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エデン外伝  作者: ko-da
『戦いの後始末』

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7/9

何を探して

森の奥へ進むにつれ、周囲の景色は少しずつ変わっていった。

木々はさらに密集し、頭上を覆う枝葉によって、地上まで届く光もわずかになっている。足元には湿った土と枯れ葉が積もり、風が吹くたびに、木々のざわめきが森の奥へと流れていった。

エデンたちは、エイリエアが通った痕跡を頼りに進んでいた。折れた枝。踏み荒らされた草。そして、ところどころに残された地面の傷跡。エイリエアの長い身体が通り抜けた場所には、周囲の自然を乱した痕跡がはっきりと残っていた。

「……この先ですね」

先頭を進んでいたドロイが足を止め、前方を見つめた。

エデンたちも立ち止まり、彼の視線の先を追う。木々の隙間。その向こうに、異様な姿が見えた。エイリエアだった。

長い胴体を地面に這わせ、無数の腕を動かしながら、何かを探すように周囲をうろついている。木の根元に手を伸ばし、地面を探り、少し移動してはまた同じ動作を繰り返す。

「……どこ」

エイリエアが呟いた。

一本の腕が地面を撫でる。別の腕が近くの茂みをかき分ける。何も見つからなかったのか、エイリエアは再び身体をくねらせ、少し離れた場所へと移動した。

「どこ……」

また、同じ言葉。その声には、先ほどまでの激しい叫びとは違う、奇妙な響きがあった。

エデンは、思わずその場に立ち尽くした。何を探しているのか。何のために、これほどまでに探し続けているのか。

エイリエアの行動を見ていても、その答えは分からない。目を覆う手も、長い胴体も、無数の腕も、すべてが異様で、エデンには理解できないことばかりだった。

それなのに。

「……どこ」

何度も繰り返されるその言葉を聞いていると、胸の奥が妙にざわついた。

エデンは、エイリエアから目を離せなかった。何かを探している。見つからないものを、必死に探し続けている。

その姿に、エデンは自分と似たものを感じていた。ジエル。エイリワスとの戦いのあと、海へ落ちていった仲間。あれから何日も経った。ECOの隊員たちが捜索を続けても、ジエルの姿は見つからなかった。流鹿も、これ以上の捜索は難しいと判断した。それでも、エデンは諦められなかった。ジエルは死んだ。そう告げられても、エデンにはどうしても信じられなかった。だから、探し続けている。どこかにいるはずだと。まだ会えるはずだと。そう信じて、今日も森や海岸を歩き回っていた。

