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ドラゴンの声を聴いた者たち 〜王立操者養成学園の記録〜  作者: 灯吉郎


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第8話 新しい命


(やっと戻って来れた…!)


クラリスは制限時間ギリギリになりながらも、ドラゴン舎へとたどり着いた。


「おー!良かった、間に合ったな!」


先に戻っていたらしいエリオットが、ガッツポーズをしながら自分の隣のドラゴン舎の鉄柵を開けて招いてくれた。


「ありがとう…!」と、息を弾ませながら中へ入ると、サラも顔を覗かせた。


「ご無事でなによりですわ…!」


うん、と頷きながら、慎重にリュックを下ろし、ロープで固定した卵を取り出す。


ロープを解き、用意されていた飼い葉の上にそっと置いたところで、ようやくホッと胸を撫で下ろした。


「そちらが、クラリスの卵なのですね…!美しいですわ…」


振り向いたところで、サラが声をかける。「うん!」と喜びに頷いて、待っていてくれた三人を招き入れた。


相変わらず氷の蕾のような、透明のようだが青さのある不思議な卵。


飼い葉が、冷気にさらされて霜を纏わせている。


─周囲の空気が、わずかに澄んでいた。


「…まぁ…!ひんやりしてますわ」


「ホントだ!えー!めっちゃ冷てぇ!」


「ちょ、いいなこれ…気持ちいい」


カイルが興奮した声を上げると、左側から「ズズズ」と何かが引きずる音を立てる。

クラリスは首を傾げたが、それきり音は聞こえなかった。


「次、俺のとこ来てくれ!」


エリオットが急かすように手招きする。全員でぞろぞろと、隣のドラゴン舎に移動した。


エリオットの卵は、まるで炭の塊のようだった。飼い葉が蒸されて、わずかに蒸気が上がっている。


「先ほどもお見かけしましたが、近づくと凄いですわね…。卵ですのに、熱気を感じますわ…」


「わー!本当だ…あったかいね」


「こんなあちーのに、卵大丈夫なのか…?スゲーなドラゴンて!」


みんなでワイワイしながら、卵を撫でる。エリオットは満足気に頷くと、


「次はサラの卵見せてくれよ!昨日は見そびれちまったからな!」


と、楽しげに提案した。


「勿論ですわ」


サラも嬉しそうに頷くと、エリオットの場所からさらに左へと移動する。


サラの卵の表面は、ゆるりと風の紋様が浮かび上がっている。流れる風を思わせる卵は、飼い葉の匂いを運んでくる。


「わぁ…!気持ちいい…!」


「これ、夏に欲しいな…」


「なんかこの模様、ずっと見てられるな…」


三者三様の感想を言い合っていると、また「ズズズ」と音が聞こえてきた。


「なんだ、今の音?」


「さっきも聞こえてきてたよ」


「…どうやら、隣から聞こえるようですわ」


─隣。


「…え、俺のとこ…!?」


カイルは慌てて隣へと移動すると、鉄柵越しに顔を覗かせる。


「うぉ、動いてる…!!」


ガラガラと鉄柵を開けると、右に寄っていた卵がまた、「ズズズ」と音を立ててカイルの方へと近づいてきた。


「ホントだ!動いてる!!」


「えっ、卵ってそんなに動くの?」


「教本には載っておりませんでしたが…」


みんながザワザワしている中、カイルは卵を抱き上げると、ヨシヨシと撫でながら飼い葉の上にそっと置く。


「よーしよし!テラ!いいこで待ってろよ!」


「なんだ、テラって?」


「いや、なんとなく?」


テラと呼ばれた卵は、その手に応えるように、わずかに身を寄せた。



─翌日。三日ぶりの教室で、始業の鐘が鳴る。セドリックが姿を現し、教壇に立った。


「…今年度、無事に“卵”を得たのは……六名か。在籍学年の中では最多だな」


ざわ、と教室がざわめいた。三日のあいだに、確かに見なくなった生徒がいた。


─誰も、その名を口にしない。


(…卵を見つけたから、探索からいなくなったんじゃなかったんだ…!)


