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オートセーブは深夜0時に+  作者: 夕凪の鐘
Episode120 空色の存在証明
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613話 バレずにやれそう

 離陸した飛行機を、坂上(さかうえ)未来(ミライ)九重(ここのえ)晋世(シヨン)は見送った。結局一ノ宮(いちのみや)耀(ヒカリ)が搭乗していった確証は掴めなかった。

 乗っていったのは三門(みかど)玲司(レイジ)とその母親。母親はヒカリが変装した偽物なのではないかと疑っていたが、証拠はないので信じることにした。


「バレなくてよかったね」

「そうだな」


 ミライたちの予想通り、母親は本人ではなく、その正体はヒカリ。だがまだ変装は解かないで、隣のレイジに話しかける。変装した理由は、彼女たちの目を欺くためだけではないからだ。


「この調子なら、向こうに着いてもバレずにやれそう」

「そうだな」


 二人が向かう先はレイジの故郷。その街に暮らす人たちに、ヒカリは先月命を狙われた。目的は彼女が持つ“ノーツ”、死ぬとその日が繰り返される力を使わせて、一日のループの記憶が残るレイジを延々と閉じ込めること。


 なぜレイジをそんな目に遭わせたいのか。それは彼が宿していた“ノーツ”、見た人の夢や願いを叶わなくさせる力を嫌っているから。殺したくても殺せないから、生きたまま苦しませ続けようと考えた。


 その計画を阻止するために、ヒカリを守るためためにレイジは瞳の力を使い抵抗した。その果てに瞳の力は底を尽きて彼が“ノーツ”を失った。それはもう、彼を苦しませる理由はないことと同義。


 そうしてヒカリを狙った事件は鎮まったのだ。とはいえ彼女を襲った人たちが暮らす街に乗り込むのは危険なので、帰省に同行するには素性を隠す必要がある。


「今から引き返す手もあるが」

「ここまで来てそれはないよ。それに……」


 しかし危ない橋を渡ろうとしているのも事実だ。島の人たちにバレないように空港まで来た理由も、皆に反対されていたからだ。

 地元民に見られる前にUターンすることを勧めるレイジだが、第一関門を越えられたのに諦めるわけにいかないとヒカリは拒絶する。


「レイジを守るためだもの」


 危険と隣合わせなのはレイジも同じ。忌み嫌われた悪夢の瞳を失っただけで彼が赦された確証はない。だから万が一のときは身を盾にして彼を救うと誓って同行してきた。


 嫌われるほどに嫌な思いをさせた償いとして、この大地に眠る覚悟を決めて。



「行くぞ」

「うん」


 レイジも闇雲に進む気はない。瞳の力は失えど、読心術の“ノーツ”は健在。敵意を向ける人を避けるルートを選ぶことは造作もない。


 その力をヒカリは信じているから、彼の背中を迷わず追い続ける。命の危機がどこに潜むか分からない、一泊二日の旅の始まりだ。


「お待たせしました。父さん」


 空港を出て駐車場まで歩き、親の車の元へ向かう。運転席以外は空いている。


「じゃあ助手席に」

「私が?」


 後部座席に並んで乗るスペースはあるのに、見ず知らずの男性の横に座るよう促すレイジにヒカリは戸惑う。


「今お前は俺の母だ。つまり、父さんの奥さん」

「やだやだ。一緒に後ろに」


 確かにそういう体で来ているが、人目につかない車の中でも守らなくていいとヒカリは抵抗する。


「でも一般的な家族のポジションは……」


 父が運転席なら母は助手席。そうレイジが思う根拠は道行く車から聞こえる心の声だが、それではヒカリに見せられない。だから機内モードをオフにしてスマホで検索した。


「ほら、助手席派が多い」

「……子どもの隣が多い!」


 レイジが見せたアンケート結果は合計パーセントが百の半分にも満たない。ヒカリは少し画面をスクロールすると、助手席派より多数の、子どもの横の後部座席派に気づき、反論した。



