表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ドラゴンの声を聴いた者たち 〜王立操者養成学園の記録〜  作者: 灯吉郎
第一部:世界に穿たれた傷

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
30/32

第9話 “向こう側”の声

「……遅い」


 二人が、まだ戻らない。


「……」



松明にした木も、燃え尽きようとしていた。



「クラリス!」


「──お兄ちゃん!」



遠くから呼ぶ声。


振り向くと、黒ドラゴンを先頭にした閉鎖班が飛翔してきた。



「──状況は」


「村の中に、エリオットとカイルが行ってくれたんだけど、まだ──」


「……そうか」


「──コレットを見なかった!?」


「マーセル先輩! コレット先輩が──」


手短に状況を共有する。



「そんな──コレット……!」


「落ち着け、マーセル」


「ガレス……! でも、」


「俺なら、多少吸われても構わん。降りる」


「ガレス……!」


一瞬、風が止まった。



「……なるほど。ガレス、俺も降りる」


「お兄ちゃん……!?」


「そうか。助かる」


ガレスの火ドラゴンと共に、ルイの黒ドラゴンも降り立つ。



ガレスが、コレットに触れる。


わずかに、顔を歪める。



「──コレット、しっかりしろ……!」


「……呼吸が浅い。体温も低い……」



上空でハラハラしていたクラリスとマーセルが、ほっと息をつく。


マーセルも着陸し、担架の用意を始める。



『……あの御方は、“影”の影響も吸えるのか』


「……六花」


それ以上、言わせない。



コレットが、瞼を開いた。


「……さ、け……」


それは、掠れているのに──


 どこか、二重に響いた。



「コレット……! 無理に話さないで……」


マーセルが、コレットの手を握る。



「──っ……!」


「マーセル」



すぐに、ガレスがその手を掴んだ。


わずかに、指先が強張っている。



「……ごめんなさい、ガレス」


「そこは、“ありがとう”だろ?」


「ふふ。そうね」



ルイは、何も言わない。



「ガレス、ついでに運ぶのを手伝ってくれる?」


「任せておけ」


軽くはない、責任。



「私のドラゴンじゃ、マーセルしか運べないけど……」


「充分だ。原因を取り除けば、今以上の悪化は防げる」


「──任せたわ、ルイ」


「ガレス」


短く、名を呼ぶ。



「──分かった。残り二人は、俺が運ぼう」


「俺も行く」


ルイとガレスの間に、セリウスが降り立った。


無駄のない動きで、担架を用意する。


「その方が速い」



「いいだろう、任せた!」


ガレスが頷き、哨戒班の三人がドラゴンに固定される。



「じゃあね、ルイ」


「気張れよ!」


「……いつもと変わらん」


軽口を叩き合う。


──空気を掴み、夜空へ上がる。



「──空が、白んで来たか──」


ふと、セリウスが東の空を見た。



「──なんだ、」



──あれは。



あんなもの──



見覚えが、ない。




「セリウス!」


声を出す前に、ガレスに呼ばれる。



「──振り向くなよ」


低く、押し殺した声。



「──了解した」



ドラゴンたちは力強く羽ばたき、その場を後にする。


背後の気配は、消えない。




「──クラリス」


「はい。お兄ちゃん」


「前に、“向こう側の声”が聞こえると、言っていたな」


研究所で、確かに報告した。


「うん──」


「“あれ”に、耳を貸すな。

──世界から、色を無くしたくなければな」



“色”を──



「……色って、」



 昔、見た景色がよぎる。


 花畑。


 焼き菓子の甘い匂い。


 笑い声。


──ルイに、渡した花冠。



「……やだ」


 ぽつりと、こぼれた。



「その気持ちを、しっかり持っておけ。──行くぞ」


踵を返し、黒ドラゴンに騎乗する。



「うん──お兄ちゃん」


胸の奥で、何かが揺れる。


 懐かしいような、

 でも、知らないような。


二頭のドラゴンが、空に浮かぶ。



「──なに、あれ……」


「“向こう側”の、影だ」


「あれが──?」



“裂け目”から、ぼとぼと落ちる、影。



それはもう、見たことがある。



問題は──



「白い、ドラゴン……?」



“裂け目”から、腕を伸ばしているのは──


ドラゴンに、見えた。



白すぎる。



“色”という概念ごと、削がれている。



──まるで、“色”が


抜け落ちた、ような──



腕の、関節が、合っていない。



見てはいけない、と分かる。



名前が、出てこない。




認識が、こわれ──




「クラリス。周りの“影”を頼む」


「はい!」


意識が引き戻される。



「俺は“あれ”と対峙する」


迷いは、ない。



ルイとネメシスが、高度を上げる。


“何か”が、ゆっくりと、向く。



『──きれいな、せかい』



音が、直接頭に落ちる。



「六花!?」


違う、とすぐに分かった。



『我ではない』



氷の結晶が煌めく。


『絶対零度』


影が、輪郭を曖昧にして──薄れゆく。


それでも、安心できない。



『数が多い──』


「確かに、この前より酷い……」



『そこに、いきたい──』



直接響く声。



耳ではない。


 内側から、鳴る。



「っ……!」


思わず手綱を離し、耳を塞ぐ。



高度が、わずかに落ちる。


『クラリス?』


「……六花……!」



『……一度、離脱することを勧める』


「でも……!」



「……いきたい……」


 無意識に、零れそうになる。


「……違う」



『──戦線を離脱する』


「六花……!」



急な方向転換に、思わずしがみつく。


身体が、振り回される。



「お。交代? おっけー!」


「待たせたな!」


「カイル! エリオット!!」



見知った顔が、すれ違う。


一瞬だけ、目が合う。



「悪い! クラリスの母ちゃん、いま、屋根!!」



──屋根?



聞き返す前に、距離が離れていく。



落ちたら、終わるんじゃ──



『──丁度いい。向かう』


「分かった」


手綱を握り直し、方向を変える。


指先に、力が戻る。



「お母さんを助けたあと、お兄ちゃんの方にいく」


『……大丈夫か』


低く、問う。



「たぶん、直接確かめた方がいい」


逃げない。



『……承知』



「……お母さん……!」


「クラリス……!」


久しぶりの再会。


だが、喜んでいる時間はなかった。



「なんで、こんなことに……」


「よく分からないんだけど、“危ない”! って言われて、ここに」


『地面の汚染は消えている、降ろす』


「分かった」


母親と、他に屋根に上げられていた人たちを下ろした。


足元は、まだ色が戻りきっていない。



「──もう、行くの?」


一歩、踏み出しかける。


「うん。……お母さん、また後でね!」



「……気をつけてね」



 ──行かないで、とは、言えなかった。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