第22話 それぞれの先へ
─冬休みが明けた。
どこか少しだけ落ち着いた空気の中、いつもの食堂に、六人が集まっている。
「サラは、一度おうちに帰ってたんだよね?」
「ええ。近いので、しばらく帰っておりましたわ。
…両親に、顔を見せに…。王宮で、新年の祝賀会もありましたので…」
─王宮で、祝賀会。
クラリスには想像がつかなかったが、
「大変だね…」と頷いた。
「あー、それでなんか人が少なかったのか…!」
エリオットが納得した顔で頷いた。
サラ、セリウス、セリアが公爵家で、カイルは伯爵家だ。
「そーいうこと〜。
おかげで、年末年始はテラに会えなくてさー。
……数日ぶりに顔出したら、まーた膝カックンされるし」
「…テラ、まだそれやるのか…」
エリオットと、カイルのいつものやりとり。
クラリスは、ふっと小さく笑った。
この時間が、愛おしく感じた。
─朝食をとり終えて、教室へと向かう。
「あー、もうしばらくしたら、二年生になんのか…」
エリオットがしみじみ呟くと、カイルが茶化した。
「次から、二階になるんだよな。
エリ男、新学年になっても一年の教室行ってそう」
「……行きそうになってたら、引き止めてくれ」
「……どうしよっかなー」
「おい!」
教室に入り、始業の鐘を待つ。
─やがて鐘が鳴り、セドリックが教壇に立った。
「……三年生は、本日をもって通常授業を離れ、研究所での研修に移る」
教室が、ざわめく。
「場所は、湖の奥だ。
……遠くはない」
クラリスが、ほっ、と息をついた。
「だが、これまでとは違う。
─それだけは覚えておけ」
「……じゃあ、もう…」
エリオットが言いかけて、止めた。
「……次に、次期寮長についてだ。
順当に行けば二年生が寮長になるはずだが、二年生は男子二名しかいない。
─そのため、来年度寮長は、男子がセリウス、女子はサラに決定した」
「…まぁ。…昨年度は、投票と聞きましたが」
サラが、驚きに口元に手を当てる。
「家格の問題だ」
セドリックの言葉に、サラが言葉なく頷いた。
(……そういうことですのね…)
「─最後に、…まだ先だが」
セドリックが、一拍置いて続ける。
「……私も、来年度から研究所に戻ることになった」
「そんな……!」
小さく声を漏らす。
教室に、静かなざわめきが広がった。
「……元々、あちらの人間だ」
脱がなかった白衣。
─それが、ようやく意味を持つ。
「いずれ戻るつもりだった」
クラリスは、無意識に手を握りしめた。
「……だからといって、何も変わらん。
─やることは同じだ」
──その日の夕食。
朝よりも、どこか静かだった。
「……知っておりましたら、花束を用意しておきましたのに…」
サラが残念そうに呟く。
「花束…」
(そういえば、村でお兄ちゃんに、花かんむり渡したな……)
クラリスがしんみりしていると、三年生たちが食堂に入ってきた。
「ガレスのアニキーー!!」
エリオットが椅子を蹴立てて近寄り、ガレスが豪快に迎える。
「おう!
……多分だが、お前も来るだろ?
先行って、待ってるからな!!」
「うっす!!」
「……ふは。暑苦し〜」
にぎにぎしくなったところで、セリウスとセリアが入室して来た。
──手には、急ぎ王宮から集めた、花束。
セリアが、サラとクラリスに手招きし、持ってきた花束を手渡す。
「……さすがですわ」
受け取った花束を、マーセルに渡す。
「……ご卒業、おめでとうございます。
─次の寮長として、邁進いたしますわ」
「ありがとう…!
ええ。サラさんなら、いい寮長になれるわね」
セリアが、コレットに花束を渡す。
「……ありがとぉー!!
……うっ。うう……!!」
泣き出すコレットにマーセルがハンカチを渡し、そのまま二人して泣き出した。
「……エリ男」
セリウスがエリオットに呼びかけ、花束を渡す。
「いや、お前も『エリ男』呼びかよ!?
─こほん。
……ガレスのアニキ…」
思わず突っ込んだあと、ガレスに向き直って花束を渡す。
「おう!!
……ありがとうなぁ……!」
つられて漢泣きしたガレスが、エリオットと──セリウスを抱きしめる。
「……なんで俺まで」
「ふはっ!!」
絶妙に離れていたカイルが、楽しげに笑う。
「……お兄ちゃん」
「……クラリス」
クラリスが、セリアに託された花束を、そっと渡す。
「……また追いつくから…待っててね」
クラリスの言葉に、嬉しそうにルイが頷いた。
ルイが、少しだけ目を細める。
─そっと耳元に顔を寄せ、囁く。
「……あの花かんむり、ちゃんと飾ってあるからな」
「……! ふふっ」
クラリスが、くすぐったそうに笑った。
「……頑張れよ」
「……うん」
また二年後──
─必ず、追いついてみせるから。
いつもと同じ食堂。
でも、明日はもう少し違う。
─この時間も、あと少しだ。
第二部へ、続く