「小さい子どもの場合だろ」

「子どもは子どもでしょ!?」


 体調管理や遊び相手になるために子どもの隣に座るわけだが、高校三年生のレイジは世話を求めない。

 けれども話し相手がいないのは事実であり、親としての役目を果たすべきだとヒカリは言い張る。言葉に発していなくてもレイジには聴こえている。


「ジャンケンで勝てたら後ろでいいぞ」

「卑怯者! ババ抜きにしてよ!」

「俺が負けるからヤダ」


 言い合っていては埒が明かない。そこで明確なルールを決めた勝負を提案するレイジだが、心が読める人とのジャンケンはフェアじゃない。騙そうとしていることに瞬時に気づいたヒカリは反対し、別のルールを提案する。


 だが顔に出るレイジが確実に負ける、逆の立場でフェアではないものだった。


「いいの? こんなに騒いで気づかれでもしたら」

「死ぬのは俺じゃないし」


 こうして堂々と痴話喧嘩をしていると注目を浴びる。レイジは変装していないから、聞かれたら気づかれかねない。そうなる前に身を隠すべきだから諦めるよう誘導するヒカリだが、そうなった際に助からないのは彼女の方だと言い返す。


 救われる立場の方が意思を折るべきではないかと、遠回しに訴えかける。


 さもヒカリが死ぬのを前提にされているが、レイジは安全圏というわけではない。ただもし彼に危険が迫ったとしても彼女が守らなくてはならない。それが彼に嫌われたことへの償い。


「それに隣に居たくない」


 そこまで表立って嫌いとぶつけてくる相手の隣に座ってしまっては、レイジを不快にさせてしまう。そう自覚したヒカリは、隣に座ることを諦めた。


「お邪魔します」


 初対面の大人の男性。レイジの父親とはいえ、威圧感で怖く感じる。けれどもヒカリは堪えて挨拶し、助手席のシートベルトをした。


 そして一人、レイジは後部座席に乗る。ヒカリはルームミラー越しに彼の姿を見て、隣に居たかったとため息をつく。すると電車や飛行機と、ここに来るまで散々隣合わせだったことを思い返した。


「待って! 散々隣に居たよね!? 居させてくれたよね!?」

「発進してください」


 数時間に渡る旅の中、一切文句を言わなかったのに、今になって拒絶するのは言い訳にしか聞こえない。だがレイジは無視して出発を依頼した。



 ヒカリの文句は収まらないが、レイジとその父親の関係が気になり考えだした。彼が父親に丁寧語で話しかけている。母親として自分と会話するときはタメ口だったので、なおのこと意外に感じたのだ。


 父と母で態度が変わるのだろうか。そんな話は聞いたことがないが、実態を見てそう感じられる。それとも本当の母親に対しては父と同じように丁寧語で接していて、今回はヒカリが変装しただけだからタメ口だったとも想像がつく。


 その考えとはまったく別のベクトルから予想もついた。単にギャップをアピールしたいだけではないのかと。

 普段はタメ口なのに、ヒカリに見られているから敢えて丁寧語に変えて、普段と違う一面を見せて興味を惹こうとしているよう。休み明けにイメチェンして、好きな異性の前を何度も通りがかって気づいてもらおうとするような小賢しさを感じられた。


 それはない、とレイジは否定したかったが声には出さない。仮にその説が正しいのなら、父親は、どうして急に口調を変えたのかと聞いてくるはずだからだ。黙っているということは、普段通りだという証明になる。


 それに気づけば自己解決するのだから、レイジは黙っていた。



「瞳の力を捨てたそうだな」

「はい。これでもう襲われる心配はありません」

「右目は見えるのか?」


 レイジは堂々と答えた。宿った忌まわしき力は消えた。もう家を焼かれることも処刑されかけることもない。平穏な日常を過ごして将来は安泰だとアピールした。

 だが次の質問で凍りついた。父親の質問は後ろのヒカリにも聞こえている。


 瞳の力を失ったと同時に右目を失明していたことは、誰にも打ち明けていなかったからだ。


「あのっ、その話……レイジは本当に目が無いんですか?」


 失明自体にはヒカリに見に覚えがある。去年レイジが言っていた。彼女の力で一日をやり直し不都合な運命を変えた結果、本来訪れるはずのなかった出来事に直面して瞳そのものを失ったと話していた。