「……どこ」

エイリエアの声が、再び聞こえた。エデンはゆっくりと拳を握りしめた。

もちろん、エイリエアが何を探しているのかは分からない。ジエルと同じように、誰かを探しているのかどうかさえ分からなかった。

ただ、見つからない何かを求めて、何度も同じ言葉を繰り返すその姿が、今の自分と重なって見えた。

「エデンさん?」

隣にいた亜爆が、静かに声をかけた。

エデンはすぐには答えなかった。

視線の先では、エイリエアがまた少し移動し、木の根元を探っていた。何も見つからない。それでも、探すことをやめようとはしない。

その姿を見つめながら、エデンは小さく息を吐いた。

「……あいつ、何を探してるんでしょうね」

問いかけるような呟きだった。

亜爆はエイリエアを見つめたまま、少しだけ沈黙した。

「さあ。私にも分かりません」

それ以上、亜爆は何も言わなかった。

エデンも、それ以上は尋ねなかった。

分からないことは、いくら考えても分からない。

今の自分には、目の前の進化個体が何を求めているのか、知る術はなかった。

それでも、エデンはその場を動けずにいた。

探しても、探しても、見つからない。

それでも、探すことをやめられない。

その気持ちだけは、痛いほど分かる気がした。

「……どこ」

エイリエアは、エデンたちが近くにいることにも気づいていないかのように、森の中をさまよい続けていた。

「……どこ……どこ……」

何度も繰り返される呟き。長い胴体を地面に這わせ、無数の腕で周囲を探るその姿に、エデンはしばらく目を奪われていた。しかし、いつまでも見ているわけにはいかない。

エイリエアをこのまま放置すれば、再び森の外へ出て暴れ始めるかもしれない。先ほどの戦闘で見せた攻撃の激しさを考えれば、周囲への被害も無視できなかった。

ドロイと亜炭も、いつでも動けるように身構えながら、エイリエアの様子をうかがっていた。

ドロイは手元に鉄の剣を構え、相手の動きに注意を払っている。亜炭も銃を持ったまま、攻撃を仕掛けるタイミングを見極めていた。

だが、エイリエアの身体には無数の腕がある。正面から近づけば、それらの腕による攻撃を受ける危険が高い。先ほどの戦闘でも、複数の腕を使った攻撃には苦戦させられた。

「……俺が拘束します」

エデンが小声で告げた。

亜爆がエデンへ視線を向ける。

「拘束?」


「はい。リミットストリングで動きを封じます。その隙に、みんなで攻撃してください」

エデンの能力なら、相手の動きを制限できる。エイリエアの腕が多い以上、完全に動きを封じられるかは分からない。それでも、攻撃の機会を作ることはできるはずだった。

ドロイは静かに頷いた。

「分かりました。拘束が成功したら、すぐに攻撃します」


「私も合わせます」

亜炭も同意する。

亜爆はエイリエアから目を離さず、短く告げた。

「タイミングを合わせましょう」

エデンは頷き、息を整えた。

そして、エイリエアがこちらに背を向けた瞬間、静かに前へ出た。

「リミットストリング!」

黒いエネルギーがエデンの手元から伸び、エイリエアへ向かう。

紐は長い胴体や腕に絡みつき、次々とその身体を拘束していった。エイリエアが異変に気づいたときには、すでに身体に巻きついていた。

「……ど、こ?」

エイリエアが動きを止める。

次の瞬間、全身を大きくくねらせ、拘束から逃れようと暴れ始めた。

「どこ! どこ……!」

無数の腕が激しく振り回される。地面を叩き、木の幹を掴み、絡みついた紐を引きちぎろうとするように動く。

エデンは両手に力を込め、必死に拘束を維持した。

「くっ……! こいつ、すごい力だ……!」

紐が引っ張られ、エデンの身体がわずかに前へ引きずられる。エイリエアの腕が一本、また一本と激しく動き、周囲の草木をなぎ払っていく。

それでも、拘束はまだ解けていなかった。

「今です!」

エデンの声が森に響く。

ドロイがすぐさま動いた。手元に握っていた鉄の剣を構え、エイリエアの動きを見定める。拘束された身体が激しく揺れる中、ドロイは狙いを定めると、剣を力いっぱい投げつけた。

鉄の剣が空を切り、エイリエアへと飛んでいく。刃がその身体に突き刺さり、エイリエアの動きが大きく乱れた。

「どこ……っ!」

叫び声が森に響き渡る。

続いて、亜炭が前へ出た。

彼女は銃を下ろすと、エイリエアへ向けて片手を構えた。

「烈火擦操(フレイムアーツ)」

指を鳴らす。乾いた音が響いた直後、炎が生じた。炎はエイリエアへ向かって放たれ、拘束された身体を包み込むように燃え上がる。揺らめく炎が周囲の木々を照らし、森の暗がりを赤く染めた。

エイリエアはさらに激しく暴れた。

「どこ!どこぉっ!」

炎の中で無数の腕が動き、身体に絡みついた紐を引き剥がそうとする。エデンは歯を食いしばり、なんとか拘束を維持し続けた。

そのとき、亜爆も攻撃に加わった。

「爆撃手(ボンバー)!」

能力によって爆弾を生成し、エイリエアへ向けて投げつける。爆弾は炎の揺らめく中を飛び、エイリエアの近くへと落ちた。

エデンは一瞬だけエイリエアの様子を確認すると、すぐさま能力を解除した。

「リミットストリング、解除!」

黒い紐が消え去る。拘束から解放されたエイリエアの身体が大きく傾いた、その直後だった。爆発が起きた。轟音が森の奥まで響き渡り、爆風が炎と煙を巻き上げる。周囲の木々が激しく揺れ、地面の枯れ葉が一斉に舞い上がった。エデンたちは爆風を避けながら、エイリエアのいた場所を見つめた。

拘束、剣による攻撃、炎、そして爆発。四人の攻撃が、ほぼ同時に叩き込まれたのだ。煙が立ち込める中、エデンは警戒を解かずに拳を握りしめた。

これで倒せたのか。それとも、まだ動けるのか。

煙の向こうから、エイリエアの声が聞こえてくるのを、彼らは息を潜めて待った。

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