「見つけられなかった奴らは…?」


エリオットの問いに、セドリックが告げる。


「無論、退学処分だ。ここはドラゴン操者を育てる学園、パートナーが居なければ在籍する資格はない」


エリオットが何ともいえない顔をしているが、セドリックは構わず授業を開始した。


「…今日は、“パートナーの名付け”について説明する。…お前たちは、無事パートナーを見つけ、現在はドラゴン舎にて“孵化”を待っている段階だな」


ひとりひとりの顔を見ながら、セドリックは続ける。


「これから数日のうちに、卵からドラゴンが“孵化”する。この教本に載っている特徴を踏まえて、お前たちの卵の属性を予測し、名前を考えておけ」


「考えるって…先生。俺、名前つけるの苦手なんだけど、ヒントない?」


相変わらず敬語が残念なエリオットが、続けて質問した。


「…ふむ。校舎の二階に図書室がある。午後の授業は無しとするから、そこで自分の属性に合わせた辞典を探すように」



─昼食の時間になった。


「えっ、お前のドラゴン、“テラ”で決まりなのかよ…!」


「おー。なんかもう、ほか考えらんねぇし」


「まぁ、ふふ。即決ですのね」


「カイルらしくていいね!」


いつもの四人で、食堂奥のテーブルを囲む。

あと二人のクラスメイト…セリウスとセリアは、王宮の中で食事をとっているらしいと、サラから聞いた。


「じゃあ、カイルは午後、図書室は行かねぇ感じか」


「だなー!ドラゴン舎でテラの世話するわ」


「良いですわね…。わたくしは図書室に参りますわ。クラリスはどうなさいます?」


「私も、図書室気になるから行く!」


和やかに昼食をとり終えて、それぞれの“卵”の違いを語りながら、時間はあっという間に過ぎていった。



─午後、三人で二階にある図書室に入る。


重たい扉を開けると、紙とインクの匂いが広がった。


「うっ。…ニガテな感じだ」


「…落ち着く雰囲気ですわね…」


「結構広いね…!」


空気を読んで声のトーンを落としながらも、エリオットが苦い顔をする。

サラは、ふふっと口元に手を当てつつ、室内を進む。


─やがて『ドラゴンの名付け』と書かれたコーナーを見つけて、エリオットを手招きした。


(いろんな本があるなぁ…)


クラリスはすでに、心の中に決めた名前があった。


村には無かったので、図書室は初めてだ。足取り軽く、並んでいる本を眺めて歩く。


「火属性、こちらにありましたわ」


「おっ、なんだこれ……“卵倶楽部”……?」


簡略化された火ドラゴンが描かれた表紙は、いかにも読みやすそうだった。


「『 おすすめネーム百選・火属性編』…『 初めてでも扱いやすい炎一覧』…『 先輩操者の体験談!』…マジかよ!」


その場で音読しだしたエリオットを、サラが慌てて止める。


「ちょっと、エリ男…!

図書室では静かにしなくてはなりませんわ。…そちら、気に入ったのであれば、借りて行きましょう」


そのまま借りる手続きをして、図書室に満足したクラリスを伴ってドラゴン舎へと移動した。



「なになにー?エリ男、本借りてきたんだ!読まして〜!

……ふむふむ…三位、イグニス。『瞬発力に優れ、情熱的なパートナーにおすすめ!』…二位、フレア。『明るく元気!ただし燃え広がりに注意』……ってなんだよそれ!?こっわ!」


卵の世話をしていたカイルと合流すると、エリオットが借りてきた本を興味津々な様子で読み上げる。


「へー!こんな本あるんだな…!“卵倶楽部”かー!土ドラゴンのも読んでみたいな」


さんきゅ!と本をエリオットに返し、「それで、名前決まりそうか?」と尋ねた。


「それな!…一位の“ヴォルカン”にしようと思う!カッコイイだろ?」


「ヴォ…!?言いにくくねぇか?」


「いいんだよ。な…!ヴォルカン!」


エリオットが自分の卵の方に声をかけると、卵が蒸気をあげて応える。


─その熱が、確かに応えたように感じられた。


「ほら、ボルでいいって!」


「ヴォルカンだろ…!?」



─そして日が傾き、食堂で夕食をとると、それぞれ部屋へと戻っていった。



「はぁ…ヴォルカン…かっけぇ…」


「…いつ“孵化”しても宜しくてよ…ゼフィラ」


(楽しみだなぁ…)


「おー、よしよし!テラ!」


カイルだけは、またドラゴン舎に来ていた。周囲のドラゴンたちがざわめいている。


サラの卵の紋様が渦巻き、エリオットの卵がさらなる熱を帯び……クラリスの卵は、静かに結晶を振らせていた。



─ゆっくりと夜がふけていく。


誰もが、それぞれの“明日”を待っていた。



続く

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