第1話:研究所の再会
湖のほとりにある、研究所。
懐かしい、白衣の背中。
エリオットが、真っ先に声を上げる。
「……先生!」
「……違う」
「えっ、でも先生は先生で…」
「ここでは主任だ」
「……先生?」
「……おい」
──二年ぶりの再会だった。
学園を出てから、セドリックとは一度も顔を合わせていない。
「先生!」
「……主任だ」
──一拍、沈黙が落ちる。
「せんせー」
間の抜けた声で、カイル。
「……お前は分かっていて言っているだろう」
「え、ダメ?」
「ダメだ」
「えー」
「……はぁ」
「……せ、先生……!……いや、その……」
「……好きに呼べ」
研究所に入ってきたクラリスが、また呼ぶ。
セドリックが小さく、諦めたように息を吐いた。
「せんせー」
「先生は先生だろ」
「……だから違うと言っている」
セドリックが、“元生徒” たち──
エリオット、カイル、クラリス、セリウス──に向き合って、改めて告げる。
「ここでは、主任だ」
「……セドリック主任」
元三年生の先輩たちは、今は巡回に出ているようで、見当たらない。
「しゅにん……主任」
「どした、エリ男? せんせーなら、あっちに居るけど」
「いや、呼び慣れてないから、素振り」
「いや、真面目か!!」
「……聞こえているぞ」
「「あ」」
肩書きは、“プロ操者” になった。
……だが──中身はまだ、学生のままだった。
「……新入り研究員ども、ついて来い」
「はい、主任」
元生徒たちが、ぞろぞろとその背を追う。
校舎では異質だった白衣が、ここでは当たり前のものとして揺れている。
「まずは、施設の配置を頭に入れろ」
短く告げて、セドリックは階段へ向かう。
階段を登って、屋上に出た。
視界が、一気に開ける。
目の前には湖と、以前レースで苦戦した “双牙の狭間” が見えた。
「ここで観測をしている」
短く言いながら、セドリックは視線を湖へ向けた。
「あっ! みんなー! 久しぶり!」
コレットがこちらに気づき、観測所の柵から身を乗り出しながら手を振る。
「コレット先輩! お久しぶりです」
「あれ、霊峰ホロ鳥か?」
クラリスが手を振り返す。
エリオットが白い鳥の群れを指した。
「ああ。観測対象だ」
白い群れが、湖の上を流れている。
──いつもより、低い。
……低い、気がした。
「コレット研究員、観測対象はどうだ?」
「問題ありません、通常範囲です!」
コレットが望遠鏡を覗き込み、記録係に伝えてる。
白い霊峰ホロ鳥の群れは、相変わらず湖上を流れるように飛んでいる。
──やはり、少し低い。
白い帯が、ゆっくりと揺れる。
その高さが、どうしても気になった。




