攻略法
地面を転がったエデンは、なんとか顔を上げた。
全身に鈍い痛みが走る。リミットナイトで防御したおかげで致命的な一撃は免れたものの、先ほどの攻撃は想像以上に重かった。
「くっ……!」
エデンは起き上がろうとした。
だが、身体が動かない。
先ほどと同じだった。手足に力を込めても、身体はまるで石になったかのように動かなかった。
(やっぱり動けない……! このままじゃ……!)
顔を上げると、エイリエアがすぐそこまで迫っていた。
長い胴体をうねらせ、無数の腕を地面につきながら、エデンへと近づいてくる。目を覆っていた手は引き剥がされたままで、露出した目が真っすぐにエデンを捉えていた。
「敵……いる……!」
エイリエアが叫ぶ。
一本の腕が振り上げられた。
エデンは動けない。避けることもできず、ただ迫りくる攻撃を見つめるしかなかった。
(どうすればいい……!)
そのとき、頭の中にケイの声が響いた。
『リミットナイトで防御し続けるしかないだろう……』
エデンは歯を食いしばった。
『動きを封じるとは、厄介な力だ』
ケイの言う通りだった。身体の自由を奪われる。しかも、相手が攻撃してくる間も、その拘束は解けない。
相手の能力が続く限り、エデンは防御することしかできないのか。
そんな考えが頭をよぎった瞬間、エイリエアの身体に変化が起きた。
「……?」
エイリエアの顔を見つめていたエデンは、その異変に気づいた。
引き剥がされたはずの、目を覆っていた手。
その付け根から、新たな手がゆっくりと形作られ始めていた。
指が伸び、手のひらが形成され、やがて元の形を取り戻していく。再生した手は顔の前へと移動し、露出していた目を再び覆い隠した。
その瞬間だった。
「……動ける!」
エデンの身体に自由が戻った。
指先が動く。腕に力が入る。地面を踏みしめる足にも、ようやく感覚が戻ってきた。
エイリエアの目が隠されたことで、能力の効果が途切れたのだろうか。
詳しい仕組みは分からない。だが、今は考えている暇などなかった。
エイリエアの腕が、再びエデンへと迫っていた。
「間に合え……!」
エデンは即座に能力を切り替えた。
全身を覆っていた黒い鎧が消え去る。
リミットナイトを解除すると同時に、エデンはリミットフォースを発動した。
身体の内側から力が湧き上がる。
迫りくる腕が、目の前まで迫っていた。
エデンは拳を握りしめ、真正面から踏み込んだ。
「うおおおおっ!」
拳が腕を捉える。
次の瞬間、凄まじい衝撃が森に響き渡った。
リミットフォースによって強化された一撃が、エイリエアの腕を打ち砕いた。
破壊された腕が力を失い、エイリエアの身体が大きくよろめく。
「グアアアアアッ!!」
絶叫が森の中に響き渡った。
エデンは拳を引き、すぐさま距離を取る。
身体の自由を取り戻したとはいえ、まだ状況は危険なままだ。エイリエアの目が再び露出すれば、また動きを封じられる可能性がある。
エデンは相手の顔を警戒しながら、構えを取り直した。
(目を隠している間なら、動ける……!)
まだ確証はない。それでも、今の現象から考えれば、そう判断するしかなかった。
エイリエアは失った腕の方へ身体をよじらせながら、残された無数の腕を動かしている。
「敵……敵……!」
その声を聞きながら、エデンは拳に力を込めた。
ここで倒れれば、次はない。相手の能力を見極め、突破口を見つけなければならない。
エデンは迫りくるエイリエアを見据え、再び戦闘態勢に入った。
エイリエアは、破壊された腕を震わせながら、残された腕を動かしていた。
「敵……いる……!」
その声とともに、顔を覆っていた手が再び動き始める。
別の腕が手首を掴み、無理やり引き剥がそうとしていた。
エデンはその動きを見て、すぐに身構えた。
(また目を出すつもりか……!)
先ほどと同じことが起きれば、再び身体の自由を奪われる。リミットナイトで攻撃を防ぐことはできても、動けない状態では反撃の機会を失ってしまう。
どうすればいい。そう考えた直後、エデンの目の前を何かが横切った。
硬い音を立てて、地面に鉄の板が突き立った。
「……え?」
突然のことに、エデンは一瞬だけ目を丸くした。鉄の板はエデンの身体を覆い隠すほどの大きさがあり、エイリエアとの間を遮るように立っていた。
エデンが横を見ると、そこにはドロイがいた。ドロイはエイリエアを警戒しながら、エデンへ向かって声を張り上げる。
「エデンさん! おそらく、やつは目で見ている間、相手の動きを封じる能力を持っています!」
エデンは鉄の板とエイリエアを交互に見た。
「目で見ている間……?」
「はい! 先ほど私たちも、あの目が露出した瞬間に動けなくなりました。しかし、やつの視線を遮れば、能力の影響を受けずに済むはずです!」
ドロイは自分の前にも鉄の板を立てていた。
鉄鋼製作によって作り出した板が、エイリエアの視線を遮る壁となっている。ドロイはその陰から様子をうかがい、エイリエアの動きに注意を払っていた。
少し離れた場所では、亜爆と亜炭も木の幹の後ろに身を隠していた。二人ともエイリエアの顔を直接見ないよう、木を盾にしている。
「なるほど……!」
エデンは状況を理解した。
エイリエアの目が露出したとき、自分たちは一斉に動けなくなった。そして、目を覆う手が再生した途端、再び身体を動かせるようになった。
さらに、今は鉄の板に身を隠している。
少なくとも、視線を遮ることが対策になる可能性は高い。
「助かりました、ドロイさん!」
エデンは鉄の板の陰から声を返した。
「いえ!まだ確実とは言い切れません。くれぐれも気を付けてください!」
「分かりました!」
エデンは板の陰で拳を握り直した。
先ほどまでは、目を露出されるだけで身動きが取れなくなっていた。だが、視線を遮ることができれば、少なくとも一方的に攻撃される状況は避けられるかもしれない。
エイリエアは、打ち砕かれた腕を再生しつつ、なおも顔を覆う手を引き剥がそうともがいていた。
「敵……どこ……!」
その声が森に響く。
エデンは鉄の板越しに相手の気配を探りながら、次の行動を考えた。
今度こそ、あの厄介な能力を突破する。
そのためには、ドロイたちと連携して攻撃の機会を作る必要があった。