 レイジにとってはその事実より、ヒカリの“ノーツ”を使って未来を変えることは、後に苦しい思いをすることになるから止めるべきと忠告することが本題で、失明の件は深掘りされなかった。


 普段から前髪では右目を隠しているので、実際どうなったかは知らない。けれどもいつのまにか元に戻っていて、目があるのをはっきりと見たことがあるから、てっきり脅しの嘘と思っていた。


「無い? 見えないが目はあるぞ」

「実は無かった時期もあって……」


 だがその話を父親は知らない。無かろうと見えなかろうと、もう一方の目でカバーすることは可能で、さらに読心術もある。日常生活に困らないならわざわざ言って不安にさせる必要ヒカリないと考えていたので、隠していたのだ。


 だがヒカリに打ち明けたばかりに、巡り巡って父親にも知られてしまったのをレイジは後悔する。連れてこなければよかったと反省するが、こうなった以上、やり直してなかったことにしてはもっと都合の悪い出来事が代わりに起こるので、潔く受け入れる。


 隠していたことを認め、ヒカリの話は事実だと父親に告げる。そのやりとりを見た彼女は、何かやってしまったのだろうかと首を傾げた。



「その話を聞かせてもらおう」

「勝負に勝つために、実力差をこの瞳でひっくり返そうとして……限界が来たら、眼球が破裂したのです」

「待って! じゃあ今のレイジは本当に……」


 今度はヒカリに突っ込まれた。瞳の力が尽きたら普通の瞳になったのではなく、瞳そのものを失ったのは、事実だったのかと。


「……でも確か、体力テストで勝負したとき見えたような」

「今は眼球はある。見えないってのはまあ、そうだけど……」


 前回と違って瞳の力が限界に達しても、目が破裂する事故は起きなかったとレイジは告げる。どうしてかは分からないが、とにかく瞳は無事だった。

 ただし悪夢の瞳を宿す前と同じ、目があるけど見えない状態になったのは事実。元から見えなかったことを知らないヒカリは、当然戸惑う。


「なぜ黙っていた」

「心を読めれば関係ないし、命に関わるものでもないから、です」


 レイジは問い質される。要するに知らぬが仏。隠しておけば誰にも迷惑をかけないからだと答えた。



「ショウゴ亡き今、後継ぎはお前だけだ。見えない目を持つ欠陥品など、私は認めない」

「そんなことない!」


 片目が見えないレイジを切り捨てる発言をする父親に、ヒカリは即座に反論する。感情が昂って叫んだ。


「レイジは凄い人です! 目が見えないってだけでそんな……」

「お前は黙っていろ。妻の真似する狂人が」


 本当の妻から事情は聞いていたものの、息子の友達が妻の姿で現れるのは不気味だ。だから父親は極力無視を試みる。だから口を挟むのを許さなかった。


「もう一度あの力を掴め。誰にも気づかれずにな」

「……はい」


 そう言われるとレイジは納得した。目が見えない病気は、悪夢の力を宿す代わりに治った。だからもう一度その力を入手すれば、見える右目を得られる。父の言う欠陥品ではなくなり、認められる存在になれるのだ。


 加えて元のSランクに戻れるので、ヒカリとの縁を切れる。力が復活しても誰にもバレなければ狙われる恐れもない。


 すべてが好都合。そう捉えたレイジは、父親の命令に従うと決めた。


「そんなこと、どうやって……」

「できなければ代わりを作るだけだ」


 父親は一瞬ヒカリに視線を移す。彼女は言葉の真意に気づいていないが、レイジはホッとした。そんな手段にだけは絶対に出させるわけにはいかない。父親の下衆な真意を知れば彼女が傷つくことになるから、気づかれないよう阻止する。


 どのみち自力で瞳の力を手に入れれば父親を止める必要はなくなるので、最初に宿したときと同じ道で、夜空を見上げることにした。

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