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ドラゴンの声を聴いた者たち 〜王立操者養成学園の記録〜  作者: 灯吉郎
第一部:世界に穿たれた傷

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第3話 まだ来ていないもの

クラリスたちは、無事に研究所に着陸した。


急ぎ、観測所へと駆け上がる。


「“裂け目”は……!」


「問題なく閉じた」


クラリスの問いかけに、セドリックが答える。


「閉鎖班が戻り次第、報告会だ。しばらく休め」



クラリスは、小さく息を吐いた。


「……よかった」


口にした言葉は、思っていたよりも軽い。



だが。


──あの感覚だけは、消えなかった。



「クラリス!」


振り向くと、エリオットが手を振っている。


「下行こうぜ! 報告まで時間あるし、先輩たち戻ってくるだろうし」


「あ、うん!」



しばらく待つと、やがて閉鎖班が戻ってきた。



「……あ、」



声をかけるより早く、


「クラリス」


名前を呼ばれて──



次の瞬間。


ふわりと、体が浮いた。



「お、お兄ちゃん!?」



くるり、と視界が回る。



「久しぶりだな! 元気そうで良かった」


「ちょ、待って、下ろして!?」


昔と同じ、調子で。



──変わってない。



そう思った、その瞬間。


ふと。


その手の力が、わずかに強かった気がした。



「相変わらず、貴方たちは仲良しね……」


「マーセル先輩、お久しぶりです!」



眩しそうに目を細めるマーセルに、クラリスが微笑む。



「ガレスのアニキー! 今日もカッコよかったです!」


「おう! エリオット! 背ぇ伸びたな!」



それぞれが再会を喜び合う。



「そろそろだ」


セドリックの声が、階上から降りてくる。



「報告会を始める。遊撃班、閉鎖班、上がれ」


「はーい」


軽い返事が飛ぶ中、

クラリスは、ほんの一瞬だけ振り返った。



──あの感覚は、もうない。

それでも。



「……行こう」


小さく呟いて、階段を上がる。




「では、簡単に状況をまとめる」


セドリックが口を開いた。



「今回は、今まで“異常なし”としてきた範囲内での“出現”となった。

これにより、今後の霊峰ホロ鳥の高度観測に加えて、隊列の観測も視野に入れることとする」



「──侵入範囲の拡大、ということですね」


ルイが、淡々と続ける。


「閉鎖対応の優先度を上げるべきだ」



「……あの」


小さく、クラリスが口を開いた。



「あれは、本当に“侵入”なんでしょうか」



「……どういう意味だ」


「あれは、……こちらに“興味”があるようでした」



セドリックの問いに、クラリスが感じたことを述べる。


「……覚えておく」


短く、それだけが返る。



「だが──」


ルイが、わずかに視線を向けた。


「次に出たときは、同じとは限らない」


──排除する。



言葉にはならなかったが、

その意思だけが、はっきりと伝わった。


クラリスは、何も言えなかった。




宿舎へ戻る頃には、すでに日が傾きかけていた。



「あー……疲れた」


エリオットが大きく伸びをする。



「初任務にしては上出来だろ」


「それな!」



軽口を交わしながら、食堂へと足を向ける。



「クラリス!」


明るい声に顔を上げると、サラが手を振っていた。


そばにはセリアも居る。


「お久しぶりですわ……! 初任務のこと、聞きましてよ」


「う、うん……」


「どうですの?」


「えっと……」


一瞬、言葉に詰まる。


──“すごい”。


そう言ってしまっていいのか、分からなかった。


「まぁ、大変だったよな!」


「なんせ、初任務から双牙の狭間だったからな! ボルの火じゃ、うまくサポート出来なかったし」


カイルとエリオットが、すかさずフォローする。


「いや普通にすごかったぞ? な、クラリス」


「……うん」



──一度は消えたと思っていたあの“感覚”が、まだ残っている。



「……顔色が、良くない……」


セリアが、静かに言った。


「え?」


「無理はしない方がいい……。初任務の後なら、尚更……」


「……大丈夫」


クラリスは、笑ってみせる。


──少しだけ、遅れて。



「そうですわ! こういうときこそ、甘いものですわよ?」


「……うん」


サラの言葉に、小さく頷く。



食堂のざわめきが、耳に入る。


いつもと変わらない、はずなのに。



──どこか、遠く感じた。


クラリスは、無意識に空を見上げる。



そこには、何もない。


それでも。



──“向こう側”が、こちらを見ている気がした。



「……ちょっと、外してくるね」


誰にともなく言って、クラリスは席を立った。


「あら、どちらへ?」


「……すぐ戻るよ」



それだけ告げて、食堂を後にする。



夕暮れの気配が、わずかに残っていた。


ドラゴン舎は、静かだった。



「……六花」


名を呼ぶと、

ゆっくりと顔が上がる。


『……どうした』


いつもと変わらない、はずの声。


それでも。


「……あのとき、さ」


言葉を探すように、間が空く。



「“裂け目”の向こう……何か、感じた?」



『……見ていた』



『……しかし、触れてはいない』



「……やっぱり」



小さく、息を吐く。


──自分だけじゃなかった。




『……あれは、まだ来ていない』



「……え?」



六花は、それ以上は何も言わなかった。



ただ静かに、

──空の向こうを見ていた。




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