エイリエアの能力
爆発によって巻き上げられた煙が、ゆっくりと森の中へ広がっていく。
エデンたちは警戒を解かず、煙の向こうを見つめていた。ドロイは剣を失った手を構え直し、亜炭も次の攻撃に備える。亜爆はいつでも爆弾を生成できるよう、エイリエアの動きを注意深く観察していた。
やがて、煙の中から長い胴体が姿を現した。
エイリエアはまだ倒れていなかった。
身体を大きく揺らしながら、何本もの腕を地面につけている。その動きは先ほどまでよりも不安定で、ところどころに力が入らないようにも見えた。
「……どこ……」
かすれた声が漏れる。
エイリエアは何度か身体をよろめかせたあと、ゆっくりと顔を上げた。
「敵……いる……」
その言葉に、エデンは眉をひそめた。
今まで繰り返していた「どこ」という呟きとは違う。目の前にいるエデンたちを、敵として認識したのだろうか。
「……何だ?」
エデンが呟いた、そのときだった。エイリエアの腕が、不自然な動きを見せた。
顔を覆っていた二本の手。そのうちの一本を、別の腕が掴んだのだ。
「……っ?」
エデンは思わず目を凝らした。
エイリエアは、自分の顔を覆っている手を、無理やり引き剥がそうとしていた。
一本の腕が手首を掴み、別の腕がその手を押さえる。何本もの腕が互いに絡み合い、顔にくっついている手を引き離そうと動いていた。
「……あれは……」
亜爆が呟く。
エイリエアの身体が激しく震え始めた。
顔を覆っていた手が、少しずつ持ち上がっていく。それまで隠されていた顔の一部が露わになる。手を引き剥がそうとするたびに、エイリエアの身体が大きくよじれ、無数の腕がもがくように動いた。
「グ……ア……ッ!」
苦しげな声が漏れる。
エデンたちは、目の前で起きている光景から目を離せなかった。そして――
「グアアアアアアアアアッ!!」
森を震わせるような絶叫が響き渡った。エイリエアが、顔を覆っていた手を完全に引き剥がした。隠されていた目が、ついに露出する。その瞬間だった。
「――っ!?」
エデンの身体が、ぴたりと動かなくなった。足を動かそうとしても、動かない。腕を持ち上げようとしても、指一本動かすことができなかった。まるで、身体そのものが何かに縛りつけられてしまったかのようだった。
(身体が動かない!?)
エデンは目を見開いた。自分だけではない。
隣にいる亜爆も、ドロイも、亜炭も、まったく動く様子がなかった。全員がその場に立ち尽くし、エイリエアを見つめたまま硬直している。
(何が起きてるんだ……!)
「グアアアアアアッ!!」
エイリエアが絶叫しながら、エデンたちへ向かって突進してきた。
長い胴体をくねらせ、無数の腕を地面につけて勢いよく進んでくる。先ほどまでの不規則な動きとは違い、今度は明確にエデンたちを狙っていた。
しかし、誰も動けない。
逃げることも、防御することもできなかった。
(くそっ……! 動け、動けよ……!)
エデンは必死に身体を動かそうとした。だが、どれだけ力を込めても、身体は言うことを聞かなかった。
エイリエアが迫る。
長い胴体が目の前まで迫り、何本もの腕が振り上げられた。
その中の一本が、エデンへ向かって振り下ろされる。
(間に合え……!)
エデンは残されたわずかな時間で、能力を発動させた。
「リミットナイト!」
黒いエネルギーが全身を覆い、鎧を形成する。
直後、エイリエアの腕が直撃した。
凄まじい衝撃が全身を貫く。
「ぐああっ!!」
エデンの身体が大きく吹き飛ばされた。
リミットナイトによって防御したものの、攻撃の威力を完全に抑えることはできなかった。エデンは地面に叩きつけられ、そのまま勢いを殺しきれずに転がっていく。
(エデンさん!)
亜爆が叫ぼうとした。だが、その声は発せなかった。
エイリエアは亜爆達のいた場所を通り過ぎ、長い胴体で地面を這い、無数の腕で木々の間をかき分ける。
エイリエアは止まらなかった。吹き飛ばされたエデンの方へと、さらに進んでいく。その異様な姿が木々の向こうへ消えかけたころ、ようやく亜爆たちの身体が動くようになった。
「……っ、動ける!」
亜爆はすぐさま体勢を立て直し、エイリエアが向かった方向を振り返った。
ドロイも身体の自由が戻ったことを確かめる間もなく、周囲を見回す。
「今のは……もしかして、あのエイリ星人の能力でしょうか?」
亜爆は険しい表情で、エイリエアの消えた森の奥を見つめていた。
「……だとしたら、厄介ですね」
亜爆は呟き、すぐに視線を地面へ向けた。
そこには、吹き飛ばされたエデンの姿があった。
ドロイもそれに気づき、表情を引き締める。
「エデンさんが危ない」
その言葉を聞くや否や、三人はエデンのもとへ駆け出した。
森の奥には、エイリエアの叫び声がまだ響いていた。




