を演じればいいのだと。だがその閃きを明かしてしまってはうまくいかなくなる予感がしたので言葉を濁す。


「私も入っていい?」

「大丈夫だけど、やることあるかは……」


 いざ敵が現れたら、戦力は多いに越したことはない。けれども一人相撲なだけな今、参加してもらっても手持ち無沙汰になるとアイリは懸念する。


「マリアちゃんの演技、というかエレンの操作は、結構仕上がってきたのよ」


 ルミアを演じるにあたり、本人の意思は関係ない。人形になり思い通りに動く“ノーツ”を持つマリアを、京橋(きょうばし)慧練(エレン)が操って演じる。


 その練習を重ねて、メカらしい動きや喋りに近づけてきた。敵を見つけられない今、それが唯一得られた成果。


「ならあと少しね。私の引き寄せの風で、実現できるかも」


 サクラの“ノーツ”は言霊の桜吹雪。ポジティブにしろネガティブにしろ、強い感情を風に乗せて潜在する力を引き出す力だ。あと一歩と強く願えば、それは間違いなく叶う。


「弱音を吐いたら台無しだけど」

「その心配はなさそうかな」


 一方で一人の落ち込みが逆風になり得る。だがアイリから見てその疑いがあるような、計画に飽きてきている人はいないから、問題ないと答えた。


「それが終わったら皆の受験も応援するからっ」

「さすが頼りになる」


 サクラの桜吹雪に包まれ宙を舞えばテストで良い点が取れるジンクスがある。無事に計画を成し遂げた暁には、半年後に迫る大学受験にエールを送ると約束した。


 その恩恵は、島中に届く。



「じゃあ俺は用事あるんで」

「そうなの? またな」


 ミチルにとってはたった今できた用事なので、三人が初耳なのは当然だ。彼が悪役を演じるには準備がいる。必要な道具があり、それを探せる人の手を借りる。これからその相談を始めるのだ。


『トキタ、頼みがある』


 町屋(まちや)時多(トキタ)に電話をかけた。その依頼とは、過去や未来に行ったり時間を巻き戻したりできる力を持った時の石を、サーチできる“ノーツ”を持つ彼に探してほしいというものだった。


『急にどうした? レイジがいない隙に過去を変える気か?』

『いや、ルミアの件で』


 石の力で過去は変えられるが、その行為にレイジは反対する。だが帰省している今なら阻止することはできない。それをチャンスを睨んだのかと疑るトキタに対し、歴史改竄ではなく戦力を上げるために必要としていると答える。ルミアのためだと伝えれば、事情を知るトキタは納得する。


『また過去に行ってルミアに会うのか。カナタのために』

『そう』


 ミチルは以前、悪魔に魂を売った。過去に戻りルミアの破壊をなかったことにして、その力を利用しようと企んだ。そこにカナタたちも巻き込んだ。


 だが本当の狙いは違う。破壊されなかったことにするのは事実だが、その力を私的に悪用する気はない。悪役を演じて、カナタたちが守ることによって、ルミアに未来を与えようとした。


 それは過去を変えることになるが、結局それは成し遂げられなかった。だからもう一度やっても結果は同じだろう。


『結果は駄目だろうけど、吹っ切るきっかけにはなるかと思ってさ』

『分かった。協力しよう』


 救えなかったことをいつまでも引き摺るカナタを変えることはできるはず。それができればいいと話すミチルに、トキタは手を貸すと誓った。


『ありがとう。さっそく場所を教えてくれ』

『反応あるな。場所は……』


 ちょうどこれからテツジたちがルミアと集まる。可能なら今から探し出し、皆が集まっているうちに入手したい。その期待に応えるかのように、運良く時の石が近くにあった。


 トキタの指示の下ミチルは現地に向かい、その石を手に入れた。


『ところでレイジは帰省していたのか』

『今日出ていったよ』


 最初に電話をかけたときにレイジがいないという話を聞いたことを思い出したミチルはトキタに聞いた。朝早く届いたメッセージを、彼は見落としていたのだ。

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